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第8章
第138話
しおりを挟む「ティナさん、すぐに終わらせてきます。」
「え?!」
すぐに壁の外に転移して、キメラを見下ろした。頭はライオンで尻尾が蛇だったりと、なかなかファンシーな見た目をしている。
「副団長。」
「なんだ?…………ってなんでここにいんの?!」
なんだか肩が重いと思っていたら、ベルベットが後ろから抱きつくようにして俺にぶら下がっていた。
「転移される前に、副団長に触ったらこうなりました。」
「いや、そこじゃなくてなんで来たの?第五分隊と一緒って言わなかったっけ?」
「ゾルタ分隊長に、伝達係を頼まれましたので。」
「だからってここに来なくても…。」
『ギャァァァアアア!!!』
「おっと。」
2人で話していると、尻尾の蛇が口を開けて伸びてきた。避けながら、キメラの顔の前に移動する。
「どうするんですか?」
「顔面を一発殴る。イメージはそうだな…ストリートファイターかトリコあたりかな。」
「何の話ですか?」
「何でもない。しっかり掴まってろよ!」
手に、昔ロゼッタが作った聖魔法を付与しそのままキメラの眉間へと突き進んでいく。
「あー…『聖龍拳』!!」
『グギャァァァアアアア!!!』
拳を叩き込んだ瞬間、キメラは生々しい声をあげた。そしてすぐに風船のように破裂して、キメラの姿はどこにもいなくなってしまった。
「倒したのですか?」
「…どうなってるんだ…。」
そのまま地上に降りようとしたら、今度は王都で爆発音と黒い煙が上がった。王都からとんでもない数の魔力を感じる。
「キメラは引き金かよ…!」
『レイ!王城に来てくれ!』
王都の魔族討伐に戻ろとしたら、頭に陛下の声が響いた。かなり焦っている様子だ。
「ベルベット、魔族討伐を頼めるか?俺は王城に向かうから。」
「了解です。」
王都に転移してベルベットをおろし、俺は王城の入り口へと転移しようとした。
だが、壁の上に人が座っているのが目に入った。黒い服を着て、ゆらゆら手を振っている。
「ジョーカー…。」
俺は一旦壁の上に転移し、ジョーカーの前に姿を現した。
「やっぱりお前だったか…。」
「バレていましたかぁ♬」
「王国を落とす気は無いんじゃなかったのか?」
「もちろんありませんよぉ、現にお強い方たちが応戦中のようですし♫」
「じゃあなんでこんな事を?」
「なんででしょうねぇ…」
「『地蜘蛛の拘束糸』。すぐに戻ってくる、逃げるなよ。」
「はぁい♫」
とりあえずジョーカーを拘束し、王城に向かう事にした。
ベルベットは1人になり、辺りを見回した。
建物の影などから、魔物達が何匹も湧き出て家を破壊したりしている。
「これが、魔物…。」
魔物たちを眺めているベルベットのもとに、1匹のリザードマンが槍を突き出してきた。ベルベットはそれをひらりとかわし、鳩尾に拳を叩き込む。
『グギャ?!』
「大した事ないですね。」
拳は簡単に腹を貫通し、リザードマンは驚きながら絶命した。
「それにしても数が多いですね。」
困っていると、服の中で箱が微かに震えた。ボタンを押すと、幼い女の子の声がした。
『キール、使用許可出たよ!』
『違う、ベルベットずらよ。』
「わかりました、いいタイミングです。」
『頑張ってね!』
『頑張るずらよ。あと、見られたら処分して構わないらしいずら。』
箱をしまい、ベルベットは右足を少し前に出した。
「魔法生物殺戮装備、使用します。」
そう呟くと、ベルベットの右足の一部が開き、中から一本の刀が出てきた。刀の鍔の部分には、銃のようなものが融合されている。
「…殲滅します。」
ベルベットは銃を撃ちながら、魔物たちを斬り殺していった。
「何ですか、今の…。」
建物の陰から、ルナはその光景を見て震えていた。
ガジルスは訓練所から出て、住民の避難を手伝おうとした。
「先生…?」
廊下を走って本部の入り口に向かっていると、窓から本部の正門に保健室のソフィアと図体のデカい男がいるのが見えた。
疑問に思っていたのもつかの間、男は門番の兵士を殴り飛ばした。兵士はその衝撃で粉々になり、あたりに血が飛び散った。
「なんだよあいつら…!」
ガジルスは急いで正門へと走っていった。
「おい!」
「んだ?」 「あなたは…。」
ガジルスの声に、ダイとソフィアは兵士を殺す手を止めた。周りには、2人の攻撃を阻止しようとして殺された兵士たちが何人か倒れている。
「ソフィア先生…あんた何してんだ?」
「ガジルス君…だったかしら?こんな所で会うなんて奇遇ね。そういえば、あなたは確か副団長レギルの息子だったわね。」
「なんでそれを…。まぁいい、あんたらここに何しに来た?」
