190 / 210
第10章
第170話
しおりを挟む街から離れ、俺たちは森の東側にいた。
「すげぇ…。」
「エルフの森は、世界で最も美しい森と言われていますよ。」
太陽の木漏れ日が林床を照らし、とても澄んだ空気で森は満ちていた。殆どの木の幹はギガンテス族の腕よりも太く、視線を上げればエルフの家がいくつか見受けられる。ここに住むのはなかなか気持ち良さそうだ。
「でも情報が少なすぎて…森にいるんですかね?」
「ここが身を隠すには1番良いと思うのですが…」
フリーエルと話しながら、森を歩いている時だった。
突然、どこかに何かの気配を感じて俺は辺りを見回した。何も来ていないのだが…というよりは、周りに誰の気配もなさすぎて逆におかしい空気を感じる。
フリエールと護衛の男は気づいていないようだが、俺はそのまま立ち止まって警戒を続けた。
「どうかされましたか?」
「何か…いや、気のせいか…?」
そう呟いた瞬間、森の影が伸びて護衛の男に巻きついた。影は男の体だけでなく、口から入っていき中からも侵食していく。
「こ、これは…?!」
「離れて!」
男を助けようとしていたフリーエルの手首を掴み、ひとまず木の陰に転移した。
「レイ様?!あれは一体…」
「わかりません…でも魔力を感じないから、魔法じゃないのかも…。」
影がおさまると、男の体に黒い刺青のような模様が浮かび上がった。
そして男は辺りを見回し、すっと手を前に出した。
「まさか…!」
俺が転移するよりも早く、男は魔法を目の前に向かって放った。魔法陣から黒い魔弾が放たれ、一瞬にして森の一部が黒い炎で包まれた。
「少し待っていてください!」
「あ!レイ様!?」
すぐに転移して男を水のドームに閉じ込め、酸素のない状態にする。そのまま気絶を狙ったのだが、男は地面に魔弾を放ってドームから飛び出してきた。
「それならこれで…!」
魔弾を放とうとする男よりも早く、周りの木から蔦を伸ばして拘束する。そのまま魔法で頭を揺らし、気絶させようとした時だった。
「何をしている!」
ちょうどそこに、長の息子・イグニスがエルフの部隊を連れて歩いてきた。かなり怒りのこもった眼差しを俺に向けている。
「ぐっ…!は、離してくれ!」
そして視線を元に戻すと、拘束されている護衛の黒い模様は消えて元の姿に戻っていた。
「…これは、尋問をするまでもないな。この男と隠れている女を連れて行け!」
「は?!な、なんで…!」
「これは貴様の仕業だろ!これ以上何か問題を起こそうものなら、即刻死罪にしても構わないんだぞ?」
「ぐっ…!」
言われて気付いたが、この状況を見れば俺が暴れて森を燃やし、仲間に手をかけようとしたように見える。反論しても聞いてくれるはずなどなかった。
すぐに俺とフリーエルは縄で縛られ、牢獄へと連れていかれた。
「すみません、俺のせいで…」
「森に行くのを提案したのは私ですし、何も気に病む事はありませんわ。」
俺とフリーエルは拘束され、地下の檻にぶち込まれていた。足には鎖が繋がれ、あたりは日の光もないので真っ暗だ。
逃げようと思えば簡単に逃げられるのだが、今そんな事をしても状況がより悪化するだけだった。
「それにしても、地下にこんな場所があったんですね…。」
「私も何度かこの島に来た事はありますが、ここに来たのは初めてですね…。」
俺たちの入っている以外の檻は全て空いており、2人の声しか響いていたなかった。罪を犯す者がいないのか、今は使われていないのかわからなかった。
「あ!」
「え?」
突然フリーエルが声を出したと思ったら、嬉しそうな泣きそうな顔になっていた。
「ど、どうしたんですか?」
「今、確かに感じましたわ…!間違いありません、近くにシオンがいます!」
暗い牢獄の中で、フリーエルは歓喜の声をあげた。
その頃、ダライアス王国の闘技場ではー
「どいてください!」
「うるさい鉄娘が!妾が1位になるんじゃ!」
魔導ボートのレースで、他のギルドのボートが沈んでいる中、同じギルドのはずのロゼッタと紅葉が1位をかけて争っていた。
12
お気に入りに追加
5,972
あなたにおすすめの小説

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~
黒色の猫
ファンタジー
孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。
僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。
そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。
それから、5年近くがたった。
5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる