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学園都市編
132話 対抗戦のチーム決め
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「どうしよう。生徒達が集まっているから、敷地内に入ることが出来ずに困っているんだよね。ヒビキお兄様の性格は良く分からないけど、自ら人に声をかける性格ではないようだし。どうしよう……声をかけてみようかしら」
母親に似たのか、それとも父親に似たのか。
アヤネやヒビキは、考えていることを無意識のうちに全て口に出してしまうような癖があるらしい。
「でも、返事がなかったら次から声をかけることは出来なくなってしまう」
独り言が止まらない。
「ドラゴンを倒すほどの実力を持つ強い編入生と思っていた時は、どんな風に話しかけていたかな。何度か喧嘩を吹っ掛けてしまったような気もするけど、何かもう駄目かもしれない。私……気づかないうちに、いろいろとやらかしているわね」
過去のヒビキへの態度を思い起こしていたアヤネが項垂れる。
似ているなとは思っていた。
でも、まさか二番目の兄が狐耳つきの可愛らしい服を身に付けて登場するなんて、思ってもいなかったため兄であることに気づかずに結構、酷い言葉を浴びせてしまった。
洞窟内でドラゴンから救ってもらったにもかかわらず、二番目の兄を一番目の兄と比較するような発言をしてしまった。
「だからあの時、落ち込んでいるような今にも泣き出しそうな表情をしていたのね」
ヒビキお兄様はきっと、自分が兄であることを言えずにいたのだと思う。
「他人に興味がなくて喜怒哀楽もない、表情の乏しい人だと思っていたけど案外そうではないのかも。声をかけてみようかしら」
ほんの少し、勇気が出たようでアヤネの表情に笑みが浮かぶ。
「でも、洞窟内で思いきり視線を逸らしちゃったから、苦手意識を持たれちゃったかな」
しかし、洞窟内で目が合ったにも拘わらず、顔を思いっきり逸らしてしまったことを思い出して表情から笑みが消える。
「助けてもらったのにお礼も言ってないや」
過去の自分の行いに対して激しく後悔をする。
しかし、今さら後悔をしても遅い。
肩を落として俯いてしまったアヤネは、大きなため息を吐き出した。
「君達そろそろ対抗戦のチーム決めが始まりますよ。体育館へ集合しましょう」
アヤネが影からヒビキを観察していたように、体育館の扉をうっすらと開き正門玄関前に集まる生徒達を眺めている人物がいた。
本当は自分達で通行の妨げになっている事に気付いて欲しかったけれども、一向に退く気配がない。
それどころか、話の中心にいる癖っ毛が印象的な黒髪の生徒は、ヒビキの存在に気づいていながら知らぬ顔をしている。
一際大きな歓声が上がり、生徒達の視線が輪の中心にいる男子生徒から別の生徒へ移動する。
「副会長!」
ざわめきたつ正門前に副会長が歩み寄る。
「副会長! 聞いてください。僕の兄が先週から銀騎士団特攻隊に所属したんです」
一際大声を出した生徒が、嬉しそうに副会長の元へ歩み寄る。
癖っけのある黒髪が印象的な男子生徒である。
副会長と並んで立つと、随分と身長差がある。
「そうですか。おめでとうございます。銀騎士団には私の母も在籍していますから、これから何かと縁があるかもしれませんね」
男子生徒に笑顔を見せた副会長は敢えて母親が銀騎士団に所属していることを口にする。軽く一礼すると、呆然と佇んでいるヒビキの元に歩み寄る。
「ほら。間抜け面を浮かべていないで、体育館に向かいましょう」
ヒビキに向かって意地の悪い笑みを浮かべて見せた。
「副会長が何の躊躇いもなく一目散に俺の元に歩み寄ってきたから生徒達に思い切り睨み付けられてるんだけど。親衛隊持ちとは、あまり関わらないようにしているから少し離れて歩いて貰えると助かるかな」
「100レベルのドラゴンを、たった一人で倒してしまう実力があるのなら、生徒の100名や200名くらい片手で血祭りに出来るのでは? 苛めが怖い?」
副会長は笑顔で恐ろしいことを言う。
茶化されていると分かっていながらヒビキは言葉を返す。
「怖いと言うか嫌に決まってる。苛めを働くような面倒そうな生徒には関わりたくないし、何より父が買ってくれたノートや制服を破られるような事になったら血祭りにあげるだけでは済まさないよ」
ヒビキが言葉を続けたことにより、余裕を見せていた副会長の表情が強ばった。
「死者は出さないでくださいよ」
最悪の事態を想像して、死者を出す事は駄目なことであるとヒビキに釘を刺す。
周囲に生徒達がいるため、本性を表に出せずにいるのだろう。
時おり見せる荒々しい性格の副会長の方が面白い。
「まだ表だって公表されていない情報ですが、東の森の洞窟内で緊急クエストが発生したそうですよ。1320レベルのトロールが現れたとの情報が入ってきました。心配していたのですよ。アヤネさんと共にヒビキ君が巻き込まれていたら、どうしようかと思っていたところです。ご無事で何よりです」
心から心配してくれていたのだろう。
東の森にある洞窟内で緊急クエストが発生したとの情報を得て、副会長はヒビキとアヤネの帰宅を今か今かと待ちわびていた。
副会長は今もなおトロールが暴れまわっていると思っているようで、ヒビキの無事な姿を見て安堵する。
「死者も出ているようですし、果たして1320と高レベルのモンスターを銀騎士団だけで対処しきれるかどうか」
緊急クエストが発生してしまったら、洞窟の出入り口は閉鎖されてしまう。
そのため、洞窟内にいる人物のみで対処することになるのだけれども。
どうやら、副会長は緊急クエストに巻き込まれた経験はないようで少し勘違いをしている様子。
一体どこまでの情報が出回っているのか。
試しに問いかけてみる。
「死者数は既に出てるの?」
気になっていた死者数を問いかけてみる。
「えぇ。7名の方が命を落としてしまったそうです。その殆どが男性で、中には子供さんも含まれていたそうです」
既に身元も判明したようす。
きっと、仲間や身内がトロールに踏み潰されていく様子を、見ていた人達がいたのだろう。
恐怖心から泣くことも出来ず、放心状態に陥っていた子供がいた。
膝から地面に崩れ落ちて、顔を俯かせていた男性がいた。
空を見上げて、ただひたすら佇んでいる女性がいた。視線を下ろしたら洞窟内に広がる光景を見ることになってしまうから、悲惨な光景を直視する事が出来なかったのかもしれない。
「切ないね」
何故妖精界まで魔力回復薬を取りに戻らなかったのか。
今ごろになって後悔をしたって遅い。
人間界では魔力回復薬は市場に出回っていない。
しかし、妖精の森まで行けば魔力回復薬は手に入っていただろう。
人間界に出現するモンスターは強くてもレベル100までが大半で、高レベルのモンスターが現れるなど思ってもいなかった。
魔力の回復薬がなかったとしても、レベル100までなら剣一つで倒すことが出来ると考えてのことだった。
例え100レベル以上のモンスターが現れても、銀騎士団に依頼すれば倒してもらえると、そう思っていた。
人間界に出没するモンスターを甘く見すぎていた。
「意識不明の方もいるそうですし、先ほど大きな爆発もありましたから、暫くは東の森に近づかない方がいいと思います」
その爆発は俺が引き起こしたものだよとも言えずに、ヒビキは苦笑いをする。
意識不明の方とはシエルの事だろう。
全くピクリとも反応を示すことが無かったため、もしかしたら既に事切れてしまっているのだろうかと不安もあった。
しかし、生きているのであれば意識が回復した後に情報を聞出すことが出来る。
「甚大な被害を出したんだね。暫くは調査のために東の森は封鎖しそうだね」
東の森の被害は、洞窟を破壊したヒビキが良く分かっている。
時期に1320レベルのトロールが倒されたことも、情報が出回るだろう。
「東の森での狩りが出来ないのであれば、次に最適な狩り場となるのは、魔女のいる屋敷ですか」
今後、魔女のいる屋敷が最適な狩り場として人気が出ることになるだろう。
屋敷の1階は推奨レベル10以上。
2階は推奨レベル20以上。
3階は推奨レベル40以上。
4階は推奨レベル50以上。
5階は推奨レベル70以上。
6階は推奨レベル80以上。3人以上のパーティ。
7階は推奨レベル100以上。6人以上のパーティで挑むのがおすすめである。
「今度一緒に狩りに行きましょうね。会長やアヤネさんも誘ってパーティを組みましょう」
校内でも人気のある生徒会役員。学園生活において、滅多にお目にかかることのないと密かに囁かれている生徒会役員副会長に狩りに誘われてしまった。
同じく生徒会役員である会長や、生徒達から人気のあるアヤネを誘う気でいるようだけど明らかに目立つ面子である。
「随分と豪華なメンバーだね。俺は出来れば目立ちたくないんだけど」
素直な気持ちを口にした。
「それに関しては、心配しなくてもいいのでは? 貴方単体でいたとしても目立ちますから」
「それは、どういう意味?」
副会長の口から思わぬ発言があった。
言葉の意味を理解することが出来ずに、どういう意味なのか問いかけてみたものの、副会長はクスクスと上品に笑うだけ。
答える気は無さそうだ。
「そろそろ、体育館内へ移動しなければなりませんね」
素早く話題を切り替えられてしまった。
既に正門前に屯っていた生徒達は、体育館内へ移動を終えていた。
小柄な女子生徒が体育館の扉から、ひょっこりと顔を覗かせている。
「私達を待っているようですよ。行きますよ」
急遽話が脇道に逸れたため、ヒビキは何とも複雑な表情を浮かべている。
「うん」
渋々と頷いて副会長の後に続く。
悪目立ちしていなければ良いけれど……何てことを考えつつ、体育館内に足を踏み入れる。
「今年はSクラスからFクラスまで各1人ずつ。抽選で7名を選び、7人1組のチームを作ります。前例が無い以上、どのような対抗戦になるのか分かりませんが楽しみですね」
周囲に沢山の生徒がいるため、副会長は笑顔を絶やさない。
本来の性格を知っているからこそ、常に笑顔を張り付けていて疲れないのだろうかと疑問に思っては見るものの、大勢の生徒がいる前で問いかけるわけにもいかずヒビキは複雑な表情を見せる。
「うん」
副会長の言葉に同意するようにして小さく頷いた。
「人が大勢いるところは苦手ですか? 口数が少ないように思えますが」
Fクラスの生徒が集まる体育館東側へ足を進めようとしていたため、急な質問に驚いてしまう。
まさか、口数が少なくなっていることの指摘を受けるとは思ってもいなかった。
「副会長の口調や表情に慣れていないから、気味が悪いなと思っていただけだよ」
慌てて返事をしてみるものの、思わず本音が出てしまう。
その瞬間、副会長の顔が笑顔を浮かべてはいるものの見事に凍りついたのが分かってしまった。
「と言うことで、俺はこれで失礼するよ」
言い逃げである。
素早く足を引き身を翻したヒビキは、副会長の制止を振り切ってFクラスの生徒達が列を作っている体育館東側へ素早く移動する。
「何を話していたんだろう」
アヤネはヒビキの後を追って体育館内へ足を踏み入れた。
ヒビキが副会長に向かって手をふる姿を見て、きょとんとする。
副会長はヒビキに何か言いたそうだったけれども、腕を見事に掴み損なっていた。
「一体いつの間に仲良くなっていたんだろう。副会長と一緒にいれば、いつかお兄様と話せる日がくるのかな」
わずかな希望が浮かび上がる。
アヤネの表情に笑みが戻った。
「それでは、今から対抗戦のチーム決めを行います。3年Sクラスの生徒から順に前へ出てきてくださいね」
対抗戦のチーム決めは、副会長の司会進行と共に始まった。
Sクラスの生徒が一人ずつ、ステージ上にのぼる。
白髪ロン毛の青年の順になった時に、一際大きな歓声が上がる。
顔を真っ赤に染める女子生徒が大声を上げて興奮する。
「メモの準備よ! 何組目なのかメモを取らなきゃ」
鞄の中からメモ用紙とペンを取り出した。
時おり沸き上がる歓声は校内でも特に人気のある生徒に向けられたもののようで、生徒会役員や風紀委員に向けられたものだと分かった。
他にも親衛隊を持つ生徒。
1年生であるアヤネや鬼灯の順番になった時も、耳がいたくなるほどの歓声が上がる。
しかし、Sクラスが終わりAクラスへ順番が回った途端ピタリと歓声は止み体育館内は静けさに包まれた。
アヤネは19組目。
19番を見事に引き当てたAクラスの生徒が、何度も跳び跳ねて喜んでいる。
BクラスからCクラスへ。DクラスかららEクラスへ。
最後にFクラスの生徒がステージ上にあがる。
この頃には生徒達は携帯やお喋りに夢中になっていて、ステージ上を見ている者の数は少ない。
ヒビキが抽選する番になった。
目の前に設置されたボタンを押すと、高速で数字のカウントが始まった。
続けてボタンを押すと108と書かれた数字が現れる。
「108番」
ヒビキが数字を読み上げるようにして、小さな声で呟いた。
108番は会長のいるチームである。
母親に似たのか、それとも父親に似たのか。
アヤネやヒビキは、考えていることを無意識のうちに全て口に出してしまうような癖があるらしい。
「でも、返事がなかったら次から声をかけることは出来なくなってしまう」
独り言が止まらない。
「ドラゴンを倒すほどの実力を持つ強い編入生と思っていた時は、どんな風に話しかけていたかな。何度か喧嘩を吹っ掛けてしまったような気もするけど、何かもう駄目かもしれない。私……気づかないうちに、いろいろとやらかしているわね」
過去のヒビキへの態度を思い起こしていたアヤネが項垂れる。
似ているなとは思っていた。
でも、まさか二番目の兄が狐耳つきの可愛らしい服を身に付けて登場するなんて、思ってもいなかったため兄であることに気づかずに結構、酷い言葉を浴びせてしまった。
洞窟内でドラゴンから救ってもらったにもかかわらず、二番目の兄を一番目の兄と比較するような発言をしてしまった。
「だからあの時、落ち込んでいるような今にも泣き出しそうな表情をしていたのね」
ヒビキお兄様はきっと、自分が兄であることを言えずにいたのだと思う。
「他人に興味がなくて喜怒哀楽もない、表情の乏しい人だと思っていたけど案外そうではないのかも。声をかけてみようかしら」
ほんの少し、勇気が出たようでアヤネの表情に笑みが浮かぶ。
「でも、洞窟内で思いきり視線を逸らしちゃったから、苦手意識を持たれちゃったかな」
しかし、洞窟内で目が合ったにも拘わらず、顔を思いっきり逸らしてしまったことを思い出して表情から笑みが消える。
「助けてもらったのにお礼も言ってないや」
過去の自分の行いに対して激しく後悔をする。
しかし、今さら後悔をしても遅い。
肩を落として俯いてしまったアヤネは、大きなため息を吐き出した。
「君達そろそろ対抗戦のチーム決めが始まりますよ。体育館へ集合しましょう」
アヤネが影からヒビキを観察していたように、体育館の扉をうっすらと開き正門玄関前に集まる生徒達を眺めている人物がいた。
本当は自分達で通行の妨げになっている事に気付いて欲しかったけれども、一向に退く気配がない。
それどころか、話の中心にいる癖っ毛が印象的な黒髪の生徒は、ヒビキの存在に気づいていながら知らぬ顔をしている。
一際大きな歓声が上がり、生徒達の視線が輪の中心にいる男子生徒から別の生徒へ移動する。
「副会長!」
ざわめきたつ正門前に副会長が歩み寄る。
「副会長! 聞いてください。僕の兄が先週から銀騎士団特攻隊に所属したんです」
一際大声を出した生徒が、嬉しそうに副会長の元へ歩み寄る。
癖っけのある黒髪が印象的な男子生徒である。
副会長と並んで立つと、随分と身長差がある。
「そうですか。おめでとうございます。銀騎士団には私の母も在籍していますから、これから何かと縁があるかもしれませんね」
男子生徒に笑顔を見せた副会長は敢えて母親が銀騎士団に所属していることを口にする。軽く一礼すると、呆然と佇んでいるヒビキの元に歩み寄る。
「ほら。間抜け面を浮かべていないで、体育館に向かいましょう」
ヒビキに向かって意地の悪い笑みを浮かべて見せた。
「副会長が何の躊躇いもなく一目散に俺の元に歩み寄ってきたから生徒達に思い切り睨み付けられてるんだけど。親衛隊持ちとは、あまり関わらないようにしているから少し離れて歩いて貰えると助かるかな」
「100レベルのドラゴンを、たった一人で倒してしまう実力があるのなら、生徒の100名や200名くらい片手で血祭りに出来るのでは? 苛めが怖い?」
副会長は笑顔で恐ろしいことを言う。
茶化されていると分かっていながらヒビキは言葉を返す。
「怖いと言うか嫌に決まってる。苛めを働くような面倒そうな生徒には関わりたくないし、何より父が買ってくれたノートや制服を破られるような事になったら血祭りにあげるだけでは済まさないよ」
ヒビキが言葉を続けたことにより、余裕を見せていた副会長の表情が強ばった。
「死者は出さないでくださいよ」
最悪の事態を想像して、死者を出す事は駄目なことであるとヒビキに釘を刺す。
周囲に生徒達がいるため、本性を表に出せずにいるのだろう。
時おり見せる荒々しい性格の副会長の方が面白い。
「まだ表だって公表されていない情報ですが、東の森の洞窟内で緊急クエストが発生したそうですよ。1320レベルのトロールが現れたとの情報が入ってきました。心配していたのですよ。アヤネさんと共にヒビキ君が巻き込まれていたら、どうしようかと思っていたところです。ご無事で何よりです」
心から心配してくれていたのだろう。
東の森にある洞窟内で緊急クエストが発生したとの情報を得て、副会長はヒビキとアヤネの帰宅を今か今かと待ちわびていた。
副会長は今もなおトロールが暴れまわっていると思っているようで、ヒビキの無事な姿を見て安堵する。
「死者も出ているようですし、果たして1320と高レベルのモンスターを銀騎士団だけで対処しきれるかどうか」
緊急クエストが発生してしまったら、洞窟の出入り口は閉鎖されてしまう。
そのため、洞窟内にいる人物のみで対処することになるのだけれども。
どうやら、副会長は緊急クエストに巻き込まれた経験はないようで少し勘違いをしている様子。
一体どこまでの情報が出回っているのか。
試しに問いかけてみる。
「死者数は既に出てるの?」
気になっていた死者数を問いかけてみる。
「えぇ。7名の方が命を落としてしまったそうです。その殆どが男性で、中には子供さんも含まれていたそうです」
既に身元も判明したようす。
きっと、仲間や身内がトロールに踏み潰されていく様子を、見ていた人達がいたのだろう。
恐怖心から泣くことも出来ず、放心状態に陥っていた子供がいた。
膝から地面に崩れ落ちて、顔を俯かせていた男性がいた。
空を見上げて、ただひたすら佇んでいる女性がいた。視線を下ろしたら洞窟内に広がる光景を見ることになってしまうから、悲惨な光景を直視する事が出来なかったのかもしれない。
「切ないね」
何故妖精界まで魔力回復薬を取りに戻らなかったのか。
今ごろになって後悔をしたって遅い。
人間界では魔力回復薬は市場に出回っていない。
しかし、妖精の森まで行けば魔力回復薬は手に入っていただろう。
人間界に出現するモンスターは強くてもレベル100までが大半で、高レベルのモンスターが現れるなど思ってもいなかった。
魔力の回復薬がなかったとしても、レベル100までなら剣一つで倒すことが出来ると考えてのことだった。
例え100レベル以上のモンスターが現れても、銀騎士団に依頼すれば倒してもらえると、そう思っていた。
人間界に出没するモンスターを甘く見すぎていた。
「意識不明の方もいるそうですし、先ほど大きな爆発もありましたから、暫くは東の森に近づかない方がいいと思います」
その爆発は俺が引き起こしたものだよとも言えずに、ヒビキは苦笑いをする。
意識不明の方とはシエルの事だろう。
全くピクリとも反応を示すことが無かったため、もしかしたら既に事切れてしまっているのだろうかと不安もあった。
しかし、生きているのであれば意識が回復した後に情報を聞出すことが出来る。
「甚大な被害を出したんだね。暫くは調査のために東の森は封鎖しそうだね」
東の森の被害は、洞窟を破壊したヒビキが良く分かっている。
時期に1320レベルのトロールが倒されたことも、情報が出回るだろう。
「東の森での狩りが出来ないのであれば、次に最適な狩り場となるのは、魔女のいる屋敷ですか」
今後、魔女のいる屋敷が最適な狩り場として人気が出ることになるだろう。
屋敷の1階は推奨レベル10以上。
2階は推奨レベル20以上。
3階は推奨レベル40以上。
4階は推奨レベル50以上。
5階は推奨レベル70以上。
6階は推奨レベル80以上。3人以上のパーティ。
7階は推奨レベル100以上。6人以上のパーティで挑むのがおすすめである。
「今度一緒に狩りに行きましょうね。会長やアヤネさんも誘ってパーティを組みましょう」
校内でも人気のある生徒会役員。学園生活において、滅多にお目にかかることのないと密かに囁かれている生徒会役員副会長に狩りに誘われてしまった。
同じく生徒会役員である会長や、生徒達から人気のあるアヤネを誘う気でいるようだけど明らかに目立つ面子である。
「随分と豪華なメンバーだね。俺は出来れば目立ちたくないんだけど」
素直な気持ちを口にした。
「それに関しては、心配しなくてもいいのでは? 貴方単体でいたとしても目立ちますから」
「それは、どういう意味?」
副会長の口から思わぬ発言があった。
言葉の意味を理解することが出来ずに、どういう意味なのか問いかけてみたものの、副会長はクスクスと上品に笑うだけ。
答える気は無さそうだ。
「そろそろ、体育館内へ移動しなければなりませんね」
素早く話題を切り替えられてしまった。
既に正門前に屯っていた生徒達は、体育館内へ移動を終えていた。
小柄な女子生徒が体育館の扉から、ひょっこりと顔を覗かせている。
「私達を待っているようですよ。行きますよ」
急遽話が脇道に逸れたため、ヒビキは何とも複雑な表情を浮かべている。
「うん」
渋々と頷いて副会長の後に続く。
悪目立ちしていなければ良いけれど……何てことを考えつつ、体育館内に足を踏み入れる。
「今年はSクラスからFクラスまで各1人ずつ。抽選で7名を選び、7人1組のチームを作ります。前例が無い以上、どのような対抗戦になるのか分かりませんが楽しみですね」
周囲に沢山の生徒がいるため、副会長は笑顔を絶やさない。
本来の性格を知っているからこそ、常に笑顔を張り付けていて疲れないのだろうかと疑問に思っては見るものの、大勢の生徒がいる前で問いかけるわけにもいかずヒビキは複雑な表情を見せる。
「うん」
副会長の言葉に同意するようにして小さく頷いた。
「人が大勢いるところは苦手ですか? 口数が少ないように思えますが」
Fクラスの生徒が集まる体育館東側へ足を進めようとしていたため、急な質問に驚いてしまう。
まさか、口数が少なくなっていることの指摘を受けるとは思ってもいなかった。
「副会長の口調や表情に慣れていないから、気味が悪いなと思っていただけだよ」
慌てて返事をしてみるものの、思わず本音が出てしまう。
その瞬間、副会長の顔が笑顔を浮かべてはいるものの見事に凍りついたのが分かってしまった。
「と言うことで、俺はこれで失礼するよ」
言い逃げである。
素早く足を引き身を翻したヒビキは、副会長の制止を振り切ってFクラスの生徒達が列を作っている体育館東側へ素早く移動する。
「何を話していたんだろう」
アヤネはヒビキの後を追って体育館内へ足を踏み入れた。
ヒビキが副会長に向かって手をふる姿を見て、きょとんとする。
副会長はヒビキに何か言いたそうだったけれども、腕を見事に掴み損なっていた。
「一体いつの間に仲良くなっていたんだろう。副会長と一緒にいれば、いつかお兄様と話せる日がくるのかな」
わずかな希望が浮かび上がる。
アヤネの表情に笑みが戻った。
「それでは、今から対抗戦のチーム決めを行います。3年Sクラスの生徒から順に前へ出てきてくださいね」
対抗戦のチーム決めは、副会長の司会進行と共に始まった。
Sクラスの生徒が一人ずつ、ステージ上にのぼる。
白髪ロン毛の青年の順になった時に、一際大きな歓声が上がる。
顔を真っ赤に染める女子生徒が大声を上げて興奮する。
「メモの準備よ! 何組目なのかメモを取らなきゃ」
鞄の中からメモ用紙とペンを取り出した。
時おり沸き上がる歓声は校内でも特に人気のある生徒に向けられたもののようで、生徒会役員や風紀委員に向けられたものだと分かった。
他にも親衛隊を持つ生徒。
1年生であるアヤネや鬼灯の順番になった時も、耳がいたくなるほどの歓声が上がる。
しかし、Sクラスが終わりAクラスへ順番が回った途端ピタリと歓声は止み体育館内は静けさに包まれた。
アヤネは19組目。
19番を見事に引き当てたAクラスの生徒が、何度も跳び跳ねて喜んでいる。
BクラスからCクラスへ。DクラスかららEクラスへ。
最後にFクラスの生徒がステージ上にあがる。
この頃には生徒達は携帯やお喋りに夢中になっていて、ステージ上を見ている者の数は少ない。
ヒビキが抽選する番になった。
目の前に設置されたボタンを押すと、高速で数字のカウントが始まった。
続けてボタンを押すと108と書かれた数字が現れる。
「108番」
ヒビキが数字を読み上げるようにして、小さな声で呟いた。
108番は会長のいるチームである。
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しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
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