異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし

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第9章

第143話

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「海賊王に俺はなるー!」

「おい、仕事中だぞ。」

船の船首で、俺は海を眺めて異世界に来て言うと思ってなかったフレーズ2位を叫んだ。横でサレアが呆れている。

「んだよノリ悪いな。海に出たら今のは必須だろ。」

「あのな、俺たちは今仕事中なんだ。海賊王になってる暇はない。」

「そんな事言って、お前もやりたいんじゃないの~?」

「そ、そんなわけないだろ!国の代表として、もっと気を引き締めて…」

お堅いことをブツブツ言いながらサレアは戻っていき、俺はマストに登って海を眺めた。
今回の会議には、騎士団からはカイザーとサレア、魔道士団からは俺が同行している。ルージュと新副団長のシンディは王都に残っており、ティナも残っている。
レギルはまだ見つかっておらず、ガジルスは「どっかでタバコでも吸ってんだろ。」と少し寂しそうな表情で言っていた。


「副団長、雲アメです。」

「なにこれ?」

マストに座ってボーッとしていると、ベルベットがわたあめに似たものを持ってきた。魔道士団からは、第二・五分隊が来ている。

「天翼族の国で作られる、雲のお菓子らしいですよ。他にも違う種族のの食べ物がありました。」

「これめっちゃ甘いね。後で食べに行くよ。」

ベルベットは俺の横に座り、水平線を眺めた。もうかれこれ2時間ほど経つので、あと1時間ほどで着くだろう。

「副団長はこの世界についてどう思いますか?」

「どういう意味?」

「そのままの意味です。多種族が溢れる世界について、どう考えているのかと。」

「うーん…楽しくて、新鮮かな?エルフとか天翼族とかすごい気になるし、1回は会ってみたかったからね。」

「友好関係を築きたい事ですか?」

「まぁ友達になれたらいいけどね。なんでそんな事聞いたの?」

「いえ、なんでもありません。」

その時、突然船に大きな影が差した。
見上げると、空で羽のある馬達が巨大な船をひいていた。

「なにあれ?!」

「天翼族の船ですね。船のまわりに、何人か護衛の方達が見えます。」

ベルベットの言う通り、船のまわりには天使のような人達が優雅に飛んでいた。太陽の光とあわさり、本当に天使のようだ。

「すっげぇ…異世界やば…。」

「副団長、あれを。」

ベルベットは、今度は遠くの海を指差した。すると、海面に巨大なクジラが飛び出してきた。クジラの上には城のようなものがあり、城の前には何人か下半身が魚のようになっている人や、人間でも首のあたりにエラのようなものがある人もいる。

「あれは?」

人魚マーメイド族ですね。彼らは海の生き物と会話ができたりするそうですよ。」

「すごいな…。」

多種族に驚かされているうちに、船は目的地の島にたどり着いた。



「会議は明日だ。今日は各々、島を散策しても構わん。カイザーだけ残ってくれ。」

「わかりました。」

陛下の一言で一旦解散となり、俺はロゼッタ達と島を観光する事にした。

「レイ!見たことないお菓子があるぞ!」

「わー!あっちにいろんな人がいる!」

紅葉とエレナは周りを見て楽しそうにしており、横でロゼッタが頭に手を当て、スサノオは微笑ましそうに眺めている。

「別の種族の方になんと思われるか…。」

「いいんじゃない?俺も楽しみだし!」

「主人は多種族交流は初めてか。ギガンテス族を見たらとても驚きそうだ。」

「やっぱでかいの?」

「ギガンテス族の王の身長は、40m近くはある。」

「ウルトラマンじゃんそれ…。」

「ただ、彼らは周りの種族を踏み殺さないように来るのは明日の朝という決まりがある。見るのはまだ少し先ですな。」

スサノオの話を聞きながら、俺たちはフリーデン島を散策した。いろんな国を歓迎するためか、多種多色なお店がある。

「レイ、あのエルフの酒工房に行かぬか?」

「いや俺まだ未成年だし…。あ、人魚族の海果実って何?!美味そう!」

「マスター、私はあの竜人族の激辛そばがいいです。」

「まだ時間はある。主人殿、各自の行きたい所へ行こう。」

「よっしゃー!レッツ多種族交流!」

「「おー!」」



「やっぱむりぃ…。」

あれから2時間ほど買い物をし、俺は『フェアリー・レストラン』という妖精族の料理屋のテラスでへばっていた。隣でスサノオは、何かのジュースを飲んでいる。
そして俺たちの視線の先には、洋服を見て楽しんでいる女性3人組がいた。エレナは、初見なら驚く喋るシロクマの店員と服を探している。あのシロクマは獣人族だろう。

「なんで女の人ってあんな買い物で歩けるの…?」

「それが女性の楽しみなのかもしれませんな。」

「あ、このジュースうま。」

俺もスサノオと同じジュースを飲み、街を眺めた。

「失礼、相席いいかしら?」

「どうぞ…。」

誰かに景色を遮られたと思ったら、目の前に妙にサイズの大きいコートを着た女性がいた。フードを被っており顔が見えづらいが、背中に羽があるので天翼族の人だろう。
女性はジュースを置き、俺の前に静かに座った。なんとなく、気品のあるお嬢様のような人だ。

「あの、そちらの方は少し席を外してくださる?」

「…わかった。だが、主人に手を出したら許さんぞ。」

「そんな事しませんよ。」

スサノオはロゼッタ達のもとへ行き、その場に2人だけになった。知らない人と2人っきりにされ、なんとなく気まずい。

「人族の方ですよね?お名前は?」

「レイ・トライデント・レストリアです。一応国を護る魔道士団の副団長なので、護衛として来ました。」

「まぁ!その歳でそんな役職を任されるなんて、やはりお強い方なのですね。」

「ど、どうも…。」

この人の目的がわからず、何を話したいいのかさっぱりわからない。ただ、悪い人でもなさそうなので警戒はそこまでしてないが。

「あの、お名前は…?」

「私としたことが…私はフリーエル、普通の天翼族です。」

「普通って…その割には作法とかとても綺麗ですけど。」

「そ、そんな事ありませんよ?一般常識です!」

「そうですか…?」

多分嘘かもしれないが、これ以上はつっこまないでおく。

「あの、なんで俺に声をかけたんですか?」

「そうですね…神様に近いものを感じたから、ですかね。」

「そ、そんな事ないんじゃないですか?!」

さっきと立場が変わり、今度は俺が嘘をついてしまった。

「いえ、あなたからは神に近い神聖な何かを感じます。今日は会議に参加して正解でした。」

「そ、そうですか…。」

「それと、これを渡しておきますね。」

「これは?」

フリーエルは俺の前に、小さな鏡を置いた。特に凝った装飾もないが、とても綺麗なものだ。

「それは神獣鏡。私の国に伝わる、少し変わった鏡ですよ。」

「え、そんな貴重そうなものを貰っていいんですか?」

「はい、貴方のような方に渡そうと思っていたのです。それがあればー」

ちょうどその時、店の近くがなんだか騒がしくなった。魚人の男性達が客達に聞き込みをしているようだ。

「私はそろそろ行かねばなりません。今度、天空国にでもお越しください。お待ちしておりますね、レイ様。」

そう言ってフリーエルは俺の頰に軽く口づけをして、どこかへ走っていった。

「な、なんだったんだあの人…。」

「マスター。」

「ひぃ?!」

「なんじゃ、あの羽の生えた女は。」

「天使みたいだったね~。」

殺気を放つロゼッタに引きずられ、俺は洋服選びへと連れていかれた。



フリーデン島の中心部に、各国の王達が泊まる城がある。
その一室、エスト皇国の皇帝が泊まっている部屋の前にベルベットはいた。

「陛下、いらっしゃいますか?」

「いるよ。」 

ベルベットがドアを開け中に入ると、椅子に座って本を読む青年がいた。

「久しぶりだね、フローリア。」

「お久しぶりです、陛下。」

ベルベットは跪き、左胸に手を当てた。

「そんなかしこまらなくていいよ。八将神の1人だし、なにより姉弟の間でそんなのはいらないよ。」

「…そうですか、失礼しました。」

ベルベットは青年の向かいに静かに腰かけた。

「それで、体調の方はどう?体が壊れたりとか異常はない?」

「注射の直後は体が重く気分が悪くなりますが、生命を脅かすほどでは無いと思います。それと、こちらが潜入先で読んだ魔道書の写しです。」

ベルベットはカバンから封筒の束を机に出した。その数の多さに、青年は満足そうに微笑んだ。

「やはり君を行かせて正解だったよ。これだけの資料、なかなか手に入らないからね。」

「陛下、1つだけ聞いてもよろしいでしょうか?」

「なんだい?」

青年は封筒の中身を見ながら尋ねた。

「陛下はこの世界について、どうお考えですか?」

「…そうだね、実験材料の宝庫かな。亜人族僕達は魔法は使えないけど、その分脳や身体能力は発達している。そんな僕らの周りには、魔法を使いこなす材料達がたくさんいる。だから僕は亜人族に生まれて良かったと思っているよ。」

「…そうですか。」

「急にどうしたんだい?」

「いえ、なんでもありません。」

「それじゃあ引き続き頼むよ。明日の会議が終われば、皇国に帰れるからね。」

「了解です。」

ベルベットはそう呟くと、部屋を出て行った。
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