異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし

文字の大きさ
上 下
146 / 210
第8章

第129話

しおりを挟む

「はぁ…やっと終わった…。」

俺は正門を出て、小さくため息をついた。編入試験は無事終わり学校を出ようとしたところで、理事長のクレアから「合格だよ!」と言われた。そんな簡単でいいのかと思ったが、礼を言って本部に向かった。


「こんにちは。」

「こ、こんにちは…。」

副団長室でベルベットが待っていると思っていたが、何故か正門を出てすぐの所に立っていた。

「あれ、俺ここで待っててって言ったっけ?」

「いえ、試験があると聞いたので終わるのを待ってました。」

「……いつから?」

「2時間ほど前です。」

「試験開始時刻ってわけね…。ごめん、待たせちゃって。」

「いえ、お気になさらず。」

ベルベットは本当に気にしてないと言った感じで答え、俺の側を歩いている。この人は笑ったりするのだろうかと思うくらい、表情に変化がない。

「本部に行く前に、少し買い物してもいいかな?」

「わかりました。何を買ってくればよろしいのでしょうか?」

「いや、一緒に行くんだけど…。」

「…それは何故ですか?部下である私が買えば済む話では?」

「え、そんなのいちいち頼まなくない?あ、でもレギルさんはタバコ部下に頼んでたっけ…」

「あなたがそれで良いのなら、私はついていくだけです。」

「そう、なんだ…。」

相変わらずしっくりこない受け答えをしながら、俺たちは商店街の方へ歩いて行った。




「はい。」

「これはなんですか?」

軽く買い物を終え、ベルベットに近くの露店で売っていたファングボアのサンドイッチを渡した。ベルベットは不思議そうにサンドイッチを眺めている。

「ファングボアっていう魔物の肉を挟んだサンドイッチだけど…知らない?」

「初めて見ました。これを食べろと?」

「まぁ付き合ってくれたお礼にね。好みの味じゃなかったら俺が食べるよ。」

「わかりました。そういった命令なら。」

「命令って…。」

そう言ってベルベットは一口だけサンドイッチをかじった。感情が出てないので、美味しいのか不味いのかいまいちわからない。

「えっと…どう?」

「…なんだか温かいです。」

「そりゃ出来立てだからね。味は?」

「なんとも言えない味ですが、嫌いじゃないです。」

「あはは…なんとも言えないんだ…。まぁ今度他にも食べてみるといいよ。たくさん種類あるしね。」

「それは他の店をまわれという命令ですか?それとも仕事ですか?」

「なんだろう…アドバイス、かな?他にも良い店が沢山あるっていう事を伝えたかっただけだよ。」

「なるほど。」

とりあえずそこで買い物を終え、俺たちは本部に向かった。




「あの…ベルベットさん?いつまでそこにいらっしゃるので…?」

本部についてからも、俺は超絶に困っていた。今日も特に大きな事件はなく、報告書に目を通しているのだが、ベルベットは座っている俺の横にくっつくように立っている。

「それより、あなたは現場に出たりしないのですか?」

「行こうとした時もあったけど、分隊が優秀で俺がいく前には盗賊を捕まえてたりとかしょっちゅうだし…。よっぽどの事がない限り、副団長とかは本部にいるかな。」

「なるほど。」

そこで会話が途切れ、シーンとした空気が流れる。もう何度目かわからない。

「あ、そういえばベルベットは第5分隊に配属になったみたいだぞ。挨拶にでもー」

「それは昨日済ませました。」

「あ、そうなんだ…。」

真顔でそう言われ、結局他に言うことがなくなってしまった。

(ダメだー…この人絶対ここに居座るつもりだ。ただでさえ褐色美人が側にいると仕事に集中できないのに…)

「あ、じゃあ魔道士団の研究室にでも行ってきたらどうかな?ほら、魔道具の研究とかしてー」

「それは昨日の試験の後に視察しました。」

「あはは…そうだよね…。」

詰んでいた。

 

「それにしても…」

「ん?」

あれから報告書を整理していると、ベルベットが突然話し始めた。

「この国は平和ですね。事件があるとしても、そこまで大きなものではない。」

「まぁ、そうかもね…。少し前にとんでもない数の魔物が出たけど、あんな感じの事件はほとんどないかも。そういえば、ベルベットはどこの国出身なの?ルナの報告書には遠くの国しか書いてないけど…。」

「この大陸から、少し離れた所にある大陸にある国です。この国と同じくらい平和な所です。」

「へぇ…この国を出たことないから行ってみたいな…。」

「そのうち、行く機会があると思いますよ。」

「え、なんで?」

「なんとなくです。」

そう言って、ベルベットは初めて小さく微笑んだ。ギャップ萌えというやつか、不覚にもドキッとしてしまう。

「明日から学校なんですよね?友人が沢山できると良いですね。」

「急にお母さんみたいになってるけど…。」

「母親とはそう言った事を言う人なのですね。」

「大抵のお母さんはそんな感じじゃない?」

「なるほど、覚えておきます。」

結局ベルベットが離れる事はなく、夕方まで仕事は続いた。





しおりを挟む
感想 192

あなたにおすすめの小説

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

チートな親から生まれたのは「規格外」でした

真那月 凜
ファンタジー
転生者でチートな母と、王族として生まれた過去を神によって抹消された父を持つシア。幼い頃よりこの世界では聞かない力を操り、わずか数年とはいえ前世の記憶にも助けられながら、周りのいう「規格外」の道を突き進む。そんなシアが双子の弟妹ルークとシャノンと共に冒険の旅に出て… これは【ある日突然『異世界を発展させて』と頼まれました】の主人公の子供達が少し大きくなってからのお話ですが、前作を読んでいなくても楽しめる作品にしているつもりです… +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-  2024/7/26 95.静かな場所へ、97.寿命 を少し修正してます  時々さかのぼって部分修正することがあります  誤字脱字の報告大歓迎です(かなり多いかと…)  感想としての掲載が不要の場合はその旨記載いただけると助かります

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...