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第5章
第80話
しおりを挟む「マスター、申し訳ないです。ですが、この花は受け取ってください。」
「レイ見ろ!奇妙な形をした虫を見つけたぞ!」
「…………ごめんなさい。」
あれから2時間が経ち、俺たちは森の入口で合流した。ロゼッタは色とりどりの花を持ち、紅葉は変な奇声をあげる昆虫を嬉しそうに掴み、エリスは申し訳なさそうに下を向いている。
「いや、謝らなくてもいいんですけど…。俺も途中でサボっちゃったし。」
「すまないな、ずっと探していたが見つける事は出来なかった。」
「いいんです!私だってもう半年近く探しているけど見つけてないし…。」
エリスの言葉にみんなが驚いていた。
「半年って…なんでそんなに…。」
「私、祖母とあの家で2人で暮らしているんです。昔は私達以外にも住人はいたのですが、1年くらい前から退去をキャロル子爵に命じられて。」
(キャロル子爵?どっかで聞いたような…あ、謁見にいたやつか。)
「そやつがこのあたりの領主なのか?」
「いえ、この辺りはアルタという街で、領主様はガリア伯爵というキャロル子爵のお父様です。何回か退去を言いに来ましたが、祖母が思い入れのある土地だから絶対にどかないと。私もこの森とか大好きなので、退去はしたくありませんでした。他の方達はキャロル子爵から大金を貰ったようで、すぐに出て行きましたが…。」
エリスの話に俺たちは黙り込んでしまった。が、最初にロゼッタが沈黙を破った。
「それで何故お花を?」
「祖母が昔、森で祖父と見た事があるらしくて。もう長くないから、死ぬ前に一度見たいと…。」
エリスは目に涙を浮かべながら、静かに語った。
「マスター、明日もここに来ましょう。」
「そうだな、まぁ謁見までまだ日にちはあると思うしそれまでのんびりやろうか。」
「妾もこの森の生き物は好きじゃからな!」
「私は主人殿について行くだけだ。」
「みなさん…本当にありがとうございます!他の方達はすぐに帰ってしまって…。私だけじゃ見つけられなくて…。」
そう言ってエリスは大粒の涙を流し始めた。ロゼッタがよしよしと頭を撫でている。
「じゃ、とりあえず今日は帰りますか。エリスさん、また明日。」
「みなさんお気をつけて!私は少し森に用があるので、ここでサヨナラですね。」
そう言ってエリスは森の中に入っていった。
「大丈夫かな…。」
「まぁこの辺りはエリスさんの方が詳しいので大丈夫でしょう。」
「それよりレイ、早く帰って王都で食べ歩きじゃ!」
「主人殿、俺はホワイトウルフの串焼きが食べたい。」
「はいはい、とりあえず依頼書と成果出してからな。」
あたりが夕焼け色に染まる中、4人で王都への道を歩き出した。
--------------
レイ達と別れたエリスは、森の中心に走っていった。ほぼ毎日、畑仕事などしていない時は中心部に行くのが日課だ。
中心部には、一部拓けた場所がありそこには大きな切り株がある。
エリスはそこに向かって走りながら、大きな声を出した。
「主様ー!」
エリスが呼びかけると、切り株に白髪の男の姿が少しずつ現れた。
「……はぁ。なんだ、またお前か。」
男はエリスを見ると、だるそうに返した。
「なんだってなんですか!」
エリスは少し怒りながらも、すぐに嬉しそうな顔になった。
「何しに来た。」
「何って決まってますよ。はい、私の家の畑で採れた新鮮な野菜です!」
エリスは男の横に座り、持っていたカゴからみずみずしい野菜を出した。男は、まただるそうにため息をついた。
「前にも言ったが、私は食などなくても生きていける。」
「そんな事言わずにはい!」
エリスが押し付けたカゴを、男は嫌そうにしながらも受け取った。
「全く、お前は変わったやつだな。」
「主様に言われたくないですよ。」
「……どういう意味だ。」
「えへへ~」
「それより、早く帰らなくていいのか?お前の祖母が晩御飯を作って待っているぞ?」
男は森の中心から見えるはずのないエリスの家を、見えているかのように言った。
その言葉に慌ててエリスは立ち上がった。
「そうでした!私早く戻らな…」
「おい。」
「な、なんでしょう?」
「さっきまでいた4人、あいつらを明日ここに連れてきてくれ。」
「え、いいんですか?普段は人に見られないよう姿を消しているのに…。」
「あいつらは良い、それだけだ。早く帰れ。」
「わかりました!それじゃあ、また明日!」
そう言って、エリスは森の出口へ駆けていった。
「それにしても…あの4人。神獣に武神に神具に近い物を感じたな…。それともう1人は、神をも脅かすやな力だったが気のせいか…?」
そう呟いて、男の姿は霧のように消えていった。
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