上 下
64 / 210
第3章

第60話

しおりを挟む

観客は、レイの家族やジェラール達以外息を呑んだ。あれだけ始まるまで騒がしかった闘技場も、ジークの嬉しそうな笑い声やジェラールの興奮気味な声しか響いていない。司会の男も口をあんぐり開けて固まっている。
それもそのはず、目の前であり得ない展開が起きたからだ。
時はほんの数秒前に遡る。



『それでは…始め!』
開始の合図とともに、相手は部下の2人が動いた。俺達からすれば、スローモーションで動いている様にしか見えないので、鑑定をすれば何の魔法を使おうとしているかすぐにわかった。目眩し系の魔法を使い、クソ王子が剣で斬って観客を沸かせるというシナリオなのだろう。

一方こっちの2人は最初からエンジン全開だった。
右では紅葉が持っていた扇を閉じて、腰を入れて構えている。
左ではロゼッタが右手に魔法陣を出現させると、右腕がレールガンのように変化した。

(いや…2人ともそんな武器持ってたの…?)

俺の思考をよそに、2人は一気に魔力を高めた。紅葉の周りには、紅く輝く紅葉が舞い散り、ロゼッタの周りには桜がキレイに舞っていた。


「『紅流くれないりゅういちの型  紅葉貫徹もみじかんてつ』!!」


「武装魔法《モード:電磁投射砲レールガン》…装填完了。『木花之佐久夜毘売コノハナサクヤビメ』発射!」


紅葉はガルルの魔法を打ち消しながら直線に高速移動し、鳩尾に燃える扇を突き出した。ガルルの背中はくの字に曲がり、炎が背中を貫通し闘技場の壁を燃やした。ガルルはそのまま闘技場の壁に激突し動かなくなった。

一方、ロゼッタが詠唱を終えると腕の電磁投射砲の銃口から、火・光魔法を混ぜた桜色の極太の光線が発射され、ギルルを発動しようとしていた魔法もろとも飲み込んだ。光線はそのまま闘技場の壁を破壊し、ギルルは全身火傷を負い裸のまま倒れた。

そこまでにかかった時間、わずか3秒。


そんな光景を目の当たりにすれば、観客が静まるのも当然だった。気付いたら自分たちが勝つと思っていた3人のうち、2人が明らかに戦闘不能なのだ。

ブレイドも倒れた2人を見て固まっていた。だが、ロゼッタと紅葉がそんなクソ王子を逃すはずがなかった。

(よし、俺もそろそろ…ん?)

俺も魔法でいこうと思っていると、ロゼッタと紅葉が2人とも高くジャンプしていた。
そして紅葉は、扇を顔の前で開いていた。ロゼッタの方は、新たに魔法陣が出現し今度はゴツいレーザー銃の様な物で武装した。
空中で紅葉は扇を高く上げ、ロゼッタは銃口をしっかりクソ王子に向けた。



「『紅流・の型  紅葉演舞こうようえんぶ』!!」


「武装魔法  《モード:レーザー砲》…装填完了。 『火之夜藝速男神ひのやぎはやをのかみ』発射!」 


2人が詠唱すると、紅葉の周りにいくつもの魔法陣が出現し、そこから何種類もの光を放ちながら燃える紅葉が舞い飛んでクソ王子に触れると大爆発を起こした。

ロゼッタのレーザー砲には、魔法陣が出現すると光が集まっていき、火魔法の赤色の光線が紅葉より少し遅れて直撃した。


(なんだこれ…。俺まだ何もしてないぞ、 こんなのワン○ンマンのサイタマもびびって髪の毛生えてくるレベルだよ!)


あたりには爆発により煙が立ち込めたが、煙が晴れると真っ裸の状態で焼け焦げた王子が現れた。
観客はその光景をいまだに信じられない様だった。

「よしっ!妾の方が早かったぞ!」

「いいえ、トドメを刺したのは私です。」

「ふんっ、まぁ良い。もう終わりで良いか?」

紅葉が司会の男の方に声をかけると、司会はハッとなり観客に呼びかけようとした。

『し、信じられません!あの王子達が開始からわずか5秒も経たずにノックアウトです!これで勝負は…』

「ちょっと待ったぁぁぁああ!!」

「マスター?!」 「レイ?!」

俺の一声に司会も驚いている。

「何やってんだ2人共!これじゃあ俺のすることなくなってんじゃん!手を出していいとは言ったけど、こいつには罪を償わせるために苦しんで負けてもらおうと思ってたのに!」

