166 / 210
第9章
第147話
しおりを挟む「あーヨシノ姐さんね!胡蝶組の屋敷にいると思うわよ。」
近くにいた遊女らしき人に、ヨシノの居場所を聞くとすぐに答えが帰ってきた。
街の人の信頼が厚いようで、みんな名前を聞いただけで笑顔で答えてくれる。どうやら地下の治安を維持する「胡蝶組」のリーダーらしく、酔っ払いやしつこい勧誘の取り締まりなどをしているらしい。
そしてすぐに、胡蝶組と書かれた看板のある屋敷についた。まるで裏社会の人間達のアジトのようで、少し入るのが怖い。
「あーなんか土竜の唄が聞こえる…。」
「マスター、早く入ってロンじいさんの所に連れて行きましょう。」
「はい…。」
無駄にでかい木のドアをノックすると、若い女性が出てきた。
「何の用かな?お金すられちゃった?」
「いえ、ヨシノさんに少しお話があって…」
「姐さんなら今いないよん?多分遊郭の見回りに行ってるかも。」
「わかりました、ありがとうございます。」
とりあえず遊郭に戻り、手当たり次第通行人たちにヨシノさんの目撃情報を聞いていった。
「もう全然いない!本当にいるのか?!」
「さすがに疲れますね…。」
あれから1時間、いろんな人に尋ねて回ったが一向にヨシノさんは捕まらなかった。あっちの方で見たと言われて行ってみれば、反対側で見たなどずいぶん忙しい人のようだ。
「もう帰って寝たい…。このままだと日が暮れる。」
「仕方ないですね…ここは荒技に出ましょうか?」
「荒技?」
「マスター、あとでなんでもしてあげるので、許してください。」
「一体何を…」
「きゃー痴漢ですー(棒)」
「は?!」
ロゼッタは俺を指差しながら、恐ろしいくらいに恐怖感のない叫び声をあげた。痴漢というワードに、周囲の視線が一気に集まる。
「ちょ…!違うんですけど?!」
「マスター、ダメです。こんなところで…やっぱやめないで…。」
「むしろ喜んでません?!」
周囲がざわつき出したところで、上空から手裏剣とくないが何発も飛んできた。
くないを全部回収し手裏剣を避けきると、武器が飛んできた方向から手甲鉤をつけた女性がきた。
「うわ。」
頭に振り下ろされた手甲鉤を避けながら相手の腕を抑え、転移して距離をとった。
「痴漢め…異国の者か。すんぐにおまんを牢にぶち込んでやるきに、覚悟せい。」
「いや可愛すぎか。」
こんな状況にもかかわらず、俺は思わずその可愛さに感動してしまった。女性はくノ一のような着物を着ており、スタイル抜群のヒロイン総選挙だったら余裕で1位を狙えるような人だった。それに加えて、言葉遣いも相まってなお良し。
「あやかしい事を言いなや。褒めても何もでんぜよ。」
「ぜ、ぜよって…。その存在を世界遺産に登録したい…。」
「手にあわんやつだ、すんぐに処刑しちゅう。」
「あなたになら、喜んで!」
「気でも狂ったか?!」
女性は驚きながらも、忍者刀を抜いて走ってきた。とんでもない速さで一気に距離を詰めてくると、俺の腹を切り裂こうとする。
「そこまでです。」
だが、俺が止めるよりも前にロゼッタが女性の腕を掴んだ。
「離せ、こいつは痴漢なのだろ?」
「いえ、あなたを呼ぶためにわざと騒ぎを起こしました。申し訳ありません。」
「つまり、うちはおまんの罠に引っかかったわけか。おっこうな事をするもんじゃないぜよ。」
ロゼッタの告げた事実に、周囲の客達は戻っていき女性も刀を納めた。
「あの、ヨシノさんですか?」
「そうだ、うちが胡蝶組頭領のヨシノぜよ。して、おまんらうちに何か用か?」
「実はロンじいさんが連れてー」
「さらばだ。」
「えぇ?!ちょっとー?!」
いきなり建物の上に飛び移り、ヨシノは屋根を伝って逃げていった。
「なんなんだこの街の人間は…。」
「とにかく追いかけましょう!」
俺たちは空を飛び、ヨシノの後を追いかけた。
帝国の北にある施設、そこは関係者以外立ち入り禁止の研究所となっている。
そしてそこの1番奥の研究室に、八将神のスナッチとアルガリスがいた。スナッチは下着姿に白衣という変わった格好で、アルガリスは見慣れたのか注意もしない。
「それにしても、嬢ちゃん遅いな…。」
「道に迷っちゃったのかしらねぇ~…。せっかく新しい武器の威力を試してもらおうと思ったのにぃ。」
スナッチはふてくされながら、椅子にどかっと座った。だが、側にあった紙の束を見てすぐに笑顔になった。
「いや~それにしてもダライアス王国には世話になってばかりね。あのー誰だっけ…あ!ミゼリアだっけ?あいつが勝手に研究を進めてくれたから、お陰で良いデータが手に入ったわよ。それに、フローリアちゃんも魔道書とやらを完コピしてくれたし、もう私嬉しくて濡れちゃいそう!」
「勝手にって…あんたが共同研究を持ちかけたんじゃなかったのか?」
「それが聞いてよ!スナッチとかいうお堅い研究者、私がわざわざその話を出してやったのに断って、全部独り占めする気だったみたいよ。でもまぁ、そのせいでずいぶん痛い目にあわされたみたいだったけどね、そこの彼らに。」
スナッチの指差した方には、いくつもの巨大なカプセルが壁に備え付けられていた。カプセルの液体の中には、全員同じ顔の白髪の男性が目を閉じて眠っている。
「なんというか…人間としてこういった行為はどうなんだろうな。」
「仕方ないじゃなーい。陛下がやれって言ったんだから。まぁこれで私の研究の方も、魔法とやらのおかげでずいぶん進歩したからね!」
「…そうかい。」
アルガリスは呆れながらも、タバコの煙をはいて部屋を出て行った。
残されたスナッチはカプセルをうっとりとした表情で眺め、ガラスを愛おしそうに撫でた。
「待っててね、先生。もうすぐテオスちゃん達とあなたの願いを叶えるから…。」
スナッチはそう呟くと、部屋を出て行った。
『土竜の唄』
スピリッツなどで掲載されていた漫画で、主人公の菊川怜二は交番勤務の問題児。そんな怜二はある日、ひょんなことから悪の組織へと潜る潜入捜査官になってしまう。正義と悪の仮面を仮面を持った彼は、無事悪の組織を潰せるのかー?!
ここでの土竜は、敵組織に潜るモグラ(潜入捜査官)という意味。漫画だけでなく、実写版の映画もあり、主人公は生田斗真さんが演じていました。
14
お気に入りに追加
5,972
あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~
黒色の猫
ファンタジー
孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。
僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。
そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。
それから、5年近くがたった。
5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる