156 / 210
第8章
第138話
しおりを挟む「ティナさん、すぐに終わらせてきます。」
「え?!」
すぐに壁の外に転移して、キメラを見下ろした。頭はライオンで尻尾が蛇だったりと、なかなかファンシーな見た目をしている。
「副団長。」
「なんだ?…………ってなんでここにいんの?!」
なんだか肩が重いと思っていたら、ベルベットが後ろから抱きつくようにして俺にぶら下がっていた。
「転移される前に、副団長に触ったらこうなりました。」
「いや、そこじゃなくてなんで来たの?第五分隊と一緒って言わなかったっけ?」
「ゾルタ分隊長に、伝達係を頼まれましたので。」
「だからってここに来なくても…。」
『ギャァァァアアア!!!』
「おっと。」
2人で話していると、尻尾の蛇が口を開けて伸びてきた。避けながら、キメラの顔の前に移動する。
「どうするんですか?」
「顔面を一発殴る。イメージはそうだな…ストリートファイターかトリコあたりかな。」
「何の話ですか?」
「何でもない。しっかり掴まってろよ!」
手に、昔ロゼッタが作った聖魔法を付与しそのままキメラの眉間へと突き進んでいく。
「あー…『聖龍拳』!!」
『グギャァァァアアアア!!!』
拳を叩き込んだ瞬間、キメラは生々しい声をあげた。そしてすぐに風船のように破裂して、キメラの姿はどこにもいなくなってしまった。
「倒したのですか?」
「…どうなってるんだ…。」
そのまま地上に降りようとしたら、今度は王都で爆発音と黒い煙が上がった。王都からとんでもない数の魔力を感じる。
「キメラは引き金かよ…!」
『レイ!王城に来てくれ!』
王都の魔族討伐に戻ろとしたら、頭に陛下の声が響いた。かなり焦っている様子だ。
「ベルベット、魔族討伐を頼めるか?俺は王城に向かうから。」
「了解です。」
王都に転移してベルベットをおろし、俺は王城の入り口へと転移しようとした。
だが、壁の上に人が座っているのが目に入った。黒い服を着て、ゆらゆら手を振っている。
「ジョーカー…。」
俺は一旦壁の上に転移し、ジョーカーの前に姿を現した。
「やっぱりお前だったか…。」
「バレていましたかぁ♬」
「王国を落とす気は無いんじゃなかったのか?」
「もちろんありませんよぉ、現にお強い方たちが応戦中のようですし♫」
「じゃあなんでこんな事を?」
「なんででしょうねぇ…」
「『地蜘蛛の拘束糸』。すぐに戻ってくる、逃げるなよ。」
「はぁい♫」
とりあえずジョーカーを拘束し、王城に向かう事にした。
ベルベットは1人になり、辺りを見回した。
建物の影などから、魔物達が何匹も湧き出て家を破壊したりしている。
「これが、魔物…。」
魔物たちを眺めているベルベットのもとに、1匹のリザードマンが槍を突き出してきた。ベルベットはそれをひらりとかわし、鳩尾に拳を叩き込む。
『グギャ?!』
「大した事ないですね。」
拳は簡単に腹を貫通し、リザードマンは驚きながら絶命した。
「それにしても数が多いですね。」
困っていると、服の中で箱が微かに震えた。ボタンを押すと、幼い女の子の声がした。
『キール、使用許可出たよ!』
『違う、ベルベットずらよ。』
「わかりました、いいタイミングです。」
『頑張ってね!』
『頑張るずらよ。あと、見られたら処分して構わないらしいずら。』
箱をしまい、ベルベットは右足を少し前に出した。
「魔法生物殺戮装備、使用します。」
そう呟くと、ベルベットの右足の一部が開き、中から一本の刀が出てきた。刀の鍔の部分には、銃のようなものが融合されている。
「…殲滅します。」
ベルベットは銃を撃ちながら、魔物たちを斬り殺していった。
「何ですか、今の…。」
建物の陰から、ルナはその光景を見て震えていた。
ガジルスは訓練所から出て、住民の避難を手伝おうとした。
「先生…?」
廊下を走って本部の入り口に向かっていると、窓から本部の正門に保健室のソフィアと図体のデカい男がいるのが見えた。
疑問に思っていたのもつかの間、男は門番の兵士を殴り飛ばした。兵士はその衝撃で粉々になり、あたりに血が飛び散った。
「なんだよあいつら…!」
ガジルスは急いで正門へと走っていった。
「おい!」
「んだ?」 「あなたは…。」
ガジルスの声に、ダイとソフィアは兵士を殺す手を止めた。周りには、2人の攻撃を阻止しようとして殺された兵士たちが何人か倒れている。
「ソフィア先生…あんた何してんだ?」
「ガジルス君…だったかしら?こんな所で会うなんて奇遇ね。そういえば、あなたは確か副団長レギルの息子だったわね。」
「なんでそれを…。まぁいい、あんたらここに何しに来た?」
「ちょっと本部の魔道書室に用があってね。通してくれるかしら?」
そう言って近づいてくるダイとソフィアに向かい、ガジルスは水弾を放った。わりと威力を出したつもりだったが、全てダイに塞がれてしまう。
「そう言って通す奴がいるわけねぇだろ。テメェらは俺がここで殺してやるよ。」
「あら、残念ね。あなたは根はいい子そうだったから、結構気に入ってたのよ?」
「俺もだよ!」
ガジルスは吠えながら、2人に向かって突進していった。
「わわっ?!ま、魔物がたくさんおりますよ?!」
「んなこたぁ見りゃわかる。」
シオリは、突然現れ始めた魔物たちに驚いて尻餅をついてしまった。化け物のような遠吠えが聞こえたと思ったら、突然影から魔物たちが現れ始めたのだ。
隣で、ディアブロが上半身だけ実体化して冷静に周りを見回している。
「これは有事ってやつだよな?」
