異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし

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第8章

第129話

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「はぁ…やっと終わった…。」

俺は正門を出て、小さくため息をついた。編入試験は無事終わり学校を出ようとしたところで、理事長のクレアから「合格だよ!」と言われた。そんな簡単でいいのかと思ったが、礼を言って本部に向かった。


「こんにちは。」

「こ、こんにちは…。」

副団長室でベルベットが待っていると思っていたが、何故か正門を出てすぐの所に立っていた。

「あれ、俺ここで待っててって言ったっけ?」

「いえ、試験があると聞いたので終わるのを待ってました。」

「……いつから?」

「2時間ほど前です。」

「試験開始時刻ってわけね…。ごめん、待たせちゃって。」

「いえ、お気になさらず。」

ベルベットは本当に気にしてないと言った感じで答え、俺の側を歩いている。この人は笑ったりするのだろうかと思うくらい、表情に変化がない。

「本部に行く前に、少し買い物してもいいかな?」

「わかりました。何を買ってくればよろしいのでしょうか?」

「いや、一緒に行くんだけど…。」

「…それは何故ですか?部下である私が買えば済む話では?」

「え、そんなのいちいち頼まなくない?あ、でもレギルさんはタバコ部下に頼んでたっけ…」

「あなたがそれで良いのなら、私はついていくだけです。」

「そう、なんだ…。」

相変わらずしっくりこない受け答えをしながら、俺たちは商店街の方へ歩いて行った。




「はい。」

「これはなんですか?」

軽く買い物を終え、ベルベットに近くの露店で売っていたファングボアのサンドイッチを渡した。ベルベットは不思議そうにサンドイッチを眺めている。

「ファングボアっていう魔物の肉を挟んだサンドイッチだけど…知らない?」

「初めて見ました。これを食べろと?」

「まぁ付き合ってくれたお礼にね。好みの味じゃなかったら俺が食べるよ。」

「わかりました。そういった命令なら。」

「命令って…。」

そう言ってベルベットは一口だけサンドイッチをかじった。感情が出てないので、美味しいのか不味いのかいまいちわからない。

「えっと…どう?」

「…なんだか温かいです。」

「そりゃ出来立てだからね。味は?」

「なんとも言えない味ですが、嫌いじゃないです。」

「あはは…なんとも言えないんだ…。まぁ今度他にも食べてみるといいよ。たくさん種類あるしね。」

「それは他の店をまわれという命令ですか?それとも仕事ですか?」

「なんだろう…アドバイス、かな?他にも良い店が沢山あるっていう事を伝えたかっただけだよ。」

「なるほど。」

とりあえずそこで買い物を終え、俺たちは本部に向かった。




「あの…ベルベットさん?いつまでそこにいらっしゃるので…?」

本部についてからも、俺は超絶に困っていた。今日も特に大きな事件はなく、報告書に目を通しているのだが、ベルベットは座っている俺の横にくっつくように立っている。

「それより、あなたは現場に出たりしないのですか?」

「行こうとした時もあったけど、分隊が優秀で俺がいく前には盗賊を捕まえてたりとかしょっちゅうだし…。よっぽどの事がない限り、副団長とかは本部にいるかな。」

「なるほど。」

そこで会話が途切れ、シーンとした空気が流れる。もう何度目かわからない。

「あ、そういえばベルベットは第5分隊に配属になったみたいだぞ。挨拶にでもー」

「それは昨日済ませました。」

「あ、そうなんだ…。」

真顔でそう言われ、結局他に言うことがなくなってしまった。

(ダメだー…この人絶対ここに居座るつもりだ。ただでさえ褐色美人が側にいると仕事に集中できないのに…)

「あ、じゃあ魔道士団の研究室にでも行ってきたらどうかな?ほら、魔道具の研究とかしてー」

「それは昨日の試験の後に視察しました。」

「あはは…そうだよね…。」

詰んでいた。

 

「それにしても…」

「ん?」

あれから報告書を整理していると、ベルベットが突然話し始めた。

「この国は平和ですね。事件があるとしても、そこまで大きなものではない。」

「まぁ、そうかもね…。少し前にとんでもない数の魔物が出たけど、あんな感じの事件はほとんどないかも。そういえば、ベルベットはどこの国出身なの?ルナの報告書には遠くの国しか書いてないけど…。」

「この大陸から、少し離れた所にある大陸にある国です。この国と同じくらい平和な所です。」

「へぇ…この国を出たことないから行ってみたいな…。」

「そのうち、行く機会があると思いますよ。」

「え、なんで?」

「なんとなくです。」

そう言って、ベルベットは初めて小さく微笑んだ。ギャップ萌えというやつか、不覚にもドキッとしてしまう。

「明日から学校なんですよね?友人が沢山できると良いですね。」

「急にお母さんみたいになってるけど…。」

「母親とはそう言った事を言う人なのですね。」

「大抵のお母さんはそんな感じじゃない?」

「なるほど、覚えておきます。」

結局ベルベットが離れる事はなく、夕方まで仕事は続いた。





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