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第5章

第84話

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もうどれくらい時間が経ったのかわからなかった。あれから何度か気絶しかけ、水をかけられてはまた電流を流されるの繰り返しで、すでに肉体はボロボロだった。

そして今、何度目かの休憩に入っていた。ミゼリアは嬉しそうに水槽を眺め、機材をいじくっている。

「………おい………エリスは無事なんだろうな……。」

「エリス?あぁ、あの少女の事ですね。そらなら、キャロル子爵がキズモノにでもしたんじゃないですか?」


「…………は?」


「あれ、言ってなかったですか?キャロル子爵はかなりの幼女好きでしてね、どうなったかは知りませんが今までの傾向を見る限り、もう1回は済ませているでしょうね。まぁあの方は下手くそらしいですから、そこまで気にする事は無いですよ。」


ミゼリアの言葉に、スズリの中で何かが壊れた。機材から警告音のような物が鳴り響いている。

「おぉ!激しい怒りによって魔力が回復してきている!いいですよ、やはりあの少女を連れてきて正解だった!」

ミゼリアの言葉など耳に入らず、スズリに古い記憶が蘇った。



遠い昔、下界への道を歩いてるスズリに背後から誰かが声をかけた。

『スズリン、本当に行っちゃうの?アネモイちゃんも寂しそうだったよ?』

『ベラムか、悪いな。あの森は俺の創ったものだから、想い入れがかなりあってな。アネモイには風神の勤めを頑張れと伝えておいてくれ。』

『そっか…なら僕はもう止めないよ。』

ベラムはいつもと違い、少し悲しそうに笑った。そこへ、アネモイがとことこ走ってきた。

『スズリ先輩ー!』

『アネモイ、何しに来た。俺を止めようとしても無駄…』

『違います!これを!』

アネモイの手の中には、金色に輝く果実があった。

『なんだこれは。』

受け取ると、それはスズリの身体の中に溶け込んでいった。

『そ、それは、もし魔力が必要になった時などに所持者に緊急の魔力を授けるものです!』

『アネモイちゃん、それ使ったら多分今のスズリンの体が魔力のキャパオーバーで壊れる。』

『えぇ?!ほ、本にはそんな事書いてなかったのに…。今すぐ取り出します!』

体に触ってこようとするアネモイの頭を抑え、スズリは笑った。

『別に構わん。使う事などないだろうし、弟子からの餞別だと思ってありがたく受け取っておくよ。』

『スズリ先輩…』

アネモイの瞳に、大粒の涙が溜まっていった。

『あぁ泣くな。全く、お前の泣き虫はいつまでも変わらないままだな。」

『泣いてなんかないです!こ、心の汗です!』

『あははは!アネモイちゃん面白いねぇ。さっ、旅立つひとを、2人で見送ろう。』

『ゔぅっ……はい〝…!』

優しく笑う絶対神と泣きながらも笑おうとする弟子に、スズリは微笑んだ。

『またな、2人とも。』

そう呟いて、スズリは歩いて行ったー。






「室長!これ以上は機材がもちません!今すぐ中止しないと!」
「もうやめてください!」

研究者5人ほどが、ミゼリアを止めようとしている。

「黙れぇ!もうすぐで魔水槽が完全に溜まる!お前達は引っ込んでろ!」

警告音や怒号が聞こえてくるが、スズリはそんな事どうでもよかった。そして、限界を迎えた肉体に鞭を打ち、小さく呟いた。



「……『黄金の果実アネスラム』」




途端に、スズリの足元に魔法陣が生じて室内に風が吹き荒れた。風は部屋の壁や機材を切り裂いていく。

「な、なんだ?!」

ミゼリアや研究員の驚く声がする中、風はスズリを中心に吹き荒れた。

そして風がやむと、そこには1匹の綺麗な白い毛を持つ大きな狼がいた。
研究者達は狼の殺気に怖気づき、腰を抜かしたり震えていた。

「な、何をしている!早くコレを殺せ!」

「は、はいー」

部下の言葉が言い切ると同時に、頭が胴体から切り離された。

「ひぃっ?!」

ミゼリアは機材の後ろに逃げ隠れた。他の研究者達は、スズリに胴体の半分を噛み砕かれたり頭を引きちぎられた。


一瞬でその場が血の海になり、残ったのはミゼリアだけになった。
スズリはゆっくり歩いて、ミゼリアに近づいていく。

「ま、待ってくれ!あの娘とあなたはすぐに森にでも返す!だから、命だけは!森が邪魔だと言ったのも謝る!キャロルに研究所の拡張を言われて、森の木の根が邪魔なだけだったんだ!どうかこの通りっ!」

ミゼリアは泣きじゃくりながら、土下座をしている。スズリは哀れなものを見る目で見下ろした。その瞳には、同情の余地など一片も無かった。

スズリは振り返ってミゼリアから離れて行った。ミゼリアはポカンとしたが、すぐに正気に戻り懐から短刀を取り出した。
そしてスズリめがけて走り出し、大きく振りかぶった。

「死ね!この化け物gー」

スズリは後ろを見る事なく、尻尾を縦に振った。

ミゼリアの体は真っ二つになり、血飛沫が壁に飛んだ。  


スズリは水槽に近づき、赤いボタンの上にあるケースを噛み砕いた。おそらく、もし研究所がバレた時のための爆破スイッチなのだろう。
スズリは水槽を眺め、震える手でスイッチを押した。警告音のような物が鳴り響いた。


「ーぐっ!」


突然スズリの体に激しい痛みが襲い、その場で静かに倒れ込んだ。













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