「そ、そんな事を思っていたのですね…」

「い、いや、気付いたら体が勝手に動いてたんじゃ。まぁそれほどこの男が嫌いというのもあるが…,。」

「もういい!」

俺は黒焦げの王子の元に行くと、地面に右手を置き怒りながら詠唱した。

「『時の世界樹の雫セフィロト・ゲリンゼル』!!!」

詠唱後、地面から闘技場より大きな巨大樹が出現し、葉っぱの雫が一滴王子に落ちた。
クソ王子の体は一瞬で治り、目を覚ました。服や装備も元どおりになっている。

「……っはぁっ!はぁ…はぁ…。俺は一体…。なんだこの樹は?!」

俺は樹を消して、王子に指をさした。

「おい!お前が一瞬で死にかけたから俺の出番がなかっただろうが!今度は俺がお前に防御魔法をかけてやるから、何しても死ぬんじゃねぇぞ!」

「な、何を言って…」

呆然とするブレイドを無視して、身体に一回触り防御魔法を付与した。

「これで大丈夫なはずだから!早く俺の相手してくれ!」

「なっ!ガキが調子に乗りやがって!」

ブレイドは勝負が始まってから始めて剣を抜き、俺に斬りかかってきた。確かにAランクという事もあり割と早かったが、それでも俺にはスローモーションにしか見えなかった。

一瞬で背後に回り足に魔力を込める。ブレイドが後ろの俺に気づくが、もう遅い。

「1回再起不能にでもなっとけ…『股間蹴りカム・ショット』!!」

「はうっ!」

ブレイドは股間を蹴られ、真上に飛んで行った。

(まぁ防御魔法かけてるし大丈夫だろ。)

俺は空中に先回りして、手に七属性の魔法を付与した。俺の使う魔法に気付いたロゼッタが声をあげた。

「マスター、それだとこの闘技場の床が持ちません!」

「別にいい!あとで俺が直す!」

「そういう問題では…」


「貴様もさっき派手なのを使っていただろうが。」

「何か言いました?」

そんな会話が聞こえてきたが、今はもう目の前でアホ面晒してこっちに飛んでくるこいつをぶっ飛ばす気しかなかった。
俺は両手を上に掲げ、詠唱した。
  
「『妖精王の怒号オベロン・キャノン』!!!」

ブレイドが近くに来た瞬間、両手を突き出すと、七色の魔法陣が出現し、ベジータも怯むような火・水・風・土・光・闇・雷魔法の7つを混ぜた虹色の光線がブレイドを押していき地面に叩きつけた。光線は収まらず、ブレイドごと地面を押し続け、ついには地面が砕け深さ20mくらいの巨大な穴を作った。その中心部でブレイドはまた丸焦げでくたばっていた。

わりと大きな魔法を使って少しスッキリしたので、ブレイドを引き上げ地面に放り投げた。俺の防御魔法がなかったら、もはや体の一部も残っていなかっただろう。

「司会の人!終わったよ!」

司会は、というか観客全員が俺を見てぼけっとしていたが俺の一声で、再びハッとした。

『しょ、勝者!レイ・ロゼッタ・もみじチーム!!!!』

2人の所に行くと、思いっきり抱きしめられた。

「やりましたね、マスター!」

「レイ、さっきの魔法は見ててスッキリしたぞ!やはり妾達がいれば無敵じゃな!」

ティナさんの方を見ると、嬉しそうに手を振っていて、俺たちも振り返した。

------------ーー

闘技場の柱の陰で、ローブを着た男が試合をみて満面の笑みを浮かべていた。

「これはこれは…なんという魔法を使うんだ♫3人とも私なんかより遥かに強い…!ですが…」

男は手袋を外し、指パッチンをした。

「まだまだ面白い戦いを私に見せてください…!あぁ…レイ君…!君をみているだけで私はイッてしまいそうだよっ!」

男は嬉しそうに声をあげた。
しおりを挟む
感想 191

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

今のは勇者スキルではない、村人スキルだ ~複合スキルが最強すぎるが、真の勇者スキルはもっと強いに違いない(思いこみ)~

ねぎさんしょ
ファンタジー
【完結保証】15万字足らず、約60話にて第一部完結します!  勇者の血筋に生まれながらにしてジョブ適性が『村人』であるレジードは、生家を追い出されたのち、自力で勇者になるべく修行を重ねた。努力が実らないまま生涯の幕を閉じるも、転生により『勇者』の適性を得る。  しかしレジードの勇者適性は、自分のステータス画面にそう表示されているだけ。  他者から確認すると相変わらず村人であり、所持しているはずの勇者スキルすら発動しないことがわかる。  自分は勇者なのか、そうでないのか。  ふしぎに思うレジードだったが、そもそも彼は転生前から汎用アビリティ『複合技能』の極致にまで熟達しており、あらゆるジョブのスキルを村人スキルで再現することができた。  圧倒的な火力、隙のない肉体強化、便利な生活サポート等々。 「勇者こそ至高、勇者スキルこそ最強。俺はまだまだ、生家<イルケシス>に及ばない」  そう思いこんでいるのはレジード当人のみ。  転生後に出会った騎士の少女。  転生後に再会したエルフの弟子。  楽しい仲間に囲まれて、レジードは自分自身の『勇者』を追い求めてゆく。  勇者スキルを使うための村人スキルで、最強を証明しながら…… ※カクヨム様、小説家になろう様でも連載予定です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

処理中です...