「ちょっと本部の魔道書室に用があってね。通してくれるかしら?」
そう言って近づいてくるダイとソフィアに向かい、ガジルスは水弾を放った。わりと威力を出したつもりだったが、全てダイに塞がれてしまう。
「そう言って通す奴がいるわけねぇだろ。テメェらは俺がここで殺してやるよ。」
「あら、残念ね。あなたは根はいい子そうだったから、結構気に入ってたのよ?」
「俺もだよ!」
ガジルスは吠えながら、2人に向かって突進していった。
「わわっ?!ま、魔物がたくさんおりますよ?!」
「んなこたぁ見りゃわかる。」
シオリは、突然現れ始めた魔物たちに驚いて尻餅をついてしまった。化け物のような遠吠えが聞こえたと思ったら、突然影から魔物たちが現れ始めたのだ。
隣で、ディアブロが上半身だけ実体化して冷静に周りを見回している。
「これは有事ってやつだよな?」
「そ、そうです。頼んます!」
「へへっ、ようやく暴れられるぜ!」
ディアブロは嬉しそうに笑うと、黒い光となってシオリの中に戻った。
偽シオリが立ち上がると、ゴブリンキングが棍棒を振り下ろしてきた。偽シオリはそれをあっさり受け止め、棍棒を殴って粉々にする。
『ブモォ?!』
「テメェら、同じ魔族として忠告してやる…。俺はお前らより1万年分強いぜ?」
『わけのわからんセリフはええから早く倒してください!』
「バカヤロウ!こういう時は、ビシッと決めてガツンと殺るんだよ!」
『ギシャァァア!!』
偽シオリは怒りながら、飛んできたガーゴイルを殴り飛ばした。そしてそのまま、嬉しそうに魔物たちを蹂躙していった。
王都の西の方で、ギルマス・ジェラールと学園の理事長・クレアは2人で魔物を殺しまくっていた。
他にも冒険者や学園の教師も、魔物討伐にあたっている。
「いやぁ、クレアちゃんと一緒に戦うのは学園以来かな?」
「そうだね、ボクは君の事嫌いだけど。」
「えぇ~凹んじゃうなぁ。」
言葉とは正反対に、ジェラールは笑顔で雷を放ちまくっていった。負けじと、クレアも氷の弾丸で魔物たちを撃ち抜いていった。
「これはまずいですな…。」
「同感じゃ。これほどの数、レイたちがいなかったら王都は滅んでもおかしくはない。」
南の方で、スサノオと紅葉は魔物を殲滅していた。紅葉は王城に向かう途中で魔物の大群に遭遇し、スサノオと合流した所だった。
「これではなかなか王城に辿り着けぬ。」
「紅葉殿、ここは私に任せてくれても大丈夫だ。」
「そうか?なら妾はー」
その時、魔道士団本部の方で爆発音がした。
「なんだか強い魔力を感じるな…。妾は本部に行ってから王城に向かう。」
「了解した。」
紅葉は屋根を飛んでいき、スサノオは魔物たちを殴り殺していった。
マリアは目を覚まし、愕然となった。謁見の間で、兄の第一王子・ランスと姉の第一王女・ルーシィが両親、つまり陛下と王妃に向かって魔弾を撃っていたのだ。
2人とも辛そうな顔で撃っているが、両親にはレイのブレスレットがあるので魔法障壁が発動してそれを防いでいる。
入り口には騎士団団長カイザーと副団長サレア、魔道士団団長のルージュが特殊な鎖で拘束されていた。
「起きたか、第二王女。」
驚いて振り向くと、見たことのない男がマリアに杖の先端を向けていた。
「だ、誰ですか?」
「闇ギルド《リスト・スプレッド》のギルドマスター、カシスだ。」
「な、何故このような事をするんですか!」
「第二王妃の命令だからな。国王と王妃を殺してこいとのことだ。」
カシスの言葉に、マリアは耳を疑った。確かにあまりいい印象はない人だったが、ここまでするとは思ってもいなかった。
カシスはマリアに目線を合わせるようにしゃがみ、頭を掴んだ。
「俺はな、子供の頃に盗賊に両親を殺すよう言われたんだ。両親は泣きながら俺に言ったよ…『気にしないで、あなたは悪くない』ってな。だから俺はナイフで心臓を1つきしてやったよ。」
「それとこれとなんの関係が…!」
「国王達を殺すよう命令されたからな。せっかくだから、あんた達にも俺と同じ気分を味わって欲しいだけだ。何も思わないのか、それとも絶望するのか少し気になってな。」
「そんな理由で…!」
マリアはカイザー達に目を向けたが、鎖に魔力を吸収されているのか3人とも顔色があまり良くなかった。
おそらく、少しでも動いたらマリアを殺すとカシスに脅されているのだろう。
「さぁ…どうなるかな?国王達の魔力が切れ障壁がなくなって息子達に殺されるのか、息子達の魔力が先に切れるか。お前はどっちだと思う?」
「そんなの…早くやめさせてください!」
「つまらないやつだな。」
カシスはフッと笑うと、掴んでいた手を離して感情のない瞳で国王達を眺めた。
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