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第3章
第60話
しおりを挟む観客は、レイの家族やジェラール達以外息を呑んだ。あれだけ始まるまで騒がしかった闘技場も、ジークの嬉しそうな笑い声やジェラールの興奮気味な声しか響いていない。司会の男も口をあんぐり開けて固まっている。
それもそのはず、目の前であり得ない展開が起きたからだ。
時はほんの数秒前に遡る。
『それでは…始め!』
開始の合図とともに、相手は部下の2人が動いた。俺達からすれば、スローモーションで動いている様にしか見えないので、鑑定をすれば何の魔法を使おうとしているかすぐにわかった。目眩し系の魔法を使い、クソ王子が剣で斬って観客を沸かせるというシナリオなのだろう。
一方こっちの2人は最初からエンジン全開だった。
右では紅葉が持っていた扇を閉じて、腰を入れて構えている。
左ではロゼッタが右手に魔法陣を出現させると、右腕がレールガンのように変化した。
(いや…2人ともそんな武器持ってたの…?)
俺の思考をよそに、2人は一気に魔力を高めた。紅葉の周りには、紅く輝く紅葉が舞い散り、ロゼッタの周りには桜がキレイに舞っていた。
「『紅流・壱の型 紅葉貫徹』!!」
「武装魔法《モード:電磁投射砲》…装填完了。『木花之佐久夜毘売』発射!」
紅葉はガルルの魔法を打ち消しながら直線に高速移動し、鳩尾に燃える扇を突き出した。ガルルの背中はくの字に曲がり、炎が背中を貫通し闘技場の壁を燃やした。ガルルはそのまま闘技場の壁に激突し動かなくなった。
一方、ロゼッタが詠唱を終えると腕の電磁投射砲の銃口から、火・光魔法を混ぜた桜色の極太の光線が発射され、ギルルを発動しようとしていた魔法もろとも飲み込んだ。光線はそのまま闘技場の壁を破壊し、ギルルは全身火傷を負い裸のまま倒れた。
そこまでにかかった時間、わずか3秒。
そんな光景を目の当たりにすれば、観客が静まるのも当然だった。気付いたら自分たちが勝つと思っていた3人のうち、2人が明らかに戦闘不能なのだ。
ブレイドも倒れた2人を見て固まっていた。だが、ロゼッタと紅葉がそんなクソ王子を逃すはずがなかった。
(よし、俺もそろそろ…ん?)
俺も魔法でいこうと思っていると、ロゼッタと紅葉が2人とも高くジャンプしていた。
そして紅葉は、扇を顔の前で開いていた。ロゼッタの方は、新たに魔法陣が出現し今度はゴツいレーザー銃の様な物で武装した。
空中で紅葉は扇を高く上げ、ロゼッタは銃口をしっかりクソ王子に向けた。
「『紅流・肆の型 紅葉演舞』!!」
「武装魔法 《モード:レーザー砲》…装填完了。 『火之夜藝速男神』発射!」
2人が詠唱すると、紅葉の周りにいくつもの魔法陣が出現し、そこから何種類もの光を放ちながら燃える紅葉が舞い飛んでクソ王子に触れると大爆発を起こした。
ロゼッタのレーザー砲には、魔法陣が出現すると光が集まっていき、火魔法の赤色の光線が紅葉より少し遅れて直撃した。
(なんだこれ…。俺まだ何もしてないぞ、 こんなのワン○ンマンのサイタマもびびって髪の毛生えてくるレベルだよ!)
