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第7章
第122話
しおりを挟む隣の部屋には、眠る女性の側にリゼがいた。
「どう?まだ起きなそうかな?」
「そうですね…顔色はだいぶ良くなられたので、今日中には目を覚ますかと。」
「わかった、起きたら伝えてくれる?」
「かしこまりました。」
部屋を出ると、少年が慌てた様子で走ってきた。まだ口の周りに朝食のソースが付いている。
「あの!お母さんは…」
「まだ寝てるよ。入ってもいいけど、起こさないようにね。」
「いえ、無事ならいいんです。それと…1つお願いしてもいいですか?」
「何かな?」
「その、紙を1枚貰いたくて…。」
「遠慮しなくてもいいのに。君が寝てた部屋の引き出しに入ってると思うから、何枚でも使っていいよ。えっと、名前は?」
「ユイトです。何から何までありがとうございます!」
少年はお辞儀をして、部屋へと走っていった。
「レイ様。」
昼頃に自室で書類整理をしていると、リゼが女性が起きた事を伝えにきてくれた。早速部屋に向かうと、女性がベットに座っていた。
「体調はどうですか?」
「絶好調までとはいかないが…かなりいい。リゼさんから話は聞いた、いろいろありがとう。」
クールな感じの女性は、礼を言って優しく微笑んだ。
「いえ、それより何で2人で雨の中を?冒険者なんですか?」
「いや、冒険者と言うよりは旅人のような感じだな。特に家もないから、いろんなところを歩いている。」
「そうだったんですか。じゃあこの国もいつか出るんですか?」
「そうだな。私の体調が良くなったら行くつもりだ。それより、1つお願いがー」
「お母さん!」
話の途中で部屋の扉が勢いよく開き、ユイトが入ってきた。手には折りたたまれた紙が握られている。
ユイトはそのままベットの方へと走り、女性に抱きついた。
「良かった…。もう無茶はしないでくださいっ…!」
「すまなかったな、約束しよう。」
泣きじゃくるユイトの頭を、母親は愛おしそうに撫でた。
あの後、女性から2人で話がしたいと言われたので、エレナがユイトを連れて街へ買い物にいった。
「えっと…話って?」
「そういえば名乗っていなかったな。私はアンジュだ、よろしくな。」
「レイ・トライデント・レストリアです。」
「聞いたぞ、街の領主で王国魔道士の副団長様なんだろ?リゼさんが嬉しそうに語っていた。」
「そ、そうですか…。」
改めて言われて恥ずかしがっていると、アンジュは先程ユイトが持っていた手紙を指で撫でた。
「出来ればの話なんだがな…あの子の…ユイトの面倒をみてくれないだろうか?」
「…え?」
アンジュさんのお願いに、俺は思わず聞き返す事しか出来なかった。
そんな俺をよそに、アンジュさんはある昔話を始めた。
ー5年ほど前ー
アンジュは、1人で旅をしている最中だった。
アンジュはある村の出身で、農家の家の1人娘だった。ただ幼い頃に両親は魔物に殺され、村の住人の家にお世話になるのも躊躇われたのでその時から1人で旅をしていた。
ある日のこと、もう3日ほど歩いていた時だった。
遠くに小さな村を見つけ、そこで宿を取ろうかと考えた。だが、すぐにその考えはなくなった。村から黒い煙が上がり始めたのだ。大きな爆発音とともに。
「まずいな…。」
アンジュは小さく呟くと、村の方へと走っていった。
村について、アンジュは息を呑んだ。民家からは煙が上がり、あたりは悲惨な状況になっている。
とりあえず近くの民家に入り、アンジュは目を見開いた。
家の中には、3人の親子らしき人が腹を引き裂かれて殺されていた。なんとか吐き気を抑え、家を後にした。
その後も何軒か見て回ったが、全て同じような状況だった。
「一体何が…。」
そう呟いた時、別の民家から大きな物音がした。物陰からこっそり見ると、まだ確認していない民家から血だらけの男が出てきた。男の頭にはツノが生えており、背中には歪な羽が生えている。明らかに人間ではない。
アンジュはそれを見て、ある話を思い出した。ここに来る前の村の住人に、近くの村にアクマがいると言われた事を。
「おい!誰かまだ生きてやがるな…!隠れてないで出てこい!」
「ーっ!」
どうせそのうち見つかると思ったアンジュは、剣を構えてゆっくりと物陰から出た。
「なんだ…?テメェこの村のヤツじゃねぇな?」
「私はただの旅人だ。お前、何故こんな事をする!」
「うるせぇ!住人たちが俺をヨソモノだとか言って迫害してきたんだ!」
男の体には、住人たちによって出来た傷がいくつもある。短剣も数本刺さっているようだ。
「だからって…こんな事をしていいわけがー」
「黙れ!お前も殺してやる…!」
「………っ!」
アクマはそう言うと、鋭い爪でアンジュに斬りかかってきた。そこから、長い闘いが始まった。
「そんな事があったんですね…。」
「あの闘いは人生で1番キツかったかもしれない。魔人ディアブロを知っているか?」
「聞いたことないですね。」
「大昔に、海の向こうの大陸で有名だった魔人だそうだ。後から聞いてわかった話だが、私が闘ったのはディアブロだったらしい。」
「倒したんですよね…?」
「なんとかな。魔人とはいえ、高齢で手負いだったから勝てたようなものだった。」
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アンジュは地面に剣を刺し、なんとか倒れないようにしていた。近くには、ディアブロが大量の血を流して動かなくなっている。
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「ぐっ!」
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「パパ……。おきてよ…もう朝だよ…?ねぇ………ぅぅ…うぁぁぁああああ!!」
子供は父親の胸に顔を埋め、村に響き渡るような声で泣いた。
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