136 / 210
第7章
第121話
しおりを挟む
それからは忙しい日々が続いた。
街の家令と改善点を話し合ったり、魔道士団の仕事をしたり。空いた時間などで、ギルドの依頼に行ったりエレナの遊園地遊びに付き合ったりもしていた。
だが1週間もすれば、少しはこの生活にも慣れてきていた。
今は家の自室で、住人からの要望などの紙に目を通していた。何か困った事があれば、住民には遠慮なく提出してもらうようにしている。
ロゼッタも向かいで手伝ってくれており、紅葉は夕食を食べて眠くなったのか俺の膝でスヤスヤ寝ている。
「全く、本当にだらしない人ですね。」
「まぁお疲れなんじゃないかな?自分のお店の事とかで。」
街には紅葉の、着物など和風な物が売られているお店がある。芸術的な物が多く女性からの人気が高い。
「あれのどこがいいのやら…。あ、1枚きてますよ。」
「えーっと…『道に迷ってしまうので、簡易な物でもいいので地図が欲しいです。』か。」
「作っていなかったのですか?」
「いや、家も宿も全部の部屋に置いてあるはずだけどな…。明日確認してくるよ。」
「そうですね。そういえば、編入試験はいつですか?」
「今週末だよ。軽い筆記と実技だけ。」
「そうですか、頑張ってください!」
「あれ、それよりエレナとスサノオは?異空間?」
「夕食後に体を動かしたいので依頼に行ってくると。」
「雨降ってるのにすごいな。じゃあもうすぐ帰ってー」
俺がそう言いかけた時、勢いよく自室の扉が開かれた。びしょ濡れの、エレナとスサノオだった。
「レイ!」
「主人殿!」
「ん?」
エレナは子供を抱っこしており、スサノオは女性をお姫様抱っこしていた。
数十分前、雨の中エレナとスサノオは空を飛んでいた。ギルド依頼を済ませて家路についていた所、突然雨が降り出してしまったのだ。
「早く帰ってお風呂入りたーい!」
「そうですな、温まらないと風邪をひいてしまいます。」
「うぅっ、さぶい…あれ?」
エレナは下の道を見て驚いた。
小さな子供が、大人の女性に肩を貸してなんとか歩いていたのだ。2人とも雨具も着ておらず、子供は雨の中必死に歩いている。
「ねぇ!あれ!」
「あれは…急いだ方が良いですな。」
「うん!とりゃー!」
エレナとスサノオは2人の前まで高速で飛んでいき、2人の様子を確認した。
「大丈夫?!」
「…え?ぁ…人、だ…。」
少年はそう言って力尽きて倒れかけた。慌ててエレナは少年を抱え、スサノオは女性をお姫様抱っこした。
「すぐに主人殿の所へ。」
「うん!」
2人はすぐに屋敷へと飛んで行った。
レイは空いてる部屋のベッドに少年を寝かせた。女性の方は、ロゼッタとエレナが手当てしてくれている。
少年の服を変えようとして、とんがり帽子をとった時だった。
「これ…。」
「珍しいですね。」
俺とスサノオは少年の頭を見て少し驚いた。少年の頭には、小さな角が生えていたのだ。鑑定すると亜人(混血種)と書いてある。
とりあえず服を変え、回復魔法をかけた。すぐに少年の呼吸は安定し、静かに眠りについたようだ。
その後、女性もロゼッタが回復してくれたらしくなんとか一命をとりとめたようだ。ただ、腹部の傷から血を流しすぎたせいか回復まで少し時間がかかるらしい。
一旦その日は2人をそのまま寝かせ、俺達も寝る事にした。
「………ぁれ……。」
「お目覚めか。」
「ひっ?!」
翌朝、少年が目を覚ますとベットの近くにはスサノオが座っていた。スサノオは無表情で少年を見下ろしている。
「まだあまり動かない方がいい。」
「だ、誰ですか…?!ぼ、帽子が…。」
「これか?」
スサノオがとんがり帽子を差し出すと、少年は慌てて帽子を深くかぶった。角を見られるのがあまり好きではないようだ。
「少し待っていろ、主人を呼んでくる。」
「……え?」
状況の掴めない少年を残し、スサノオは部屋を出て行った。
「主人殿。」
「ん?」
朝食後、自室に戻っている時にスサノオに声をかけられた。
「あの少年が目覚めた。」
「わかった、ありがとう。」
俺はスサノオと少年のいる部屋に向かった。
「おはよう。」
「ひぃっ!」
扉を開けると、少年は怯えた表情をしていた。
とりあえず側の椅子に腰掛ける。
「大丈夫か?」
「ぼ、僕をどうするつもりですか…?!売り飛ばしたり…。」
「しないよ、ここ俺の家だし。昨日、倒れかけてた君をスサノオたちがここまで運んでくれたんだよ。」
「………あ。」
少年は意識を失う前のことを思い出したのか、ハッとしてスサノオを見た。
「あ、ありがとうございました…。それと失礼な態度をとってごめんなさい…。」
「気にするな。私は偶然通りかかっただけだ。礼を言うなら、主人殿に。」
「ありがとうございます。…あれ、お、お母さんは?!どこに?!」
「隣の部屋にいるよ。まだ寝てるけど、怪我は治ってるから安心して。」
「はぁ、良かった…。」
少年は安心したのか、ようやく安堵した表情になった。どうやらあの女性は少年の母親だったらしい。
「とりあえず朝食があるから、食べてきなよ。」
「そ、そんな!僕なんかがこんなお世話になっていいはずないです…!」
『ぐぅぅぅぅぅ……』
少年の言葉とは違い、腹の虫は正直な声を出した。少年は顔を真っ赤にしている。
「ほら、気にしなくていいから。」
「…ありがとうございます。」
シュティレに少年を任せ、俺とスサノオは隣の部屋に向かった。
--------------
1人の女性が、アリヒの奴隷商の檻にいた。女性がいるのは奉仕奴隷の区画で、他の檻にも女性と同じくらいの歳の人が何人もいる。
辺りに人がいないのを確認し、檻の奥で女性は胸ポケットから小さな箱を取り出して、箱の上部にあるボタンを押した。
「着きました。」
『早かったなぁ。ちょうど今、嬢ちゃんと茶を飲んで休憩してたところだ。』
『あ、お疲れ様です!』
箱からは、おじさんの声と若い女性の元気な声がした。
「少し遠回りをしているかもしれませんが…引き続き調査を続けます。」
『あぁ、頼んだぜ。年寄りにはちとキツイからな。』
『頑張ってください!』
奴隷商に客が来た足音がしたので、女性は急いで箱をしまった。
街の家令と改善点を話し合ったり、魔道士団の仕事をしたり。空いた時間などで、ギルドの依頼に行ったりエレナの遊園地遊びに付き合ったりもしていた。
だが1週間もすれば、少しはこの生活にも慣れてきていた。
今は家の自室で、住人からの要望などの紙に目を通していた。何か困った事があれば、住民には遠慮なく提出してもらうようにしている。
ロゼッタも向かいで手伝ってくれており、紅葉は夕食を食べて眠くなったのか俺の膝でスヤスヤ寝ている。
「全く、本当にだらしない人ですね。」
「まぁお疲れなんじゃないかな?自分のお店の事とかで。」
街には紅葉の、着物など和風な物が売られているお店がある。芸術的な物が多く女性からの人気が高い。
「あれのどこがいいのやら…。あ、1枚きてますよ。」
「えーっと…『道に迷ってしまうので、簡易な物でもいいので地図が欲しいです。』か。」
「作っていなかったのですか?」
「いや、家も宿も全部の部屋に置いてあるはずだけどな…。明日確認してくるよ。」
「そうですね。そういえば、編入試験はいつですか?」
「今週末だよ。軽い筆記と実技だけ。」
「そうですか、頑張ってください!」
「あれ、それよりエレナとスサノオは?異空間?」
「夕食後に体を動かしたいので依頼に行ってくると。」
「雨降ってるのにすごいな。じゃあもうすぐ帰ってー」
俺がそう言いかけた時、勢いよく自室の扉が開かれた。びしょ濡れの、エレナとスサノオだった。
「レイ!」
「主人殿!」
「ん?」
エレナは子供を抱っこしており、スサノオは女性をお姫様抱っこしていた。
数十分前、雨の中エレナとスサノオは空を飛んでいた。ギルド依頼を済ませて家路についていた所、突然雨が降り出してしまったのだ。
「早く帰ってお風呂入りたーい!」
「そうですな、温まらないと風邪をひいてしまいます。」
「うぅっ、さぶい…あれ?」
エレナは下の道を見て驚いた。
小さな子供が、大人の女性に肩を貸してなんとか歩いていたのだ。2人とも雨具も着ておらず、子供は雨の中必死に歩いている。
「ねぇ!あれ!」
「あれは…急いだ方が良いですな。」
「うん!とりゃー!」
エレナとスサノオは2人の前まで高速で飛んでいき、2人の様子を確認した。
「大丈夫?!」
「…え?ぁ…人、だ…。」
少年はそう言って力尽きて倒れかけた。慌ててエレナは少年を抱え、スサノオは女性をお姫様抱っこした。
「すぐに主人殿の所へ。」
「うん!」
2人はすぐに屋敷へと飛んで行った。
レイは空いてる部屋のベッドに少年を寝かせた。女性の方は、ロゼッタとエレナが手当てしてくれている。
少年の服を変えようとして、とんがり帽子をとった時だった。
「これ…。」
「珍しいですね。」
俺とスサノオは少年の頭を見て少し驚いた。少年の頭には、小さな角が生えていたのだ。鑑定すると亜人(混血種)と書いてある。
とりあえず服を変え、回復魔法をかけた。すぐに少年の呼吸は安定し、静かに眠りについたようだ。
その後、女性もロゼッタが回復してくれたらしくなんとか一命をとりとめたようだ。ただ、腹部の傷から血を流しすぎたせいか回復まで少し時間がかかるらしい。
一旦その日は2人をそのまま寝かせ、俺達も寝る事にした。
「………ぁれ……。」
「お目覚めか。」
「ひっ?!」
翌朝、少年が目を覚ますとベットの近くにはスサノオが座っていた。スサノオは無表情で少年を見下ろしている。
「まだあまり動かない方がいい。」
「だ、誰ですか…?!ぼ、帽子が…。」
「これか?」
スサノオがとんがり帽子を差し出すと、少年は慌てて帽子を深くかぶった。角を見られるのがあまり好きではないようだ。
「少し待っていろ、主人を呼んでくる。」
「……え?」
状況の掴めない少年を残し、スサノオは部屋を出て行った。
「主人殿。」
「ん?」
朝食後、自室に戻っている時にスサノオに声をかけられた。
「あの少年が目覚めた。」
「わかった、ありがとう。」
俺はスサノオと少年のいる部屋に向かった。
「おはよう。」
「ひぃっ!」
扉を開けると、少年は怯えた表情をしていた。
とりあえず側の椅子に腰掛ける。
「大丈夫か?」
「ぼ、僕をどうするつもりですか…?!売り飛ばしたり…。」
「しないよ、ここ俺の家だし。昨日、倒れかけてた君をスサノオたちがここまで運んでくれたんだよ。」
「………あ。」
少年は意識を失う前のことを思い出したのか、ハッとしてスサノオを見た。
「あ、ありがとうございました…。それと失礼な態度をとってごめんなさい…。」
「気にするな。私は偶然通りかかっただけだ。礼を言うなら、主人殿に。」
「ありがとうございます。…あれ、お、お母さんは?!どこに?!」
「隣の部屋にいるよ。まだ寝てるけど、怪我は治ってるから安心して。」
「はぁ、良かった…。」
少年は安心したのか、ようやく安堵した表情になった。どうやらあの女性は少年の母親だったらしい。
「とりあえず朝食があるから、食べてきなよ。」
「そ、そんな!僕なんかがこんなお世話になっていいはずないです…!」
『ぐぅぅぅぅぅ……』
少年の言葉とは違い、腹の虫は正直な声を出した。少年は顔を真っ赤にしている。
「ほら、気にしなくていいから。」
「…ありがとうございます。」
シュティレに少年を任せ、俺とスサノオは隣の部屋に向かった。
--------------
1人の女性が、アリヒの奴隷商の檻にいた。女性がいるのは奉仕奴隷の区画で、他の檻にも女性と同じくらいの歳の人が何人もいる。
辺りに人がいないのを確認し、檻の奥で女性は胸ポケットから小さな箱を取り出して、箱の上部にあるボタンを押した。
「着きました。」
『早かったなぁ。ちょうど今、嬢ちゃんと茶を飲んで休憩してたところだ。』
『あ、お疲れ様です!』
箱からは、おじさんの声と若い女性の元気な声がした。
「少し遠回りをしているかもしれませんが…引き続き調査を続けます。」
『あぁ、頼んだぜ。年寄りにはちとキツイからな。』
『頑張ってください!』
奴隷商に客が来た足音がしたので、女性は急いで箱をしまった。
40
あなたにおすすめの小説
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる