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井原の道トンネル
17・井原の道トンネル
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ハザードランプを点灯させながら、車のスピードを少しずつ落としていく白髪の男性は、白の乗用車がスピードを緩めること無く先へ、井原の道トンネル内へ進んでいくのを見届けた。
じいさんがホッと安堵したのもつかの間の出来事だった。
トンネル内からなんとも表現しずらい、大きな鈍い音が聞こえたため、じいさんはゴクッと生唾を飲む。
「ばあさんや、今トンネル内から車が何かにぶつかるような大きな音が聞こえなかったか?」
神妙な面持ちを浮かべたまま、じいさんに視線を移した白髪の女性は小声でポツリと呟いた。
「聞こえたのぉ」
もしも事故をおこした車があるなら怪我をした人がいないか確認をしに行かなければならない。
恐怖心や緊張感や不安に襲われつつ、プルプルと小刻みに震える足でアクセルを踏み込んだ白髪の男性が、ハンドルをゆっくりと左へ切り井原の道トンネル内へと車を進めていく。
トンネル内へ入ってすぐに、それはじいさんの視界に入り込んだ。
助手席側をトンネルにぶつけて停車したトラックに白の乗用車がぶつかっていた。
ぐしゃっと潰れた運転席。
車から少し離れた位置で、小刻みに足を震わせながら強ばった表情を浮かべるトラックの運転手が、携帯電話を片手に警察に連絡を取っていた。
運転席側に僅かに出来た隙間から赤黒くドロリとした血が流れ出て、ポツリポツリと道路へ滴り落ちる。
車を運転していたであろう男性は、運転席に腰を下ろし頭を首の皮一枚で繋げている。
見るからに亡くなっている男性は、トンネル内に入る前に白髪の男性が見た姿と同様に変わり果てた姿になっていた。
トンネル内で事故に遭い亡くなった男性には九条と同じ学校に通う息子がいた。昼食を取り終えて教室に戻った男子生徒に、父親が事故に遭った知らせが届く。
顔面蒼白となりながら、教室を飛び出した男子生徒は教師の言葉に耳を貸すこともなく、校舎を抜け出して病院に向かって一直線に走り出す。
勢い良く正門を抜けようとした男子生徒に気づいた九条がポツリと一言呟いた。
「おい、赤信号……」
正門を抜けた先にある大通りの歩行者用信号は赤。九条が咄嗟に声をかけたことにより、歩みを止めた男子生徒の目と鼻の先を車が通過する。
涙と鼻水で顔を濡らす男子生徒は身なりを整える事なく、呆然と立ち尽くす。
後一歩踏み出していれば、車に跳ねられていただろう。
正常な判断が出来なくなっていることに気づいた男子生徒は放心状態のまま、九条に視線を向ける。
「親父が事故に遭って病院に運ばれたらしい。頭の中が真っ白で……病院まで着いてきてくれないか?」
情けなくてもいい、一刻も早く父親に会いたい男子生徒は、素直に激しく混乱していることを言葉にして、校内でも評判の悪い九条に声をかける。
「別にいいけど」
ポツリと言葉を漏らした九条には、男子生徒の背後に佇む顔がぐしゃりと押し潰された男性の姿が見えていた。
もしも、男子生徒の背後に佇む男性が父親であるのなら、きっと彼の父親は亡くなってしまっているだろう。
有り難うと一言ポツリと呟いて顔を俯かせて歩く男子生徒は顔面蒼白である。
無言のまま、学校近くにある大きな総合病院内へと足を踏み入れる。
パタパタと足音を立てて、目の前を足早に通過していく看護師や患者の対応に追われている事務員。沢山の患者が待合室で順番待ちをしている病院内で九条は男子生徒の背後に視線を移す。
もしも彼の背後に佇んでいるのが彼の父親であるのなら、彼の父親は顔の型が分からないほど損傷しているため、顔を見て身元確認を行うことは出来ないだろう。
じいさんがホッと安堵したのもつかの間の出来事だった。
トンネル内からなんとも表現しずらい、大きな鈍い音が聞こえたため、じいさんはゴクッと生唾を飲む。
「ばあさんや、今トンネル内から車が何かにぶつかるような大きな音が聞こえなかったか?」
神妙な面持ちを浮かべたまま、じいさんに視線を移した白髪の女性は小声でポツリと呟いた。
「聞こえたのぉ」
もしも事故をおこした車があるなら怪我をした人がいないか確認をしに行かなければならない。
恐怖心や緊張感や不安に襲われつつ、プルプルと小刻みに震える足でアクセルを踏み込んだ白髪の男性が、ハンドルをゆっくりと左へ切り井原の道トンネル内へと車を進めていく。
トンネル内へ入ってすぐに、それはじいさんの視界に入り込んだ。
助手席側をトンネルにぶつけて停車したトラックに白の乗用車がぶつかっていた。
ぐしゃっと潰れた運転席。
車から少し離れた位置で、小刻みに足を震わせながら強ばった表情を浮かべるトラックの運転手が、携帯電話を片手に警察に連絡を取っていた。
運転席側に僅かに出来た隙間から赤黒くドロリとした血が流れ出て、ポツリポツリと道路へ滴り落ちる。
車を運転していたであろう男性は、運転席に腰を下ろし頭を首の皮一枚で繋げている。
見るからに亡くなっている男性は、トンネル内に入る前に白髪の男性が見た姿と同様に変わり果てた姿になっていた。
トンネル内で事故に遭い亡くなった男性には九条と同じ学校に通う息子がいた。昼食を取り終えて教室に戻った男子生徒に、父親が事故に遭った知らせが届く。
顔面蒼白となりながら、教室を飛び出した男子生徒は教師の言葉に耳を貸すこともなく、校舎を抜け出して病院に向かって一直線に走り出す。
勢い良く正門を抜けようとした男子生徒に気づいた九条がポツリと一言呟いた。
「おい、赤信号……」
正門を抜けた先にある大通りの歩行者用信号は赤。九条が咄嗟に声をかけたことにより、歩みを止めた男子生徒の目と鼻の先を車が通過する。
涙と鼻水で顔を濡らす男子生徒は身なりを整える事なく、呆然と立ち尽くす。
後一歩踏み出していれば、車に跳ねられていただろう。
正常な判断が出来なくなっていることに気づいた男子生徒は放心状態のまま、九条に視線を向ける。
「親父が事故に遭って病院に運ばれたらしい。頭の中が真っ白で……病院まで着いてきてくれないか?」
情けなくてもいい、一刻も早く父親に会いたい男子生徒は、素直に激しく混乱していることを言葉にして、校内でも評判の悪い九条に声をかける。
「別にいいけど」
ポツリと言葉を漏らした九条には、男子生徒の背後に佇む顔がぐしゃりと押し潰された男性の姿が見えていた。
もしも、男子生徒の背後に佇む男性が父親であるのなら、きっと彼の父親は亡くなってしまっているだろう。
有り難うと一言ポツリと呟いて顔を俯かせて歩く男子生徒は顔面蒼白である。
無言のまま、学校近くにある大きな総合病院内へと足を踏み入れる。
パタパタと足音を立てて、目の前を足早に通過していく看護師や患者の対応に追われている事務員。沢山の患者が待合室で順番待ちをしている病院内で九条は男子生徒の背後に視線を移す。
もしも彼の背後に佇んでいるのが彼の父親であるのなら、彼の父親は顔の型が分からないほど損傷しているため、顔を見て身元確認を行うことは出来ないだろう。
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