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第9章
第160話
しおりを挟む少女は、瞬きをした瞬間に俺の目の前に転移していた。
「な、何…?」
少女は俺の言葉も無視して、顔をペタペタ触り始める。何がしたいのかさっぱりわからない。
「カミ…サマ…?」
「は?っていうかそこどいてくれ。」
「…ウン。」
なんだかあっさりどいてくれたので、急いでテオスの傷口を塞ぐ。意識がないが、なんとか一命をとりとめたようだ。
ホッとしたのも束の間、少女は俺の向かいでテオスにガラスのような爪を突き刺そうとしていた。
「ちょっ!何やってんの?!」
「…コレ、コロス?」
「いやいやいや、殺さないよ。ってか外がヤバイな…。」
テオスと少女を放っておく事も出来なかったが、何より城の外で再び複製達の数が膨れ上がっていた。
「どうする…ルージュさんを呼びに戻るか、でもな…。」
王国でルージュが緊急の任務に向かってたら意味がないし、何よりこの少女が何をするかわからなかった。
嫌な汗が流れ、何か解決策を考えていた時だった。
ステータスが強制表示され、何故か[適正魔法]の空間魔法の欄に《ERROR》と赤文字で書いてあった。
「なんだ、これ…。」
わけもわからないまま混乱していると、俺の周りに魔法袋の穴がいくつも空いた。
「何が…?!」
「いやー実に110話ぶりの伏線回収待ちくたびれたよーん!」
「……は?」
穴から女性の声がしたと思ったら、全ての穴から様々な種類の魔獣たちが飛び出してきた。正確には、バジリスクやらユニコーンなど全て神獣の類の生物だった。それも、俺が5年前に倒した神獣達だ。
「何これ、けものフレンズ?!」
「これだ。」
後ろにいた、巨大なケンタウロスが俺に1枚の鏡を渡してきた。少し前に、フリーエルから貰った神獣鏡が虹色に輝いている。
「貴方様の魔力をこの鏡が通し、我等の魔石と反応したのだ。」
「あ…そう、なんだ。」
そんな話をしている間にも、穴からはとんでもない数の神獣達が飛び出してくる。もうケモノどころではない。ここまでイカツイ奴らがくるとケダモノフレンズだ。
「では主人よ、貴方様の望みを聞こう。」
「えっと…じゃあ、外にいるクローンを倒してきてくれる?これ以上、この国に被害が出ないように。逃げ遅れた人なんかがいたら助けてあげて。」
「了解した。」
すぐさま神獣達は城の外へと、走ったり飛んで行ったりした。目の前の光景を未だに処理しきれていない。
「…アレ、ナニ?」
「え、あぁ…。俺が5年前に倒した神獣。」
「シンジュウ…。カミ?」
「うーん…どうだろう。」
「ウン。」
何が「うん。」なのか全くわからないが、とりあえずあとはこの少女だ。
「えっと、どこからきたの?」
「アソコ。」
少女の指差す方には、このフロアの端に小さな穴が開いていた。どうやらそこから出てきたらしい。
とりあえずテオスを異空間で陛下に任せて、俺は少女を連れてその下の階へと向かった。
カイザー・サレア・イフの3人は、周りを突如復活した戦士達に囲まれていた。3人背中を合わせて対峙しているが、流石に限界が近い。
「これはちょっとまずいね…。」
「諦めるな、せっかく俺から出られたんだぞ。」
「でもね…ん?」
イフが詠唱を始めようとした瞬間、城の方から何匹も巨大な生物がやってきた。
身体中が燃えている火の鳥や1つ目の巨人、髪の毛が蛇になっている女性などこの世の終わりのような光景だった。
3人とも新たな敵の襲来かと思ったが、全員が複製達を倒していくのを見てとりあえず敵ではないのは察した。
「なんだこれは…。」
「こんな事が出来るのって、あの子くらいしかいないよね~…。」
「まさか、あのマセガキが?」
「とにかく俺達も行くぞ。」
カイザーの掛け声で、3人も複製達を倒し始めた。
「これは…。」
俺と少女の前には、巨大な水槽があった。
水槽の周りには、複製が入っていたであろうカプセルが10個ほど並び、水槽に太い配管で繋がれている。
水槽の真ん中には大きく割れた跡があり、どうやら少女はそこから出てきたようだ。
「ここにいたんだよな?」
「…ウン。ココデウマレタ。」
「産まれた…?」
少女は近くにあった机から、1枚の紙を持ってかた。『被験者:ソフィア×複製No.1』と書いてあるだけで、それ以外は何も書いていない。
ソフィアといえば、少し前の闇ギルド兼学園に潜入していた人物しか知らない。
「えっと、これが何?」
「オカアサン…オトウサン。」
「…え。」
なんとなくだが、察した。おそらく闇ギルドがこの国に来た時に、ソフィアと複製の1人が人工的に掛け合わされたのだろう。それにより誕生したのが、この少女なのかもしれない。
魔力の使える体を産まれながらに持ち、神の魔力を有する少女の誕生だ。
「カミジャナイモノ、コロセ。イワレタ。」
「誰に?」
「アノオトコ。」
「…なるほど。」
これも推測だが、テオスは自分が神になれない事に気付いていたのだろう。だから完全に血を入れ替えてもいなかったし、どこかでそれに気付いているような瞳をしていた。
その代わりに、新たな神に近い存在を創り出したのかもしれない。自分の代わりに、世界を正すために。
「えっと…そんな事をする必要はない。」
「ナゼ?」
「誰もそれを望んでいないし、君も人を殺したくないだろ?」
「…ワカラナイ。」
「そのうちわかるよ。 せっかくこの世界に産まれたんだし、普通の女の子みたいに生きたいとは思わない?」
「フツウッテ…ナニ?」
「あー…寝て起きて飯食って、みんなと遊んだり…まぁ戦いとか殺しから程遠い感じかな。」
「…ソウ。」
少女はうつむき、何かを考えているようだった。瞳に色はないが、その水晶のように透き通った瞳は一点の曇りもない。
「もし困ってるなら…俺の所にくるか?」
「ナゼ?」
「だって、これからどうするつもり?」
「ワカラナイ。」
「なら、何かしたい事が見つかるまで俺の国にいるといい。平和で楽しい所だぞ。」
「…ワカッタ。」
少女は了承して、俺の手を握った。その手はとも冷たく、力を込めたらガラスのように砕けそうなものだった。
俺はその場にあった資料などを燃やし、少女を連れて城を後にした。
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