あたりには爆発により煙が立ち込めたが、煙が晴れると真っ裸の状態で焼け焦げた王子が現れた。
観客はその光景をいまだに信じられない様だった。
「よしっ!妾の方が早かったぞ!」
「いいえ、トドメを刺したのは私です。」
「ふんっ、まぁ良い。もう終わりで良いか?」
紅葉が司会の男の方に声をかけると、司会はハッとなり観客に呼びかけようとした。
『し、信じられません!あの王子達が開始からわずか5秒も経たずにノックアウトです!これで勝負は…』
「ちょっと待ったぁぁぁああ!!」
「マスター?!」 「レイ?!」
俺の一声に司会も驚いている。
「何やってんだ2人共!これじゃあ俺のすることなくなってんじゃん!手を出していいとは言ったけど、こいつには罪を償わせるために苦しんで負けてもらおうと思ってたのに!」
「そ、そんな事を思っていたのですね…」
「い、いや、気付いたら体が勝手に動いてたんじゃ。まぁそれほどこの男が嫌いというのもあるが…,。」
「もういい!」
俺は黒焦げの王子の元に行くと、地面に右手を置き怒りながら詠唱した。
「『時の世界樹の雫』!!!」
詠唱後、地面から闘技場より大きな巨大樹が出現し、葉っぱの雫が一滴王子に落ちた。
クソ王子の体は一瞬で治り、目を覚ました。服や装備も元どおりになっている。
「……っはぁっ!はぁ…はぁ…。俺は一体…。なんだこの樹は?!」
俺は樹を消して、王子に指をさした。
「おい!お前が一瞬で死にかけたから俺の出番がなかっただろうが!今度は俺がお前に防御魔法をかけてやるから、何しても死ぬんじゃねぇぞ!」
「な、何を言って…」
呆然とするブレイドを無視して、身体に一回触り防御魔法を付与した。
「これで大丈夫なはずだから!早く俺の相手してくれ!」
「なっ!ガキが調子に乗りやがって!」
ブレイドは勝負が始まってから始めて剣を抜き、俺に斬りかかってきた。確かにAランクという事もあり割と早かったが、それでも俺にはスローモーションにしか見えなかった。
一瞬で背後に回り足に魔力を込める。ブレイドが後ろの俺に気づくが、もう遅い。
「1回再起不能にでもなっとけ…『股間蹴り』!!」
「はうっ!」
ブレイドは股間を蹴られ、真上に飛んで行った。
(まぁ防御魔法かけてるし大丈夫だろ。)
俺は空中に先回りして、手に七属性の魔法を付与した。俺の使う魔法に気付いたロゼッタが声をあげた。
「マスター、それだとこの闘技場の床が持ちません!」
「別にいい!あとで俺が直す!」
「そういう問題では…」
「貴様もさっき派手なのを使っていただろうが。」
「何か言いました?」
そんな会話が聞こえてきたが、今はもう目の前でアホ面晒してこっちに飛んでくるこいつをぶっ飛ばす気しかなかった。
俺は両手を上に掲げ、詠唱した。
「『妖精王の怒号』!!!」
ブレイドが近くに来た瞬間、両手を突き出すと、七色の魔法陣が出現し、ベジータも怯むような火・水・風・土・光・闇・雷魔法の7つを混ぜた虹色の光線がブレイドを押していき地面に叩きつけた。光線は収まらず、ブレイドごと地面を押し続け、ついには地面が砕け深さ20mくらいの巨大な穴を作った。その中心部でブレイドはまた丸焦げでくたばっていた。
わりと大きな魔法を使って少しスッキリしたので、ブレイドを引き上げ地面に放り投げた。俺の防御魔法がなかったら、もはや体の一部も残っていなかっただろう。
「司会の人!終わったよ!」
司会は、というか観客全員が俺を見てぼけっとしていたが俺の一声で、再びハッとした。
『しょ、勝者!レイ・ロゼッタ・もみじチーム!!!!』
2人の所に行くと、思いっきり抱きしめられた。
「やりましたね、マスター!」
「レイ、さっきの魔法は見ててスッキリしたぞ!やはり妾達がいれば無敵じゃな!」
ティナさんの方を見ると、嬉しそうに手を振っていて、俺たちも振り返した。
------------ーー
闘技場の柱の陰で、ローブを着た男が試合をみて満面の笑みを浮かべていた。
「これはこれは…なんという魔法を使うんだ♫3人とも私なんかより遥かに強い…!ですが…」
男は手袋を外し、指パッチンをした。
「まだまだ面白い戦いを私に見せてください…!あぁ…レイ君…!君をみているだけで私はイッてしまいそうだよっ!」
男は嬉しそうに声をあげた。
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