172 / 210
第9章
第153話
しおりを挟む翌日、早朝に俺はロンじいさんの家にいた。目の前でじいさんは相変わらず機械をいじくっている。部屋の壁では、ヨシノが目を閉じて背を預けている。
ちなみにロゼッタは街を散策、スサノオは昨日と同じく図書館にいる。エレナは遅れて遊郭に向かっており、紅葉は部屋でまだ寝ている。
ここに来る前にベルベットを拘束しろと命令が出ていて部屋を訪ねたが、やはりどこにもいなかった。なので今日の俺の仕事は、ベルベットの捜索と引き続き鎖の調査だ。
「それで、うちの陛下が話をつけくれるみたいですよ。」
「そんなので あいつがやめると 思っとらん」
「相変わらず下手くそな川柳だな…。それより、なんで俺に皇国の話を?」
「大昔 1人の少女が こう言った」
「少女?」
「いつの日か 神の使いが 現ると」
「使い?使徒か何かか?そんなエヴァみたいな…。それと、アルガリスさんはなんで皇帝の部下に?」
ヨシノは目を閉じながら答えた。
「あやつが地下を去る前にうちも同じ事を聞いたが、何も言わなかったぜよ。…まぁおそらく、うちらを殺すと脅されとるんじゃろ。」
「そういう事ですか…。」
その時、部屋の扉が勢いよく開けられた。入り口には、肩で息をするウサピョンが立っている。
「た、大変だぴょん!」
「いや、どう見てもあんたの方が大変そうだけど…。」
「そんな事言ってる場合じゃないぴょん!お前…危ないぴょん。」
「………は?」
「というか、こうなったらもうこんなの着てらんねぇな。」
「待て、その声…。」
急にウサピョンの声が男に変わったと思ったら、ウサピョンは着ぐるみの中でゴソゴソ動き出した。この声は…少し前にいなくなった人の声にそっくりだ。
「う、嘘でしょ…ニコチン切れたって、そういうわけ?」
「ふぅ…暑いなこれ。お!久しぶりだな、レイ。たばこあるか?」
うさぎの頭が外れると、そこには黒い眼帯をしたレギルがいた。
「な、なんでこの国に?!」
「そんな話は後だ、それよりこれ見ろ。」
レギルは俺に1枚の手紙を渡してきた。内容は、『人族浄化計画について』と書いている。
「なんですかこれ…。」
「今日の朝フロストに渡された。実行は明日の午後、俺が手術を今日受けてから1日おくみたいだな。」
「手術?」
「八将神のやつらは、全員体に魔力を貯める小さな水槽みたいな物を既に埋め込んでいる。」
「それって…」
「魔法の使える、亜人族の誕生だ。」
レギルの言葉に、部屋にいた俺たちは息を呑んだ。
午前中、王城の会議室にテオスと、ウサピョンを除いた八将神が集まっていた。
「じゃあ、みんな集まったようだね。午後には始めるけど、覚悟はいいかな?」
「あの…ウサピョンさんは?」
「あぁ、彼は別にいいんだ。」
カナが小さく手を挙げて聞いたが、テオスは当たり前のように答えた。
「それより、みんな覚悟はいいかな?今日でこの国は生まれ変わる…新たな種族の誕生だね。やめるなら今のうちだけど、大丈夫?」
テオスは8人を見ながら、嬉しそうに笑った。何人かの表情はあまり良くない。
「反対する者はいないようだね。それじゃあ今からみんな配置についてくれ、健闘を祈るよ。」
かくして、テオスの計画は始まった。
それは、レギルと王城にいるダライアス陛下のところへ向かっている時だった。
突如街のあらゆるところから爆発音と、人々の悲鳴が聞こえた。
「一体何が?!」
「まさか…あいつら先に始めたのか?」
「あの手紙はダミーって事ですか?」
「潜入バレてたか…。」
すぐに俺は陛下のいる部屋に転移すると、陛下も窓の外を見て驚いていた。カイザーも側で目を見張っている。
「何が起きているんだ?」
「わかりません、ただ…とんでもない魔力を持つ者が100、いや200ほど。前の魔物の大氾濫より厄介かもしれません。ひとまず、異空間に入っていただけますか?」
「…わかった。」
陛下はその場に残りたそうな表情をしていたが、安全のために異空間に入ってもらった。
「カイザーさん、どうしますか?」
「騎士として、これを見過ごすわけにもいかない。第五の分隊長はいないんだよな?」
「はい。ですが、先程レギルさんと会いました。」
「なんであいつがこの国に…まぁいい、それなら…」
カイザーはこの国の地図を取り出し、真ん中の王城を中心にして三等分にした。そして右上から1、2、3と素早く書いた。
「1がお前と魔道士団第二分隊、2がレギルと第五分隊、3が俺と騎士団第二で引き受ける。サレアと残りの騎士団は、各自国民の避難に向かわせる。避難場所は…地下の遊郭か、そこもダメだったらこの城でもいい。」
「了解です。」
部屋に入ろうとしていたサレアと合流し、王国関係者控え室にいる団員達にカイザーが指示をしてすぐに行動に移った。
城を出た所にはロゼッタ・紅葉・スサノオ・エレナの4人が既に待っていた。
街の遠くの方では火事が起き、黒い煙が上がっている。
「マスター…スズリ様のクローンのような方が…。」
「わかってる。とりあえずエレナは俺と、ロゼッタはレギルさんの所、スサノオはカイザーさんの所に行ってくれ。」
「わかりました。」「心得た。」
ロゼッタとスサノオはすぐに飛んでいき、エレナと紅葉だけが残った。
「妾はどうすればいいんじゃ?」
「この城にテオスがいるかもしれないから、いたら止めてくれ。」
「わかった!…って、これはそうも行かぬな…。」
紅葉の視線の先には、先程まではいなかったスズリのクローンが突然何十体も現れ、城門の前に立ちはだかっていた。
「紅葉、頼めるか?」
「心配するな、それより終わったらご褒美じゃな。」
「わかったよ!」
「レイ、早く!」
紅葉にその場を任せ、エレナと先に向かった第二分隊のいる1エリアに向かった。
2エリアで、フローリアはじっと何もせず壊れゆく街を眺めていた。今までは自分が護るはずだった国民達が、複製戦士達から逃げ回っている。既に僅かながら血の匂いもした。
「フローリア…おら達はどうすればいいずら?」
「第1段階、複製戦士を放って少ししたら陛下から指示があります。それを待ちましょう。」
「……うん。ウサピョン…どこに行ったんだろう。」
隣で暗い表情をするサナの頭を撫で、フローリアは指示を待った。
3エリアには、ナナとジークがいた。フローリアの所と同じく、2人の前で複製戦士達は街に魔法を放って全てを破壊していく。
「これで良いんだよね。テオスさん、先生…。」
「サナは…大丈夫かな…?」
不安そうな2人など気にせず、戦士達は亜人の民を殺していった。
1エリアでは、カナ・アルガリス・フロストの3人が既に国の破壊に参加していた。ただ主に破壊しているのはアルガリスで、カナは辛そうな顔でそれを見ている。
カナの見るアルガリスの瞳は虚ろで、いつもの活気も感じない。
「カナさん、わかっていますよね?これは陛下の…私達の望みなんです。」
「……はい、わかってます。」
カナはそう呟き、俯いた。
王城の最上階で、テオスとスナッチは街を眺めて満足そうな表情をしていた。
「そろそろ王国のゴミが着く頃じゃなーい?」
「そうだね…それより、あの子の研究はどうなった?」
「全然ダメ、魔力注入はうまくいったんだけど全く起きる気配ないわ。」
「そっか。まぁ僕らがいれば大丈夫だろう。」
テオスは笑いながら、通信機のスイッチを入れた。
王城の地下に、厳重に封鎖された特別研究施設があった。そこの部屋の中心には、巨大な水槽があり、中は複製戦士1000体分ほどの緑色の魔力で満たされていた。
そして、水槽の中には1人の少女が眠っていた。彼女は起きる気配もなく目を閉じ、水槽の中心で静かに眠っている。
だが、水槽の下に突然、小さな亀裂が入った。
それと同時に、彼女の瞼がゆっくり上がった。
『カ…ミ………サマ……?』
その小さな声を聞いた者は、誰もいなかったー。
13
お気に入りに追加
5,960
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる