175 / 210
第9章
第156話
しおりを挟む双子は、生まれた時から人生の全てが決まっていた。
国のため、皇帝のための戦闘要員として教育を受け、逆らえば死と幼い頃から刷り込まれた。
だからこの状況は間違っていないと思っている。国民が血を流し国が滅びゆくこの景色も、昔からどこかで覚悟していた事だった。だから、この胸の痛みにも気付かないフリをした。
「げほっ…」
サナの目の前で、レギルは口から血を大量にはいて膝をついた。辺りには複製の戦士達の死体が数体転がっており、生きているのはサナとレギルだけだった。
「…もうやめるずら、その体じゃおらには勝てないよ。」
「はは、そうかもな…。だけどなっ…!」
レギルは膝に手を当て、痛む身体にムチを打って立ち上がった。体の至る所から骨の軋む音がするが、そんなの構ってられない。
「嬢ちゃんに言っちまっからな…。」
「何が?」
「今の嬢ちゃんは、困った顔をしてる…そんな子を放っておけるわけねぇだろ?」
「…そんな事ないずら。」
サナは己の胸の内が見透かされないよう、魔弾を放った。
レギルはそれを避ける事もせず、正面から拳を突き出し、魔弾を跳ね返した。魔弾は跳ね返ったが、レギルの拳も出血し完璧に跳ね返せてはいなかった。
「なんでそこまで…,もう、やめて…。」
「やめねぇよ。嬢ちゃんがやめるまで、俺は嬢ちゃんを止める。」
「もういいずら…。」
サナは右手を上げ、慣れない魔力を意識した。すると、どんどん魔力が集まっていきサナの手のひらに巨大な雷の球が出来上がった。
「ははっ…ちょっとまずいな…。」
レギルはその魔力の高さに笑ったが、すぐに膝をついた。額から溢れた血が、地面にポタポタと落ちる。
「バイバイ…。」
サナは小さく呟くと、雷球を死にそうなレギルに投げつけた。
そこで勝負はつくはずだった。だが、レギルは右手を地面につけ、球が着弾する前に己の前に巨大な土の壁を作った。
瞬間、球は壁で弾けてあたりに電流が飛び散った。
「ぐっ…!」
その威力に壁が壊れそうになるが、レギルはなんとか耐えて壁を硬くした。飛び散った電流は周囲の建物を破壊していき、サナもその例外ではなかった。
サナは弾け飛んだ電流をくらい、壊れた民家に突っ込んだ。
「…ごめん、なさい…。」
サナは小さな声で誰かに謝ると、その場で意識を手放した。
レギルはふらつく体でサナを背負い、その場を後にした。
「くっ…!」
同じエリアで、ロゼッタはフローリアの刀を受け止めていた。2人とも傷だらけだが、お互いに一歩も譲らない状況が続いていた。
戦士達は既に絶命し、2人の武器同士がぶつかる音が響いていた。時折魔法が放たれ、大きな爆発音もする。
「あなた、弟の暴走を止めなくていいんですか?」
「何の事でしょう。」
互いの剣をぶつけ対峙しながら、ロゼッタはフローリアに話しかけた。フローリアの瞳に光はなく、ただの刀を振る機械のようになっている。
「この状況、あなたは何も思わないんですか?」
「…何も、私に心はありませんから。」
ロゼッタの質問にフローリアは、一瞬何かを思ったような素ぶりを見せた。ロゼッタはその隙を見逃さず、フローリアの刀を弾き飛ばして勢い任せにその場に押し倒した。
「くっ…!」
「なら、なぜあなたはそんなにも悲しそうな表情を?」
「私が…?あり得ません、私が、そんな…。」
フローリアは自分の顔を触り、震えた。
心のない自分に、感情などないと思っていた。だが触れた自分の顔は、悲しみと苦しみからか触れてわかるほど歪んでいた。
ロゼッタはそれを見て武装を解き、静かに立ち上がった。
「…殺さないのですか?」
「マスターだったら殺さないはずです。それに…どうやら困っている仲間がいるようなので。」
ロゼッタは屋根に飛び乗り、王城の方を見据えた。その視線の先では、王城で巨大な火の球と水の球がぶつかり激しい魔力の渦が発生している。
ロゼッタは最後にフローリアの方に視線を戻し、口を開いた。
「私も普通の人間ではありませんが、喜怒哀楽くらいはあります。その感情に、嘘をつかないことをお勧めしておきます。」
それだけ言い残し、ロゼッタは王城の方へと飛んで行った。
「私は…。」
残されたフローリアは1人座り込み、俯いた。
俺が研究施設に転移した途端、とんでもない数の戦士達が襲いかかってきた。その場で施設ごと吹き飛ばしても良かったのだが、なぜか施設の中からサレアの魔力を感じた。
「何してんだあいつは…。」
そのまま戦士達を葬りながら施設に入ろうとした瞬間、入り口から2人の人間が飛び出してきた。
1人は剣を構えたサレアで、その隣には白い髪をバッサリ切った複製の戦士がいた。戦士は複製のせいか感情がないはずだが、その戦士だけは楽しそうに笑っていた。
「お前、ここで何してたんだよ…。」
「…それはこいつに聞いてくれ。」
サレアはぐったりした表情で、隣の戦士を指差した。そいつは俺を見ると、やけに嬉しそうな表情になった。
「ねぇ、もし出来るなら造形魔法か何かで僕の顔を変えられる?王国の人間に敵と思われて攻撃されちゃうかもしれないし。」
「いやあんた誰だよ。なんで敵の味方をしなきゃいけないんだ?」
「敵じゃないよ!イフだよ、忘れちゃった?」
「………は?」
イフは嬉しそうに笑い、隣でサレアは大きなため息をついた。
あれから、紅葉は己を巨大な燃える九尾の姿に変え、戦士達を焼き払っていた。
しかしいくら数が減っても、敵の本部だからか新しい戦士達が次から次へと送り込まれてくる。最早、今は紅葉の勢いが弱まり数が増えている気さえした。
「キリがないな…ゔっ?!」
諦めずに戦士達を一掃しようと思った途端、魔力が減りすぎたのか変身が解け、紅葉は座り込んでしまった。
「あら、魔力切れかしら?だらしないわねぇ。」
その姿を見てスナッチはバカにするようにに笑ったが、紅葉は怯えるどころかむしろ増える敵を見て嗤った。
「もう1000体ほど神のクローンを倒したのだ…これは、褒美があって当たり前じゃな…。」
血を流しすぎて意識がふらつくが、最後の力を振り絞って立ち上がった。着物ははだけ、その姿は見るに耐えないものだった。
「もう飽きちゃった…殺って。」
スナッチの命令に、戦士達は紅葉に手を向けた。すぐに大量の魔法陣が出現し、全員の魔法陣が重なって巨大な風弾が放たれた。
「ふっ…やはり、複製だから汚い魔力じゃ。」
弾が迫り来る中、紅葉は微動だにせず魔弾を見据えた。
そして弾は着弾し、巨大な爆発音とともに強い風が吹き荒れた。
「あはははは!大したことなかったわね!」
「どうでしょうか。」
「は?」
スナッチはその威力に興奮し笑ったが、爆発で荒れた地から人の声がした。そして目の前の光景に、目を疑った。
煙が晴れるとそこには、紅葉の前に立ち魔法障壁を張るロゼッタがいたー。
12
お気に入りに追加
5,960
あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる