144 / 148
森の主編
143話 生命力
しおりを挟む
副会長の独り言は誰の耳に入ることもなく風の音にかき消される。
鬼灯が術を発動する前に、体力の限界を向かえたリンスールが力なく呟いた。
「ごめんなさい。限界のようです」
プツンとまるで糸が切れたように、力なくその場に倒れこもうとしたリンスールの背後に回り込み、咄嗟に身体を抱える人物が現れる。
支えもなく倒れてしまえば激しく後頭部を床に打ち付けることは容易に予想がつく。
妖精の体重がどれ程のものか分からないため、重いだろうと仮定して背後から支えてみれば
「軽っ」
思わず本音が漏れ出てしまうほど、妖精王の身体は軽く難なく受け止めることに成功をする。
受けとめてから、すぐに流すようにして妖精王の体から手を離すとシエルの視線がドラゴンを捉える。
「のんきに驚いている場合ではありませんね」
妖精王が意識を手放したことにより大きく歪み、消えかかっている結界魔法に指先を向けて魔力を流し込む。
「あまり長くは持ちません。ちゃっちゃと終わらせてしまってください」
魔力全回復魔法により、復活をしたシエルがリンスールの結界魔法を引き継いだ。
「あぁ。分かった」
事を早急に進める必要がある。
ドラゴンを囲んでいる結界に向けて杖を構えると魔力を注ぐ。
真っ赤な光を放つ杖から、鬼灯が呪文を唱えることにより炎の渦が発動した。
狙うのはドラゴンを囲んでいる結界であり、幸い結界の中は副会長の発動した魔法で埋め尽くされている。
「ドラゴンを茹でる」
リンスールの発動した結界魔法と副会長の発動した水魔法があるからこそ出来る技であり、自分の持ちうる攻撃魔法の中で一番の高温を出す炎魔法を発動した。
魔力の消費量が尋常ではなくて、出来れば使うことを避けたい術の一つではあるものの、そうは言っていられない状況の中で鬼灯がありったけの魔力を消費する。
「フォローを頼む」
流石2000レベルを越えるドラゴンは防御力が高く、ヒットポイントゲージは少しずつ減ってはいるものの、先にシエルの体力が限界を迎えようとしている。
同じ炎属性を持つヒビキにフォローアップを頼む。
「分かった」
ぽつりと一言だけ呟いて、右手の平を上に向けて何やら呪文を唱えたヒビキが赤と青、二色の炎から成り立つ剣を出現させる。
レベルが上がったことにより扱うことが出来るようになったスキルはどれ程の威力を発揮するのか分からない。
試し打ちをするだけの余裕もない状況の中で発動するには向かないスキルとはいえ、危機的な状況を脱出する可能性のがあるため一か八かの賭けに出る。
剣の先端を空に向けて高々と掲げる。
呪文を唱えて新しく覚えたばかりのスキルを発動した。
剣を纏う二色の炎が渦を巻き、空高く上がると快晴の空を埋め尽くすようにして無数の炎を纏ったボールのような形をした攻撃魔法が現れる。
「ブラックボールの炎バージョンか。どれ程の威力のものか全く予想することが出来ないんだけど」
口を半開きに開いたまま考えを漏らしたのは一体誰なのか。
魔王に仕える暗黒騎士団隊長を務めるギフリートのスキルであるブラックボールを連想させるヒビキの魔法に、危機感を抱き銀騎士団が少しずつ後退を始める。
「防壁を張ることの出来る者は防壁を」
騎士の一人が大声を張り上げる。
防壁を張り巡らすことにより自らの身を守ることが出来る。
防壁を張り巡らせることの出来ない騎士団は近くに佇む仲間の元へ歩み寄り防壁内へ入れてもらう。
「辺り一面が砂地と化す可能性があるから自分の身は自分で守ってよ」
男性騎士の言葉に続くようにして女性騎士が右手を高々に掲げて大声を上げる。
会長とアヤネは理事長の張り巡らせた防壁の中に身を置いて準備万端である。
「お……おい。狙いはドラゴン」
快晴の空を埋め尽くすように広がる炎を見上げて一歩、二歩と後退りをした鬼灯が小声でヒビキに声をかける。
もしも、ヒビキの集中力が切れてしまえば炎攻撃は学園都市に降り注ぎ多数の怪我人や死者を出すことになるだろう。
思っていたよりも規模が大きな魔法が出現したため、ヒビキ自身戸惑っていた。
必死に戸惑いを表情に出さないように試みる。
しかし、無表情を貫いているつもりであるヒビキの表情は険しく、攻撃魔法をコントロールするために空へ掲げた腕はプルプルと小刻みに震えている。
「ドラゴンを狙うつもりでいるんだけど、上手く行くかな」
「上手く行かなければ困る」
自信が無さそうに呟くヒビキに対して鬼灯は即答した。
少しずつ後退をする鬼灯は、いつこの場所から逃げ出しても可笑しくはない状態である。
「よし」
どうやらヒビキは覚悟を決めたようだ。
ぽつりと一言呟いて掲げていた腕を振り下ろす。
「ヒビキ君の発動したスキルは多分ですが、学園敷地内にも降り注ぎますよ」
咄嗟に機転を利かせた副会長は床に手を添えて呪文を唱える。
学園敷地内を水を含めた結界を張り巡らせることによって守ろうと考えた。
「この場から離れるぞ」
鬼灯が副会長に声をかける。
「はい」
攻撃魔法を発動したヒビキを残して、全力で駆け出した副会長は少し前を走る青年と最近、別の学年に転入した真っ赤な髪の毛が印象的な転入生を結びつける。
「アヤネさんと同じクラスに編入した鬼灯君ですか?」
副会長の問い掛けに対して、鬼灯は爽やかな笑みを浮かべて頷いた。
「そう。訳あって姿を変えていたんだ」
中性的な容姿、中性的な声が印象的だった。
女子生徒達から可愛いと噂されていた鬼灯の変わりように副会長は感心する。
「もしかして、ヒビキ君も姿形を変えています? 高校1年生にしては、化け物のような子だなと思っていたので、姿形を変えていたのなら納得です」
鬼灯と同じ頃に転校してきたヒビキも同類であるのかもしれないと思って、副会長が素直に考えを口にする。
副会長からの問い掛けを耳にして鬼灯は苦笑する。
「ヒビキは何も。あれが本来の姿だし化け物じみた能力を発揮し始めたのは、ここ最近だな」
副会長の予想は見事に外れて、単にヒビキを化け物呼ばわりしただけにおわる。
ドラゴンに狙いを定めて放たれた炎を巧妙に操って、結界の内部へ潜り込ませると結界の中は青白く変化する。
結界の内部の水は一体、何度に達したのか想像することも出来ない程、ドラゴンのヒットポイントは瞬く間に削られていく。
決着は着いたも同然。
けたたましく鳴り響いていたサイレンの音が少しずつ弱まり始めると、学園敷地内から逃げ出すようにして飛び出していった生徒達が安堵するようにして息を吐きだした。
リンスールの張り巡らせた結界、副会長の放った水属性の補助魔法。
鬼灯とヒビキが放った炎攻撃魔法を前になす術もなく、結界から抜け出すことも叶わなかったドラゴンは力尽きて瞬く間に灰となって消えていく。
2000を越えるレベルのドラゴンを倒したことにより、ヒビキをはじめ副会長やシエル、鬼灯の体が目映い光を放ち当人達が驚くほどのレベルアップを遂げる。
ドラゴンの褒賞金だけで、魔界のギルドで販売されていた治癒魔法を購入して覚えることが出来ることに気づいたヒビキの今後の目標が決まる。
国王暗殺の黒幕を追いかけなければならない状況の中で、魔界へ寄っているだけの時間があるかどうか分からないけれど、もしも時間があるのなら治癒魔法の最高ランク。
シエルが時折、発動して見せた魔力を含めた全回復魔法を覚えたい。
魔力を使い果たす直前に全回復魔法を施すことが出来るようになれば魔力切れの心配をすることが無くなる。
十数分程、全く身動きを取ることが出来なくなり無防備な状況に陥る事になるため、使用する場所やタイミングを見計らわなければならないけど、今後の目標が決まったことによりヒビキの表情が明るくなる。
「取りあえず体力の限界が来ている彼には全回復魔法を施すとして、中途半端になっている対抗戦はどうしましょうか?」
ドラゴンが消滅したことにより落ち着きを取り戻したシエルが、大きなため息を吐き出すと共に今後、自分はどのように動けば良いのか分からずに問い掛ける。
シエルの視線の先。
一体いつの間に側に来ていたのだろう。
空を見上げて佇む理事長の姿があることに気づいたヒビキが息を呑む。
「そうですね。どうしましょうかね」
学園敷地内に想定されているレベルを遥かに上回った高レベルのモンスターが現れた事実を本来なら国を統べる王様に報告をしなければならない。
しかし、今回は国王の息子であるヒビキや銀騎士団が学園敷地内にいるため、既にユタカの耳に入っているだろう。
「安全であることを確認してから、対抗戦の続きをしましょうか」
2000レベルを越えるドラゴンを倒したことによりレベルアップをした生徒が数名いる。
この数時間で元の姿へ変貌を遂げた鬼灯の参加資格は強制的に剥奪する形になるけれど、それは鬼灯も承知のうえ。
「俺は特等席で観戦したいな」
呑気に観戦する場所を決めるため、四方八方を取り囲んでいる座席をぐるりと見渡した。
「ヒビキは参加するだろ?」
鬼灯の問い掛けに対して
「うん」
ヒビキは即答する。
ドラゴンを討伐したことにより会場内は穏やかな雰囲気を醸し出す。
しかし、生徒のある一言が決め手となって対抗戦は思わぬ決着を向かえることになる。
「ごめん。前向きに事を進めている所悪いけど俺達は降りるよ。彼のスキルには、どう足掻いても勝てっこないから」
ヒビキを指差して言葉を続けるのは次に対戦する予定だったメンバー達。全員の意見が一致した。
実は学園敷地内から外へ避難をしていた生徒達は、2000レベルを越えるドラゴン相手に誰が挑んでいるのか興味を抱いて、ドラゴンが結界内へ閉じ込められるのと同時に、そっと足音を立てることなく死角となる場所からヒビキ達を覗き見していた。
シエルやヒビキのいる位置から遠く離れていたため声は一切聞こえなかったとは言え、空を埋め尽くすほどの沢山の炎を発動した人物がヒビキであることは一目瞭然。
生徒達は味方の発動した炎属性の攻撃魔法を見て身の危険を感じて再び一目散に学園敷地内から抜け出していた。
鬼灯が術を発動する前に、体力の限界を向かえたリンスールが力なく呟いた。
「ごめんなさい。限界のようです」
プツンとまるで糸が切れたように、力なくその場に倒れこもうとしたリンスールの背後に回り込み、咄嗟に身体を抱える人物が現れる。
支えもなく倒れてしまえば激しく後頭部を床に打ち付けることは容易に予想がつく。
妖精の体重がどれ程のものか分からないため、重いだろうと仮定して背後から支えてみれば
「軽っ」
思わず本音が漏れ出てしまうほど、妖精王の身体は軽く難なく受け止めることに成功をする。
受けとめてから、すぐに流すようにして妖精王の体から手を離すとシエルの視線がドラゴンを捉える。
「のんきに驚いている場合ではありませんね」
妖精王が意識を手放したことにより大きく歪み、消えかかっている結界魔法に指先を向けて魔力を流し込む。
「あまり長くは持ちません。ちゃっちゃと終わらせてしまってください」
魔力全回復魔法により、復活をしたシエルがリンスールの結界魔法を引き継いだ。
「あぁ。分かった」
事を早急に進める必要がある。
ドラゴンを囲んでいる結界に向けて杖を構えると魔力を注ぐ。
真っ赤な光を放つ杖から、鬼灯が呪文を唱えることにより炎の渦が発動した。
狙うのはドラゴンを囲んでいる結界であり、幸い結界の中は副会長の発動した魔法で埋め尽くされている。
「ドラゴンを茹でる」
リンスールの発動した結界魔法と副会長の発動した水魔法があるからこそ出来る技であり、自分の持ちうる攻撃魔法の中で一番の高温を出す炎魔法を発動した。
魔力の消費量が尋常ではなくて、出来れば使うことを避けたい術の一つではあるものの、そうは言っていられない状況の中で鬼灯がありったけの魔力を消費する。
「フォローを頼む」
流石2000レベルを越えるドラゴンは防御力が高く、ヒットポイントゲージは少しずつ減ってはいるものの、先にシエルの体力が限界を迎えようとしている。
同じ炎属性を持つヒビキにフォローアップを頼む。