「そ、そうです。頼んます!」
「へへっ、ようやく暴れられるぜ!」
ディアブロは嬉しそうに笑うと、黒い光となってシオリの中に戻った。
偽シオリが立ち上がると、ゴブリンキングが棍棒を振り下ろしてきた。偽シオリはそれをあっさり受け止め、棍棒を殴って粉々にする。
『ブモォ?!』
「テメェら、同じ魔族として忠告してやる…。俺はお前らより1万年分強いぜ?」
『わけのわからんセリフはええから早く倒してください!』
「バカヤロウ!こういう時は、ビシッと決めてガツンと殺るんだよ!」
『ギシャァァア!!』
偽シオリは怒りながら、飛んできたガーゴイルを殴り飛ばした。そしてそのまま、嬉しそうに魔物たちを蹂躙していった。
王都の西の方で、ギルマス・ジェラールと学園の理事長・クレアは2人で魔物を殺しまくっていた。
他にも冒険者や学園の教師も、魔物討伐にあたっている。
「いやぁ、クレアちゃんと一緒に戦うのは学園以来かな?」
「そうだね、ボクは君の事嫌いだけど。」
「えぇ~凹んじゃうなぁ。」
言葉とは正反対に、ジェラールは笑顔で雷を放ちまくっていった。負けじと、クレアも氷の弾丸で魔物たちを撃ち抜いていった。
「これはまずいですな…。」
「同感じゃ。これほどの数、レイたちがいなかったら王都は滅んでもおかしくはない。」
南の方で、スサノオと紅葉は魔物を殲滅していた。紅葉は王城に向かう途中で魔物の大群に遭遇し、スサノオと合流した所だった。
「これではなかなか王城に辿り着けぬ。」
「紅葉殿、ここは私に任せてくれても大丈夫だ。」
「そうか?なら妾はー」
その時、魔道士団本部の方で爆発音がした。
「なんだか強い魔力を感じるな…。妾は本部に行ってから王城に向かう。」
「了解した。」
紅葉は屋根を飛んでいき、スサノオは魔物たちを殴り殺していった。
マリアは目を覚まし、愕然となった。謁見の間で、兄の第一王子・ランスと姉の第一王女・ルーシィが両親、つまり陛下と王妃に向かって魔弾を撃っていたのだ。
2人とも辛そうな顔で撃っているが、両親にはレイのブレスレットがあるので魔法障壁が発動してそれを防いでいる。
入り口には騎士団団長カイザーと副団長サレア、魔道士団団長のルージュが特殊な鎖で拘束されていた。
「起きたか、第二王女。」
驚いて振り向くと、見たことのない男がマリアに杖の先端を向けていた。
「だ、誰ですか?」
「闇ギルド《リスト・スプレッド》のギルドマスター、カシスだ。」
「な、何故このような事をするんですか!」
「第二王妃の命令だからな。国王と王妃を殺してこいとのことだ。」
カシスの言葉に、マリアは耳を疑った。確かにあまりいい印象はない人だったが、ここまでするとは思ってもいなかった。
カシスはマリアに目線を合わせるようにしゃがみ、頭を掴んだ。
「俺はな、子供の頃に盗賊に両親を殺すよう言われたんだ。両親は泣きながら俺に言ったよ…『気にしないで、あなたは悪くない』ってな。だから俺はナイフで心臓を1つきしてやったよ。」
「それとこれとなんの関係が…!」
「国王達を殺すよう命令されたからな。せっかくだから、あんた達にも俺と同じ気分を味わって欲しいだけだ。何も思わないのか、それとも絶望するのか少し気になってな。」
「そんな理由で…!」
マリアはカイザー達に目を向けたが、鎖に魔力を吸収されているのか3人とも顔色があまり良くなかった。
おそらく、少しでも動いたらマリアを殺すとカシスに脅されているのだろう。
「さぁ…どうなるかな?国王達の魔力が切れ障壁がなくなって息子達に殺されるのか、息子達の魔力が先に切れるか。お前はどっちだと思う?」
「そんなの…早くやめさせてください!」
「つまらないやつだな。」
カシスはフッと笑うと、掴んでいた手を離して感情のない瞳で国王達を眺めた。
27
お気に入りに追加
5,960
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~
春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。
冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。
しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。
パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。
そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした
真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て…
これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです…
+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-
2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます
時々さかのぼって部分修正することがあります
誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)
感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる