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第10章
第162話
しおりを挟む皇国から帰ってきて、俺はすぐに魔道士団本部に向かった。
レギルは気絶している間に、おそらくジョーカーにあの国に連れていかれたらしく、目が覚めたら皇国にいたそうだ。側には着ぐるみと『この国について調べておいた方が良いですよぉ』という手紙もあり、それでウサピョンとして潜入していたらしい。
声は、一緒に置いてあった黒い飴玉を舐めたら女性の声になったそうだ。
まぁ帰ってきた今となっては、ダライアス王国魔道士団副団長に戻ってきたので一安心だ。
「久しぶりだね、お疲れ様。」
本部の団長室に行くと、ルージュは紅茶を飲んで休憩中だった。
「色々話は聞いてるけど、今日は何の用かな?」
「これを。」
ルージュは既に把握しているようだが、俺は机の上に退職届を出した。ルージュは届を手に取り、俺を見つめた。その顔は全てお見通しのようだった。
「陛下から聞いてるよ。でも、理由はなんでかな?」
「今回の件、部下に敵の兵がいた事や分隊長の殉職など全て俺の責任です。」
「うーん…まぁ少し仕方がなかった気もするけどね。」
「でも、俺は見抜けませんでした。」
「そっか。でもー」
ルージュは短く息を吐くと、椅子に深く腰掛けた。
「これは受け取れないね。」
そして、退職届を目の前で燃やした。
「ちょっ!」
「陛下は認めても、私は認めないわよ。」
「なんでですか。」
「君の実力は確かだし、部下からの信頼も厚い。そんな君を、はいそうですかって簡単に辞めさせたくないからね。」
ルージュはニヤッと笑い、腕を組んだ。
「だから、休職という事でどうかな?」
「…ですが…」
「いつか君が戻ってもいい時が来たら、私に声をかけてよ。その頃に私は結婚してるはずだし、寿退社になれるかもね。」
「人生設計がすごいですね。」
「まぁ、これでも団長だからね。それでいいかな?」
ルージュの聞き方は、有無を言わさぬものだった。この人と結婚する人は、絶対尻に敷かれるタイプだろう。
「…わかりました。」
「うん、じゃあそれでお願いね。」
ルージュはポンと俺の方に手を置き、俺は礼を言って部屋を出ていった。
しばらくは、この本部に来る事もないのだろう。
「辞めた?!」
屋敷に帰ると、リゼが驚いた様子で俺の肩をがしっと掴んだ。まだ皇国から帰ってきたばかりで、みんなに報告するのを忘れていた。
「ま、まぁ…いろいろあって。辞めたって言うよりは、休職かな?」
「そ、そうなんですか…。あ、レイ様が留守の間にお客様がいらしてますよ。」
「誰?」
「天翼族の方で、鏡と言えばわかると。」
「あー…わかった、すぐに行く。」
そのまま応接室に行くと、案の定ソファーにはフリーエルが座っていた。傍には、使用人らしき天翼族の男性もいる。
「お久しぶりです。」
「こ、こんにちは…。待たせてしまってごめんなさい。」
「いえ、今日はあなたにお話があってきたんです。」
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「お静かに。」
「あ、はい。」
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数分後、フリーエルは1枚のカードをめくり絵柄を見て微笑んだ。
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状況の掴めていない俺の前に、フリーエルはめくったカードを置いた。カードには、黒い耳のとがった女性が描かれている。
「私の友人を、助けてくれますよね?」
「は?」
最早決定事項だと言わんばかりの聞き方で、フリーエルは笑った。
どうやらこの世界の女性は、強引な人が多いらしい。
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