「分かった」
ぽつりと一言だけ呟いて、右手の平を上に向けて何やら呪文を唱えたヒビキが赤と青、二色の炎から成り立つ剣を出現させる。
レベルが上がったことにより扱うことが出来るようになったスキルはどれ程の威力を発揮するのか分からない。
試し打ちをするだけの余裕もない状況の中で発動するには向かないスキルとはいえ、危機的な状況を脱出する可能性のがあるため一か八かの賭けに出る。
剣の先端を空に向けて高々と掲げる。
呪文を唱えて新しく覚えたばかりのスキルを発動した。
剣を纏う二色の炎が渦を巻き、空高く上がると快晴の空を埋め尽くすようにして無数の炎を纏ったボールのような形をした攻撃魔法が現れる。
「ブラックボールの炎バージョンか。どれ程の威力のものか全く予想することが出来ないんだけど」
口を半開きに開いたまま考えを漏らしたのは一体誰なのか。
魔王に仕える暗黒騎士団隊長を務めるギフリートのスキルであるブラックボールを連想させるヒビキの魔法に、危機感を抱き銀騎士団が少しずつ後退を始める。
「防壁を張ることの出来る者は防壁を」
騎士の一人が大声を張り上げる。
防壁を張り巡らすことにより自らの身を守ることが出来る。
防壁を張り巡らせることの出来ない騎士団は近くに佇む仲間の元へ歩み寄り防壁内へ入れてもらう。
「辺り一面が砂地と化す可能性があるから自分の身は自分で守ってよ」
男性騎士の言葉に続くようにして女性騎士が右手を高々に掲げて大声を上げる。
会長とアヤネは理事長の張り巡らせた防壁の中に身を置いて準備万端である。
「お……おい。狙いはドラゴン」
快晴の空を埋め尽くすように広がる炎を見上げて一歩、二歩と後退りをした鬼灯が小声でヒビキに声をかける。
もしも、ヒビキの集中力が切れてしまえば炎攻撃は学園都市に降り注ぎ多数の怪我人や死者を出すことになるだろう。
思っていたよりも規模が大きな魔法が出現したため、ヒビキ自身戸惑っていた。
必死に戸惑いを表情に出さないように試みる。
しかし、無表情を貫いているつもりであるヒビキの表情は険しく、攻撃魔法をコントロールするために空へ掲げた腕はプルプルと小刻みに震えている。
「ドラゴンを狙うつもりでいるんだけど、上手く行くかな」
「上手く行かなければ困る」
自信が無さそうに呟くヒビキに対して鬼灯は即答した。
少しずつ後退をする鬼灯は、いつこの場所から逃げ出しても可笑しくはない状態である。
「よし」
どうやらヒビキは覚悟を決めたようだ。
ぽつりと一言呟いて掲げていた腕を振り下ろす。
「ヒビキ君の発動したスキルは多分ですが、学園敷地内にも降り注ぎますよ」
咄嗟に機転を利かせた副会長は床に手を添えて呪文を唱える。
学園敷地内を水を含めた結界を張り巡らせることによって守ろうと考えた。
「この場から離れるぞ」
鬼灯が副会長に声をかける。
「はい」
攻撃魔法を発動したヒビキを残して、全力で駆け出した副会長は少し前を走る青年と最近、別の学年に転入した真っ赤な髪の毛が印象的な転入生を結びつける。
「アヤネさんと同じクラスに編入した鬼灯君ですか?」
副会長の問い掛けに対して、鬼灯は爽やかな笑みを浮かべて頷いた。
「そう。訳あって姿を変えていたんだ」
中性的な容姿、中性的な声が印象的だった。
女子生徒達から可愛いと噂されていた鬼灯の変わりように副会長は感心する。
「もしかして、ヒビキ君も姿形を変えています? 高校1年生にしては、化け物のような子だなと思っていたので、姿形を変えていたのなら納得です」
鬼灯と同じ頃に転校してきたヒビキも同類であるのかもしれないと思って、副会長が素直に考えを口にする。
副会長からの問い掛けを耳にして鬼灯は苦笑する。
「ヒビキは何も。あれが本来の姿だし化け物じみた能力を発揮し始めたのは、ここ最近だな」
副会長の予想は見事に外れて、単にヒビキを化け物呼ばわりしただけにおわる。
ドラゴンに狙いを定めて放たれた炎を巧妙に操って、結界の内部へ潜り込ませると結界の中は青白く変化する。
