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第5章
第81話
しおりを挟む次の日の昼、エリスさんと森の入口に近づいた時だった。
「あ、今日はみなさんに会いたいという方がいるんです!」
「え、誰ですか?」
「とりあえずこっちへ。」
案内された所へ行くと、大きな切り株に1人の男が座って寝ていた。
「主様、起きてください!みなさん来ましたよ?」
「………んん…ぁあやっと来たか。」
「えっと…エリスさんこの方は?」
「こちらはこの…」
「悪いが、この少年とそこの神具の男以外は席を外してくれるかな?少し話がしたい。」
俺たちは、初対面の男性がスサノオを神具と見抜いた事に驚いた。スサノオは驚いておらず、エリスは???のような感じだったが。それに、この男は少し妙な感じがした。
(この人、魔力をほとんど感じない…)
「ロゼッタ、紅葉とりあえずエリスさんと花探しでもして待っててくれるかな?」
「…わかりました。終わったら声をかけてください。」
「レイ、気をつけるのじゃぞ。」
「大丈夫だよ。」
俺とスサノオは男の横に腰かけた。
「えっと、お名前は…」
「俺の名はスズリ、前風神だ。」
「え?!」
俺は男の正体に驚いた。スサノオは当たり前のような顔をしていたが。
「そこの神具の男とは、以前何度か会っていてな。元気そうで何よりだ。」
「お久しぶりです、スズリ様。」
「それと…少年、お前は何者だ?神々に似た力を感じるのだが…。」
「えっと…実はー。」
俺は転生し、12の神から加護を授かった事を話した。スズリ様は、最初は驚いていたが後の方は納得したような表情だった。
「なるほどな、それでこんなにも神に似た力を感じるわけか。アネモイは元気か?あいつを風神に任命したのは俺だから、少し気がかりでな。」
「はい!少しおどおどしている感じもしますが…しっかり風神の役目を果たしておられましたよ。」
「そうか…なら良かった。」
スズリ様は少し頰を緩めた。久しぶりに弟子の事を聞けて安心したのだろう。
「あの…何でこのような所に?神様ってこちらに直接干渉出来るんでしたっけ?」
「いや、基本的には禁止されている。この森は、この世界が出来る時に俺がほとんど手がけたんだ。綺麗なところだろ?」
「えぇ、魔物もほとんどいないし空気も澄んでますね。」
だがスズリ様は少し悲しそうな顔をした。
「でも、ここの生態系を乱そうとするクズがいてな。仕方なく俺は力のほとんどをアネモイに託して、その代わりにこの森を護ってるってわけだ。力を捨てるなら、特別に降りても良いとベラムに言われたからな。まぁ今となっては、あそこにいる嬢ちゃん達にも敵わなくなったが。」
向こうでは、エリスとロゼッタ、紅葉の3人がいろんな花を見て楽しそうにはしゃいでいる。
ちょうどそこへ、1人のローブを着た男が歩いてきた。
「む…また来たな…。」
ローブを着た男は、スズリ様に一通の手紙を渡した。
「スズリ様、ミゼリア室長からお手紙です。一通り目を通していただけ…」
「帰れっ!ここは譲らんと何度も言ったはずだ!そのバカな室長にもそう伝えておけ!」
スズリ様はものすごい剣幕で、ローブの男を追い払った。
「今の誰だったんですか…?」
「なに、ここらで魔法を研究しているとかいう胡散臭いやつらだ。この森が邪魔だから、消したいといつも言ってくる。」
「ひどい奴もいるもんですね。」
「主人殿に同感だ。これほど綺麗な森は、この大陸に他にないだろう。」
「全く…困った連中だ。」
ちょうどそこへ、エリスさんが一輪の花を持ってきた。 なんだか褒めて欲しい子供のような顔をしている。
「はい、主様にこれをあげます。」
「いらん。」
たった3文字の拒否の言葉を即答したのに俺は驚いたが、エリスさんは負けじと反論した。
「せっかく採ってきたんですから受け取ってください!」
そう言って、無理やりスズリ様の手に渡した。嫌そうに受け取りながらも、スズリ様はどこかは嬉しそうだった。
「それで、肝心のウレンゲの花は見つかったのか?」
「全然見つからないですよ!本当にあるのか信じられなくなってきました…。」
「森の守護の俺が言うのだから、間違いない。必ずどこかにあるだろう。」
「でも…」
「そういったものはな、見つけようとすると見つからないが、ふと忘れた頃に偶然見つかる物だ。」
「そうなんですか?なら、ロゼッタさんと紅葉さんと遊んできます!」
「もう遊んでいたではないか…」
スズリ様の呆れ声を無視して、エリスさんは戻っていった。
「お好きなんですね。」
「あぁ、この森はやはり美しい。」
「そういう意味じゃないんですけど…」
「ならどういう意味だ?」
「……なんでもないです。」
ラノベの鈍感主人公みたいな反応に、俺は小さくため息をついた。
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