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学園都市編
118話 かくれんぼ
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小刻みに肩を揺らして笑うヒビキは余裕を見せる。
「笑っている場合じゃ無いわよ。ドワーフが迫って来ているんだからね!」
危機的な状況の中で笑う余裕を見せるヒビキに対して、アヤネが透かさず突っ込みを入れる。
どうやら笑っている場合では無さそうだ。
前方から迫り来るドワーフの群れを視界に入れたヒビキが素早く表情を引き締める。
「うん。ごめん」
テンパっているアヤネに頭を下げて、懐から狐面を取り出すと顔に添えて紐を結ぶことにより身に付けた。
続けて背負っている剣に手をかける。
足元に現れた黒色の魔法陣から逃れるようにして地を蹴りつけると、体は高々と空中に飛び上がる。
空中で身体を一回転。
一気に剣を引き抜くと、何を思ったのかヒビキは迷うことなくドワーフの群れの中に下り立った。
剣を横一線に薙ぎ払う。
右足を軸にして身体を回転させると、周囲を囲んでいたドワーフが剣に弾かれることによりふっ飛んだ。
砂となって消えていくドワーフを呆然と眺めているアヤネは足を止めてしまっている。
背後から迫り来るドワーフを忘れてしまっているのだろうか。
立ち止まっているアヤネに気づいたヒビキが肝を冷やす。
「後ろ!」
アヤネに身の危険を知らせるために大声をあげる。
「え……」
ぽつりと声を漏らしたアヤネが背後を振り向いた。
迫り来るドワーフに驚いたのだろう。
けたたましい叫び声が洞窟内に響き渡る。
状況を見てどのような行動をすればいいのか、判断をする前に体が動いたのだろう。
力一杯、杖を振り下ろしたアヤネが炎属性の魔法を発動する。
パニック状態に陥っているアヤネが発動した攻撃魔法は敵味方関係なく襲いかかる。
迫り来る炎を避けきれずに、僅かに回復していた魔力を使い防壁を張り巡らせたヒビキが炎の勢いに負けてふっ飛んだ。
「来ないでよぉおおおおお!」
アヤネはパニック状態である。
杖を振り回すと杖の先端が真っ白な炎に包まれて、攻撃魔法が飛び出した。
「ちょ、わっ」
四方八方から降り注ぐ白い炎を避けるために、ヒビキは急いで横たわっていた身体を起す。
姿勢を崩しながらも右へ左へ身体を移動。アヤネの放った攻撃魔法をスレスレでかわす事に成功したヒビキがたまらずに声をあげる。
「落ち着け。洞窟を壊すきか」
随分と低い声が出た。
ヒビキの一言でアヤネが我に返ったものの、すでに発動してしまった術は止めることが出来ない。
「きゃぁあああああ! 避けて!」
両頬に手を添えて悲鳴をあげたアヤネが地団駄を踏む。
カランカランと音を立てて杖が転がった。
「ちょっ、戦いの最中に武器から手を離すな」
杖を落としたアヤネに向かって、透かさずヒビキが口を開く。
声を荒らげると利き手を右から左に勢い良く振り払った。
敵から逃れろと手で合図を送ったものの、どうやらアヤネはヒビキの合図を読み取ることが出来なかったようで、ヒビキに怒られたと思って半べそをかく。
身体を右に移動させることによりアヤネの放った攻撃魔法を避けたヒビキが、アヤネの背後を指差した。
「背後からドワーフが迫ってるんだよ」
アヤネにドワーフが迫っていることを伝えようと声を荒らげる。
ドワーフのレベルは低い。
しかし、集団行動を行うドワーフに囲まれてしまえば逃げ出すことは容易ではない。
ヒビキに怒られたと思って恐怖心に支配されるアヤネは、咄嗟に反応を示すことが出来ずにあたふたとする。
混乱しているのだろう。
迫り来るドワーフに、背を向けたまま佇むアヤネの元へヒビキがたどり着く。
しかし、狐面を身に付けたままの状態で強く地面を蹴りつけたため勢いが良すぎた。
アヤネの元にたどり着いたものの、急には止まれそうにない。
姿勢を崩したヒビキが慌てて右手を地面につく。
左手でアヤネの落としてしまった杖を手に取ると、足元を滑らせる。
体が半回転したところでアヤネの手をとり、洞窟の出入り口に向かって駆け出した。
無言のままヒビキの後に続くアヤネは落ち込んでいるようだ。顔を俯かせてしまっている。
「ごめん。別に怒っているわけではないんだよ」
声を荒らげることはしたけれど、それはアヤネを心配したためであって決して怒っているわけではない。
気持ちが沈んでしまったアヤネに、怒っているわけではない事を伝えると途端にアヤネの表情が輝いた。
「杖を返しておくよ」
手にしていた杖をアヤネの前に差し出すと
「え、あ。有り難う」
ここで、やっと杖を落としてしまったことに気づいたらしい。
あんぐりと口を開いたアヤネの反応を見て苦笑してしまう。
状況的に笑っている場合ではないのだけど。
右足を軸に身体を勢いよく回転させることで、剣を横一線に振り払う。
目の前に迫っていたドワーフを薙ぎ払うと、アヤネから手を放して剣を右下から左上に振り払う。
飛びかかってきたドワーフが砂となって消えると、アヤネの手をとり駆け出した。
「ちょっ……目の前にドワーフの群れがっ!」
アヤネが顔を強ばらせる。
ドワーフの群れに迷うこと無く突っ込んで行くヒビキに声をかけてみるものの
「うん。分かってる。それより、怪我は無かった? 大丈夫?」
「それよりって……」
ヒビキは目の前の状況よりアヤネの心配をした。
思わず本音を漏らしたアヤネがヒビキの顔を覗きこむ。
「ドワーフの事は俺に任せて。大丈夫だから」
視線は前方を塞ぐドワーフに釘付けである。
本当に兄に似ているなと、二番目の兄を思い浮かべたアヤネが首を左右にふる。
似ているけれど性格が全然違う。
ふと浮かんだ考えを振り払うと小さなため息を吐き出した。
「ヒビキ君がお兄ちゃんだったら良かったのに」
ぽつりと本音を漏らしたアヤネに悪気はない。
「え?」
ヒビキが透かさず聞き返す。
「うん。ごめん。何でもない」
我にかえり慌てて言葉を訂正したアヤネの反応を見ていたヒビキが苦笑する。
聞き間違えでなければ、ヒビキ君がお兄ちゃんだったら良かったのにと言ったのだろうけど、実際は兄妹であるわけで。
複雑な気持ちである。
「呑気に笑っている場合じゃなかった。間をすり抜けるよ」
前方から迫り来るドワーフを避けながら突き進まなければならない。
アヤネに、ドワーフ達の間をすり抜けることを伝えると
「うん。行きましょう」
いつもの調子を取り戻したアヤネが大きく頷いた。
ドワーフの間をすり抜けて、ヒビキとアヤネが洞窟内を駆け抜ける。
荒い呼吸を繰り返すアヤネはヒビキの後に続くのに必死。
迫り来るドワーフ達に攻撃を仕掛ける余裕はない。
「もうすぐだよ。後少しで、洞窟内から抜け出せる」
前のめりである。今にも転んでしまいそうなほど、前のめりで走るアヤネにヒビキが頑張れと声をかける。
「ん……」
頷く事もままならないようで、言葉を詰まらせたアヤネが顔を俯かせた。
洞窟内から抜け出すことには成功をしたものの
「ごめん。洞窟から抜け出せたけど、ゴブリンに囲まれているから走り続けて」
周囲を囲んでいるゴブリンに気づいたヒビキがアヤネに声をかける。
「…………」
既に返事をする余裕もないようで、無言のまま足を進めるアヤネは汗だくだった。
「頑張って」
ヒビキが声をかける。
草木が生い茂る森の中を全速力で駆け抜けると、やがて森を抜けて街中に足を踏み入れる。
人と出会う前に狐面を素早く取り外して鞄の中にしまう。
「森を抜けたよ」
荒い呼吸を繰り返しているアヤネに声をかけた。
はぁああああと大きなため息を吐き出して、地べたに腰を下ろしてしまったアヤネに周囲の目を気にしている余裕は無いようだ。
どっしりと腰を下ろしてあぐらをかこうとしたアヤネに
「流石に、その座り方はまずいから。スカートをはいていることを忘れているのか?」
透かさずヒビキが突っ込みをいれる。
「本当は大の字になって寝転がりたいのよ」
アヤネはなげやりな態度である。
妹が醜態をさらすのを、みすみすと見過ごすわけにもいかない。
「駄目だよ」
アヤネの背中に手を添えたヒビキが険しい表情を浮かべて呟いた。
「うん。分かった」
強い口調で言われてしまえば、体はだるくても従わなければならない。
首を縦にふったアヤネがヒビキの肩に腕をかけた。
「体力が戻るまで肩を貸してくれない?」
一人では立ち上がることもままならないアヤネがヒビキに身を寄せる。
「肩を貸すのは構わないけど……」
ヒビキとアヤネは身長差がある。
座り込むアヤネに合わせてしゃがみこんでいたヒビキが、ゆっくりと腰を上げて立ち上がる。
「辛くない?」
つま先立ちをするアヤネの顔を覗きこむ。
「えぇ。肩を借りようとしたことを早速、後悔しているわよ」
顔面蒼白である。
険しい表情を浮かべるアヤネがヒビキの肩から腕をはずす。
「たっぱがあるのね。最初に出会った時に狐耳付の膝下まである服を身に付けていたから、てっきり小柄なんだとばかり思っていたわ。ごめんなさい」
真面目な顔をして謝るアヤネの言葉を耳にして、顔を両手で覆い隠したヒビキが頬を真っ赤に染める。
アヤネには格好良くて爽やかな兄という印象を与えたいと考えるヒビキが、少し早い口調で言葉を口にする。
「あの服は命の恩人からのプレゼントなんだ」
アヤネと洞窟内で出くわした時。
洞窟内はほんのりと薄暗かった。
顔を合わせていた時間も短かったため服装までは見られていないだろうと考えていたのだけど、考えが甘かったことを知る。
恥ずかしそうに顔を俯かせたヒビキを見て、一体何を思ったのか。
両手の平を胸の高さまで持ち上げて、それぞれの指先を高速で動かしたアヤネが身震いをする。
「何だろうこの気持ち。きゅん? いえ、もっとこう……ぞわっと言うかゾクッと言うか」
不思議な感覚に苛まれたアヤネが眉を寄せる。
「恐怖?」
ぽつりと言葉を続けたアヤネの腕には鳥羽が立っている。
「恐怖心に苛まれているの? 俺の顔怖かったかな?」
ヒビキはショックを受けたようで、首をかしげて問いかける。
顔が強ばっていたなら今すぐ緩めなければならないと考えて、両頬を力任せに叩いたヒビキの頬が手のひら型に赤く染まる。
「ごめんなさい。顔が怖いわけではないの。何て言うのかな。ヒビキ君を見てると、たまにね鳥肌が立つときがあるのよね」
苦笑するアヤネの言葉を耳にして、なんとも奇妙な表情を浮かべたヒビキが顔を俯かせる。
褒められているのか貶されているのか分からない。
唖然とするヒビキが何を考えているのか分からず、戸惑っているアヤネがヒビキの背中に手を添える。
東の森から城までは、たいした距離はない。
アヤネと話をしながら足を進めているうちに城まで一直線に来てしまった。
「目的地って、ここ?」
目の前に広がる巨大な建物を指差して首を傾げたヒビキが問いかける。
表情には表してはいないものの内心では、この場から逃げ出したいと考えてるヒビキが苦笑する。
「俺は、ここで待ってるよ」
城内に足を踏み入れることを拒む。
いつもは門の前に必ず銀騎士団員の姿があるけれど、今日は無人である。
開かれたままになっている正門は、どうぞ入って下さいと言っているようなもんだ。
誰でも自由に出入りする事が出来るだろう。
普段は国王が術を発動する事により、強力な結界が城を覆っている。
しかし、その結界も今は解除されている状況だ。
「静かすぎると思わない? 何故誰もいないの?」
城の中は静寂に包まれている。いつもだったら、この時間帯は銀騎士団が城内を足早に行き来しているのだけど、足音すら聞こえない。
ヒビキの袖に指をかけたアヤネが不安な気持ちを口にする。
「うん。静かだね」
ヒビキは城の外で待っていると口にしたばかりではあるものの、アヤネはヒビキの言葉を右から左へ聞き流してしまう。
見事にスルーする。
そして、静かだねとアヤネの意見に同意したヒビキの声は上手いこと聞き取れなかったのだろう。
「え? ごめんね。小声だったうえに早い口調だったため聞き取る事が出来なかったの」
アヤネが間髪を入れずに首を傾げて問いかける。
しかし、重要なことを言ったわけではないため、聞き返して貰ったことに対して申し訳なさを感じたヒビキが苦笑した。
「ごめん。独り言」
すぐに独り言であることを伝えると首を傾げたアヤネが城の中に視線を移す。
「中に入ってみましょう」
中の状況を確認したくて気が気ではないのだろう。
落ち着かない様子のアヤネに急かされて、足を進めたヒビキが正門を抜けて城の敷地内に足を踏み入れる。
出来れば城内へ足を踏み入れたくはなかったのだけど、今さら引き返すことも出来ずに小さなため息を吐き出した。
「誰もいないね」
ゆったりとした足取りで直進するアヤネが周囲をキョロキョロと見渡している。
しかし、柱に身を寄せて気配を隠している銀騎士団の姿を発見する事は出来なかったようで、ぽつりと呟いた。
「うん」
ヒビキがアヤネに同意する。
じっくりと眺めると右側だけではない。
左側に佇む柱にも身を寄せて、この場を何とかやり過ごそうとしている銀騎士団の姿がある。
「目的地はどこ? 先に進もうか」
アヤネが銀騎士団の存在に気づく前に早くこの場から立ち去ろうと考えたヒビキが首を傾げて問いかける。
「えぇ、そうね。先へ進みましょう」
不安げな表情を浮かべていたアヤネが無理に表情に笑みを浮かべようとして失敗する。
眉尻を下げて苦笑すると無意識か、それとも意識的か。ヒビキの腕を掴みとった。
アヤネは少しずつ歩くペースが早くなっていることに気づいているのだろうか。
腕を引かれているため、前のめりの状態となったヒビキがアヤネを追う。
ヒビキの呼吸が乱れ始めているけれど、アヤネは城の中が気になってしかたがないようで、ヒビキの様子に気づかない。
遠ざかっていくヒビキ達を、呆然と眺めていた騎士達が一斉にため息を吐き出した。
「ドキドキしました」
調査隊に所属する小柄な女性が胸を撫で下ろす。
「ヒビキ様から手紙が届いた事を知ったのが数分前ですもの。身を隠すので精一杯でしたよ」
騎馬隊に所属する女性が苦笑する。
「アヤネ様は国王が死滅したとの情報を得て一時帰宅したのでしょうね」
調査隊に所属する女性がため息を吐き出すと
「顔色が優れない所を見るとそうだろうな」
騎馬隊に所属する男性が眉尻を下げて同意する。
「現在の状況を全てアヤネ様にお伝えすることは叶わないですし、私達は言ってはいけない事まで話してしまう可能性もあります」
「そうだな。ここはタツウミ様に任せた方が良いな」
調査隊に所属する女性騎士の考えに男性騎士が同意した。
アヤネに腕を引かれることにより、強制的に城の奥に足を踏み入れることになったヒビキの表情は強ばっていた。
妖精王や魔王が城内に居なければ良いのだけど。
タツウミから今朝、届いたばかりの手紙にアヤネが城へ帰宅することを記して送り返したのが洞窟を抜けて城に向かっている最中だった。
洞窟を抜けてから城にたどり着くのに、そう時間はかかっていないはず。
もしも、魔王と妖精王が城内に取り残されていたら……。
そんな、ヒビキの悪い予感は見事に的中する。
魔王や妖精王が国王の寝室にたどり着く前にヒビキ達が城の中に足を踏み入れたため、妖精王は高価な壺の中、魔王は巨大な彫刻に姿を変えて城内に潜んでいる状況だった。
気配を消している妖精王と魔王の前を通りすぎたヒビキの視線は絶えず周囲を見渡している。
どうやら、集中力が散漫しているようだ。
そんなヒビキの姿を見て、ニヤニヤと締まらない表情を浮かべた魔王がペシッとヒビキの後頭部に尾を打ち付けた。
後頭部に衝撃を受け、背後を振り向くと巨大なガーゴイルに変化を遂げた魔王と見事に視線が合う。
ゆっくりと壺の中から顔を覗かせた妖精王はヒビキと視線が合うと、そーっと壺の中に顔を引っ込める。
「ヒビキ君?」
無意識のうちに歩みを止めていたヒビキに対してアヤネが疑問を抱いたようだ。
背後を振り向き、ヒビキに声をかける。
アヤネの視線が向けられることを恐れた魔王が身動きを止めて彫刻のふりをする。
「あ、ごめん」
ギクッと明らかに動揺する素振りを見せたヒビキが、勢いよく背後を振り向くと同時に深々と頭を下げた。
魔王からガーゴイルに魂を移して体を乗っ取り妖精の森にある神殿内に避難していたことを事前に聞いていたとは言え、巨大なガーゴイルは威圧感がある。
中身は魔王だと分かっているのに、恐怖心を抱いてしまう。
「驚かせちゃって、ごめんね」
ヒビキの反応は予想していたものとは違っていたようだ。
大きく肩を揺らしたヒビキの反応を見て、驚かせるつもりは無かったのだけどと言葉を続けたアヤネは、顔の前で両手を合わせて苦笑する。
「目的地はもうすぐよ」
ボーッとしていてごめん。
そう言葉を続けようとしたヒビキが唇を中途半端に開いたまま固まった。
アヤネが間髪いれずに言葉を続けたため、口を開くタイミングを見事に逃してしまう。
廊下の突き当たりを左に曲がれば、すぐに父上の寝室が視界に入り込む。
アヤネの視線の先には開かれたままの状態になっている扉があった。
アヤネの目的地を知ることになったヒビキが苦笑する。
室内は物が散乱しており、部屋の中央には巨大なブラックホールが出現している。
父が使っていた寝室である。
ブラックホールのすぐ側には粉々に砕けた透明な欠片が散らばっている。
室内は薄暗く人の気配はない。
荒れた室内を覗きこんだアヤネが息を呑む。
「何よ……これ。酷い」
人の気配はないものの、父の姿を探しだそうと室内を見渡したアヤネが背後を振り向いた。
「どうしよう」
ぽつりと声を漏らすとヒビキが困ったように眉尻を下げる。
「お兄ちゃんの所に行ってみよう」
既にアヤネの視線の先はタツウミの寝室がある北の棟に向けられていた。
小走りをするアヤネの顔は真っ青である。
タツウミをお兄ちゃんのと呼び、ヒビキの事をあの人と呼ぶ。
タツウミと自分に対してのアヤネの態度の差にショックを受けているヒビキの表情が曇る。
視線を落として、ため息を吐き出したヒビキの視界に妖精王の術により体が小さくなってしまっている国王が入り込んだのは、国王の寝室を後にしてからすぐのことだった。
「笑っている場合じゃ無いわよ。ドワーフが迫って来ているんだからね!」
危機的な状況の中で笑う余裕を見せるヒビキに対して、アヤネが透かさず突っ込みを入れる。
どうやら笑っている場合では無さそうだ。
前方から迫り来るドワーフの群れを視界に入れたヒビキが素早く表情を引き締める。
「うん。ごめん」
テンパっているアヤネに頭を下げて、懐から狐面を取り出すと顔に添えて紐を結ぶことにより身に付けた。
続けて背負っている剣に手をかける。
足元に現れた黒色の魔法陣から逃れるようにして地を蹴りつけると、体は高々と空中に飛び上がる。
空中で身体を一回転。
一気に剣を引き抜くと、何を思ったのかヒビキは迷うことなくドワーフの群れの中に下り立った。
剣を横一線に薙ぎ払う。
右足を軸にして身体を回転させると、周囲を囲んでいたドワーフが剣に弾かれることによりふっ飛んだ。
砂となって消えていくドワーフを呆然と眺めているアヤネは足を止めてしまっている。
背後から迫り来るドワーフを忘れてしまっているのだろうか。
立ち止まっているアヤネに気づいたヒビキが肝を冷やす。
「後ろ!」
アヤネに身の危険を知らせるために大声をあげる。
「え……」
ぽつりと声を漏らしたアヤネが背後を振り向いた。
迫り来るドワーフに驚いたのだろう。
けたたましい叫び声が洞窟内に響き渡る。
状況を見てどのような行動をすればいいのか、判断をする前に体が動いたのだろう。
力一杯、杖を振り下ろしたアヤネが炎属性の魔法を発動する。
パニック状態に陥っているアヤネが発動した攻撃魔法は敵味方関係なく襲いかかる。
迫り来る炎を避けきれずに、僅かに回復していた魔力を使い防壁を張り巡らせたヒビキが炎の勢いに負けてふっ飛んだ。
「来ないでよぉおおおおお!」
アヤネはパニック状態である。
杖を振り回すと杖の先端が真っ白な炎に包まれて、攻撃魔法が飛び出した。
「ちょ、わっ」
四方八方から降り注ぐ白い炎を避けるために、ヒビキは急いで横たわっていた身体を起す。
姿勢を崩しながらも右へ左へ身体を移動。アヤネの放った攻撃魔法をスレスレでかわす事に成功したヒビキがたまらずに声をあげる。
「落ち着け。洞窟を壊すきか」
随分と低い声が出た。
ヒビキの一言でアヤネが我に返ったものの、すでに発動してしまった術は止めることが出来ない。
「きゃぁあああああ! 避けて!」
両頬に手を添えて悲鳴をあげたアヤネが地団駄を踏む。
カランカランと音を立てて杖が転がった。
「ちょっ、戦いの最中に武器から手を離すな」
杖を落としたアヤネに向かって、透かさずヒビキが口を開く。
声を荒らげると利き手を右から左に勢い良く振り払った。
敵から逃れろと手で合図を送ったものの、どうやらアヤネはヒビキの合図を読み取ることが出来なかったようで、ヒビキに怒られたと思って半べそをかく。
身体を右に移動させることによりアヤネの放った攻撃魔法を避けたヒビキが、アヤネの背後を指差した。
「背後からドワーフが迫ってるんだよ」
アヤネにドワーフが迫っていることを伝えようと声を荒らげる。
ドワーフのレベルは低い。
しかし、集団行動を行うドワーフに囲まれてしまえば逃げ出すことは容易ではない。
ヒビキに怒られたと思って恐怖心に支配されるアヤネは、咄嗟に反応を示すことが出来ずにあたふたとする。
混乱しているのだろう。
迫り来るドワーフに、背を向けたまま佇むアヤネの元へヒビキがたどり着く。
しかし、狐面を身に付けたままの状態で強く地面を蹴りつけたため勢いが良すぎた。
アヤネの元にたどり着いたものの、急には止まれそうにない。
姿勢を崩したヒビキが慌てて右手を地面につく。
左手でアヤネの落としてしまった杖を手に取ると、足元を滑らせる。
体が半回転したところでアヤネの手をとり、洞窟の出入り口に向かって駆け出した。
無言のままヒビキの後に続くアヤネは落ち込んでいるようだ。顔を俯かせてしまっている。
「ごめん。別に怒っているわけではないんだよ」
声を荒らげることはしたけれど、それはアヤネを心配したためであって決して怒っているわけではない。
気持ちが沈んでしまったアヤネに、怒っているわけではない事を伝えると途端にアヤネの表情が輝いた。
「杖を返しておくよ」
手にしていた杖をアヤネの前に差し出すと
「え、あ。有り難う」
ここで、やっと杖を落としてしまったことに気づいたらしい。
あんぐりと口を開いたアヤネの反応を見て苦笑してしまう。
状況的に笑っている場合ではないのだけど。
右足を軸に身体を勢いよく回転させることで、剣を横一線に振り払う。
目の前に迫っていたドワーフを薙ぎ払うと、アヤネから手を放して剣を右下から左上に振り払う。
飛びかかってきたドワーフが砂となって消えると、アヤネの手をとり駆け出した。
「ちょっ……目の前にドワーフの群れがっ!」
アヤネが顔を強ばらせる。
ドワーフの群れに迷うこと無く突っ込んで行くヒビキに声をかけてみるものの
「うん。分かってる。それより、怪我は無かった? 大丈夫?」
「それよりって……」
ヒビキは目の前の状況よりアヤネの心配をした。
思わず本音を漏らしたアヤネがヒビキの顔を覗きこむ。
「ドワーフの事は俺に任せて。大丈夫だから」
視線は前方を塞ぐドワーフに釘付けである。
本当に兄に似ているなと、二番目の兄を思い浮かべたアヤネが首を左右にふる。
似ているけれど性格が全然違う。
ふと浮かんだ考えを振り払うと小さなため息を吐き出した。
「ヒビキ君がお兄ちゃんだったら良かったのに」
ぽつりと本音を漏らしたアヤネに悪気はない。
「え?」
ヒビキが透かさず聞き返す。
「うん。ごめん。何でもない」
我にかえり慌てて言葉を訂正したアヤネの反応を見ていたヒビキが苦笑する。
聞き間違えでなければ、ヒビキ君がお兄ちゃんだったら良かったのにと言ったのだろうけど、実際は兄妹であるわけで。
複雑な気持ちである。
「呑気に笑っている場合じゃなかった。間をすり抜けるよ」
前方から迫り来るドワーフを避けながら突き進まなければならない。
アヤネに、ドワーフ達の間をすり抜けることを伝えると
「うん。行きましょう」
いつもの調子を取り戻したアヤネが大きく頷いた。
ドワーフの間をすり抜けて、ヒビキとアヤネが洞窟内を駆け抜ける。
荒い呼吸を繰り返すアヤネはヒビキの後に続くのに必死。
迫り来るドワーフ達に攻撃を仕掛ける余裕はない。
「もうすぐだよ。後少しで、洞窟内から抜け出せる」
前のめりである。今にも転んでしまいそうなほど、前のめりで走るアヤネにヒビキが頑張れと声をかける。
「ん……」
頷く事もままならないようで、言葉を詰まらせたアヤネが顔を俯かせた。
洞窟内から抜け出すことには成功をしたものの
「ごめん。洞窟から抜け出せたけど、ゴブリンに囲まれているから走り続けて」
周囲を囲んでいるゴブリンに気づいたヒビキがアヤネに声をかける。
「…………」
既に返事をする余裕もないようで、無言のまま足を進めるアヤネは汗だくだった。
「頑張って」
ヒビキが声をかける。
草木が生い茂る森の中を全速力で駆け抜けると、やがて森を抜けて街中に足を踏み入れる。
人と出会う前に狐面を素早く取り外して鞄の中にしまう。
「森を抜けたよ」
荒い呼吸を繰り返しているアヤネに声をかけた。
はぁああああと大きなため息を吐き出して、地べたに腰を下ろしてしまったアヤネに周囲の目を気にしている余裕は無いようだ。
どっしりと腰を下ろしてあぐらをかこうとしたアヤネに
「流石に、その座り方はまずいから。スカートをはいていることを忘れているのか?」
透かさずヒビキが突っ込みをいれる。
「本当は大の字になって寝転がりたいのよ」
アヤネはなげやりな態度である。
妹が醜態をさらすのを、みすみすと見過ごすわけにもいかない。
「駄目だよ」
アヤネの背中に手を添えたヒビキが険しい表情を浮かべて呟いた。
「うん。分かった」
強い口調で言われてしまえば、体はだるくても従わなければならない。
首を縦にふったアヤネがヒビキの肩に腕をかけた。
「体力が戻るまで肩を貸してくれない?」
一人では立ち上がることもままならないアヤネがヒビキに身を寄せる。
「肩を貸すのは構わないけど……」
ヒビキとアヤネは身長差がある。
座り込むアヤネに合わせてしゃがみこんでいたヒビキが、ゆっくりと腰を上げて立ち上がる。
「辛くない?」
つま先立ちをするアヤネの顔を覗きこむ。
「えぇ。肩を借りようとしたことを早速、後悔しているわよ」
顔面蒼白である。
険しい表情を浮かべるアヤネがヒビキの肩から腕をはずす。
「たっぱがあるのね。最初に出会った時に狐耳付の膝下まである服を身に付けていたから、てっきり小柄なんだとばかり思っていたわ。ごめんなさい」
真面目な顔をして謝るアヤネの言葉を耳にして、顔を両手で覆い隠したヒビキが頬を真っ赤に染める。
アヤネには格好良くて爽やかな兄という印象を与えたいと考えるヒビキが、少し早い口調で言葉を口にする。
「あの服は命の恩人からのプレゼントなんだ」
アヤネと洞窟内で出くわした時。
洞窟内はほんのりと薄暗かった。
顔を合わせていた時間も短かったため服装までは見られていないだろうと考えていたのだけど、考えが甘かったことを知る。
恥ずかしそうに顔を俯かせたヒビキを見て、一体何を思ったのか。
両手の平を胸の高さまで持ち上げて、それぞれの指先を高速で動かしたアヤネが身震いをする。
「何だろうこの気持ち。きゅん? いえ、もっとこう……ぞわっと言うかゾクッと言うか」
不思議な感覚に苛まれたアヤネが眉を寄せる。
「恐怖?」
ぽつりと言葉を続けたアヤネの腕には鳥羽が立っている。
「恐怖心に苛まれているの? 俺の顔怖かったかな?」
ヒビキはショックを受けたようで、首をかしげて問いかける。
顔が強ばっていたなら今すぐ緩めなければならないと考えて、両頬を力任せに叩いたヒビキの頬が手のひら型に赤く染まる。
「ごめんなさい。顔が怖いわけではないの。何て言うのかな。ヒビキ君を見てると、たまにね鳥肌が立つときがあるのよね」
苦笑するアヤネの言葉を耳にして、なんとも奇妙な表情を浮かべたヒビキが顔を俯かせる。
褒められているのか貶されているのか分からない。
唖然とするヒビキが何を考えているのか分からず、戸惑っているアヤネがヒビキの背中に手を添える。
東の森から城までは、たいした距離はない。
アヤネと話をしながら足を進めているうちに城まで一直線に来てしまった。
「目的地って、ここ?」
目の前に広がる巨大な建物を指差して首を傾げたヒビキが問いかける。
表情には表してはいないものの内心では、この場から逃げ出したいと考えてるヒビキが苦笑する。
「俺は、ここで待ってるよ」
城内に足を踏み入れることを拒む。
いつもは門の前に必ず銀騎士団員の姿があるけれど、今日は無人である。
開かれたままになっている正門は、どうぞ入って下さいと言っているようなもんだ。
誰でも自由に出入りする事が出来るだろう。
普段は国王が術を発動する事により、強力な結界が城を覆っている。
しかし、その結界も今は解除されている状況だ。
「静かすぎると思わない? 何故誰もいないの?」
城の中は静寂に包まれている。いつもだったら、この時間帯は銀騎士団が城内を足早に行き来しているのだけど、足音すら聞こえない。
ヒビキの袖に指をかけたアヤネが不安な気持ちを口にする。
「うん。静かだね」
ヒビキは城の外で待っていると口にしたばかりではあるものの、アヤネはヒビキの言葉を右から左へ聞き流してしまう。
見事にスルーする。
そして、静かだねとアヤネの意見に同意したヒビキの声は上手いこと聞き取れなかったのだろう。
「え? ごめんね。小声だったうえに早い口調だったため聞き取る事が出来なかったの」
アヤネが間髪を入れずに首を傾げて問いかける。
しかし、重要なことを言ったわけではないため、聞き返して貰ったことに対して申し訳なさを感じたヒビキが苦笑した。
「ごめん。独り言」
すぐに独り言であることを伝えると首を傾げたアヤネが城の中に視線を移す。
「中に入ってみましょう」
中の状況を確認したくて気が気ではないのだろう。
落ち着かない様子のアヤネに急かされて、足を進めたヒビキが正門を抜けて城の敷地内に足を踏み入れる。
出来れば城内へ足を踏み入れたくはなかったのだけど、今さら引き返すことも出来ずに小さなため息を吐き出した。
「誰もいないね」
ゆったりとした足取りで直進するアヤネが周囲をキョロキョロと見渡している。
しかし、柱に身を寄せて気配を隠している銀騎士団の姿を発見する事は出来なかったようで、ぽつりと呟いた。
「うん」
ヒビキがアヤネに同意する。
じっくりと眺めると右側だけではない。
左側に佇む柱にも身を寄せて、この場を何とかやり過ごそうとしている銀騎士団の姿がある。
「目的地はどこ? 先に進もうか」
アヤネが銀騎士団の存在に気づく前に早くこの場から立ち去ろうと考えたヒビキが首を傾げて問いかける。
「えぇ、そうね。先へ進みましょう」
不安げな表情を浮かべていたアヤネが無理に表情に笑みを浮かべようとして失敗する。
眉尻を下げて苦笑すると無意識か、それとも意識的か。ヒビキの腕を掴みとった。
アヤネは少しずつ歩くペースが早くなっていることに気づいているのだろうか。
腕を引かれているため、前のめりの状態となったヒビキがアヤネを追う。
ヒビキの呼吸が乱れ始めているけれど、アヤネは城の中が気になってしかたがないようで、ヒビキの様子に気づかない。
