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第2章
第35話
しおりを挟む「小僧…その姿は何だ…」
バハルは俺の姿の変わりように驚いているようだった。
おっさんを殺された時と同じように暴走はせず、魔力を体内に高密度にためている。これでさっきよりは、この国を破壊する心配はないだろう。今、俺の中にはこの国の龍達と似た魔力が混ざっている。
叢雲の魔力を取り込んだお陰だった。
「…なんとかうまくいったみたいだな。さっさと終わらせるか。」
「…!たわけが!」
吠えたバハルは全速力で突っ込んできた。
俺はロゼッタをしまい、左手に叢雲の鞘を持ち、右手で柄を握った。そして目を閉じて、バハルの魔力が迫ってくるのと感じ、左親指で鯉口を切る準備をした。
「…『居合・大鏡』」
そしてバハルとすれ違い様に抜刀した。
「ごはぁっ!」
後方でバハルが血反吐を吐く声がした。
振り返ると、バハルは無様に地面にうずくまり口と斬った腹から青い血を流し苦しそうにしていた。
「ぐっ…この我が!こんな小僧にやられてたまるかぁ!」
そして立ち上がって天を仰ぐと、バハルの足元に巨大な魔法陣が浮かんだ。
魔法陣から黒い触手が何本も出現し、バハルの体に巻き付いていく。
バハルの体はみるみる巨大化していき、高さ20m程の龍になった。これが本来の姿なのだろう。
「ハ、ハハハハハ!我をここまでにするとは光栄に思うが良い!今叩き潰してやるわ!」
「………………。」
俺は黙ってバハルを見上げていたが、バハルは再びブレスをはこうとした。
俺は顔面のあたりまでジャンプして、右手に龍の魔力を付与し殴り飛ばした。
ブレスはあらぬ方向にはかれ、バハルは驚き目を見開いていた。
「ぐぁっ!な、何故貴様がこの魔法を…!」
そのまま龍の翼で飛び、バハルの翼を刀で切り刻んでいった。傷口から煙が上がったが、修復は追いついていなかった。
先程の魔法で、残りの命を削りすぎたのと同時に傷を治す魔力もあまり残っていないのだろう。バハルがくたばるのも時間の問題だ。
「ぐぉぉぉ…。すばしっこい小僧め!」
バハルが尻尾を俺の方へと振り回してきたので、叢雲を抜き魔力を流した。そして飛びながら「八相の構え」をとる。
「『龍神の舞』」
そして尻尾の周りを高速で一周して、そのまま飛んで距離をとった。振り向いたと同時に、バハルの尻尾が切れて地面に転がった。尻尾は地面で少し動き回ったが、最後には力なく落ち着いた。
俺は地面に降り、苦しむバハルを見据えるた。
「ぐぁああああああ!貴様、我の羽と尾を!」
バハルが最後の力を振り絞り、口を開くと今までで1番大きな魔法陣が浮かんだ。この一撃で決めるつもりのようだ。
俺は目を閉じで、精神を落ち着かせた。頭に懐かしい記憶が蘇る。
『今日は秘技を教えてやろう!』
そして少し足を曲げ、背中の翼に力を込めた。
『ちゃんと聞かんか!この技はな…』
バハルは口から巨大なブレスをはいた。俺は地面を勢いよく蹴り、ブレスの中心に向かって飛び出していく。
『己の魔力を意識するんじゃ。そして武器を通して敵の中枢にお前の魔力を流すんじゃ。』
『なんだ、そんなんか。簡単じゃん。』
『なんじゃと?!ちゃんと名前までつけたんじゃぞ!』
『はいはい、わかったって~』
『このガキィ!!』
懐かしい記憶に口元が少し緩む。
(ありがとな、おっさん…)
俺は刀を抜いてバハルのブレスを斬った。
「なっ!貴様我の…」
そのまま勢いを殺さずに、バハルに向かって飛ぶ。俺の体が紅いオーラに包まれた。
「終わりだ…バハル。」
「ま、まて…!」
「『赤龍抜刀術・紅蓮陽炎刃』!!」
受け継がれた一閃は、バハルの心臓を含め全てを紅い炎で焼き斬った。
俺は初めて使った異国の魔力に、さすがに神の加護を受けた体でも少し疲れてその場に座り込んだ。無限の体力でも今回ばかりは疲れた。
龍の鱗と角や羽は、紅い光となり少しずつ消えていく。
「…はぁ…はぁ…終わった…。」
俺は大の字に寝っ転がり、天を見た。
「ありがとな…おっさん。」
最後の紅い光は、空へと消えていった。
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