異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし

文字の大きさ
上 下
170 / 210
第9章

第151話

しおりを挟む

「それからどうなったんですか?」

「あてもなく彷徨った…。人を騙して騙され、奪っては奪われる、そんな毎日だったの。」

ヨシノは虚空を見つめ、記憶を探るように話を続けた。

「ただ、うちはすぐに1人だった所を胡蝶組ここの前頭領に拾われてな。テオス達も残るよう探したんだが、すでにこの国にいなくなってたぜよ…。」



その後、テオス達は皇国の貿易船に忍び込み他国を渡り歩いていた。アイロンが皇帝だった頃は鎖国などしておらず、他国との交流もそれなりに行われていた。

そしてテオスは、他国には魔法というものが存在するのを知った。これが使えれば、自分の可能性は無限大にも広がると感じた。
ただ、亜人族には魔法が使えず、何より自分達には魔法についての知識も研究道具も何もなかった。

そこで彼は、1つの案を思いついた。
ないなら、力づくでも奪ってしまえばいい。魔法を使いこなす他国を落とすことは出来なくても、自分達と同じ魔法の使えない種族の国がある。しかもその国は、自分の大切な人を2人も殺した国。躊躇う余地など、どこにもなかった。


テオスは獣人族の国にいる際、全員にその事を話した。

「ベタニー皇国を滅ぼす。」

その言葉に、仲間達は息を呑んだ。最初は冗談かと思ったが、テオスの目を見ればそれが冗談かどうかはすぐにわかった。

皆が固まる中、フロストが手を挙げた。

「具体的にどうするんですか?」

「今度の世界会議ツヴェルフが開かれる少し前、この国から皇国に一隻だけ貿易船がでる。それに乗って皇国に帰ってからすぐにやる。」

「でも、そんな会議の前だから警備とか厳しいんじゃ…。」

「だからこそだよ。」

スナッチが少し心配そうに口を挟むと、テオスは懐から小さな瓶を取り出した。瓶の中の黒い液体を見て、今度はカナが不安そうな顔になった。

「そ、それどうしたんですか?」

「この前交渉して貰った猛毒だよ。そして…」

テオスは別の瓶をとりだした。そちらには、透明な液体が入っている。

「こっちが解毒剤。具体的にはー」

テオスが計画を説明すると、みんな再び黙ってしまった。確かにあの国は好きではないが、国を落とすなど考えてもいなかったからだ。

「もし嫌だったら、ここで降りてもいい。別に怒りもしないし止めもしないよ。」

皆少しの間悩んだが、誰も降りる者などいなかった。


そして10年前、ある雨の日の夜。ヨシノはおつかいを頼まれ、地上の店で買い物を済ませた帰りだった。

「え…テオス?!」

「…ヨシノか。久しぶりだね。」

通りの向こうから、テオスとジークが歩いてきた。5年ぶりの再会に、ヨシノは嬉し涙を流した。

「どこに行ってたの、心配したぜよ!」

「…ちょっとね。それより、皇帝が何か怪しい実験をしているらしいよ。ヨシノも気をつけてね。」

「実験…?なんだそれは。」

「噂だからあまり気にしないで。それじゃあ、またね。」

「あ、おい!」

ヨシノの言葉も聞かず、2人は雨の中どこかへと歩いて行った。

ヨシノはすぐに地下に戻り、すぐに前頭領にその事を話した。

「実験?」

「うん、昔の友達が言ってたぜよ。」

「確かに陛下はそういった事が好きだと聞くが…別に怪しい事をするほどの人じゃないような…。」

「でも嘘をつくような友達じゃないよ!」

「わかった、少し調べてみる。」

前頭領・アルガリスはヨシノの頭を撫で、部屋を出て行った。



数日後、皇国の船が世界会議へと向かう前に事件は起こった。

「陛下!」

皇帝の自室に、1人の護衛が慌てた様子で入ってきた。

「どうかしたか、明日は朝早いのだが…」

「た、大変です!国民が!」


護衛に連れられ城を出て、アイロンは言葉を失った。城前には苦しそうな顔をした国民達が集まっており、皆顔色が悪く今にも意識を失いそうなものもいた。

本来なら王が国民と直接会話する事などあり得ないが、アイロンは近くの民に駆け寄った。

「な、何があった?!」

「わかりませ…なんだか、朝から体調が悪くて…」

それだけ言い残し、民の1人はその場で息途絶えた。アイロンは驚きながらも、兵士達に調査を命じ、自身も事態の解決にむけて王城の研究室に向かった。



「それって、何が原因だったんですか…?」

「異国の毒だ。この国にない毒で、医者達も解毒剤を作る事が出来なかった。」

それまで黙っていたアイロンが、そこでようやく口を開いた。

「後からわかった事だが、地上の水道管にいくつか外部から壊されたような跡があった。そこに薄めた毒を流し、それを飲んだ国民達は皆、毒にやられたようだった。」

「そして民が苦しんでいる中、怖いくらい良いタイミングでテオスが現れた。テオスはじいさんの噂を流しながら、解毒剤を民に配ってまわったぜよ。」

つまり、この国は一夜にして1人の男に落とされたというわけだ。それも、まだ幼い少年に。

「窮地における噂は、人々を不安にさせ信憑性がなくても信じこませやすい。すぐにじいさんの信頼は地に落ち、狙ったかのようにテオスは皇帝の座についた。」

「わしは別に王の座など気にしておらん。ただ…民を殺めてまで王になろうとした男の前に、何もできなかった自分が今でも許せん…!!」

じいさんは悔しそうに床を殴り、悔し涙を流した。そしてヨシノも、拳を握りしめながら呟いた。力を込めすぎて、少し流血している。

「うちも…あの時テオスを止めていれば…いや、もっと前にあいつらが船に忍び込むのを阻止出来ていれば…。それと、少年。」

「なんですか?」

ヨシノは眉間にしわを寄せて、俺の胸ぐらを掴んだ。

「なぜフローリア姉さんがおまんの国にいるぜよ…!あの人は15年前に死んだはずだ!」

「ちょ、ちょっと待ってください!俺の知り合いに、フローリアなんて人いませんよ!」

「とぼけるな!おまんらがこの国に来た時、おまんの側におっただろ!」

「俺の、側に…?」

俺はそこで記憶を探り、1つの可能性が浮かんだ。パレードの時、俺の側にいた女性は1人しかいない。


『私は生まれつき魔力が極端に少ないのでー』
『…なんだか温かいです。』
『この国と同じくらい平和な所です。』
『私はどうでしょうか?』

『あ、そういえば名前は?』

『…ベルベットです。』


「まさか…。」

最悪な可能性が、俺の中で広がっていった。





「あの、フローリアさん。」

「どうしました?」

研究施設にある手術室の扉の前で、カナは不安を孕んだ声でフローリアのそばに寄った。

「本当に、これで良かったんでしょうか…。」

「わかりません、私は陛下の命令に従うだけですので。」

「でも…!フローリアさんはそれで良いんですか?陛下は…テオス君はあなたのたった1人の弟なんですよ?!」

「…私に死ぬ前の記憶はありますが、今の私はただの動くしかばね、陛下の造った心のない機械かもしれませんね。」

「でも…!」

カナはフローリアに抱きついて嗚咽を漏らした。淡々と話すフローリアの瞳には、どこか悲しみを含んでいるのが見てとれたからだ。

「泣かないでください…泣かないで…」

自身の方が泣きそうな声で、されど涙は流れる事はないが、フローリアはカナの頭を撫で続けた。
しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...