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第8章
第141話
しおりを挟む謁見の間で、カシスとカイザー・ルージュ・サレアたちが戦っていた。
「はぁっ!」
「ルージュさん!」
「わかってるわよ!」
「ははははははっ!」
カイザーとサレアが斬りつけ、すかさずそこにルージュが魔法を放つが、カシスは高笑いをしながら全てを生身で受けきる。
気が狂ったようなカシスから、3人は距離をとって構えた。
「やつの体はどうなってる…!」
「やけに硬いですね…。」
「魔法を使っているようにも見えない…何かの種族との混血かしら?」
「次で決めるぞ。」
「あひゃひゃひゃひゃ!王国を護るお前らも、俺には手も足もでねぇか!」
3人が魔力を高め、渾身の一撃を叩き込もうとした時だった。
「あがっ!」
今まで馬鹿みたいに楽しそうにしていたカシスが、突然苦しそうにして床に倒れた。カシスは大きく痙攣し、すぐに気絶してしまった。
「一体何が…。」
「自分に魔法を…?」
「それにしては、魔力の変化も感じなかったけど。」
「とりあえず、こいつを本部地下の牢獄に入れるぞ。」
3人は腑に落ちない様子で、事態の収拾につとめた。
「どういうこと?!」
ルイスの屋敷で、ソラノは部下の男の報告に怒り狂っていた。報告によれば、王都にいた魔物は一瞬で消え、闇ギルドのメンバーたちも全員捕まったとの事だった。
その報告に、周りにいた貴族たちも言葉を失っている。
「わざわざエスト皇国まで行かせて、あの男も雇ったのに…。」
「で、ですが実際にそれが事実でしてー」
「もういいわ!ジョーカーを呼びなさい!」
ソラノは男に向かって怒鳴りつけたが、男はその場から動かなかった。
「何をしているの!早くあいつに連絡をー」
「お呼びでしょうかぁ?」
男が倒れたと思ったら、男の背後の影からジョーカーが現れた。相変わらず気味の悪い笑みを浮かべている。
「あなた…どういうつもり?!」
「何がですかぁ?」
「あなたに王都に魔物を放つよう頼んだはずよ?!」
「えぇ、確かに放ちましたよ。気づいたら消えてましたが♫」
「ふざけないで!あなたが消したんでしょう?!」
怒るソラノを無視し、ジョーカーはその場にいた全員を影の紐で椅子に縛り付けた。
「確かに私は言われた仕事はしましたよぉ?全員に影の道を与え、王都に魔物を放ちましたからぁ♫ですが、そこで契約は終わりですよぉ~」
貴族たちが「離せ!」と叫んでいるが、それを無視してジョーカーは懐から短刀を取り出した。
「人とはとても美しい一方で、とても醜い…。戦争で人をたくさん殺せば英雄と言われ、街中で人を殺せば殺人鬼。強い光が正義なら、それによってうまれる濃い闇は悪なのでしょうか?」
ジョーカーは甘く、されど恐ろしいくらい冷たい声で呟き、貴族の男の1人に近づいた。
「私はね、あなた達貴族だとか権力・金なんて心底どうでもいい、なんなら全員殺してもいいくらいだぁ♬」
「うがっ…?!や、やめろ…!」
そして短剣をゆっくり、確実に男の左胸に刺していく。
「あなた方には、レイ君に酷いことをした罰を味わってもらいましょう♫魔法で一撃とはいきません、短刀で少しずつ終わらせていきますからぁ。」
そう言って、ジョーカーはその場にいる貴族たちを殺していった。
ジョーカーは貴族たちを全員殺し、最後にソラノの前に立った。ソラノは恐怖と絶望で、顔が青白くなっている。
「あ、あなた何がしたいの…?!」
「そうですねぇ、私はレイ君の正義であればそれでいい♫彼のためなら、私は悪の存在にでもなんでもなりますからぁ。」
そう言って、ジョーカーは自分の影から3つの首を持つ犬を出した。犬は腹を空かせているのか、よだれをたくさん垂らしている。
「そういえば、今度大事な会議があるとかないとか…。一体どうなるのでしょうねぇ?」
ジョーカーが犬をつないでいた鎖を外すと、犬はゆっくりソラノに近づいていった。
「あれ?」
「戻ってきたようですね。」
ロゼッタとエレナは、気がつくと壁の近くのの平原にいた。
「ん…レイ?!」
「マスター!」
そしてすぐに、近くで大量の血を流して倒れているレイを見つけた。
呼吸が途切れ、顔色も悪い。腹と足には大きな傷があり、そこから煙を出しながら血を流し続けていた。
ロゼッタはすぐに回復魔法で傷を塞ぎ、レイを抱えた。
「すぐに家に戻りましょう!」
「うん!」
2人は家へと高速で飛んで行った。
ベルベットは刀をしまい、周りを見回していた。あれほどいた魔物たちはいつの間にか消え、どこにも見当たらなくなっている。
一先ず、副団長を探そうとした時だった。
「ベルベットさん!」
「っ?!」
建物の陰からルナが現れ、困惑した表情でベルベットのもとへ走ってきた。
「さっきのあれは何?!あなたは一体…。」
「…どこから見ていました?」
「あなたが足から変な武器を出したあたりから…。あれは何なの?」
「そうですか…。」
ベルベットはそう呟くと、一瞬で刀を出してルナに斬りかかった。紅い鮮血がベルベットを濡らす。
「な、なんで……。」
「すみません、陛下の命令ですので。」
「おい!」
ルナが倒れる中、偶然居合わせたゾルタが駆けつけた。ゾルタはルナの傷跡に自分の服をあて止血し、ベルベットを睨んだ。
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通信が切れ、青年は妖しく微笑んだ。
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