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第3章
第53話
しおりを挟む男は数秒でティナを抱きしめる手を緩めた。
「今日は休みなのかい?その服も似合ってるね!」
「そ、そうですか…ありがとございます…。」
「おや、そちらの方は?お友達かな?」
ロゼッタはすでにこの男が気に入らなかったが、一応挨拶だけはしておく。名前は教えないが。
「はい、そうです。」
「可愛らしいお友達だね。えっと、名前は…」
「おーい!」
ちょうどそこに、マスターを引っ張った紅葉が来た。
「見ろティナ!レイが美味そうな菓子を見つけたぞ!って誰だこいつは?」
「申し遅れました。私の名はブレイド・リラ・ダライアス。この国の第2王子であり、ティナの婚約者でもあります。」
やっと紅葉のお菓子選びが終わって戻ってきたと思ったら、ティナさんの婚約者がいてレイは驚いた。
「ふーん、こいつがか。明らかにレイよりよわ…」
「紅葉!王子様だから!不敬罪になる!」
王子に対して紅葉はあまりいい印象を持たなかったらしいが、慌ててレイは紅葉を止めた。ブレイドは紅葉の態度を特に気にせず、笑顔のままだった。
「あはは!大丈夫ですよ。ティナのお友達を不敬罪を、なんてつもりはありませんから。それより今日はティナに付き合ってくれて、ありがとうございました。私からも礼を言わせてもらいます。」
そう言ってブレイドはレイの前に屈んで握手を求めてきた。
「いえいえ、こちらこそ案内してもらっていたので…。」
だが、そこである事に気付いた。最初はいい人なのかと思ったが、首のあたりに鎧で見えるか見えないかくらいの位置に、小さな鬱血痕があった。それに少し甘い香りがした。
(もしかしてこの人…)
とりあえず握手を返すと、満足したのかブレイドは立ち上がって帰っていった。
「それじゃあ、ティナ。今夜は楽しみにしているよ。」
「は、はい…。」
帰り際にブレイドに声をかけられ、ティナさんはびくっ!っと驚いていた。さっきより明らかに顔色も良くない。
(一応あれを使っておくか…)
みんなから少し離れて、レイは魔法袋から、1体の桜色の妖精の形をしたペザンテ鉱石製人形と、透明な魔石を取り出した。魔石を胸のあたりに埋め込み、魔力を一気に通した。すると、妖精は目を開けてレイの周りをくるりと嬉しそうに飛んだ。
「ちょっとじっとしててな…。」
そう言ってレイは妖精の魔石に、『気配隠蔽』・『透明化魔法』・『映像記憶魔法』・『転移魔法』の4つを付与した。普通の魔石ならここまでの数は付与でないが、神獣の魔石を使っているのでこれ位ならいけそうだ。そしてもう1つ魔石を取り出し、そっちには『接着魔法』・『転移魔法』を付与して魔力を通して妖精に持たせた。
これで完全にバレる事のない、ドローンの様な物が出来上がった。
「じゃあイヴ、あの鎧を着た男の監視よろしくな。明日の朝、俺のところに戻ってきてくれればいいから。それと今持ってる魔石を、ティナさんにバレない様に貼ってきてくれ。」
そう言うと、妖精のイヴは1回頷いて透明になりどこかへ飛んで行った。
「これで大丈夫かな…。」
みんなの所に戻ると、夕焼けが広場を染める中、ティナさんは噴水の縁に疲れきって座っていた。ロゼッタが背中をさすり、紅葉は男が帰って行った方を睨んでいる。
「大丈夫ですか?」
「先程よりも体調は大分良いようです、マスター。」
「それよりあの軟弱男はティナの婚約者なんだろ?やっぱり私達と同じであまり気に入っておらんようだが…何かあったのか?」
紅葉に問われティナは口を開いた。
「…そうね。私はこの国の騎士団の副隊長を務めてるんだけど、昔から剣ばっかり振るっていたから出会いなんてなくてね、父親がいい加減身を固めろって。それであの人を紹介されたんだけど…剣の腕は確かで冒険者ランクもAなんだけど、王子の仕事は兄に任せたり魔物狩りで遊んでばっかとかで、あまりいい噂を聞かないから距離をとってたんだけどね。でも、今夜私の家族と彼の家族で食事会があるのよ。」
「そうだったんですか…。」
「流石に家族ぐるみの食事会だから断るわけにもいかなくてね…。」
「よし!なら妾が断って…!」
すると慌ててティナさんは立ち上がった。
「だ、だめ!そんな事したら大問題になっちゃうから!私はもう大丈夫だから、帰って今夜の準備をするわね。またね!」
そう言ってティナさんは急いで帰ってしまった。紅葉はティナの後ろ姿を心配そうに見ていた。
「ティナ、大丈夫だろうか?」
「何かあっても大丈夫ですよ。マスターがいろいろやってくれていたみたいですしね。」
ロゼッタはお見通しだと言わんばかりの笑顔をレイに向けた。
「う〝っ…!バレてたか…。」
その言葉に紅葉は一転して嬉しそうな顔になり、頰を擦り寄せてきた、
「本当か?!なら大丈夫じゃな!レイに不可能はないからのぉ~。」
「離れなさい!それなら私はマスターと熱い抱擁を…!」
「やめろ!」
こうして王都の散策は幕を閉じた。
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