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シャーロック・カズキとワトソン・フタバ
しおりを挟む「誰だったんだろう…。」
一姫は、あの夜以来ナギサの部屋の前にいた人物を探っていた。
海羊の毛づくろいをする一姫の視線の先では、ナギサ・リヴェルガ・ロイぜの3人が大会まで1週間という事で、2対1の特訓をしている。
「どうかした?」
うーんと唸っている一姫のもとに、二葉が海ダンゴを抱えながら歩いてきた。可愛い二葉と対照的に、いかつい海ダンゴという面白い絵が出来ている。
「あー…まぁ、ちょっとね。」
「ちょっと?」
「えっと…。」
正直、あの事を他の人に話すか迷っていた。寝ぼけて暗かったのもあるので見間違いかもしれないが、龍の眼にはナイフのような物が見えた気がした。
それにまだ誰かもわかっていないので、もしも二葉がその人だった場合、少し危険かもしれないと一姫は考えていた。
ただ、あの二葉がそんな事をするはず無いと思い話すことにした。
話を聞いた二葉は、案の定びっくりした表情でナギサを見ていた。
「だ、大事件じゃないですかそれ…!」
「いやいや、見間違いの可能性もあるから!ただ…」
一姫が視線を戻すと、休憩中のナギサの背中に咲八香が突進していた。ナギサは怒る事なく、困ったように笑っている。
「どうしようかなぁ…。」
「ナギサさんの部屋の前で見張るとか!」
「そんなのすぐにバレるわよ…何より、ナギサにやめろって言われそう。」
「確かに…。」
「とりあえずみんなに聞くしかないか…。」
「聞くって何を?」
「ナギサの印象よ。」
「…………?」
頭に?を浮かべる双葉の腕を掴み、一姫は近くにいる人の所へ歩いていった。
「全然ダメね…。」
「疲れた…。」
あれから1時間ほどが経ち、2人は温泉に浸かって完全にへばっていた。全員に聞いて回ったが、いい人だとか優しい人などありきたりな答えばかりが返ってきた。
「というか、もし犯人がいたとしたら私達が探ってるのがバレたんじゃ…?」
「そうかも…でも、放っておけるわけでもないし…。」
「あ、こんにちは!」
ちょうどそこへ、桶を持ったソフィアが入ってきた。2人と比べて胸は控えめだが、くびれた腰に細く長い足はエルフ特有のプロポーションなのだろう。
「どうしたの?」
「ちょっと汗をかいちゃったので…あ、お二人もどうですか?」
ソフィアは照れながら、お酒の入った桶を渡してきた。小さな瓶に入っている物で、酔いが回りにくい種類のやつだ。
疲れていた2人は何の抵抗もなく、少しだけ口に含んだ。少し苦味があるが、程よい苦味なので簡単に飲める。
「…これ、二葉が作ったの?」
「いえ、知らないタイプのような…。」
「ナギサさんが作ってくれたんですよ!材料が余ったらしく、おすそ分けだと。」
「そうなんだ。」
その後も3人で談笑し、一姫と二葉は先に風呂場を後にした。
「はぁ…だいぶ入ってたわね。」
「もうポカポカ…。」
浴衣に着替え、2人は壁に背を預けて長椅子に座り、海牛の濃厚牛乳を飲んでいた。温まった後に、キンキンに冷えた甘い牛乳がたまらないのだ。
ゆったり牛乳を飲んでいた2人だったが、突然二葉が瓶を手から落とした。瓶が床で割れ、牛乳が床に広がっていく。
「二葉…?どうしたの?」
「なんだか、眠く…。」
二葉はそう小さく呟くと、長椅子に倒れて静かな寝息を立て始めた。
「二葉?!……あれ?」
一姫が驚いて二葉を起こそうとしたが、自分も二葉に重なるようにしてすぐに眠りについてしまった。
その様子を、女湯の入口から誰かがこっそり眺めていたー。
セトエル家の屋敷の中庭で、テレサとリクトは魔法の特訓をしていた。もうすぐ大会があり、2人はそれに出る予定だ。
「一旦休憩にしようか。」
リクトが声をかけ、2人はベンチに座ってサンドイッチを摘んだ。
「それにしても、あんな大会ごときでアイツが現れるのですか?」
「可能性はなくはないよね。そのために、かなりの賞金をかけたし。」
「だといいですが…もし来たら、私が殺してあげますわ…!」
「あはは、僕も混ぜてくれると嬉しいな。」
2人は貴族とは思えないゲスな笑みを浮かべ、青い鎧の戦士を思い浮かべた。
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