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第9章
第154話
しおりを挟む街は地獄絵図へと様変わりしていた。
あたりの建物が壊れ、人々が血を流して倒れている。それでも、複製戦士達は攻撃の手を緩める事はなかった。
俺とエレナは、戦士達を倒しながら八将神を探した。ただ、戦士達はスズリのクローンなのでかなり手強い。
「レイ、ちょっと…ヤバイかも。」
「だな…うわっ!」
突然、何者かが飛びかかってきて後ろに避けると、俺のいた所に拳を叩きつけているアルガリスがいた。見事に地面がえぐれている。
「うわぁ…なんだあれ。」
「レイ!大丈ーゔっ?!」
「エレナ!」
俺の元に駆けつけようとしたエレナの脇腹に、戦士の1人が風魔法を付与した脚で蹴りを入れた。エレナは建物に突っ込んでいき、すかさずそこへアルガリスが魔法を放った。
「クソがっ…!」
戦士達を弾き飛ばして、アルガリスの背中に蹴りを入れようとした。だが、こちらを見る事なく腕でガードされ、そこに他の戦士が魔弾を放ってくる。
「もう怒ったよ!」
瓦礫の中から埃まみれのエレナが飛び出してきて、口から火をはいた。だが、それすら戦士は風魔法の障壁で防いでしまう。
「神様のクローンかよ…!」
いい加減制限を外そうとした時、上空からひらりと女性が飛んできた。女性の後ろ姿は着物に描かれている蝶のように美しく、凛とした雰囲気を漂わせている。
女性に続いて、組の人達も続々とやってきた。
「ヨシノさん!」
「前頭領はうちに任せるぜよ。おまんはフロストを頼む。」
ヨシノの指差す方には、遠くの民家の屋根に座るフロストがいた。こちらを無表情で見つめている。
フロストの隣には、浮かない表情のカナもいた。
「エレナ、あの女の人を頼める?俺は男の方を。」
「わかった!」
2人で屋根の近くに飛ぶと、フロストはゆっくりと立ち上がり胸の内ポケットから注射のようなものを取り出した。
「待っていましたよ…新亜人族の初戦闘の相手は、人族がふさわしい。」
「あっそ。」
フロストは感情のない笑みを浮かべると、針を首元に射し、中の緑色の液体を注入していった。
瞬間、フロストの体から凄まじい魔力の上昇を感じた。
「なんだよそれ…。」
「そこの戦士達から抽出した魔力です。吐き気がすごいですが…あまり悪いものではないですね。それでは試しに…『風槍』」
「まじかよ…!」
初めてとは思えない、とんでもない太さの槍が飛んできたが、避けながら殴りかかった。俺の拳はひらりとかわされ、代わりに蹴りが返ってきた。
「おっと。」
「なかなかやりますね…。」
「そりゃどーも!」
余裕そうな笑みを浮かべるフロストの顔面にすかさず蹴りを入れると、フロストは遠くに吹っ飛んでいった。
近くでは、エレナとカナが街中を走りながら戦っていた。カナもフロストと同じく、魔力を注射したようで魔弾をバンバン放っている。
「エレナ、大丈夫?」
「へーき!」
視線を戻すと、フロストは立ち上がって近くの屋根に飛び乗った。
「少し、王国の副団長を甘く見ていましたね…。」
「あっそ。」
「少し早いですが…『記憶消滅』。」
俺が驚く間も無く、フロストは禁忌魔法を詠唱した。フロストの足元に魔法陣が浮かび、フロストは炎や水、闇に体を包まれた。
「なんであの魔法…ベルベットか。」
「ふぅ…これは…!凄まじい力が溢れてきます!これであなた達を倒せますね。」
「どうですかね。」
興奮状態のフロストをあしらって、俺は周囲に巨大な魔法障壁をはった。
2エリアで、ロゼッタはスズリの複製達を怒りと悲しみが混ざった感情で殺していった。なぜスズリのクローンがこんなに複製されているのかもわからないし、知りたくもなかった。だから1秒でも早く、彼らを眠らせていった。
「くっ…!」
だが、いくら複製とはいえ元は神。それに数も圧倒的に多いので、既に何発か魔弾をくらっていた。
「負けてられませんね…。」
全身を《戦乙女》で武装し、聖剣グラムで戦士に斬りかかった時だった。
大きな金属音と共にロゼッタの剣が弾き飛ばされ、ロゼッタは後ろに飛んで距離をとり、剣を戻した。
「あなたは…。マスターから話は聞いていましたが、本当に裏切ったようですね。」
「…裏切るも何も、私はもともとこちらの人間ですから。」
そこには、刀を握るフローリアがいた。フローリアは、無表情でロゼッタを見つめている。
「その戦士の方は、既に亡くなった方です。今すぐ彼らを休ませなさい。」
「無理です。この人達を造ったのは、全て陛下ですので私には何も。」
「…そうですか。」
ロゼッタは小さく呟くと、羽の位置にある剣を2本掴んで融合させた。剣は紅い光を放っている。
「《聖剣:デュランダル》…融合完了。」
「面白いですね、私も…『記憶消滅』」
「あなた…!それは!」
「構いません。私を覚えている人など、殆どいませんから。」
2人は剣を構え、一気に駆け出した。
「お嬢ちゃん、もう戦うのをやめてくんねぇか?」
「なんで敵である、あなたの願いを聞く必要があるずら?」
同じエリアで、レギルとサナが戦っていた。サナは無傷だが、レギルの方は戦士達の攻撃を避けながらサナと戦っているので、所々出血している。
「ほら、昨日言っただろ?状況に応じてよく考えて行動してくれって。」
「それって…騙してたずらね。」
「まぁ事情があって潜入してたからな。それより、嬢ちゃんは周りを見てどう思う?」
レギルは戦士の魔弾を避けながら、サナに殴りかかった。サナは拳を避け、建物の屋根に飛び移るり辺りを見回した。あんなにも綺麗だった皇国は、すでに半壊している。
「……何も思わないずら。これが…おらの望みでー」
「本当にそうか?」
レギルの問いかけに、サナはビクッと肩を震わせた。
「その割には、随分悲しそうな表情をしてるが。」
「そ、そんな事ないずら!お、お前に…お前におらの苦しみなんかわかるはずないずら!」
「そりゃわかんねぇな。言ってくれなきゃ、何も伝わりはしねぇよ。」
「うるさい…!『記憶消滅』。」
「よせ!ぐっ!」
レギルが止めようとしたが、戦士がレギルを殴り飛ばした。
屋根の上で、サナは雷に包まれた。
サレアは、北にある研究施設の中にいた。先程、施設の入口から複製戦士達が次から次へと出てきていたので、身を隠して忍び込んでいるのだ。
「これは…。」
「ひどいね。」
たまたま入った部屋は、戦士達の遺体で埋め尽くされていた。斬られたような痕があるあたり、実験や戦闘訓練で殺されたのだろう。
「この国は…一体何の研究をしているんだ。」
「魔法と発明の融合実験みたいな所かな?」
嫌悪感を表すサレアの一方で、イフは冷静に周りを見て状況を分析していた。
「それより、早くこの施設を壊すぞ。そうすれば、あのコピー達ももう出てこないだろう。」
「ちょっと待って、もう少しだけ調べさせて。」
「まだ住民の避難も終わっていない、諦めろ。」
「いいじゃん。ほら、ここなんかすごい機械がたくさんあるし。」
イフが扉を開けると、中はいろんな機材や資料で埋め尽くされていた。
中に入って床に落ちている紙を拾い、サレアは怒りを露わにした。
「魔道書と全く同じ内容だな…そういえば第五分隊の分隊長が敵のスパイとか言っていたな。」
「それにしても凄い研究熱心だね…。ん、何だろうこれ?」
イフは、近くの机にあったやけに黄ばんだ紙の束をとった。
表紙には、『肉体と魂の融合と分離』というタイトルが記されていたー。
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