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中庭の幽霊
1・中庭の幽霊
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しんしんと降り積もる雪が、景色を白銀の世界に変えていく。肌を刺すような冷たい風を顔面に受けているにも拘わらず、窓を全開にして雪景色を眺めている青年の後頭部目がけて柔らかいクッションが勢いよく投げつけられた。
「寒いわ!」
寒いを強調。勢いよく放たれた言葉と共にクッションはストレートの黒髪に直撃すると、重力に従って床に落下する。ぽさっと音を立てて床の上に落ちたクッションを呆然と眺めていた青年がゆっくりとその場にしゃがみこむと水玉模様のクッションを、そっと両手で抱え上げた。
大きな黒縁の眼鏡は、青年の顔半分を覆い隠している。ゆっくりと背後を振り向いた青年の眼鏡はクッションが後頭部に直撃した衝撃で激しく傾いてしまっている。
ストレートの黒髪、よれよれのシャツを着こなしている青年は満面の笑みを浮かべたままの状態で佇んでいた。
「見てください。綺麗な雪景色が広がっていますよ」
男性にしては高い、しかし女性にしては低い何とも中途半端な声の持ち主である青年は、のほほんとした雰囲気を醸し出す。新雪が降り積もって作られた雪景色は、確かに青年の言う通り綺麗だ。
汚れ所か足跡一つない雪が一面に広がっている。
「はいはい。見たから……さっさと窓を閉めようぜ」
雪景色を見て綺麗だねと、心和ませている青年とは対照的な性格。淡々とした口調で呟いた俺の言葉を、しかたないねと受け入れた青年は全開にしていた窓を閉める。
パタンと音を立てて閉まった窓は冷たい風を遮断する。素直に俺の言葉を受け入れて窓を閉めた青年は不愛想な俺に対して不満が無いのか、それとも不満があっても表情には表していないだけなのか、俺は彼の不機嫌な姿を生まれてから現在に至るまで、一度も見ていない。
「これでいいかな?」
隙間なく閉まった扉を指先でなぞり、問いかけてきた青年は笑みを浮かべた表情を崩そうとはしない。
「おう」
青年の問いかけに対して、それでいいと言う意味を込めて頷いた。
しかし、本音を言うと青年が扉を閉めた時には時既に遅かった。
ニコニコと笑みを浮かべる青年の白い肌をなぞるようにして、青白い指先が青年の首を這う。
青年の背中に覆いかぶさるようにして、顔を真っ赤な血で染め上げた女性の幽霊が室内に入り込んだ。
その手は、青年の首に添えられている。青白い顔色をする女性は深く顔を俯かせているため、その表情を確認する事が出来ない。
長い髪の毛が青年の頬に触れる。そんな状況の中にいるにも拘わらず青年には女性の姿は見えていない。
俺はどうする事も出来ずに、血に染まった女性など見えていないふりをする。
「そろそろ戻るね」
青年はニコニコとした表情を崩す事無く呟いた。
自室に戻ると言った青年を変に引きとめるわけにもいかず、俺は首を縦にふる。
「もう来るなよ」
青年が自室に戻る時に毎回、さよならの代わりに放つ言葉を今日も呟いて部屋を出ていく青年をいつものようにソファーの上にだらんど寝転がったまま見送った。
パタンと音を立てて閉まった扉を呆然と眺めながら本音を漏らす。
「兄貴……」
ポツリと呟いた言葉は誰の耳に入る事も無い。それは分かっているけど本人の前では照れくさくて兄貴何て呼べやしない。
兄が学校の屋上から飛び降りたのは、その3日後だった。
その日も新雪が降り積もり、足跡一つない雪景色が広がっていたそうだ。
後々クラスメートが話しているのを耳にした。
兄貴は新雪の上に仰向けに横たわっている所を登校した生徒が発見したらしい。
白い雪を真っ赤に染めて、その中心に横たわっていたそうだ。
「寒いわ!」
寒いを強調。勢いよく放たれた言葉と共にクッションはストレートの黒髪に直撃すると、重力に従って床に落下する。ぽさっと音を立てて床の上に落ちたクッションを呆然と眺めていた青年がゆっくりとその場にしゃがみこむと水玉模様のクッションを、そっと両手で抱え上げた。
大きな黒縁の眼鏡は、青年の顔半分を覆い隠している。ゆっくりと背後を振り向いた青年の眼鏡はクッションが後頭部に直撃した衝撃で激しく傾いてしまっている。
ストレートの黒髪、よれよれのシャツを着こなしている青年は満面の笑みを浮かべたままの状態で佇んでいた。
「見てください。綺麗な雪景色が広がっていますよ」
男性にしては高い、しかし女性にしては低い何とも中途半端な声の持ち主である青年は、のほほんとした雰囲気を醸し出す。新雪が降り積もって作られた雪景色は、確かに青年の言う通り綺麗だ。
汚れ所か足跡一つない雪が一面に広がっている。
「はいはい。見たから……さっさと窓を閉めようぜ」
雪景色を見て綺麗だねと、心和ませている青年とは対照的な性格。淡々とした口調で呟いた俺の言葉を、しかたないねと受け入れた青年は全開にしていた窓を閉める。
パタンと音を立てて閉まった窓は冷たい風を遮断する。素直に俺の言葉を受け入れて窓を閉めた青年は不愛想な俺に対して不満が無いのか、それとも不満があっても表情には表していないだけなのか、俺は彼の不機嫌な姿を生まれてから現在に至るまで、一度も見ていない。
「これでいいかな?」
隙間なく閉まった扉を指先でなぞり、問いかけてきた青年は笑みを浮かべた表情を崩そうとはしない。
「おう」
青年の問いかけに対して、それでいいと言う意味を込めて頷いた。
しかし、本音を言うと青年が扉を閉めた時には時既に遅かった。
ニコニコと笑みを浮かべる青年の白い肌をなぞるようにして、青白い指先が青年の首を這う。
青年の背中に覆いかぶさるようにして、顔を真っ赤な血で染め上げた女性の幽霊が室内に入り込んだ。
その手は、青年の首に添えられている。青白い顔色をする女性は深く顔を俯かせているため、その表情を確認する事が出来ない。
長い髪の毛が青年の頬に触れる。そんな状況の中にいるにも拘わらず青年には女性の姿は見えていない。
俺はどうする事も出来ずに、血に染まった女性など見えていないふりをする。
「そろそろ戻るね」
青年はニコニコとした表情を崩す事無く呟いた。
自室に戻ると言った青年を変に引きとめるわけにもいかず、俺は首を縦にふる。
「もう来るなよ」
青年が自室に戻る時に毎回、さよならの代わりに放つ言葉を今日も呟いて部屋を出ていく青年をいつものようにソファーの上にだらんど寝転がったまま見送った。
パタンと音を立てて閉まった扉を呆然と眺めながら本音を漏らす。
「兄貴……」
ポツリと呟いた言葉は誰の耳に入る事も無い。それは分かっているけど本人の前では照れくさくて兄貴何て呼べやしない。
兄が学校の屋上から飛び降りたのは、その3日後だった。
その日も新雪が降り積もり、足跡一つない雪景色が広がっていたそうだ。
後々クラスメートが話しているのを耳にした。
兄貴は新雪の上に仰向けに横たわっている所を登校した生徒が発見したらしい。
白い雪を真っ赤に染めて、その中心に横たわっていたそうだ。
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