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第8章
第133話
しおりを挟む「ん…?」
「お、おはようございます…。」
ガジルスが目を覚ますと、側にシオリが座っていた。ガジルスの悪人顔に、シオリはビクビク震えている。
「あんたは確か…」
「同じ班のシオリです。レイ君が、ガジルスさんの事をみててくれって言ってはりまして…」
「それであいつは何処に行ったんだよ?」
「ひっ…!ト、トイレかと!」
「怯えるなよ…。」
「お、お、怯えてなんかおらへんよ…?」
「ガチガチじゃねぇーか。」
ちょうどそこへレイが帰ってきて、シオリはすぐに席を立って距離をとった。
「あ、シオリさんありがとう。」
「い、いえ!それでは!」
シオリは緊張したのか、すぐに走って部屋を出て行ってしまった。
代わりに俺は、シオリの座っていたイスに座った。
「体は大丈夫か?」
「怖いくらいに元気だ。お前が回復魔法でもかけてくれたんだろ?」
「保健室のおばさんいなかったからね。それより、ガジルスの身内に誰か武術が得意な人いる?」
「…なんでだ?」
「なんか戦い方が誰かに似てるなって思って。」
俺の言葉に、ガジルスはニヤリと笑った。他人が見たら恐怖で逃げそうだ。
「やっぱり聞いてた通りだな。」
「誰に?」
「親父だよ。」
「オヤジ…?名前は?」
「レギル・ストーガ。」
「レギル……。え?!」
俺の驚いた顔に、ガジルスはまたニヤリと笑った。俺の知っている中で、レギルという名前は同じ副団長しか知らない。
「え、でも…鑑定した時苗字なかったけど…。」
「元父親だからな、数年前に離婚してる。」
「あ、そうだったのか…。」
「お袋には禁止されてるけど、たまに特訓してもらってるんだよ。」
「だからか。どうりで似てるわけだ。」
「なぁ、また今度相手してくんねぇか?」
「いいよ、空いてる時にでも。」
「ありがとな。改めて、ガジルスだ。よろしく。」
そう言ってガジルスは爽やかな笑顔で握手を求めてきた。根はいいやつなのかもしれない。
「こちらこそよろしく。」
「…お前ヤバイ魔力持ってんな。なぁ、いまからやんね?いいよな?」
前言撤回、しっかりヤンキーお兄さんでした。
授業を終え、俺は魔道士団本部に向かった。特にこれといった報告書もなかったので施設内を歩いていると、魔道書室にベルベットを見つけた。
本を読みながら、ファングボアのサンドイッチを食べている。
「何か調べ物?」
「そんなところです。」
「あ、サンドイッチ気に入ったの?」
「いえ、なんとなく食べたくなっただけです。」
「なんだ。」
本を覗き見ると、内容は禁忌魔法だった。通常は使用が制限されている類のものだ。
「…それ、試したりしないよね?」
「しませんよ。ですが魔法とはすごいですね。これなんか…」
ベルベットが開いたページには、『記憶消滅』という魔法が書いてあった。自分や他人の記憶を消す代わりに高い魔力を得るもので、自分にない適性の魔法も使う事が出来る。
「この記憶を消すというのは、どういう事ですか?」
「あー…消すのは自分の存在だったと思う。」
「自分の存在、ですか?」
「そう、周りから忘れ去られるって感じかな。使用者に関する記憶が、他の人から失われるんだよ。」
「それくらいなら別にいいんじゃないですか?また交友を深めれば、新しい記憶を作れますよね?」
「でも、他人から忘れられるって結構辛いんじゃない?なんかそんなセリフあったな…本当の死は人に忘れ去られた時だ、みたいな。」
「そういうものなのですか…。勉強になります。」
「使っちゃダメだからな?魔道士団だから閲覧が許可されてるけど、使用したら牢獄にぶち込まれる。」
「わかってますよ。では、また明日。」
ベルベットは本を閉じて奥の本棚に戻し、分隊室へ歩いて行った。
夜、宿でベルベットは紙と筆を置き目を閉じていた。
「……始めます。」
そして筆を持つと、本部で閲覧した本の内容を全て紙に書いていった。一字一句正確に。
書き終えて一息つき、紙の束を封筒にしまった。カバンの中には、すでに封筒がいくつも入っている。
「まだまだ足りませんね…。」
ベルベットは小さく呟いて、眠りについた。
場所は変わり、レイたちのいる大陸からかなり離れた場所にある大陸に、1つの皇国があった。
その皇国の研究室に、戦闘用に作られた部屋があり、部屋の中には全く同じ顔の白髪の男性が何人もいた。全員ピクリとも動かず、じっと立っている。
「さて、今日も始めようかな。」
数分して、部屋に1人の青年が入ってきた。片手に剣だけを持ち、男性たちを見て嬉しそうな顔になっている。
「カナ、いつも通り指示をお願い。」
青年が向いた上の方には、小さな窓がつけられており若い女性と初老の男性が部屋を見下ろしていた。
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『あ、ごめんなさい!』
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青年は剣を構え、心の底から嬉しそうな顔になった。
「さぁ…実験でも始めようかな。」
そう呟くとともに、青年は前方に走り始めた。
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