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第5章

第86話

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レイは突然目が覚めた。遠く離れた所で、普段感じる事のないような異質な魔力を一瞬感じたからだ。日はとっくに沈み、日付は既に変わっていた。

「………なんだ、今の?まさか…。」

「マスター。」

小さな声で、ロゼッタが部屋に入ってきた。ロゼッタも何かを感じ取ったようだった。
 
「マスター、今のは…。」

「確かめにいくか。」

ロゼッタは変身し、レイはすぐに転移した。


--------------

壁に背中をもたれかけ、スズリは壊れゆく研究所の天井を眺めた。先程スイッチを入れてから、壁にビビがはいり機材は全て壊れていった。

口からは血が流れ、もう自分のこの体も長くは持たないだろう。

「…………エリス………。」

頭に白髪の健気な少女の姿が浮かんだ。無愛想な自分にいつも話しかけ、表情をコロコロ変える少女は、一緒にいて飽きることなどなかった。


突然、スズリの前に黒い闇が発生し2人の人間が浮かんできた。その人物にスズリは目を見張った。

「な、なぜここに?!」

「主様…?よかった…!」

お互いすぐに駆け寄り、再会を喜んだ。スズリはエリスの存在を夢かと思ったが、自分の胸で涙を流す少女は幻などではなかった。そしてもう1人の存在に気がついた。

「お前…!どうしてここに…」

「お久しぶりですねぇ♫それより、長くはもたないかもしれませんが…最期は2人でごゆっくり♪」

そう言い残して男は影に消えていった。
呆気にとられていたが、エリスの泣き声ですぐに我に帰った。

「お前…血が。」

「そんなの主様の方が傷ついているじゃないですか…。」

そう言ってエリスは泣きながら笑った。

「ふっ、お互い満身創痍だな。でも生きてくれていて良かった…。」

「私も、最期に主様に会えて幸せです。」

2人は研究所が崩れゆく中、抱きしめあった。


--------------


「頼む…!間に合ってくれ!」

レイは森の前まで転移して、先程感じた魔力を探した。

根源はすぐにわかった。森のそう離れてない所の地面に、ところどころ亀裂が走り穴が開いている。

「ここかっ!」

レイが大きな穴を開け中に入ると、2人寄り添うスズリとエリスがいた。ロゼッタは他の生存者の確認に向かった。

「大丈夫ですかっ!」

「あぁ…だか俺たちはもう…。」

スズリの体は所々割れたようになっており、エリスは意識がなくなりそうだった。

「レイといったか。最期に頼みがあるのだが…。」

「なんですか!早く回復しないと!」

「俺たちをー。」


レイは目を見張ったが、スズリの目を見て覚悟を決め、ロゼッタが戻ったのを確認して2人と一緒にある場所に転移した。



4人は森の中心、スズリがいつもみんなを眺めていた切り株に転移した。

スズリは辛そうだった顔が、少し穏やかになっている。エリスもスズリの胸で、優しく微笑んでいる。

レイはスズリの目を見て、最後に聞いた。


「本当にいいんですか…。」


「あぁ、この森の事頼んでいいか?」


「…マスター…?」


「…わかりました。この森は俺達が、必ず。」


レイがそう言うと、スズリとエリスは小さく頷いた。 

そして、ロゼッタの腕を掴み森の出口に引っ張っていった。


「マスター?!なんでですか!早く2人に……っ!」


ロゼッタの怒りにも似た言葉が、最後まで続く事はなかった。  

後ろから見たレイの頰に、大粒の雫が流れていたからだ。それを隠すように、レイは力一杯ロゼッタの腕を引っ張っていく。


森を出たあたりで、ようやくレイはロゼッタの手を離した。


「マスター!なんで!なんでっ……!」


ロゼッタは涙を流しながら、レイの肩を掴んみ叫んだ。

レイは下を向きされるがままになっている。


「今ならまだ間に合いますっ!だからっ…!」


「俺だって…!俺だってそうしたいよっ!でもっ…!」


レイは2人の姿を思い出した。スズリは体がボロボロになり、エリスの太ももには血が流れていた。あれはおそらくー。


「……魔法は万能じゃない………。それに、あれがあの2人の最期の望みだったから…。」


「そんなっ………」


ロゼッタは膝から崩れ、レイの胸で込み上げるおもいを抑えきれずに声をあげて泣いた。


--------------


スズリはいつもの位置に座り、エリスはスズリにもたれかかっていた。


「なぁ、エリス……次は何をしたい?」


「そうですね…あっ、今初めて名前を呼んでくれましたね。」


「そ、そうか…?」


「そうですよ。あんなに一緒にいたのに、主さ…スズリ様は全く呼んでくれませんでした。」


「まぁそう怒るな。何かないのか?」


「そうですね…スズリ様と一緒なら……どんな事でも…したいです………。」


そう言い残して、エリスは静かに目を閉じた。スズリは月明かりが照らす森を眺めた。


「嬉しい言葉だな……。俺は…またお前の作った野菜……食べてみたいな………。」


2人は白い光になって、森の中に消えていった-。





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