結界の内部の水は一体、何度に達したのか想像することも出来ない程、ドラゴンのヒットポイントは瞬く間に削られていく。
決着は着いたも同然。
けたたましく鳴り響いていたサイレンの音が少しずつ弱まり始めると、学園敷地内から逃げ出すようにして飛び出していった生徒達が安堵するようにして息を吐きだした。
リンスールの張り巡らせた結界、副会長の放った水属性の補助魔法。
鬼灯とヒビキが放った炎攻撃魔法を前になす術もなく、結界から抜け出すことも叶わなかったドラゴンは力尽きて瞬く間に灰となって消えていく。
2000を越えるレベルのドラゴンを倒したことにより、ヒビキをはじめ副会長やシエル、鬼灯の体が目映い光を放ち当人達が驚くほどのレベルアップを遂げる。
ドラゴンの褒賞金だけで、魔界のギルドで販売されていた治癒魔法を購入して覚えることが出来ることに気づいたヒビキの今後の目標が決まる。
国王暗殺の黒幕を追いかけなければならない状況の中で、魔界へ寄っているだけの時間があるかどうか分からないけれど、もしも時間があるのなら治癒魔法の最高ランク。
シエルが時折、発動して見せた魔力を含めた全回復魔法を覚えたい。
魔力を使い果たす直前に全回復魔法を施すことが出来るようになれば魔力切れの心配をすることが無くなる。
十数分程、全く身動きを取ることが出来なくなり無防備な状況に陥る事になるため、使用する場所やタイミングを見計らわなければならないけど、今後の目標が決まったことによりヒビキの表情が明るくなる。
「取りあえず体力の限界が来ている彼には全回復魔法を施すとして、中途半端になっている対抗戦はどうしましょうか?」
ドラゴンが消滅したことにより落ち着きを取り戻したシエルが、大きなため息を吐き出すと共に今後、自分はどのように動けば良いのか分からずに問い掛ける。
シエルの視線の先。
一体いつの間に側に来ていたのだろう。
空を見上げて佇む理事長の姿があることに気づいたヒビキが息を呑む。
「そうですね。どうしましょうかね」
学園敷地内に想定されているレベルを遥かに上回った高レベルのモンスターが現れた事実を本来なら国を統べる王様に報告をしなければならない。
しかし、今回は国王の息子であるヒビキや銀騎士団が学園敷地内にいるため、既にユタカの耳に入っているだろう。
「安全であることを確認してから、対抗戦の続きをしましょうか」
2000レベルを越えるドラゴンを倒したことによりレベルアップをした生徒が数名いる。
この数時間で元の姿へ変貌を遂げた鬼灯の参加資格は強制的に剥奪する形になるけれど、それは鬼灯も承知のうえ。
「俺は特等席で観戦したいな」
呑気に観戦する場所を決めるため、四方八方を取り囲んでいる座席をぐるりと見渡した。
「ヒビキは参加するだろ?」
鬼灯の問い掛けに対して
「うん」
ヒビキは即答する。
ドラゴンを討伐したことにより会場内は穏やかな雰囲気を醸し出す。
しかし、生徒のある一言が決め手となって対抗戦は思わぬ決着を向かえることになる。
「ごめん。前向きに事を進めている所悪いけど俺達は降りるよ。彼のスキルには、どう足掻いても勝てっこないから」
ヒビキを指差して言葉を続けるのは次に対戦する予定だったメンバー達。全員の意見が一致した。
実は学園敷地内から外へ避難をしていた生徒達は、2000レベルを越えるドラゴン相手に誰が挑んでいるのか興味を抱いて、ドラゴンが結界内へ閉じ込められるのと同時に、そっと足音を立てることなく死角となる場所からヒビキ達を覗き見していた。
シエルやヒビキのいる位置から遠く離れていたため声は一切聞こえなかったとは言え、空を埋め尽くすほどの沢山の炎を発動した人物がヒビキであることは一目瞭然。
生徒達は味方の発動した炎属性の攻撃魔法を見て身の危険を感じて再び一目散に学園敷地内から抜け出していた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる