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第4章
第67話
しおりを挟むレイ達と別れた紅葉は、先程門の近くにいたある人物の所へと走っていった。思っていた通り、入り口のあたりでまだその人物は困っているのかウロウロしていた。
「おい、貴様さっきから何をしている?」
紅葉に声をかけられた巨漢の男は、大袈裟に驚き振り返った。
「お、おで…?!す、すまねぇでさ!もじかしてなんか迷惑をかけたなら謝るでさ!許してぐれ!」
男の思った以上に癖のある話し方に、紅葉は一瞬たじろいだがすぐに気を取り直した。
「と、とりあえず、そこに立っていては通行人の邪魔になるじゃろ。どこかの店に入るぞ。」
「ぇ…?えぇっ?!そ、そんなわざわざ面目ねぇ!す、すまねぇな…おで昔っからこんなんで…」
「すぐそう萎れるな!いいから行くぞ!」
(全く!やはり昔の妾にそっくりじゃ!)
紅葉はイライラしながら、男の腕を引っ張っていった。
ひとまず、デッキのある飲食店に入り昼食をとることにした。2人でオススメの料理を頼み、席に座った。
「貴様、ここに何をしに来たんじゃ?妾達が依頼から帰って来る前から、あそこにおっただろ。」
男は紅葉の言葉が入ってきていないのか、あたりをキョロキョロ見回している。紅葉はイライラして机を叩いた。
「おいっ!聞いておるのか!」
「んだっ?!す、すまねぇでさ!おでここに来たの初めてでよ…ここは色んな人で賑わってるんだな…」
紅葉は男のマイペースさに呆れたと同時に、やはり昔の自分の姿をどこか重ねていた。
「それで貴様は…そういえば名前はなんじゃ?」
「おでか?おではダイだ。ただのダイだ。えっど…あんたは…?」
「妾は紅葉だ。ダイか…ならダイよ、何をしに王都に来たんじゃ?聞いていた感じだと、ここらの住人ではないのだろう?」
そう聞くとダイは突然モジモジし始めた。
「はよ言わんか!」
「…その…笑わねぇでくれるか…?」
「別に笑ったりはせん。早く言わんか。」
「……その…花を買いたくて今日はここに来たんだ。」
「花?」
「うん…おでの先輩というか…友達なのか、上司かわかんねぇけど、女性の人がいるでさ。そいで、もうすぐその人の誕生日がなんだけど…おで毎年なにも渡せてなくて、じゃけど今年は大きい仕事があってしばらく会えなくなるかもしれねぇから最後にお礼をしだくでな…。」
「良い理由ではないか。それなら早く昼を済ませて、花を探しに行くぞ。」
「本当か?!すまねぇな…おでなんかのために。紅葉さんはずいぶんお人好しなんだな。」
「気にするな、ダイが昔の妾に似ておって体が動いたまでだ。」
「昔の紅葉さんにおでが?」
「とにかく、そやつにあう花を探しに行かんとな!」
昼食を終え、2人は王都を散策した。花屋はいくつかあるので、1つずつ回ることにした。とりあえず、1軒目で一通り花を見た。
「どんな人なんだ?ダイの意中の相手とは。」
「い、意中だなんてとんでもねぇ!おでなんかがソフィアさんを想うだなんてとんでもねぇでさ!」
「ほぉ、ソフィアと言うのか。それでどんな人なんだ?」
「ソフィアさんは…いつもクールだけどおでなんかにも優しぐて、すんげぇいい人だ。あと、綺麗な水の魔法を使えるんだ!おでは魔法はてんでダメだから本当にすげぇ。」
「なるほどな…。ならソフィアとやらにあう花を自分で探せば良い。わからなかったら、店でその旨を店員に言えば良い。妾は王都に住んではいないが、ここに何度かきて花屋は何軒か見たから他の店も見てみるといい。頑張れよ。」
そう言って紅葉はダイと別れて、レイ達を探そうとした。だが振り返ると、会った時と同じようにダイは店の前でオロオロしていた。
紅葉はイライラしながら、ダイの所へ戻って腕を引っ張り路地裏に連れて行った。
「全く!助言をしてやったのになにをしている!」
ダイは落ち込んでいるのか俯いたままだ。
「おでにはやっぱ無理ださ…昔っからそうだ、親にも疎まれで村を追い出されだし…仲間にも邪魔者扱いされでるしおでなんかが花を渡すなんて…ソフィアさん喜ばねぇだ…。」
それを聞いた紅葉は、ダイの頭を思いっきり扇ではたいた。
「い、いでぇっ!」
「貴様、また逃げるつもりか。さっき毎年何もしてやれてないと言っていたではないか。」
「で、でもおでに花もらっても…ソフィアさん嬉しぐないと思うし…」
紅葉はもう一度頭を叩いた。
「痛いでさ!何するんだ!」
「いいかよく聞けダイよ。『想い』はな、想っているだけじゃ伝わりはせん、魔法を使ってもじゃ。どんなに想っていたとしても、言葉や行動にしなければ少しも相手には伝わらないものじゃ。今回が最後の機会かもしれんのだろ?なら、最後に貴様の『想い』をしっかり伝えてやれ。相手の必死な『想い』を嫌がる者などおりはせん。」
「…そうなのがな…」
「なら、妾が代わりに渡してやろう。」
「そ、それはダメでさ!おでが…!」
ダイは己の言葉にハッと驚いている。
「ふっ、自分でしたいのではないか。なら、早く行ってこい。まだ時間はある、他の花屋も見て回ってこい。」
「……わがった!」
そう言って、ダイはしっかりとした足取りで歩いて行った。
「ま、武神マルスの言葉の受け売りなのだがな…。」
紅葉はダイの後ろ姿を見て安心し、小さく呟いた。
しばらく食べ歩いて、そろそろ帰ろうとしたとき後ろから誰かの呼ぶ声がした。
「紅葉さーん!」
どすどす言いながらこっちにダイが走ってきていた。その手にはキレイな、青色と水色の花束があった。
「いい花が買えたようじゃな。」
「紅葉さんのおかげでさ!あの後違う店に行って、これが目に入ってこれしかねぇと思って選んだんだ!ほんと紅葉さんには感謝しかねぇでさ!」
「キレイな花だな、なんと言う名前なんだそれは?」
「確か…ニーラの花って言う花だ!って紅葉さんも花を買ってたんだな。」
「ダイが必死に探していたからな。妾も大切な人に買いたくなってしまった。」
「そうがそうが!今日は本当に助かったださ!またいつか会ったらお礼をさせてぐれ。」
「礼などいらぬ、またな。」
「んだ、まだな!」
ダイと別れ、屋敷に帰る途中でレイとロゼッタの後ろ姿を見つけた。紅葉は急いでレイのもとへ駆けつけた。
「あ、紅葉!さっきはどうしたの?」
「それよりこれを見てみろ!ほれっ!」
そう言って隠していた花束をレイの前に出した。花束には紫・黄色・ピンクの花がたくさん並んでいた。
「キレイな花だね!なんて花?」
「店のやつがチスータスの花って言っておったな。」
隣で見ていたロゼッタが驚いて見ていた。
「ま、まさか女豹ごときがマスターに花を?!ど、どうせロクでもない花言葉なんでしょう?」
「そんな事はない!店のやつが花言葉は『変わらぬ心』と言っておった。レイを永遠に愛する妾の心にぴったりじゃ!」
「『変わらぬ心』か…ありがとね、紅葉。あとで部屋に飾っておくよ。」
「妾の想いはレイに伝わったようじゃな!」
紅葉はそう言って、レイの頰にキスをした。
レイは顔を赤くし、ロゼッタは氷の女王のようになっている。
「さ、早く帰って夜食にするぞ!」
「あ、待って紅葉!」
「マスター、急に走ると危ないですよ!」
3人は仲良く屋敷に帰っていった。
----------ーーーー
王都から少し離れた所に、一軒の家がある。ダイはそこの扉をあけて中に入った。
中には、キレイな女性が座って本を読んでいた。
「あら、お帰りなさい。随分遅かったのね?」
「ちょ、ちょっと出掛けてたんださ。あ、あのソフィアさん、これっ!」
そう言って、ダイは背中に隠していた花束をソフィアに渡した。
「キレイな花ね…。ふふっ、ありがとねダイ。」
「と、とんでもねぇでさ!おで毎年何もしでなかっだし、最後くらいソフィアさんに…」
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「え?!おでなんかでいいのか?」
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「わかっただ!おでソフィアさんを全力で守るでさ!」
「ふふっ、ありがとう。じゃあこの花を飾る花瓶を探してきてくれないかしら?」
「んだ!」
ダイは嬉しそうに小部屋に入って行った。
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