8 / 40
龍の長女の昔話
しおりを挟む「な、なんじゃこりゃ…。」
夕焼けが海を照らす中、俺は目の前の光景が信じられなかった。
海牛と海羊を囲むエリアが既にできており、海牛たちは既に柵の中に入れられている。中心には、たくさんの木が並べられていた。
「どんだけ持ってきたんだ…。」
「主人よ、どうじゃあの木の数は。」
目が点になってる俺のところへ、リヴェルガが嬉しそうに話しかけてきた。
「なんというか…持ってきすぎかな。」
「なに、1つの街を作るんだ。あれくらいあって当然だろ!」
「いつから街になったんだ…。」
リヴェルガは俺の言葉を無視して、豪快に笑いながら戻っていった。
「みんな、出来たわよ!」
「自信作ですわ!」
声のした方を向くと、一姫と五十鈴が即席のテーブルの前にいた。テーブルには、美味しそうな肉などが並んでいる。
「いい匂いがします!ほら、ナギサさんもいきましょう!」
木を運ぶ作業をしていた俺たちは、夜食をとることにした。二葉が俺の手をぐいぐい引っ張ってくる。
テーブルのところまで行くと、そこにはたくさんの料理が並んだいた。海牛と海羊の厚切りやスライス、昼間買った食材で作られたサラダなど彩も豊かだ。
「すごい美味しそう!」
「さぁ、どんどん食べてね!はい。」
迷っている俺に、一姫が大きな海牛肉を差し出してきた。ありがたく受け取り頬張ると、肉汁がジュワッと溢れて最高の味わいだった。
「や、やばい…海牛サイコーすぎる…。」
「喜んでもらえて良かったわ。」
「まだ沢山ありますから、遠慮なく食べてくだいね。」
最初はみんなゆっくり食べていたが、誰かが持ち出したお酒で半分近くは酔っ払って宴会のようになっていった。
「ほらぁ~ナギサも飲みなんしぃ。わっちが買った酒はなかなかうまいぞぉ?」
「ちょっ…ち、近いから。」
完全に出来上がった澪凜が、抱きつきながら酒の瓶をぐいぐい俺に押してくる。俺は酒が大好きというわけでもないので少しだけ飲んだいたが、グラスが空になると澪凜がどんどん注いできて困っていた。
「おい、どけふしだら女!ナギサは我と飲み比べをするんだ!」
今度は大きな酒樽を持ったリヴェルガがずかずか歩いてきて、俺の前に酒樽を置いた。
「いや、やるなんて一言も言ってー。」
「なぁに言ってるんだ!我らの主人だぞ?これくらい飲めるはずだ!」
完全に2人とも話が通じないようで困っていると、2人の顔に水がぶっかけられた。見ると、一姫がニコリと笑っている。
「悪酔いはダメよ、2人とも。」
水をかけられた2人は、さっきまでの状態が嘘かのように眠りについた。
「何したの?」
「『睡眠水』よ。さ、行きましょ!」
「うわっ、ちょっと!」
一姫は俺の制止も無視して、空壁の外へと俺を連れ出した。
「どこまで行くんだ?!」
「ちょっと散歩よ!」
あれから、空壁からだいぶ離れた珊瑚礁のあたりに連れていかれた。一姫は大きな岩に座り、俺も近くの海底に腰を下ろした。
「どうかした?」
「別に何もないわよ。ただ少し2人で話がしたくてね。」
「話?」
「うん、私達のことをね。」
一姫は少し遠くの方を見つめて話し始めた。
昔々、ある所に1匹の巨大な龍がいました。大陸の人に龍は神様と崇められ、毎日お供え物をされるほどでした。
ある年、大陸のある国と国で戦争が起きました。片方の国の王に、龍は力添えを頼まれました。最初は断りましたが、あまりにもしつこかったので少しだけ協力するという事になりました。
龍は戦争に参加し、圧倒的な力を見せました。向かってくる人や魔物を焼き殺し、その姿はまるで悪魔の化身とも言われ恐れられました。
結局、敵国は降参して戦争は終わりました。さすがの龍も、体に傷を負い疲れ果てていました。
そんな龍の元に、王がある魔道具を持ってきました。王が持ってきた魔道具は人や魔物の首につけるもので、つけられたものは奴隷となり服従させる禁忌の道具でした。
抵抗する力もなく、龍は8つの首輪をつけられ王の奴隷となりました。戦争の目的は表向きは他国との争いで、本当の目的は龍を戦いの道具にする事だったのです。
それからは、龍にとって地獄のような日々が続きました。
王は気に入らない国に攻める時にはいつも龍を連れていき、最前線に置いて敵を殺させたのです。龍は涙を流しながら、炎をはき大地を震わせていきました。
時が経つにつれ、龍の目から光は消えていきました。
ある日の事、毎度のように王が別の大陸の国を攻めに向かった時です。
海の上に、1人の若者が立っていたのです。船に乗っていた兵士たちは驚きながらも、若者に尋ねました。
『キサマは何者だ。』
『…………。』
兵士が問うても、若者は何も言いません。若者は船の進路を塞いでいたので、兵士たちは大砲で殺そうとしました。
ですが、砲弾は若者の前に突如現れた水の壁にあっさり塞がれました。兵士たちはおどろき、弓矢などで殺そうとしましたが全て簡単に塞がれてしまいます。
