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第9章
第151話
しおりを挟む「それからどうなったんですか?」
「あてもなく彷徨った…。人を騙して騙され、奪っては奪われる、そんな毎日だったの。」
ヨシノは虚空を見つめ、記憶を探るように話を続けた。
「ただ、うちはすぐに1人だった所を胡蝶組の前頭領に拾われてな。テオス達も残るよう探したんだが、すでにこの国にいなくなってたぜよ…。」
その後、テオス達は皇国の貿易船に忍び込み他国を渡り歩いていた。アイロンが皇帝だった頃は鎖国などしておらず、他国との交流もそれなりに行われていた。
そしてテオスは、他国には魔法というものが存在するのを知った。これが使えれば、自分の可能性は無限大にも広がると感じた。
ただ、亜人族には魔法が使えず、何より自分達には魔法についての知識も研究道具も何もなかった。
そこで彼は、1つの案を思いついた。
ないなら、力づくでも奪ってしまえばいい。魔法を使いこなす他国を落とすことは出来なくても、自分達と同じ魔法の使えない種族の国がある。しかもその国は、自分の大切な人を2人も殺した国。躊躇う余地など、どこにもなかった。
テオスは獣人族の国にいる際、全員にその事を話した。
「ベタニー皇国を滅ぼす。」
その言葉に、仲間達は息を呑んだ。最初は冗談かと思ったが、テオスの目を見ればそれが冗談かどうかはすぐにわかった。
皆が固まる中、フロストが手を挙げた。
「具体的にどうするんですか?」
「今度の世界会議が開かれる少し前、この国から皇国に一隻だけ貿易船がでる。それに乗って皇国に帰ってからすぐにやる。」
「でも、そんな会議の前だから警備とか厳しいんじゃ…。」
「だからこそだよ。」
スナッチが少し心配そうに口を挟むと、テオスは懐から小さな瓶を取り出した。瓶の中の黒い液体を見て、今度はカナが不安そうな顔になった。
「そ、それどうしたんですか?」
「この前交渉して貰った猛毒だよ。そして…」
テオスは別の瓶をとりだした。そちらには、透明な液体が入っている。
「こっちが解毒剤。具体的にはー」
テオスが計画を説明すると、みんな再び黙ってしまった。確かにあの国は好きではないが、国を落とすなど考えてもいなかったからだ。
「もし嫌だったら、ここで降りてもいい。別に怒りもしないし止めもしないよ。」
皆少しの間悩んだが、誰も降りる者などいなかった。
そして10年前、ある雨の日の夜。ヨシノはおつかいを頼まれ、地上の店で買い物を済ませた帰りだった。
「え…テオス?!」
「…ヨシノか。久しぶりだね。」
通りの向こうから、テオスとジークが歩いてきた。5年ぶりの再会に、ヨシノは嬉し涙を流した。
「どこに行ってたの、心配したぜよ!」
「…ちょっとね。それより、皇帝が何か怪しい実験をしているらしいよ。ヨシノも気をつけてね。」
「実験…?なんだそれは。」
「噂だからあまり気にしないで。それじゃあ、またね。」
「あ、おい!」
ヨシノの言葉も聞かず、2人は雨の中どこかへと歩いて行った。
ヨシノはすぐに地下に戻り、すぐに前頭領にその事を話した。
「実験?」
「うん、昔の友達が言ってたぜよ。」
「確かに陛下はそういった事が好きだと聞くが…別に怪しい事をするほどの人じゃないような…。」
「でも嘘をつくような友達じゃないよ!」
「わかった、少し調べてみる。」
前頭領・アルガリスはヨシノの頭を撫で、部屋を出て行った。
数日後、皇国の船が世界会議へと向かう前に事件は起こった。
「陛下!」
皇帝の自室に、1人の護衛が慌てた様子で入ってきた。
「どうかしたか、明日は朝早いのだが…」
「た、大変です!国民が!」
護衛に連れられ城を出て、アイロンは言葉を失った。城前には苦しそうな顔をした国民達が集まっており、皆顔色が悪く今にも意識を失いそうなものもいた。
本来なら王が国民と直接会話する事などあり得ないが、アイロンは近くの民に駆け寄った。
「な、何があった?!」
「わかりませ…なんだか、朝から体調が悪くて…」
それだけ言い残し、民の1人はその場で息途絶えた。アイロンは驚きながらも、兵士達に調査を命じ、自身も事態の解決にむけて王城の研究室に向かった。
「それって、何が原因だったんですか…?」
「異国の毒だ。この国にない毒で、医者達も解毒剤を作る事が出来なかった。」
それまで黙っていたアイロンが、そこでようやく口を開いた。
「後からわかった事だが、地上の水道管にいくつか外部から壊されたような跡があった。そこに薄めた毒を流し、それを飲んだ国民達は皆、毒にやられたようだった。」
「そして民が苦しんでいる中、怖いくらい良いタイミングでテオスが現れた。テオスはじいさんの噂を流しながら、解毒剤を民に配ってまわったぜよ。」
つまり、この国は一夜にして1人の男に落とされたというわけだ。それも、まだ幼い少年に。
「窮地における噂は、人々を不安にさせ信憑性がなくても信じこませやすい。すぐにじいさんの信頼は地に落ち、狙ったかのようにテオスは皇帝の座についた。」
「わしは別に王の座など気にしておらん。ただ…民を殺めてまで王になろうとした男の前に、何もできなかった自分が今でも許せん…!!」
じいさんは悔しそうに床を殴り、悔し涙を流した。そしてヨシノも、拳を握りしめながら呟いた。力を込めすぎて、少し流血している。
「うちも…あの時テオスを止めていれば…いや、もっと前にあいつらが船に忍び込むのを阻止出来ていれば…。それと、少年。」
「なんですか?」
ヨシノは眉間にしわを寄せて、俺の胸ぐらを掴んだ。
「なぜフローリア姉さんがおまんの国にいるぜよ…!あの人は15年前に死んだはずだ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!俺の知り合いに、フローリアなんて人いませんよ!」
「とぼけるな!おまんらがこの国に来た時、おまんの側におっただろ!」
「俺の、側に…?」
俺はそこで記憶を探り、1つの可能性が浮かんだ。パレードの時、俺の側にいた女性は1人しかいない。
『私は生まれつき魔力が極端に少ないのでー』
『…なんだか温かいです。』
『この国と同じくらい平和な所です。』
『私はどうでしょうか?』
『あ、そういえば名前は?』
『…ベルベットです。』
「まさか…。」
最悪な可能性が、俺の中で広がっていった。
「あの、フローリアさん。」
「どうしました?」
研究施設にある手術室の扉の前で、カナは不安を孕んだ声でフローリアのそばに寄った。
「本当に、これで良かったんでしょうか…。」
「わかりません、私は陛下の命令に従うだけですので。」
「でも…!フローリアさんはそれで良いんですか?陛下は…テオス君はあなたのたった1人の弟なんですよ?!」
「…私に死ぬ前の記憶はありますが、今の私はただの動く屍、陛下の造った心のない機械かもしれませんね。」
「でも…!」
カナはフローリアに抱きついて嗚咽を漏らした。淡々と話すフローリアの瞳には、どこか悲しみを含んでいるのが見てとれたからだ。
「泣かないでください…泣かないで…」
自身の方が泣きそうな声で、されど涙は流れる事はないが、フローリアはカナの頭を撫で続けた。
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