遠ざかっていくヒビキ達を、呆然と眺めていた騎士達が一斉にため息を吐き出した。
「ドキドキしました」
調査隊に所属する小柄な女性が胸を撫で下ろす。
「ヒビキ様から手紙が届いた事を知ったのが数分前ですもの。身を隠すので精一杯でしたよ」
騎馬隊に所属する女性が苦笑する。
「アヤネ様は国王が死滅したとの情報を得て一時帰宅したのでしょうね」
調査隊に所属する女性がため息を吐き出すと
「顔色が優れない所を見るとそうだろうな」
騎馬隊に所属する男性が眉尻を下げて同意する。
「現在の状況を全てアヤネ様にお伝えすることは叶わないですし、私達は言ってはいけない事まで話してしまう可能性もあります」
「そうだな。ここはタツウミ様に任せた方が良いな」
調査隊に所属する女性騎士の考えに男性騎士が同意した。
アヤネに腕を引かれることにより、強制的に城の奥に足を踏み入れることになったヒビキの表情は強ばっていた。
妖精王や魔王が城内に居なければ良いのだけど。
タツウミから今朝、届いたばかりの手紙にアヤネが城へ帰宅することを記して送り返したのが洞窟を抜けて城に向かっている最中だった。
洞窟を抜けてから城にたどり着くのに、そう時間はかかっていないはず。
もしも、魔王と妖精王が城内に取り残されていたら……。
そんな、ヒビキの悪い予感は見事に的中する。
魔王や妖精王が国王の寝室にたどり着く前にヒビキ達が城の中に足を踏み入れたため、妖精王は高価な壺の中、魔王は巨大な彫刻に姿を変えて城内に潜んでいる状況だった。
気配を消している妖精王と魔王の前を通りすぎたヒビキの視線は絶えず周囲を見渡している。
どうやら、集中力が散漫しているようだ。
そんなヒビキの姿を見て、ニヤニヤと締まらない表情を浮かべた魔王がペシッとヒビキの後頭部に尾を打ち付けた。
後頭部に衝撃を受け、背後を振り向くと巨大なガーゴイルに変化を遂げた魔王と見事に視線が合う。
ゆっくりと壺の中から顔を覗かせた妖精王はヒビキと視線が合うと、そーっと壺の中に顔を引っ込める。
「ヒビキ君?」
無意識のうちに歩みを止めていたヒビキに対してアヤネが疑問を抱いたようだ。
背後を振り向き、ヒビキに声をかける。
アヤネの視線が向けられることを恐れた魔王が身動きを止めて彫刻のふりをする。
「あ、ごめん」
ギクッと明らかに動揺する素振りを見せたヒビキが、勢いよく背後を振り向くと同時に深々と頭を下げた。
魔王からガーゴイルに魂を移して体を乗っ取り妖精の森にある神殿内に避難していたことを事前に聞いていたとは言え、巨大なガーゴイルは威圧感がある。
中身は魔王だと分かっているのに、恐怖心を抱いてしまう。
「驚かせちゃって、ごめんね」
ヒビキの反応は予想していたものとは違っていたようだ。
大きく肩を揺らしたヒビキの反応を見て、驚かせるつもりは無かったのだけどと言葉を続けたアヤネは、顔の前で両手を合わせて苦笑する。
「目的地はもうすぐよ」
ボーッとしていてごめん。
そう言葉を続けようとしたヒビキが唇を中途半端に開いたまま固まった。
アヤネが間髪いれずに言葉を続けたため、口を開くタイミングを見事に逃してしまう。
廊下の突き当たりを左に曲がれば、すぐに父上の寝室が視界に入り込む。
アヤネの視線の先には開かれたままの状態になっている扉があった。
アヤネの目的地を知ることになったヒビキが苦笑する。
室内は物が散乱しており、部屋の中央には巨大なブラックホールが出現している。
父が使っていた寝室である。
ブラックホールのすぐ側には粉々に砕けた透明な欠片が散らばっている。
室内は薄暗く人の気配はない。
荒れた室内を覗きこんだアヤネが息を呑む。
「何よ……これ。酷い」
人の気配はないものの、父の姿を探しだそうと室内を見渡したアヤネが背後を振り向いた。
「どうしよう」
ぽつりと声を漏らすとヒビキが困ったように眉尻を下げる。
「お兄ちゃんの所に行ってみよう」
既にアヤネの視線の先はタツウミの寝室がある北の棟に向けられていた。
小走りをするアヤネの顔は真っ青である。
タツウミをお兄ちゃんのと呼び、ヒビキの事をあの人と呼ぶ。
タツウミと自分に対してのアヤネの態度の差にショックを受けているヒビキの表情が曇る。
視線を落として、ため息を吐き出したヒビキの視界に妖精王の術により体が小さくなってしまっている国王が入り込んだのは、国王の寝室を後にしてからすぐのことだった。
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