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第3章
第47話
しおりを挟むアリアとギルドマスターが2階の吹き抜けからこっそり下の様子を見ると、レイに冒険者パーティーの4人が話しかけていた。
リーダーのジャンは片手剣に盾を使ったEランク冒険者、もう1人の男は弓を持った同じくEランクのドミニク。後ろの女性・エリーはFランクのヒーラー、もう1人のクレアという女性は確かFランクの魔道士だ。
皆ランクから分かる通り、まだ冒険者になってから1年ほどしか経っていないパーティーだ。それこそゴブリンやホワイトラビットなど、小さなも魔物しか狩った事ないのだろう。
そんな自分たちより小さな、まだ冒険者登録さえしてない子供があのミノタウロスを狩ったと言うのだ。文句をつけたくなるのも分からなくもないが、レイの実力を少しでも知っているアリアからすれば、絡んだパーティーの方が哀れに思えた。他の受付嬢が止めようとしているが、ジャンは顔を真っ赤にして話を聞いていない様だし、周りの冒険者達は喧嘩になったらどっちが勝つを懸け始めている。
隣でギルドマスターのジェラール・サーガは嬉しそうにその様子を眺めていた。
「あのギルドマスター、なんでレイ君の事を知ってるんですか?」
「んー?前に1度、彼がここに来た時の喧嘩の後、声をかけたんだよ。あの時の速さと技は5歳にしては見事だったしねぇ。今度はどんな技を見せてくれるのかな?!」
「さ、さぁ…。」
(完全に楽しんでるわねこの人…。)
とりあえず下の様子をジェラールと眺める事にしたアリアだった。
「何が言いたいんでしょうか?」
俺は出来るだけ丁寧な言葉で返すよう努めた。
リーダーっぽい男は後ろの女性2人にやめるよう言われているが、聞く耳を持っていない。もう1人の男も困った顔をしている。3人とは気が合いそうだ。
「だからね、たまたま拾った魔物を自分で狩ったなんて言わない方がいいって事だよ。」
そう言って男は紅葉とロゼッタをちらっと見た。2人とも男に微塵の興味も示さず、むしろギルドの内装に興味津々だった。
(なるほどね…かっこいい所を2人に見せようって事か。どいつもこいつも自分の息子にしか血回ってないのか。ここは出会い系みたいな場所じゃねぇよ。)
俺は苛立ちを抑え、なるべく顔に出さずに対応することにした。
「何を言っているのかわかりませんね。俺は自分で狩った魔物を換えて貰いに来ただけですよ?」
男は、確か後ろの人にジャンと呼ばれていた人は俺が言う事を聞かないからか、ついに怒り口調になった。
「だから!そうやって人を騙しちゃいけないって言ってるんだ!そちらの女性も子供だからって騙されてるんじゃないのか?」
そう言ってジャンは2人を見たが、2人は全く聞く耳を持っておらず、ロゼッタは真顔でジャンを不思議そうに見つめ、紅葉に至ってはギルドの食事メニューを見て目を輝かせていた。
「なら、これを持ち上げてみては?」
俺はジャンの目の前にフェンリルの遺体を魔法袋から出した。周りで見ていた冒険者達は、俺が魔法袋を使うのに驚いていたが、さらにそこから巨大な白狼を出した事に余計驚いていた。
上で見ていたアリアも目を見開いている。ジェラールだけは、より嬉しそうな顔をしていたが。
「あれはっ!神獣のフェンリル?!そんな、本に載ってる伝説の生き物ですよね?!」
「どうやら本物みたいだねぇ。いいよいいよ!もっと僕を楽しませてくれ!」
「ギルドマスター…」
「な、なんだこの大きな狼は…。」
ジャンは目の前の子供が出した魔物に驚いていた。後ろの魔道士っぽい人だけが、その正体を知っているようで震えていた。
「フェ、フェンリル…」
その子の言葉にギルド中の冒険者が固まった。
ジャンはハッとなりレイを見た。
「ば、馬鹿な!そんな事有るわけがないだろう!」
「でも今この子…魔法袋を…」
「ハッタリだ!これくらい俺でも…!」
そう言ってジャンは自分の何倍もあるフェンリルを持ち上げようとしたが、どれだけ力を入れてもビクともしなかった。
「ぐっ…!なんて重さだ…!」
「もういいです。」
俺はジャンを押し退け、フェンリルを片手で持ち上げて魔法袋に投げ入れた。
「これでわかってくれましたか?もういいですよね?」
(頼む、めんどくさいからこれでもう引っ込んでくれ。)
だが俺の願いも虚しく、その場を去ろうとした俺の肩をジャンは掴んだ。
「お、俺は認めないぞ!俺と勝負しろ!」
「……はぁ……。」
俺は本日何度目かの深いため息をついた。
(もう「そんなに強く引っ張ったら服が破けちゃうだろうが!駆逐してやるっ!」って言ってうなじを削いでやりたい…。)
「レイー後でこの『レッドウルフのすーてき』とやらを奢ってくれ~。」
紅葉はカウンターで、いつのまにか頼んだ酒をグビグビ飲んで、嬉しそうにメニューを掲げていた。
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