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森の主編
144話 アヤネに情けない姿を見せたくはないんです
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生徒達が恐怖心を抱く程の範囲の広い攻撃魔法を発動することの出来るヒビキとは、例え模擬戦であっても戦いたくはないと言うのが生徒達の本音である。
「私達もリタイアします。正直なところ彼とは戦いたくないです」
オブラートに包んだ男子生徒とは違って、順調に対抗戦を勝ち進んでいた女子生徒率いるチームは、はっきりと理由を告げる。
「申し訳ないけど、私達も手を引くよ」
長髪が印象的。控えめに胸元の高さまで、右手を上げた風紀委員長率いるチームも手を引くことを告げると、生徒達が俺達も私達もと続々と手を上げる。
「もう会長率いるチームが優勝でいいと思う」
考えを漏らしたのは一体誰だっだのか。男性のものなのか女性のものなのかも分からない。中性的な高さの声だった。
その声に続くようにして四方八方から生徒達が思い思いの言葉を投げ掛ける。
「まぁ、確かに」
「同意見」
「会長率いるチームに配属された生徒達は運が良かったということだよな」
髪をツインテールにしている女子生徒や、大柄な男子生徒、派手な髪色をした生徒達が口々に気持ちを伝えると、何故か会場の中で拍手がわき起こる。
ヒビキ達と戦う予定だった生徒達が口々に棄権すると言っているのなら無理強いせずに勝者は決定した方が良いのだろう。
対抗戦の準備を進めようとしていた教師達の視線が理事長に移動する。
「どうやら決着は着いたようですね。会長率いるチームが今回の報酬を受け取ることになります」
対抗戦で順調に勝ち星を挙げたチームが全て棄権してしまったため、必然的にチーム対抗戦の勝者が決まる。
理事長が口にした結果を耳にして、小さくガッツポーズをした会長の表情は明るく何だか嬉しそう。
頭を抱えて落ち込んでいる理事長と何かを賭けて勝負をしていたようで、賭け事に勝ったのは会長。負けたのが理事長であることが、表情や仕草から判断することが出きる。
「俺の力で優勝した訳ではないけど約束は約束な」
理事長相手に強気な発言をする会長は一歩、二歩と前進する。
理事長の直ぐ側まで移動をすると爽やかな笑顔を浮かべて呟いた。
「楽しみにしてる」
会長は決して表情が豊かなタイプではないため、爽やかな笑顔を間近で見ていた女子生徒が感極まって悲鳴と奇声が入り交じった甲高い声を上げる。
男子生徒は女子生徒からの熱い視線を受ける会長に対して憧れを抱き、教師達は珍しくテンションの上がっている会長の姿に疑問を抱いて互いに顔を見合わせている。
何を賭けたのよと会長に問い掛けているアヤネは好奇心旺盛。
会長の懐に入り込み、ニヤニヤとした表情を浮かべて問い掛ける。
アヤネの急な接近に驚き、大きく後退した会長は警戒心が強い。
アヤネの問い掛けに返事をするだけの余裕は無くて、真面目な顔をして素直な気持ちを口にする。
「何度も言ってるけど何の前触れもなく、いきなり間合いを積めないでほしい。距離感が近いんだよ」
大きなため息を吐き出して、アヤネに文句を述べる会長の表情は険しい。
冗談ではなくて本気で嫌がっていることが分かる。
「距離感が近いってお兄ちゃんにも注意をされていたのに、またやっちゃった。ごめんね」
決してアヤネに悪気があったわけではなく、会長に向かって深々と頭を下げる。
兄であるヒビキにも過去に会長と同じように距離感が近い事を注意されていた。
「距離感が近い人に対して苦手意識を持つ人も少なからずいるんだ。気をつけて」
落ち込むアヤネに言いたいことを伝えた会長は安堵する。
ふいにアヤネに体を触れられて性別を悟られてしまう事が本当に怖い。
もしも、性別を偽っていることがバレてしまったら父との賭けに負けたことになり、銀騎士団に所属するという夢が絶たれてしまう。
会長とアヤネのやり取りを側で見ていた女子生徒が、口を開いてもいいものだろうか、それとも二人の会話が終了するまで待つべきなのかと、散々迷った末に理事長の前に素早く移動をすると恐る恐る右手を上げてか細い声で呟いた。
「あの、ヒビキ君と戦ってみたいです。負けてしまう事は分かっているのですが、私の術がどれ程通用するのか知りたいので手合わせしてほしいです」
生徒達が身を引く中、ヒビキと戦ってみたいと口にする女子生徒が現れた。
ヒビキと同じチームに振り分けられ共に対抗戦を戦っていたEクラスの女子生徒である。
確か彼女は木属性の魔法を操る女子生徒だったと思う。
自由自在に木のツルを操って、拘束魔法や時には攻撃を行う彼女の術は、指を鳴らしたり手を掲げたりと何らかのアクションを起こさなければ術を発動をすることの出来ないヒビキにとっては相性の悪い相手である。
「だったら僕も彼女と手を組んで彼に挑みたい」
女子生徒に続き、もう一人ヒビキに挑みたいと申し出る生徒がいた。
彼は重力を自由自在に操ることの出来る男子生徒であり攻撃魔法は不得意とはいえ、相手の身動きを封じてしまうことが出来る術を持つ。
「え、俺に勝ち目ある?」
重力により身動きを封じられた時点で決着がついてしまいそうな気がする。
ぽつりと考えを漏らしたヒビキが弱気になるのも無理はない。
「重力操作の術にも弱点はありまして、重力操作を発動するまで時間がかかります。試合開始と共に間合いをつめて彼の身動きを封じてしまえば勝機はあるかもしれません」
困っているヒビキにシエルが重力操作の弱点を伝える。
「対戦相手は2人だよ」
ヒビキが女子生徒と男子生徒を交互に指差して呟いた。
試合開始と共に重力操作を発動しようとする男子生徒の元に全速力で向かえば、無防備になり女子生徒の発動した木のツルに足をとられる事になる。出来れば屈辱的な負けかたはしたくない。
女子生徒の出現させた木のツルに足首を拘束されて、吊るされてしまう姿をアヤネには絶対に見せたくはない。
「アヤネの前では格好いいお兄ちゃんでいたいんだけど」
素直な気持ちを口にしたヒビキの独り言は、しっかりとシエルの耳に入っていた。
「勝てばいいだけの話ですよ」
シエルは他人事のように言うけれど、ヒビキには拘束魔法を得意とする生徒達を倒すことが出来るという自信はない。
「勝てば50,000,000G差し上げますよ」
「よし、乗った。絶対勝つ」
シエルに褒賞金を持ちかけられて、ヒビキの醸し出す雰囲気が変わる。
目つきが鋭くなり険しい顔つきをしたヒビキが即答したため、対戦予定の男子生徒と女子生徒が唖然とする。
「え、何この変わり身。何を言ったの?」
どうやらシエルの小声はヒビキ以外の耳には入っていなかったようで、対戦相手である男子生徒が戸惑いを隠すことなく問い掛ける。
しかし、シエルは口元に人差し指を押し当てると、ぽつりと一言呟いた。
「秘密です」
どうやら、男子生徒の問い掛けに対して答える気はないようでシエルの視線がヒビキに移る。
「もしかしたら、女子生徒の発動した魔法に吊るされてアヤネにみっともない姿を見せることになるかもしれませんよ」
やる気満々、準備万端の状態になったヒビキの心を揺さぶるような事を敢えて言うあたりシエルは性格が悪い。
「う……」
50,000,000Gに目がくらみ戦うき満々、ほんの少し前のめりの姿勢になっていたヒビキの気持ちが揺らぐ。
かっこいいお兄さんとしてのイメージを崩したくはない。
しかし、50,000,000Gはそう易々と手に入るような代物ではないため、優劣をつけるとしたら、やはり50,000,000Gか。
シエルの言葉により、威厳を選ぶか金を選ぶか天秤にかけていたヒビキの中で答えが出た。
「例え情けない負け方をしたって、アヤネの俺に対する評価はこれ以上下がらない気がする」
自分の発した言葉に対して明らかにショックを受けているヒビキに追い討ちをかけるようにしてシエルが言葉を続ける。
「え? 情けない負け方をしたら更に評価は下がりますよ。自分にとって都合のいい考え方をするのは構いませんが現実を見ましょう」
はっきりと言いたいことを口にしたシエルの言葉がヒビキの胸に刺さる。
「対戦前に人のモチベーションを下げるような事を言わないでほしいな。けれど、シエル先生の言っていることは事実だから複雑な心境なんだけど」
先ほどまでのやる気は見事に削がれてしまった。
せっかく意欲が沸いたと言うのに、シエルは人の気持ちを揺さぶるのがうまい。
すっかりと弱気になってしまったヒビキは、出現した木のつるに足首を拘束されて吊し上げられてしまっている自分の姿を想像する。
逆さまに吊るされたことにより服の裾は重力にしたがって捲れ、腹や胸まで露になる。
逆さまに吊るされてしまえば、必然的に頭に血が上る。
顔を真っ赤にした姿を見たアヤネに失望されそう。勝手に今後の展開を予測したヒビキが気後れして躊躇う。
「え……何? どういう状況?」
毛先の丸まった癖っ毛。黒髪が印象的な男子生徒はドラゴンの襲撃の間、妖精王の術によって意識を失っていた。
対抗戦の舞台上で目を覚ましたものの、意識を失った時とはガラリと様子の変わった周囲の状況を確認して疑問を抱いて問い掛ける。
「なぜ騎士団の皆様方が?」
うっとりとする男子生徒の問い掛けに対して返事をする者はいない。
「今から何が始まろうとしているの?」
一番側にいて一番声をかけやすい相手。同年代であり、何故か同世代の女子生徒と男子生徒から喧嘩を売られている様子のヒビキに問い掛ける。
しかし、男子生徒の問い掛けに対して返事をしたのはシエルだった。
「ヒビキ対、彼ら2人で対戦をするんですよ」
淡々とした口調だった。
「え、僕も戦いたい。騎士団の皆様方に声をかけて貰える可能性があるじゃん」
ヒビキのすぐ隣に素早く移動して気合い十分。やる気満々、自分が大活躍をして騎士団に目をかけて貰う姿を想像した男子生徒がヒビキを指差した。
「僕とペアを組めば2対2になるよね。僕も参加をしても良いよね」
理事長や教師ではなく、男子生徒の視線はヒビキに向いている。
「え……別にいいんじゃない?」
首を傾げて理事長に視線を向けたヒビキは戸惑っている。
理事長からシエルに視線を移したヒビキが返事を待つ。
「いいと思いますよ。何だか面白そうですし」
無表情のまま、何だか面白そうだしと続けたシエルの言葉を耳にして理事長は苦笑する。
「いいですよ」
同意するため頷き呟いた。
カクヨムにて矛盾の訂正と、見つけた誤字の修正を行いました。アルファポリスも少しずつ矛盾の訂正と誤字脱字の修正を行っていきます。現在、カクヨムが狐面の記憶編の投稿を行っており、最も更新が進んでおります。
下部のフリースペースにカクヨムのURLを張り付けております。
ご迷惑をお掛けして、すみません。
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オブラートに包んだ男子生徒とは違って、順調に対抗戦を勝ち進んでいた女子生徒率いるチームは、はっきりと理由を告げる。
「申し訳ないけど、私達も手を引くよ」
長髪が印象的。控えめに胸元の高さまで、右手を上げた風紀委員長率いるチームも手を引くことを告げると、生徒達が俺達も私達もと続々と手を上げる。
「もう会長率いるチームが優勝でいいと思う」
考えを漏らしたのは一体誰だっだのか。男性のものなのか女性のものなのかも分からない。中性的な高さの声だった。
その声に続くようにして四方八方から生徒達が思い思いの言葉を投げ掛ける。
「まぁ、確かに」
「同意見」
「会長率いるチームに配属された生徒達は運が良かったということだよな」
髪をツインテールにしている女子生徒や、大柄な男子生徒、派手な髪色をした生徒達が口々に気持ちを伝えると、何故か会場の中で拍手がわき起こる。
ヒビキ達と戦う予定だった生徒達が口々に棄権すると言っているのなら無理強いせずに勝者は決定した方が良いのだろう。
対抗戦の準備を進めようとしていた教師達の視線が理事長に移動する。
「どうやら決着は着いたようですね。会長率いるチームが今回の報酬を受け取ることになります」
対抗戦で順調に勝ち星を挙げたチームが全て棄権してしまったため、必然的にチーム対抗戦の勝者が決まる。
理事長が口にした結果を耳にして、小さくガッツポーズをした会長の表情は明るく何だか嬉しそう。
頭を抱えて落ち込んでいる理事長と何かを賭けて勝負をしていたようで、賭け事に勝ったのは会長。負けたのが理事長であることが、表情や仕草から判断することが出きる。
「俺の力で優勝した訳ではないけど約束は約束な」
理事長相手に強気な発言をする会長は一歩、二歩と前進する。
理事長の直ぐ側まで移動をすると爽やかな笑顔を浮かべて呟いた。
「楽しみにしてる」
会長は決して表情が豊かなタイプではないため、爽やかな笑顔を間近で見ていた女子生徒が感極まって悲鳴と奇声が入り交じった甲高い声を上げる。
男子生徒は女子生徒からの熱い視線を受ける会長に対して憧れを抱き、教師達は珍しくテンションの上がっている会長の姿に疑問を抱いて互いに顔を見合わせている。
何を賭けたのよと会長に問い掛けているアヤネは好奇心旺盛。
会長の懐に入り込み、ニヤニヤとした表情を浮かべて問い掛ける。
アヤネの急な接近に驚き、大きく後退した会長は警戒心が強い。
アヤネの問い掛けに返事をするだけの余裕は無くて、真面目な顔をして素直な気持ちを口にする。
「何度も言ってるけど何の前触れもなく、いきなり間合いを積めないでほしい。距離感が近いんだよ」
大きなため息を吐き出して、アヤネに文句を述べる会長の表情は険しい。
冗談ではなくて本気で嫌がっていることが分かる。
「距離感が近いってお兄ちゃんにも注意をされていたのに、またやっちゃった。ごめんね」
決してアヤネに悪気があったわけではなく、会長に向かって深々と頭を下げる。
兄であるヒビキにも過去に会長と同じように距離感が近い事を注意されていた。
「距離感が近い人に対して苦手意識を持つ人も少なからずいるんだ。気をつけて」
落ち込むアヤネに言いたいことを伝えた会長は安堵する。
ふいにアヤネに体を触れられて性別を悟られてしまう事が本当に怖い。
もしも、性別を偽っていることがバレてしまったら父との賭けに負けたことになり、銀騎士団に所属するという夢が絶たれてしまう。
会長とアヤネのやり取りを側で見ていた女子生徒が、口を開いてもいいものだろうか、それとも二人の会話が終了するまで待つべきなのかと、散々迷った末に理事長の前に素早く移動をすると恐る恐る右手を上げてか細い声で呟いた。
「あの、ヒビキ君と戦ってみたいです。負けてしまう事は分かっているのですが、私の術がどれ程通用するのか知りたいので手合わせしてほしいです」
生徒達が身を引く中、ヒビキと戦ってみたいと口にする女子生徒が現れた。
ヒビキと同じチームに振り分けられ共に対抗戦を戦っていたEクラスの女子生徒である。
確か彼女は木属性の魔法を操る女子生徒だったと思う。
自由自在に木のツルを操って、拘束魔法や時には攻撃を行う彼女の術は、指を鳴らしたり手を掲げたりと何らかのアクションを起こさなければ術を発動をすることの出来ないヒビキにとっては相性の悪い相手である。
「だったら僕も彼女と手を組んで彼に挑みたい」
女子生徒に続き、もう一人ヒビキに挑みたいと申し出る生徒がいた。
彼は重力を自由自在に操ることの出来る男子生徒であり攻撃魔法は不得意とはいえ、相手の身動きを封じてしまうことが出来る術を持つ。
「え、俺に勝ち目ある?」
重力により身動きを封じられた時点で決着がついてしまいそうな気がする。
ぽつりと考えを漏らしたヒビキが弱気になるのも無理はない。
「重力操作の術にも弱点はありまして、重力操作を発動するまで時間がかかります。試合開始と共に間合いをつめて彼の身動きを封じてしまえば勝機はあるかもしれません」
困っているヒビキにシエルが重力操作の弱点を伝える。
「対戦相手は2人だよ」
ヒビキが女子生徒と男子生徒を交互に指差して呟いた。
試合開始と共に重力操作を発動しようとする男子生徒の元に全速力で向かえば、無防備になり女子生徒の発動した木のツルに足をとられる事になる。出来れば屈辱的な負けかたはしたくない。
女子生徒の出現させた木のツルに足首を拘束されて、吊るされてしまう姿をアヤネには絶対に見せたくはない。
「アヤネの前では格好いいお兄ちゃんでいたいんだけど」
素直な気持ちを口にしたヒビキの独り言は、しっかりとシエルの耳に入っていた。
「勝てばいいだけの話ですよ」
シエルは他人事のように言うけれど、ヒビキには拘束魔法を得意とする生徒達を倒すことが出来るという自信はない。
「勝てば50,000,000G差し上げますよ」
「よし、乗った。絶対勝つ」
シエルに褒賞金を持ちかけられて、ヒビキの醸し出す雰囲気が変わる。
目つきが鋭くなり険しい顔つきをしたヒビキが即答したため、対戦予定の男子生徒と女子生徒が唖然とする。
「え、何この変わり身。何を言ったの?」
どうやらシエルの小声はヒビキ以外の耳には入っていなかったようで、対戦相手である男子生徒が戸惑いを隠すことなく問い掛ける。
しかし、シエルは口元に人差し指を押し当てると、ぽつりと一言呟いた。
「秘密です」
どうやら、男子生徒の問い掛けに対して答える気はないようでシエルの視線がヒビキに移る。
「もしかしたら、女子生徒の発動した魔法に吊るされてアヤネにみっともない姿を見せることになるかもしれませんよ」
やる気満々、準備万端の状態になったヒビキの心を揺さぶるような事を敢えて言うあたりシエルは性格が悪い。
「う……」
50,000,000Gに目がくらみ戦うき満々、ほんの少し前のめりの姿勢になっていたヒビキの気持ちが揺らぐ。
かっこいいお兄さんとしてのイメージを崩したくはない。
しかし、50,000,000Gはそう易々と手に入るような代物ではないため、優劣をつけるとしたら、やはり50,000,000Gか。
シエルの言葉により、威厳を選ぶか金を選ぶか天秤にかけていたヒビキの中で答えが出た。
「例え情けない負け方をしたって、アヤネの俺に対する評価はこれ以上下がらない気がする」
自分の発した言葉に対して明らかにショックを受けているヒビキに追い討ちをかけるようにしてシエルが言葉を続ける。
「え? 情けない負け方をしたら更に評価は下がりますよ。自分にとって都合のいい考え方をするのは構いませんが現実を見ましょう」
はっきりと言いたいことを口にしたシエルの言葉がヒビキの胸に刺さる。
「対戦前に人のモチベーションを下げるような事を言わないでほしいな。けれど、シエル先生の言っていることは事実だから複雑な心境なんだけど」
先ほどまでのやる気は見事に削がれてしまった。
せっかく意欲が沸いたと言うのに、シエルは人の気持ちを揺さぶるのがうまい。
すっかりと弱気になってしまったヒビキは、出現した木のつるに足首を拘束されて吊し上げられてしまっている自分の姿を想像する。
逆さまに吊るされたことにより服の裾は重力にしたがって捲れ、腹や胸まで露になる。
逆さまに吊るされてしまえば、必然的に頭に血が上る。
顔を真っ赤にした姿を見たアヤネに失望されそう。勝手に今後の展開を予測したヒビキが気後れして躊躇う。
「え……何? どういう状況?」
毛先の丸まった癖っ毛。黒髪が印象的な男子生徒はドラゴンの襲撃の間、妖精王の術によって意識を失っていた。
対抗戦の舞台上で目を覚ましたものの、意識を失った時とはガラリと様子の変わった周囲の状況を確認して疑問を抱いて問い掛ける。
「なぜ騎士団の皆様方が?」
うっとりとする男子生徒の問い掛けに対して返事をする者はいない。
「今から何が始まろうとしているの?」
一番側にいて一番声をかけやすい相手。同年代であり、何故か同世代の女子生徒と男子生徒から喧嘩を売られている様子のヒビキに問い掛ける。
しかし、男子生徒の問い掛けに対して返事をしたのはシエルだった。
「ヒビキ対、彼ら2人で対戦をするんですよ」
淡々とした口調だった。
「え、僕も戦いたい。騎士団の皆様方に声をかけて貰える可能性があるじゃん」
ヒビキのすぐ隣に素早く移動して気合い十分。やる気満々、自分が大活躍をして騎士団に目をかけて貰う姿を想像した男子生徒がヒビキを指差した。
「僕とペアを組めば2対2になるよね。僕も参加をしても良いよね」
理事長や教師ではなく、男子生徒の視線はヒビキに向いている。
「え……別にいいんじゃない?」
首を傾げて理事長に視線を向けたヒビキは戸惑っている。
理事長からシエルに視線を移したヒビキが返事を待つ。
「いいと思いますよ。何だか面白そうですし」
無表情のまま、何だか面白そうだしと続けたシエルの言葉を耳にして理事長は苦笑する。
「いいですよ」
同意するため頷き呟いた。
カクヨムにて矛盾の訂正と、見つけた誤字の修正を行いました。アルファポリスも少しずつ矛盾の訂正と誤字脱字の修正を行っていきます。現在、カクヨムが狐面の記憶編の投稿を行っており、最も更新が進んでおります。
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