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第7章
第124話
しおりを挟む「ユイト、手紙が来たぞ。」
「本当ですか?!」
ユイトは受け取った手紙を読んで、とても嬉しそうにしている。
あれから何日か経ち、アンジュは一通の手紙を渡した。手紙には短い文章が書かれており、書いたのはアンジュ自身だった。
(何をしているんだ…私は…。)
「お母さん?」
「あ!いや…なんでもない。」
アンジュは意識を戻し、2人は次の街へと旅立った。
「じゃあ、その手紙は…。」
「もう5年か…よく続いているものだ。この状況に慣れてる私も、アクマと変わりないのかもしれないな。カバンを取ってくれるか?」
言われた通り、アンジュさんのカバンを渡した。カバンの中には、手紙がたくさん入っている。
「すごい数ですね…。」
「全部ユイトが父に書いたものだ。…捨てるわけにもいかなくてな、全てとってある。」
「それで、なんで俺にユイトの事を?」
「今まで、いろんな村であの子の事をお願いしてきたんだが…魔族の子と知ると、みんな恐れてしまってな。」
「でも、ユイトはアンジュさんと一緒にいたいんじゃないですか?」
「そうかもしれないが、私は生まれつき運が悪くてな。親もいないし、魔法の才能がないんだ。でも、あの子はとんでもない魔力を秘めている。君は魔道士団の副団長なんだろ?あの子の才能を開花させてくれると思ってな。」
「それで俺に…。」
「助けてもらってばっかで申し訳ないが、少しだけでも考えておいてくれ。無理だったらそれでも構わない。」
「わかりました…。」
ちょうどそこで、エレナとユイトが帰ってきた。2人とも両手にお菓子やらお土産の入った袋を持っている。
「たっだいまー!」
「た、ただいま…。」
「おかえり。」
ユイトとアンジュを残し、俺はエレナと部屋を出て行った。
ユイトとアンジュさんは、俺の街の宿に少しだけ住むことになった。この街でアンジュさんの調子が良くなるのを待ち、その間に観光や必要なものを買い揃えるそうだ。
「それにしても…かなり栄えているな、この街は。物価も安いし、とても助かる。」
「そう言ってもらえて良かったです。何か困ったことがあれば、領主邸か王都の家に来てください。」
「本当にありがとう。」
「ありがとうございます!」
2人と軽く挨拶を交わし、俺は仕事に戻った。
数日後、アンジュは旅の準備をしていた。予定では明日か明後日にでもこの街を発つ事になっている。
「ユイト、あと少しでこの街を出るんだが…何か欲しいものはないのか?」
「え?!そうですね…特にないです。」
「相変わらず物欲がないな。なら、少しだけ留守番を頼めるか?もう少しだけ街を見てくる。」
「僕も行きましょうか?」
「大丈夫だ。買うものがあるとしても、薬草かポーションくらいだからな。じゃあ行ってくる。」
そう言って、アンジュは宿を出て行った。
ユイトは1人になり、街を出る前に手紙を書こうとした。だが、そこで筆のインクがなくなっているのに気がついた。
「ど、どうしよう…。」
そこでポケットを探すと、中には先日エレナと街を歩いた時のお釣りが入っていた。エレナに返そうとしたが、『それくらい大丈夫』と断られたものだ。
「……エレナさん、今度必ず返します。ごめんなさい。」
迷った挙句、ユイトは硬貨を握りしめて宿を出て行った。
「うわぁ…相変わらず人が多いな…。」
ユイトは行き交う人を見て、思わず1人つぶやいた。いつ見ても街は人がたくさんいて、気を抜いたら迷子になってしまいそうだ。
インクを売っているお店がわからなかったので、いろんなお店の人に聞きながらなんとか辿り着くことが出来た。
「早く帰らなきゃ…わっ!」
インクを買いお店を出て走り出そうとした時、強い風が吹いて帽子が飛ばされてしまった。
「ま、待って!」
帽子は通りの酒樽に引っかかったので、ユイトは慌てて深く帽子をかぶり直した。あたりを見たが、誰も自分の頭を見ていないようで安心した。
「い、急がなきゃ…!」
ユイトはそう言って、宿の方へと走り出した。
「おい、見たか?今のやつ。」
「あぁ、この前取り逃がしたガキだな。純血なら高く売れるぞ。」
店の陰から、2人の男がユイトを見て不吉な笑みを浮かべていた。
「すっかり遅くなってしまったな…。」
アンジュが宿に帰る頃には、あたりは薄暗くなっていた。
「ただいま。」
アンジュが部屋に入ると、電気はついておらず誰の気配もしなかった。
「ユイト?」
呼びかけても反応はなく、荷物を置いて部屋中を探した。
「いない…まさか…。」
嫌な予感がし、アンジュは急いで部屋を飛び出した。
「ふぁ~…。」
「大きなあくびですね。」
「ごめん…眠すぎて…。」
一通り書類の確認を終えてあくびをすると、ソフィに注意された。今日も相変わらず怖い。
「睡眠不足は作業効率を低下させます。今日は早くお帰りになって、明日の早朝から始めてみてはどうでしょうか?」
「朝苦手なんだよね…。」
「…わ、私が起こしても……。」
「ん、何か言った?」
「いえ、なんでもありません!」
ソフィはそう言って、部屋を出て行こうとした。だが、扉を開けようとしたところで誰かが慌てて入ってきた。
見ると息を切らせたアンジュさんだった。
「ちょっ、誰ですか?!許可もなくここに入ってー」
「ソフィ、知り合いだから。アンジュさんどうかしましたか?」
「はぁ…はぁ…ユ、ユイトが!ユイトがどこにもいないんだ!」
アンジュさんは切羽詰まった表情で、そう言い放った。
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