157 / 210
第8章
第139話
しおりを挟む一瞬の事だった。
それは、カシスが自分の親に魔弾を放つ王子を見て、そろそろ飽きていた時だった。
突如王族達が姿を消し、カイザー達の鎖が割れて魔力が回復していた。
「一体何が…?!」
「お前が闇ギルドのマスター?」
驚くカシスの背後には、部下の報告で聞いていた子供の副団長が立っており、振り返った瞬間にはカシスは壁に激突していた。
「ルージュさん、あとは頼めますか?」
「もちろん、街の方を頼むわね。」
そう言って、レイはどこかへと姿を消した。
「さて、我々を縛るものはもう何もなくなったな…。思う存分やらせてもらおう。」
カイザーが剣を抜いて近づくなか、カシスは不敵に笑いながら身構えていた。
「待たせたな。」
王族達を異空間に入れ、俺は壁の上に戻ってきた。ジョーカーは拘束糸を消し、優雅に昼寝をしていた。
「で、お前の目的は?」
「そうですねぇ、ゲームでもしながら話しましょうか。」
ジョーカーは嬉しそうに笑うと、闇穴の中からトランプを取り出した。
「ババ抜きでいいですかぁ?」
「それに付き合ったら、何か話してくれるのか?」
「はぁい♫」
「……わかったよ。」
仕方なくトランプを受け取り、緊張感のないババ抜きが始まった。
「あの闇ギルドはお前の仲間なのか?」
「いえ、あんなゴミども名前も覚えていませんよぉ。ソラノから王達を殺すよう命令されていたみたいですが、彼らは別の目的もあるみたいですねぇ♬」
「別ってなんだよ。」
「闇ギルドの主要メンバーは6人、そのうちの2人がレイ君の本部に向かったようですよぉ~?」
「…禁忌魔法か?」
「正解🎵おそらく、召喚系の物かと。」
その場で紅葉とスサノオに、本部に向かうよう念話を送った。これでおそらく大丈夫だろう。
「結局お前は何がしたいんだ?魔物だって、建物の中に出せば国民を全滅させる事だって出来るだろ?」
「確かに、そうすれば30分ほどでこの国は滅びるかもしれませんねぇ。ですが、前にも言ったように私はこの国が好きですからねぇ♬なんだったら、闇ギルドのメンバーを皆殺しにしてもいい。」
「わからない事が多すぎる…。なんで闇ギルドが今日動いたのか、お前の目的もー」
「レイ君は、今日の事はそこまで気にする必要はないですよぉ🎵この事件はプロローグにも満たない、可愛いものですから。物語だったら、読み飛ばしてもいい…。」
「どういう意味だよ。」
「…とりあえず、闇ギルドが今日動いた理由から話しましょうかぁ。」
ジョーカーはペアのカードを捨てながら、楽しそうに話し始めた。
「2ヶ月ほど前、彼らはババァの命令である国に出向いていましたぁ。この大陸から少し離れたところにある、変わった国です。」
「なんでそこに行く必要が?」
「前風神の方を覚えていますかぁ?」
「忘れるわけねぇだろ。ってお前なんでスズリ様を…」
「あの方が捕まっていた場所、妙な感じがしませんでしたぁ?」
「…一瞬しか見てないけど、機械がたくさんあったな。」
「そうなんですよぉ♫その機械は、彼らが行った国から仕入れた物だそうですよぉ。」
「何のために?」
ジョーカーの話は、とても残酷なものだった。本当かどうかわからないが、他国の機械を使い人の魔力を取り出して研究に使ったりしていたらしい。スズリ様も、その犠牲となってあんな事になったそうだ。
「この国の違法研究者達は、魔法生物を人工で作りたかったみたいですねぇ🎵他国を脅す、兵器として。」
「何でお前はそんな事知ってるんだよ…。」
「世界眼ですよ。暇な時に見るのが、私の趣味なんですよぉ♫」
「あっそ。それで、その国が何だって?」
「それはレイ君がこれから、嫌でも知ることになると思うのでお楽しみですねぇ♫」
「結局言わないのか。」
俺は手持ちのカードを全て捨て、立ち上がった。
「もう行っていいか?街に魔物が溢れてる。」
「おや、負けてしまいましたね。では…」
ジョーカーが指を鳴らすと、街の魔物達は全て黒い光となって消えていった。
「お前…本当に何者なんだよ。」
「あなた様の息子ですよぉ♫あ、いい機会なので手合わせでもどうですか?親子水入らずで!」
「だから、俺はお前の父親でも何でもねぇよ。それに街の復興だってー」
「なら、もう一度魔物達を出しましょうかぁ?」
ジョーカーはジョーカートランプをひらひらさせながら、卑しい笑顔で笑った。本当にやりかねないので、2人で壁から離れたところに転移する。
「少しだけだからな。」
「ありがとうございますぅ🎵それじゃあ始めましょうか。」
ジョーカーが嬉しそうに手をパンと合わせた瞬間、俺の周りに5個ほどの小さな黒い穴が生じ、中から剣やら槍が飛び出してきた。
「ぐっ!」
「まだまだぁ。」
なんとか避けるが、他にも穴が生じ刀などが飛び出してくる。殴って壊しても、他の穴から武器が飛び出してきて距離を縮める事が出来ない。
俺が避けている前方で、ジョーカーは嬉しそうに俺の姿を眺めていた。その顔が気に食わなかったので、背後に転移し背中に蹴りを入れる。
「んんんぅ…効きますねぇ。」
「嘘つけ!」
綺麗に着地したジョーカーに、すかさず光弾を連続で放ち続ける。あたりにものすごい爆発音が響き、煙でジョーカーの姿が見えなくなった。
だが、煙が晴れるとジョーカーは短い双剣を持って笑顔で立っていた。どうやら全部斬られたようだ。
「お前、その武器…。」
「はぁい♫私特性、フェンリルの牙で造った双剣ですよ!」
フェルと似た雰囲気の物を感じ鑑定すると、ジョーカーの言う通りフェンリルの牙が素材に使われていた。剣を見るだけで、背筋に冷たいものが走る。
「俺の正体、知ってるのか?」
「親愛なるお父さんの事について知らない息子など、いませんよねぇ🎵」
「っ?!」
ジョーカーがバカなことを言いながら闇の穴に剣を突っ込んだと思ったら、俺の眼前に穴が生じて剣先が飛び出してきた。慌てて状態を反らせて避け、上空に転移する。
「あっぶねぇ…。」
「あ、ずるいですねぇ空に逃げるなんて。」
ジョーカーはふくれっ面になると、背中に龍のような黒い羽を生やして飛んできた。
「お前も飛べるんじゃねぇか!」
「お揃いですねぇ♫」
俺も光の双剣を造り、ジョーカーに応戦する。少しかするだけでも体に激痛が走り、隙を作りそうになる。
「くそがっ!」
「おっと。」
斬り合いながら口から光線を出すが、それも難なく避けられて、代わりにたくさんのコウモリが飛んできた。
そしてコウモリ達を光線で焼き殺した瞬間、その隙をついてジョーカーの双剣が俺の左腕に突き刺さった。あり得ないほどの痛みが体に走り、傷口から煙が出る。
「ぐぁあああ!」
「あぁぁぁあ…痛みに歪むその表情、なんて素敵なんでしょう♫」
「うるせぇ!」
なんとか力を振り絞り、空中で回ってジョーカーの頭にかかと落としをいれる。ジョーカーはもろに食らって、地面に激突し、そこに向かって魔弾をさらに撃ちまくった。
「はぁ………はぁ………。」
地面に降り立ち確認しようとすると、黒い霧が俺の背後に集まりジョーカーが後ろから抱きついてきた。
「こっちは私の勝ちですかねぇ?」
ジョーカーは耳元でそう呟くと、俺の腹と足に双剣を突き刺した。
「がっ……!?ごはっ!」
痛みに驚くとともに、口から大量の血が吹き出る。ジョーカーは腹に突き刺した剣に力を込め、俺の腹を貫通させた。おそらく、ジョーカーの腹にも剣先が刺さっているだろう。
「親子で痛みを共有する…たまりませんねぇ♫」
何言ってるんだと思う暇もなく、俺の体は痛みで限界だった。ここまでの苦痛を味わったのは初めてかもしれない。
「何か言ってくださいよぉ…。」
「ぐぅあああああ!!」
ジョーカーは不満そうな声で、腹と足に刺した剣を左右に動かした。もう痛すぎて涙も出ない。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「少し時間を潰しすぎましたねぇ。最後に…」
ジョーカーは俺の耳元に口を近づけた。
「--------。」
「……は?!がはっ…!」
ジョーカーが剣を引き抜き、俺は地面に力なく倒れた。俺を中心に、紅い血の海が出来ていく。
「それでは、またいつか🎵ババァと闇ギルド以外の裏切り者は、このカードに書いてあるので。」
俺の体の上に1枚のジョーカートランプを置き、ジョーカーは何処かへと消えていった。
27
お気に入りに追加
5,960
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる