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第9章
第145話
しおりを挟む「ダグラス陛下。」
会議が終わり、ダグラスは名を呼ぶ方へと視線を向けた。そこには1人の青年がいた。
若くして皇帝となった、エスト皇国皇帝のテオス・プロセウス・エストである。
「エスト皇帝、どうかしましたか?」
「僕の方が若いし未熟ですから、テオスと呼び捨てでもいいですよ。」
「そういうわけにもいかないでしょう。それより、招待の件ありがとうございます。」
「いえいえ、たまには他国と交流するのも良いと思ったので。それでは、皇国でお待ちしておりますね。」
テオスは小さく微笑むと、護衛を連れて歩いて行った。
「なんだか、思考が読みづらいお方ですね。」
ダグラスの隣にいたカイザーは、テオスの後ろ姿を見て小さく呟いた。
「だが、あの若さで1つの大陸を統一したんだ。実力は確かなんだろう。」
ダグラスは少し考え、思考を振り払って部屋へと向かった。
「本当によろしいのですか?」
廊下を歩きながら、テオスの護衛のフロストは少し心配そうに耳打ちした。フロストの表情とは対照的に、テオスは嬉しそうにしている。
「僕の座右の銘は、『何かを得るには何か代償を』だからね。長い付き合いだ、君もよく知っているだろう?」
「…そうでしたね。ナナさんとサナさんが、フローリアさんと接触できたようです。」
「了解。さぁ…これから忙しくなるね。」
テオスは笑いながら、仲間達の元へ向かった。
「いや…確かにこれ鎖国国家だわ。」
会議の次の日、俺たちの船はエスト皇国へと向かっていた。エスト皇国の小さな船が案内してくれているので、フリーデン島からあまり時間をかけずに来れた。
そして目の前には、炎で周りを囲まれた国があった。どこを見ても海から火柱が上がっており、このまま突き進んだら船が燃える。
「これどうやって上陸するんだ…?」
「おそらく、一部の炎を消すのかと。」
ベルベットがそう言うと、前を進んでいた皇国の船からウサギがこちらの船に飛んできた。ウサギと言っても、ウサギの着ぐるみを着た人間なのだが。ウサギの右目は取れかけ、体も所々がほつれており、子供が見たら泣きそうだ。
ウサギは船を見渡すと、持っていたパネルを俺たちに見えるように掲げた。
『エスト皇国へようこそ!』
「…………………。」
みんなその姿に何も言えず、固まってしまっている。
「あ、あの、どちら様?」
ウサギはビクッとなり、ペンを持ってボードの裏に何か書こうとした。だが、ボードを見て固まるとペンを海に投げ捨てた。
「エスト皇国八将神が1人、ウサピョンです。」
「………そうですか。」
(筆談めんどくさくなったのかよ…。)
まさかの着ぐるみからは女性の声がして、キャラの濃さに酔いそうだ。
「今、炎帝門をどけますね。」
ウサピョンが何かのスイッチを押すと、船の前方の火柱だけがなくなった。よく見ると、海面に小さい浮きのようなものが浮かんでおり、そこから炎が出ていたようだ。
「さぁ、皇国に入るピョン!」
…着ぐるみ剥がしてやりたい。
皇国に入ると、みんな歓迎モードといった感じだった。パレードのようになっており、街の人々が通りの左右を埋め尽くしている。
「ようこそ、エスト皇国へ。皇帝のテオスです。」
皇国の中心に位置する城の正門に、皇帝のテオスが待っていた。20代くらいのずいぶん若い皇帝だ。
「ダグラス陛下、ならびにダライアス王国の皆さん、訪問中は我が国を観光して是非楽しんでください。それでは、皆さんをお部屋に案内しますね。フロスト、頼んだよ。」
「かしこまりました。」
陛下と皇帝は談笑しながら別の部屋に行き、俺たちはフロストいう男性に城の部屋に案内された。
「レイ、遊びに行かぬか?」
「何だろうあれ!」
案内された部屋で、俺は異空間からロゼッタ達を出した。紅葉とエレナは窓から街を見て、目をキラキラさせている。
「俺は仕事があるからな…」
「仕事ですか?」
今度は魔法袋から、変わった形の鎖と銃弾を出した。鎖はこの前の事件でカイザー達を縛っていたもので、銃弾は闇ギルドを殺したものだ。
「カイザーさんとサレアは陛下の護衛メインだけど、俺はこれの出所を探るよう陛下とルージュさんに頼まれてるからね。」
「なるほど、ですが目立つといけないので全員で行くわけにも行きませんね…。」
「主人よ、紅葉殿とエレナ殿は私が引き受けよう。2人が暴走しないよう見張っている。仕事の方は、ロゼッタ殿と行けば良いのでは?」
「わかった、じゃあ2人をお願い。」
「スサノオさん、後で何か奢ります。」
「なんで?」「何故だ?」
ロゼッタの言葉に俺とスサノオは?が浮かんでいたが、とりあえず部屋を出て俺達は街へと歩いて行った。
王城の正門を出ようとすると、昨日のお湯の女性に呼び止められた。
「すいませーん!どちらに行かれるんですか?」
「あー…ちょっと街の散策に。」
「そうでしたか!それなら、昨日のお詫びも兼ねて私が案内しますよ!私の名前はカナです、よろしくお願いします!」
「レイです、じゃあお言葉に甘えて…。」
「マスター、例の件はいいんですか?」
「あまり口外したくないから、今はやめておこう。」
ロゼッタが耳元でこっそり聞いてきたが、とりあえずカナについて行くことにした。
カナに案内され、俺達は皇国の首都を歩いていた。カナは周りの店や建物を元気よく紹介してくれている。
「他種族の方に会えるのは、この国では本当に珍しいんですよ!私も昨日と今日を除けば、数年前に1度会ったくらいですから。」
「なんで鎖国なんかしてるんですか?」
「皇帝陛下はあまり他国と関わるのを好まないんです。多分、自分の発明とかを盗まれるのが嫌なんだと思います!」
「でも今回はよく招待してくれましたね。」
「陛下が自国での研究がひと段落したので、他の大陸の発明なんかを研究したくなったと言っていました!それに人族は私達と似ているのも理由の1つみたいです!」
アルガリスも言っていたが、本当に色んなことに興味がある人のようだ。
「カナさんは、国民の方に物凄く人気があるのですね。」
「確かに…。」
ロゼッタの言う通り、さっきから周りの人達がカナを見てはうっとりしたり歓喜の声をあげている。
当の本人は「えへへ…。」と照れていた。
「私なんて、ただ八将神の称号があるだけのドジ女なんですけどね…。」
「八将神?」
「はい!陛下直属の部隊で、8人の戦士で構成されているんです。あ、ナナちゃんとサナちゃんは2人で1人なので、正確には9人ですね。」
「あの双子、そんなに強いんですか?」
「はい!とても息のあったコンビで、それに可愛いのもあって人気もすごいです!」
おそらくアルガリスも八将神の1人なのだろう。亜人族の強者のレベルが少し気になるが、とりあえずカナについていった。
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