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学園都市編
111話 訃報
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「いや……ありえないでしょう」
ぽつりと考えを漏らしたアヤネの頬が瞬く間に引きつった。
顔面蒼白である。
表情の乏しい人であるため正直、父親でありながら何を考えているのか分からない部分もあった。
自分の考えを口に出して言う人では無かったから、苦手意識を持っている人は少なくは無かったと思う。
アヤネ自身、父でありながら同じ建物内にいても滅多に出会う事の無かった国王に対して苦手意識を持っていた。
しかし、殺したいと思えるほど悪い人でもない。
人に対して無関心。感情を表に出さない人ではあるけど人に恨まれるような事をするような人ではなかったと思う。
過去に重罪を犯した人物を処刑した事があった。
もしかして、その身内が復讐を考えていたのだろうかと疑問を抱く。
「それもありえないわね」
しかし、すぐにアヤネは考えを改めた。
その身内が、もう限界と言って重罪を犯した人物を国王の前に突き出したわけで、復讐を考える何て事は無いと思う。
それに、国王は簡単に敵に討たれるような人ではない。
実際に父が戦っている姿を見た事は無いけれど、銀騎士団から聞いた話によると強力な氷属性の魔法を扱う人らしい。
手紙は間違いだったと、後日に正しい情報が出回るはず。
「うん。きっと、そうよね」
手紙は間違いだと、前向きに考えているはずなのにアヤネの気持ちは沈んでいく一方である。
テーブルに肘をつき頭を抱え込んでしまったアヤネの表情は曇ったままである。
「でも、間違いでは無かったとしたら」
ふと、不安がよぎる。
そんなはずないわよね。だって、家に戻った時に必ず居る人だもの。きっと、手紙は間違いよ。間違った情報が流れているんだわと淡い期待を抱く事により、不安な考えを改めようとした。
「でも……」
しかし、すぐに不安がよぎる。
一人で大勢の妖精を相手することになればどうだろう。
四方八方を囲まれると全ての攻撃を避けることは難しい。
もしも、父が妖精に討たれた事が事実であれば……。
頬に両手を添えたアヤネが不安や恐怖心に苛まれているブルブルと体を震わせた。
「頭が痛くなってきた」
ズキズキと痛みだした頭を両手で抱え込む。
「憶測で考えちゃ駄目ね」
目蓋を閉じると大きなため息を吐き出した。
急に様子の可笑しくなったアヤネを心配しているにもかからず、どう声をかけて良いものか分からずに戸惑いを見せている人物がいた。
同じテーブルを囲み共に食事をとっていた会長と副会長である。
「どういう事だ?」
頭を抱え込んだまま固まってしまったアヤネの背中を訳も分からずに、とりあえず撫で続けていた会長が首を傾げて問いかける。
考えている事を断片的にアヤネが口に出したためアヤネの心境を把握する事が出来ずに困っている。
「分からないです」
会長の問いかけに対して首を左右に振って答えた副会長が苦笑する。
「国王の死と何か関係があるのか?」
「分かりません。国王の死と何か関係があるのでしたら、アヤネさんと国王の関係は何でしょうか?」
互いに状況を理解しないまま考えを口にしているものだから答えが出てこない。
「それを俺に聞かれてもな」
副会長の問いかけに対して返事に困った会長の眉間にしわが寄る。
会長や副会長の心配をよそに、アヤネは脳裏に国王の姿を思い浮かべようとしていた。
確か髪色はクリーム色だったはず。
会長と副会長の会話は耳に入っていないのだろう。
アヤネの表情は真剣そのものである。
瞳の色は、確か水色だったと思うんだけど目を合わす事がなかったから確証はない。
どんな性格をしていたのか。
想像してみるものの、国王と言葉を交わした記憶は無い。
夏休みに帰宅した時に一度だけ玄関の扉を開いた先で父と出会い驚いて、すぐに開いた扉を閉めた事がある。
勇気を出して自分から声をかけてみれば良かったと今更になって後悔をする。
再び扉を開いた時には父の姿は無く声をかける機会を見事に逃してしまったのだけど、一度でも父に自ら声をかけていれば父に対するイメージは変わっていたのかもしれない。
勝手に父に確認すること無く、私の事を嫌っているのだと判断をしていた。
もしかしたら、私の勝手な思い込みだったかもしれない。
まぁ、想像通りの人である可能性だってあるけど……。
一度、帰宅して手紙が事実か偽りか確認してみよう。
事実を知るのは怖いけど、このままでは事実を知る事が出来ずに不安な日々を過ごす事になる。
もしも父が無事であったら無視されてもいい。冷たい視線を向けられてもいい。覚悟は出来たから一度、声をかけてみよう。
事実を確認する事に決めたアヤネが、その場に立ち上がる。
自宅までの最短ルートは洞窟を抜けた先にある東の森を抜ける事。
しかし、洞窟内には強い敵が多く出現するため、洞窟を通り抜けるにも、集団で行動するモンスターを交わす必要がある。
日が暮れてから洞窟に行くのは危険。
向かうのは明日の朝が良いだろう。
一人で向かうのは心細い。
会長と副会長に同行を頼んでみようかなと考えたアヤネがすぐに思い直して左右に首をふる。
100レベルのドラゴンと洞窟内で遭遇した時に手も足もでなかった。
ドラゴンとの戦いで怪我をした会長や、魔力が回復しきっていない副会長を巻き込むことは出来ない。
ヒビキ君に頼んでみようかしら。
100レベルのドラゴンを、たった一人で倒してしまった少年の事を思い出す。
気絶していたため自分の目で確認した訳ではないけれど、副会長の話によると術を発動することもなく軽々とドラゴンを倒してしまったらしい。
箸を手にしたまま、その場に腰をあげて何とも中途半端な姿勢のまま何やら深く考え込んでしまっているアヤネは、会長や副会長の視線に気づいているのだろうか。
これ以上アヤネが夕食をとることはないだろうと、勝手に判断をした会長が持参した容器にアヤネの夕食を移しかえる。
「おい、食堂を出るぞ」
容器を袋の中に入れて、袋を腕にかけた会長がアヤネの肩を叩く。
眉間にしわを寄せたまま何やら考え込んでいるアヤネは無言ではあったけれども、会長の言葉に流されるがままに従った。会長に腕を引かれるようにして足を進める。
会長とアヤネが足を進めてから数歩遅れて副会長が席を立った。
ゆったりとした足取りで食堂の一階へと続く階段を下りる。
「おい、落ち着けってお前ら!」
食堂一階フロアでは手紙を手にしていた男子生徒が大勢の生徒に囲まれて、もみくちゃにされていた。
手紙に記された紋様を確認するために生徒達が用紙を覗き込もうとする。
用紙に向かって手を伸ばしている生徒は男子生徒に体重をかけてしまっている事に気付いているのだろうか。
「馬鹿、押すな!」
生徒数名に体重をかけられる事により、たまらず手紙を手放した男子生徒が手足を動かして踠く。
「足! 足を踏んでる!」
後ずさりしようとするものの、生徒達に足を踏まれているため身動きをとる事が出来ない。
生徒達の混乱は、しばらく続きそうである。
生徒達のすぐ隣を通過したアヤネは、会長に腕を引かれるがまま食堂を抜け出した。
「今後どうしますか? ヒビキ君の寮を訪ねますか?」
副会長の問いかけに対して、アヤネが口を開く。
「ヒビキ君の寮を訪ねるわ。副会長はどうするの? 一緒に行く?」
「アヤネさんが行くのなら、一緒にヒビキ君の寮を訪ねます。会長はどうします?」
アヤネの問いかけに対して、共にヒビキの寮を訪ねる事に決めた副会長が会長にも声をかける。
「俺はこのまま自室に戻ることにする」
アヤネや副会長とは違って会長は自室へと戻る事を希望した。
ドラゴンを、たった一人で倒してしまった少年の元へと訪ねたとしても、きっと緊張して口を開く所か少年を視界に入れる事すら出来ないだろう。
自分の性格を分かっているからこそ一人、自室へと戻る事を希望した会長の腕をアヤネがつかみ取る。
「会長も行こうよ。絶対、後になって気になりだすの分かっているから」
アヤネに説得されて自室へ戻るためには左に進まなければいけない廊下を右折する。
説得をされたと言うよりは、力づくで強引に腕を引かれて右折したって所か。
アヤネの腕を引いていたはずなのに気づけば立場が逆転していた。
腕を引かれるがまま足を進める会長の表情が瞬く間に強張った。
軽やかだった足取りが、少しずつ重たいものへと変化する。
アヤネが会長や副会長を引き連れてヒビキの寮を訪ねようと足を進めている頃。
「皿をテーブルの上に置いてから眠りにつこうか」
夕食を全て平らげたヒビキは皿を膝の上に乗せたまま目蓋を閉じてしまった。
まさか、眠りにつこうとしているのだろうか。
疑問を抱いた鬼灯が慌ててヒビキの膝の上から皿を取りあげる。
「ベッドが、すぐ傍にあるんだから床で寝ずに……おい」
ゴロンと床に寝そべった事により、ヒビキの体がテーブルの下に入りこむ。
「何処でも寝る事の出来る奴とは聞いていたが、本当に急に落ちるのな」
腹部を突っついてみて反応があれば、まだ完全には意識を飛ばしていないって事である。
「聞いた話によると、騒がしい宴会の場でも熟睡していたようだし、完全に眠りに付いたら朝まで起きないと聞く。何とか起こさなければ。食べてすぐに眠りに付くのはよくないと聞くぞ」
鬼灯が今にも眠ってしまいそうなヒビキを何とか起こそうと試みている。
声をかけてみるものの反応は無い。
苦笑する鬼灯が、さてどうしたものかと考え始めた所でチャイムの音が室内に鳴り響く。
共にゴツッと何とも鈍い音がした。
どうやら、突然のチャイム音に驚き意識を覚醒させたヒビキが飛び起きようとしたようで、テーブルに打ち付けた頭を両手で抱え込んでいる。
返事をする前にドアノブが回り扉が、ゆっくりと開かれた。
僅かに開いた隙間からアヤネが顔を覗かせる。
「入ってもいい?」
リビング中央で腰を下ろしていた鬼灯とヒビキに向かって声をかける。
「どうぞ」
笑顔でアヤネに向かって手招きをする鬼灯の隣で、寝ぼけ眼を浮かべていたヒビキの表情が一変する。
表情を引き締めると背筋を伸ばして乱れた服を指先で整える。
制服のしわを手で何度も撫でる事により伸ばして身なりを綺麗に整えた。
「急にどうした?」
すぐ隣で落ち着きなく身なりを整えていたヒビキの姿を見て鬼灯が小刻みに肩を震わせた。
ぽつりと考えを漏らしたアヤネの頬が瞬く間に引きつった。
顔面蒼白である。
表情の乏しい人であるため正直、父親でありながら何を考えているのか分からない部分もあった。
自分の考えを口に出して言う人では無かったから、苦手意識を持っている人は少なくは無かったと思う。
アヤネ自身、父でありながら同じ建物内にいても滅多に出会う事の無かった国王に対して苦手意識を持っていた。
しかし、殺したいと思えるほど悪い人でもない。
人に対して無関心。感情を表に出さない人ではあるけど人に恨まれるような事をするような人ではなかったと思う。
過去に重罪を犯した人物を処刑した事があった。
もしかして、その身内が復讐を考えていたのだろうかと疑問を抱く。
「それもありえないわね」
しかし、すぐにアヤネは考えを改めた。
その身内が、もう限界と言って重罪を犯した人物を国王の前に突き出したわけで、復讐を考える何て事は無いと思う。
それに、国王は簡単に敵に討たれるような人ではない。
実際に父が戦っている姿を見た事は無いけれど、銀騎士団から聞いた話によると強力な氷属性の魔法を扱う人らしい。
手紙は間違いだったと、後日に正しい情報が出回るはず。
「うん。きっと、そうよね」
手紙は間違いだと、前向きに考えているはずなのにアヤネの気持ちは沈んでいく一方である。
テーブルに肘をつき頭を抱え込んでしまったアヤネの表情は曇ったままである。
「でも、間違いでは無かったとしたら」
ふと、不安がよぎる。
そんなはずないわよね。だって、家に戻った時に必ず居る人だもの。きっと、手紙は間違いよ。間違った情報が流れているんだわと淡い期待を抱く事により、不安な考えを改めようとした。
「でも……」
しかし、すぐに不安がよぎる。
一人で大勢の妖精を相手することになればどうだろう。
四方八方を囲まれると全ての攻撃を避けることは難しい。
もしも、父が妖精に討たれた事が事実であれば……。
頬に両手を添えたアヤネが不安や恐怖心に苛まれているブルブルと体を震わせた。
「頭が痛くなってきた」
ズキズキと痛みだした頭を両手で抱え込む。
「憶測で考えちゃ駄目ね」
目蓋を閉じると大きなため息を吐き出した。
急に様子の可笑しくなったアヤネを心配しているにもかからず、どう声をかけて良いものか分からずに戸惑いを見せている人物がいた。
同じテーブルを囲み共に食事をとっていた会長と副会長である。
「どういう事だ?」
頭を抱え込んだまま固まってしまったアヤネの背中を訳も分からずに、とりあえず撫で続けていた会長が首を傾げて問いかける。
考えている事を断片的にアヤネが口に出したためアヤネの心境を把握する事が出来ずに困っている。
「分からないです」
会長の問いかけに対して首を左右に振って答えた副会長が苦笑する。
「国王の死と何か関係があるのか?」
「分かりません。国王の死と何か関係があるのでしたら、アヤネさんと国王の関係は何でしょうか?」
互いに状況を理解しないまま考えを口にしているものだから答えが出てこない。
「それを俺に聞かれてもな」
副会長の問いかけに対して返事に困った会長の眉間にしわが寄る。
会長や副会長の心配をよそに、アヤネは脳裏に国王の姿を思い浮かべようとしていた。
確か髪色はクリーム色だったはず。
会長と副会長の会話は耳に入っていないのだろう。
アヤネの表情は真剣そのものである。
瞳の色は、確か水色だったと思うんだけど目を合わす事がなかったから確証はない。
どんな性格をしていたのか。
想像してみるものの、国王と言葉を交わした記憶は無い。
夏休みに帰宅した時に一度だけ玄関の扉を開いた先で父と出会い驚いて、すぐに開いた扉を閉めた事がある。
勇気を出して自分から声をかけてみれば良かったと今更になって後悔をする。
再び扉を開いた時には父の姿は無く声をかける機会を見事に逃してしまったのだけど、一度でも父に自ら声をかけていれば父に対するイメージは変わっていたのかもしれない。
勝手に父に確認すること無く、私の事を嫌っているのだと判断をしていた。
もしかしたら、私の勝手な思い込みだったかもしれない。
まぁ、想像通りの人である可能性だってあるけど……。
一度、帰宅して手紙が事実か偽りか確認してみよう。
事実を知るのは怖いけど、このままでは事実を知る事が出来ずに不安な日々を過ごす事になる。
もしも父が無事であったら無視されてもいい。冷たい視線を向けられてもいい。覚悟は出来たから一度、声をかけてみよう。
事実を確認する事に決めたアヤネが、その場に立ち上がる。
自宅までの最短ルートは洞窟を抜けた先にある東の森を抜ける事。
しかし、洞窟内には強い敵が多く出現するため、洞窟を通り抜けるにも、集団で行動するモンスターを交わす必要がある。
日が暮れてから洞窟に行くのは危険。
向かうのは明日の朝が良いだろう。
一人で向かうのは心細い。
会長と副会長に同行を頼んでみようかなと考えたアヤネがすぐに思い直して左右に首をふる。
100レベルのドラゴンと洞窟内で遭遇した時に手も足もでなかった。
ドラゴンとの戦いで怪我をした会長や、魔力が回復しきっていない副会長を巻き込むことは出来ない。
ヒビキ君に頼んでみようかしら。
100レベルのドラゴンを、たった一人で倒してしまった少年の事を思い出す。
気絶していたため自分の目で確認した訳ではないけれど、副会長の話によると術を発動することもなく軽々とドラゴンを倒してしまったらしい。
箸を手にしたまま、その場に腰をあげて何とも中途半端な姿勢のまま何やら深く考え込んでしまっているアヤネは、会長や副会長の視線に気づいているのだろうか。
これ以上アヤネが夕食をとることはないだろうと、勝手に判断をした会長が持参した容器にアヤネの夕食を移しかえる。
「おい、食堂を出るぞ」
容器を袋の中に入れて、袋を腕にかけた会長がアヤネの肩を叩く。
眉間にしわを寄せたまま何やら考え込んでいるアヤネは無言ではあったけれども、会長の言葉に流されるがままに従った。会長に腕を引かれるようにして足を進める。
会長とアヤネが足を進めてから数歩遅れて副会長が席を立った。
ゆったりとした足取りで食堂の一階へと続く階段を下りる。
「おい、落ち着けってお前ら!」
食堂一階フロアでは手紙を手にしていた男子生徒が大勢の生徒に囲まれて、もみくちゃにされていた。
手紙に記された紋様を確認するために生徒達が用紙を覗き込もうとする。
用紙に向かって手を伸ばしている生徒は男子生徒に体重をかけてしまっている事に気付いているのだろうか。
「馬鹿、押すな!」
生徒数名に体重をかけられる事により、たまらず手紙を手放した男子生徒が手足を動かして踠く。
「足! 足を踏んでる!」
後ずさりしようとするものの、生徒達に足を踏まれているため身動きをとる事が出来ない。
生徒達の混乱は、しばらく続きそうである。
生徒達のすぐ隣を通過したアヤネは、会長に腕を引かれるがまま食堂を抜け出した。
「今後どうしますか? ヒビキ君の寮を訪ねますか?」
副会長の問いかけに対して、アヤネが口を開く。
「ヒビキ君の寮を訪ねるわ。副会長はどうするの? 一緒に行く?」
「アヤネさんが行くのなら、一緒にヒビキ君の寮を訪ねます。会長はどうします?」
アヤネの問いかけに対して、共にヒビキの寮を訪ねる事に決めた副会長が会長にも声をかける。
「俺はこのまま自室に戻ることにする」
アヤネや副会長とは違って会長は自室へと戻る事を希望した。
ドラゴンを、たった一人で倒してしまった少年の元へと訪ねたとしても、きっと緊張して口を開く所か少年を視界に入れる事すら出来ないだろう。
自分の性格を分かっているからこそ一人、自室へと戻る事を希望した会長の腕をアヤネがつかみ取る。
「会長も行こうよ。絶対、後になって気になりだすの分かっているから」
アヤネに説得されて自室へ戻るためには左に進まなければいけない廊下を右折する。
説得をされたと言うよりは、力づくで強引に腕を引かれて右折したって所か。
アヤネの腕を引いていたはずなのに気づけば立場が逆転していた。
腕を引かれるがまま足を進める会長の表情が瞬く間に強張った。
軽やかだった足取りが、少しずつ重たいものへと変化する。
アヤネが会長や副会長を引き連れてヒビキの寮を訪ねようと足を進めている頃。
「皿をテーブルの上に置いてから眠りにつこうか」
夕食を全て平らげたヒビキは皿を膝の上に乗せたまま目蓋を閉じてしまった。
まさか、眠りにつこうとしているのだろうか。
疑問を抱いた鬼灯が慌ててヒビキの膝の上から皿を取りあげる。
「ベッドが、すぐ傍にあるんだから床で寝ずに……おい」
ゴロンと床に寝そべった事により、ヒビキの体がテーブルの下に入りこむ。
「何処でも寝る事の出来る奴とは聞いていたが、本当に急に落ちるのな」
腹部を突っついてみて反応があれば、まだ完全には意識を飛ばしていないって事である。
「聞いた話によると、騒がしい宴会の場でも熟睡していたようだし、完全に眠りに付いたら朝まで起きないと聞く。何とか起こさなければ。食べてすぐに眠りに付くのはよくないと聞くぞ」
鬼灯が今にも眠ってしまいそうなヒビキを何とか起こそうと試みている。
声をかけてみるものの反応は無い。
苦笑する鬼灯が、さてどうしたものかと考え始めた所でチャイムの音が室内に鳴り響く。
共にゴツッと何とも鈍い音がした。
どうやら、突然のチャイム音に驚き意識を覚醒させたヒビキが飛び起きようとしたようで、テーブルに打ち付けた頭を両手で抱え込んでいる。
返事をする前にドアノブが回り扉が、ゆっくりと開かれた。
僅かに開いた隙間からアヤネが顔を覗かせる。
「入ってもいい?」
リビング中央で腰を下ろしていた鬼灯とヒビキに向かって声をかける。
「どうぞ」
笑顔でアヤネに向かって手招きをする鬼灯の隣で、寝ぼけ眼を浮かべていたヒビキの表情が一変する。
表情を引き締めると背筋を伸ばして乱れた服を指先で整える。
制服のしわを手で何度も撫でる事により伸ばして身なりを綺麗に整えた。
「急にどうした?」
すぐ隣で落ち着きなく身なりを整えていたヒビキの姿を見て鬼灯が小刻みに肩を震わせた。
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