見兼ねた王が、龍に若者を殺すように命令しました。龍は海に潜り、若者を喰らい尽くそうとしました。
瞬間、若者は手に三叉槍を造り、目にも留まらぬ速さで龍の首輪を全て壊したのです。
驚いている龍に向かって、若者は言い放ちました。
『お前たちはもう自由だ。好きなところへ行け。』
怒った王が兵士たちに龍ごと殺すよう命令しましたが、若者は三叉槍を船に投げつけました。三叉槍は船を真っ二つにし、王もろとも海の底へ沈めてしまいました。
龍は自由の身となり、海の中で静かに暮らしましたとさ。
お終い
ゆっくり昔話をしていた一姫は、視線を俺に戻して小さく笑った。
「っていう伝説があったのよね。」
「………そうだったのか。それで、その若者っていうのは誰なんだ?」
「わからないわ。ただ、どこかナギサに似ていた気がするわね。顔や体格じゃなくて、なんて言うんだろう…雰囲気かな?」
「そんな事言われても…。」
困る俺の元に、一姫はゆったり泳いできた。そして俺の向かいに座り、まっすぐな瞳で俺を見た。
「私達はね、数え切れないくらいの人達を殺したの。命令されていたとはいえ、許される事じゃないわ。」
「………。」
「今でも忘れない。私達を見て怯える人、助けを乞う人…全員の顔が焼き付いているわ。そんな私達を、ナギサ君は受け入れてくれる?」
「…一姫は、自分達のした事に対して罪の意識を持ってるんだよな?」
「…そうね、謝って赦されるものじゃないと思ってるわ。」
「そうか…なら、その罪は一緒に償おうか。」
「………え?」
俺の言葉に、一姫は目を見開いた。
「なんていうか…自分の間違いを悪い事と認めて、心の底から素直に謝れるって簡単なようで実は難しい事だと思ったんだよね。俺の育ちのせいもあるかもしれないけど、少なくとも俺の周りの人は悪い事をしても謝る人なんて殆どいなかった。だから、一姫たちのような人を凄いと思ったというか…。間違ってるかもしれないのに、偉そうにごめん。」
「ううん、いいの…。その言葉だけでも充分嬉しいわ。」
一姫の瞳からこぼれた涙は、海の一部となって静かに消えていく。
「まぁだから、その…俺が生きている間は、そんな自分を責めないでほしい。毎日1つでも善行を積めばいいんじゃないかな?ほら、なんかそんな言葉あったでしょ?」
「なにかしら、あったような気がするけど、お酒が回って…。」
肝心なところで決まらない俺たちは、2人して吹き出してしまった。
「ナギサ、改めてお願いするわ。私達をよろしくね。だって、あなたの魔力はとても美味しいもの。」
「またそれかよ…。こちらこそ、好きなだけ吸ってくれ。」
「ふふっ、冗談よ。ちょっと待ってね…。」
そう言うと、一姫は俺の頰に軽い口づけをした。赤くなって固まる俺を見て、一姫はいたずらが成功した子供のように笑った。
「今はこれで我慢するわ。今度はわからないけど。」
「は、はぁ?!それってどういう…」
「さ、帰るわよ!明日も忙しいんだし。」
「あ、おい!全く…。」
一姫は嬉しそうに笑い、みんなの所へ戻っていった。
その姿は、海の中を舞う妖精のように美しかった。
0
お気に入りに追加
1,408
あなたにおすすめの小説
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
追放されたテイマー半年後に従魔が最強になったのでまた冒険する
Miiya
ファンタジー
「テイマーって面白そうだったから入れてたけど使えんから出ていって。」と言われ1ヶ月間いたパーティーを追放されてしまったトーマ=タグス。仕方なく田舎にある実家に戻りそこで農作業と副業をしてなんとか稼いでいた。そんな暮らしも半年が経った後、たまたま飼っていたスライムと小鳥が最強になりもう一度冒険をすることにした。そしてテイマーとして覚醒した彼と追放したパーティーが出会い彼の本当の実力を知ることになる。
【完結】魔獣の傷をグチャグチャペッタンと治したらテイマーになっていました〜黒い手ともふもふ番犬とのお散歩暮らし〜
k-ing ★書籍発売中
ファンタジー
★第四回ファンタジーカップ参加作品★
主人公は5歳の誕生日に両親から捨てられた。
真っ黒な髪に真っ黒な瞳。
そして、授かったスキルは回復属性魔法(闇)。
両親のスキルを授かることが一般的な世界で、主人公は異質の存在、悪魔と呼ばれた。
そんな彼は森で血だらけに倒れているウルフ三匹と出会う。
いざ、スキルを使うとグチャグチャと体を弄る音が……。
気づいた時には体一つに顔が三つくっついていた。
まるで地獄の門番ケルベロスにそっくりだ。
そんな謎のウルフとお散歩しながら、旅をするほのぼので少しダークなファンタジー。
お気に入り登録、コメントどんどんお待ちしております!
コメントしてくださると嬉しいです٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる