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ヒビキの奪還編
83話 国王VS妖精王
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平坦な形をした屋根を足場にして足を止めたヒビキが背後を確認すると、随分と離れた位置にいるユキヒラやサヤの姿を捉える。
妖精界から魔界へ移動するために大量の魔力を消費してしまったユキヒラにサヤの意識を操り続けるだけの力は残されていなかった。
サヤの瞳に光が戻る。
「体が軽いんだけど何で?」
唖然とするサヤが唇を半開きにしたまま考えを口にする。
「間抜け面だねぇ。何でって、僕が君の体に魔力を送り込んだからに決まってるじゃん」
締まりの無い表情を浮かべるサヤを指差して、アハハハハと笑い声を上げたユキヒラがサヤの体が軽い理由を説明する。
しかし、サヤはユキヒラからの返事を聞き流してしまった。
サヤの意識が別の方向に逸れる。
魔王城へ向かって先頭を突き進んでいたヒビキが、ユキヒラとサヤとの距離が随分と開いてしまったことに気がついて、二人を待つため足を止めて背後を振り向き佇んでいた。
「ヒビキ君が待ってくれているよ。早く追い付かなければならないわね」
サヤはヒビキに向かって右手を掲げると左右に振る。
既にサヤの意識はヒビキに移っているため、ユキヒラの表情の変化に気づいてはいないのだろう。
眉間にしわをよせて不機嫌になったユキヒラが小さなため息を吐き出した。
右手を胸元まで持ち上げて手を振りかえそうか、それともお辞儀をするべきか中途半端な姿勢のまま考え込むヒビキは固まってしまっている。
戸惑う少年の姿を、まじまじと見つめていたサヤが苦笑する。
ヒビキに視線を向けていれば自然と視界に入り込む魔王城。
「ねぇ、お城から誰か出て来たよ?」
サヤが城から飛行術を使い真っすぐ自分達の元に向かってくる人物がいる事に気が付いた。
ユキヒラに知らせるために声をかける。
紫色のベリーダンス衣装を身に纏った、長い黒髪が印象的な女性だ。
「ヒビキ君、気を付けて!」
女性に背を向けて佇んでいるヒビキは、女性の存在に気づいていない。
慌てて声をかけたサヤの目の前で、女性が真っ直ぐ腕を伸ばす。
伸ばした腕の先にはヒビキの姿があり、サヤの忠告により背後を振り向いたヒビキに向かって女性は拘束魔法を発動した。
目の前に迫った闇属性の拘束魔法に怯んだヒビキが一歩足を引く。
咄嗟に武器の出現を唱えたものの時すでに遅く、複数の影を自由自在に操る魔王はヒビキの両腕や両足に細く伸びた影を巻き付けて身体を拘束する。
先端の鋭く尖った影は本来は対象人物の体を四方八方から突き刺すためのもの。
しかし、敢えてヒビキの体に傷をつけること無く腹部に影を巻き付けた魔王は魔力をコントロールしながら手加減をする。
「わっ」
魔王が両手を広げた事により影がヒビキの体を浮かすと、たまらず声を上げたヒビキが身をよじる。
しかし、身をよじっただけでは魔王の拘束魔法を破ることは出来ず、手招きをする魔王の元へゆっくりと体が引き寄せられる。
「第一部隊。攻撃準備」
一体いつの間に頭上に移動していたのか。普段のおっとりとした口調を止めて兵士たちに指示を出したリンスールが魔王に向かって指先を向ける。
「おや、いつの間に」
全く気配が無かった。
兵士達が弓を構えると、魔王が感心したように声を漏らす。
その中央で光輝く矢を魔王に向けるリンスールの表情は無表情。
「放て」
淡々とした口調で攻撃の指示を出す。
その表情から手加減することなくリンスールが攻撃を仕掛けていることを察した魔王の表情に笑みが浮かぶ。
妖精王とは一度、手を抜くこと無く本気で戦ってみたかった。
全く容赦のない妖精達が魔王に向かって大量の矢を放つ。
無数に降り注ぐ矢を防壁を張る事により防いだ魔王が、右手を真っすぐ妖精王に向ける。
唐突に妖精達の頭上に黒い魔法陣が現れた。
魔王が指をパチンとならすと共に、黒い魔法陣から大量の黒い槍が放たれる。
咄嗟に矢筒から矢を取り出した妖精達は、指先で矢をくるんと回すと降り注ぐ槍に向かって立て続けに放つ。
妖精の放った矢と魔王の放った黒い槍が激突すると赤い火花が飛び散った。
どさくさに紛れてヒビキの狐耳に指先を添えた魔王が、ぐりぐりと狐耳を押さえつけるとヒビキが唖然とする。
魔王と妖精王の戦いに釘付けになっているうちに、気づけばヒビキの体は魔王により拘束を受けていた。
「神殿で見かけた時から一度でいいから思い切り触れてみたいと思っていたんだ。やはり、滑らかな手触りだな」
四方を取り囲む妖精達から攻撃を受けて危機的な状況に陥っているはずなのに、ヒビキにちょっかいをかける魔王は状況を楽しんでいた。
神殿の中では魔王はガーゴイルの姿を取っていた。
レベル1800のガーゴイルと魔王を同一人物だとは理解していないヒビキがきょとんとする。ヒビキは魔王が何を言っているのか理解する事が出来ずにいた。
「神殿?」
首を傾けると疑問に思ったことを問いかける。
ヒビキの問いかけに対して肩を震わせて笑う魔王は返事をする気は全く無いようで、ヒビキの体を片手で軽々と支えると右手を屋根の上に佇むユキヒラに向ける。
ユキヒラに対して攻撃魔法を放とうとした魔王に向かって、咄嗟に呪文を唱えた人物がいた。
「落雷」
ヒビキを奪われると考えて怯えるサヤが、自らの意思で魔王に攻撃を仕掛ける。
魔王がヒビキの腹部に回し、絡めていた腕に力を込めたことによりヒビキの背中に胸を押し付ける形となった。
しかし、異性に胸を押し付ける行為に対して羞恥心は無いのだろう。
何の躊躇いもなくサヤに向かって腕を伸ばした魔王が攻撃魔法を仕掛ける。
「逃げなよ。串刺しになりたいの?」
サヤの頭上に黒い魔法陣が出現した。魔法陣に気付き、いち早く反応を示したユキヒラがサヤの背中を強く押すと同時に魔王が指をパチンとならす。合図と共に無数の槍が放たれた。
サヤに攻撃の対象が向くと、突然ヒビキがありったけの力を込めて魔王の拘束から逃れようと暴れだす。
武器の出現を頭の中で唱えようとしたヒビキが右手を真っ直ぐ伸ばす。
ヒビキの指先に青白い光が集まり始めると、魔王が武器の出現を阻止するためにヒビキの腹部に腕を回すと力任せに体を締め付け始めた。
魔族の力は人間の腕力とは比べものにならなくて、痛みから集中力を切らしたヒビキが武器の出現を失敗する。
指先に集まり始めていた光が消滅すると
「発動する前に封じられてしまえば成すすべもないのか」
あっさりとヒビキの弱点を見つけた魔王が肩を震わせる。
腹部を締め付けられる痛みに耐えるヒビキが口で呼吸をする。
ギシッと骨のきしむ音がする。
「我々人間の体は脆い。あまり締め付けると死んでしまう」
人質をとる魔王の元へ、ゆっくりと近づく人物が現れた。
苦しむ我が子を見ている事が出来なかった。我が子を助けようとして魔王に声をかける。
真っ赤なドレスに身を包み込み二本の氷の剣を手にする人物は無表情のまま、ぐったりとする我が子に視線を向けていた。
時は少し遡り、ヒビキやユキヒラが妖精と魔族の戦いが行われている街から抜け出して、魔王城に向かって足を進め始めた頃。
街の中から抜け出した敵と思われる3つの魔力の持ち主が、凄まじい勢いで魔王城に向かって移動している事に詮索魔法を発動していた暗黒騎士団調査員は気がついた。すぐに魔王に報告する。
建物が軒を連ねて並び立つ街中を一直線に突っ切る事が出来る飛行術を扱う事の出来る人物か、特殊な移動手段を持つ人物のみ。
窓の外を眺めていた魔王の視界に木の枝を強く蹴る事により空中に飛び上がったヒビキの姿が入り込むと、魔王は呑気に城の中で待機している場合ではないと判断をする。
調査員に国王を無理にでも起こすようにと指示を出した。
短時間で国王の魔力が回復していない事は分かってはいるものの、予想よりも早くユキヒラやヒビキ達が魔王城に向かっているのだから仕方がないと、後を調査員に任せた魔王は一足先に街へおりる。
城に残された調査員は魔王の指示に従って、国王の眠る寝室に向かったのが数分前の出来事である。
黒を基調とした室内を埋め尽くすのは錆びた刀や剣。
使い物にならないほど壊れた武具やアイテムだった。
室内を囲むように置かれているのはどれも太古に使われていた魔術師の杖。闇魔法の結晶。なかなか手に入れることの出来ないアイテムなど。
よく見れば使い物にはならないけど、どれも過去に有名な人物が使っていた武器やアイテムばかりが揃っている。
貴重なアイテムや武具が室内を埋め尽くす中ほんの少し中央にあいているスペースがあり、あいたスペースに設置されているベッドを透明なケースが囲っている。
ベッドの中央に横たわる国王の顔色は少しは良くなっているものの、短時間で魔力が回復しきっているとは思えない。
しかし、状況的に国王を寝かせている場合では無くなってしまったため、調査員は透明なケースに両手をかざすと残りの魔力を全て使いきる事により、ギフリードの張り巡らせた防壁を解除した。
小さなため息と共に、ベッドの上に横たわる国王の体を揺する。
防壁を解除してから国王が目蓋を開くまで、たったの十秒。
「やけに早いな。思わぬ事態でも起きたか?」
懐からギルドカードを取り出して時間を確認した国王が小さなため息を吐き出した。
「そうなのよ。思ったよりも早くユキヒラやヒビキ君が攻めてきちゃってね。魔王様が一人で戦っているのだけど妖精王が容赦ないのよ。妖精王の指示によって動く妖精達の数も多いから、どれだけ足止め出来るか分からない状況よ。だから国王は今のうちに人間界へ避難して欲しいのよ」
上半身を起こした国王に調査員は、さっそく魔王の考えを伝える。
「そうか」
取り出したギルドカードを懐にしまった国王がベッドから抜け出した。
窓際に移動すると、窓から見える景色を呆然と眺めた国王が目を凝らせば見える位置に浮かぶ魔王を指差した。
「女性一人に対して、相手は何百人いるのだろうな」
魔王一人に対して武器を構える妖精達の人数は、数える気にならないほど多い。
国王の問いかけに対して調査員は頷いた。
「そうなのよ。相手の人数が多すぎるから、魔王様も長いこと足止めは出来ないだろうと言っていたわ。だから、国王は早く……って、何をしているのよ」
調査員は国王を人間界へ逃がすつもりでいた。
しかし、国王は何を思ったのか予期せぬ行動を取る。
窓を開くと窓枠に足をかけた国王が身を乗り出した。
「本当に何をする気なのよ?」
唖然とする調査員の言葉を聞き流した国王が窓枠を蹴る事により外へ飛び出だした。
「ちょっ!」
国王の身に着けている赤いドレスの裾を咄嗟に掴みとろうと手を伸ばした調査員の手が空を切る。
唖然とする調査員に向けて国王は頭を下げる。
「ちょっと行ってくる」
まるで近場へ出掛けるような、軽い口調で声をかける国王の表情は笑顔だった。
そして今に至るわけだが、聞き間違えるはずがない。
父親の声を思わぬ場所で耳にしたヒビキは大きく目を見開いた。
咄嗟に魔王がヒビキの口を手の平で覆うことにより封じたため良かったものの、危うく父上と大声で叫ぶところだったヒビキの顔から血の気が引く。
人間界で封印を受けている父の突然の登場に唖然とするヒビキが、魔界を統べる魔王に説明を求めるために視線を向ける。
「なぜ貴方がここにいるんだ」
眉間にしわを寄せる魔王の反応から、魔王も事情を知らないのだろうと判断をしたヒビキが、視線を父親の元へ移す。
鋭い視線を魔王に向ける父は何を考えているのか分からない。
無表情のため感情を読み取る事も出来ない。
もしかしたら、父の影武者なのだろうかと考えるヒビキは父の手にする武器を視界に入れて考えを覆す。
氷属性を操る事の出来る人物が人間界には父以外いない事を知っているから。
問いかけに対して答えを返そうと国王が口を開いた所で
「放て」
構えていた矢を魔王から国王へ。
攻撃対象を変更したリンスールが攻撃の合図を出した。
魔王からリンスールへ視線を移した国王が開きかけていた口を閉じる。
右足を軸にして体を回転させると、国王が握りしめている二つの剣から氷の粒が放たれる。
剣と剣を敢えてぶつける事により国王は氷属性の攻撃魔法を発動する。
氷の粒は氷の刃となって妖精王に襲いかかった。
「痛……」
国王の放った攻撃魔法は妖精王の頬を切り裂いた。
真っ赤な血が頬を伝い流れ出すと妖精王が眉間にしわを寄せて、ぽつりと声を漏らす。
「ほぉ。妖精の血は赤いのか」
険しい表情を浮かべたリンスールを見て国王からの攻撃を受けて、もしかして気分を害してしまったのだろうかと考えるヒビキの顔から血の気が引く。
ヒビキがリンスールに対して怯えている一方で、国王がリンスールの頬から流れ出した血を見て感心する。
もしも、父がリンスールを怒らせて妖精達から集中的に攻撃を受けることになったら、あまりの強さになすすべもなく破れるだろうと考えていたヒビキは、国王の独り言を耳にして唖然とする。
「一体、私たち妖精の血は何色だと思っていたのですか?」
頬を伝う血を腕で擦ることにより拭った妖精王の問いかけに対して、国王は素直な考えを口にした。
「妖精の血は緑色だと過去に読んだ文献に書き記されていた」
真剣な眼差しを向ける国王が答える。
「考えが外れて残念でしたね。私も貴方と同じ、体には赤い血が流れていますよ」
リンスールが声を上げて笑う。
口調は穏やかなものであるにもかかわらず、国王に向かって黄金に光る矢を放つと、それを合図にしたように妖精達と国王の戦いが始まった。
黄金に輝く矢は、当たれば人間の体などたちまち消滅させてしまうだろう。
咄嗟に体を回転させて右手にしっかりと握りしめていた氷の剣を、黄金に輝く矢に向けて投げつけた国王の行動により、互いの魔力が激突する。
黄金に輝く矢が衝突した衝撃により剣はたちまち氷の粒子にかわると四方八方に飛び散った。
同じように黄金に輝く矢が爆発すると、爆発によって起こった風が妖精や魔王を吹き飛ばす。
防御壁を張ることにより飛ばされることを逃れた国王が間髪を入れることなくリンスールに向かって右手を伸ばすと、右から左へ手をスライドさせる。
国王の目の前に無数の氷の刃が出現した。
人差し指をリンスールに向けたことにより、無数の刃が姿勢を崩しているリンスールに襲いかかる。
国王の放った刃は、見事にリンスールの体に突き刺さったかのように思えた。
しかし、咄嗟に氷の刃を短刀を手に取る事により弾いた妖精王の視線が国王に向くと、姿勢を崩したままの状態で妖精達に攻撃の指示を出す。
第一部隊は爆風を受けて吹き飛ばされていたため、第四部隊がリンスールの護衛に回っていた。
無数の矢が放たれると、国王の頬を冷や汗が伝う。
右へ左へ体を動かすことにより矢を避けるものの、全てを避けきることは出来なかった。
国王の肩を矢が掠めると痛みから表情を歪めた国王が、力任せに剣をリンスールに向かって投げつける。
リンスールが反撃をする間もなく、国王はパチンと指をならすと氷の剣が爆発。
大量の水が空中に出来上がる。
リンスールが初めて目にする攻撃魔法に戸惑っている間に水に向かって左腕を伸ばした国王は容赦が無い。
「氷結」
氷属性の魔法を唱えると突然、白い靄が発生し始めた。
国王の放った魔法は妖精王や魔王の視界を奪う。
「国王あまり無茶をするなよ。無理やり高度な魔術を使い続けていれば命を削る事になるぞ」
妖精達の視界を奪っている間に国王は爆風により飛ばされた魔王の元に移動する。
「分かっている」
魔王の腕の中で無抵抗のまま瞬きを繰り返すヒビキが父に視線を向ける。
魔王に口を手で封じられているため疑問に思っていることを問いかける事が出来ない。
しかし、体を締め付けられているため息苦しそうなヒビキの姿を視界に入れると魔王が口を押さえていた手を離す。
魔王の拘束から解放された事によりヒビキは深呼吸をする。
父に声をかけても返事は無いかもしれない。
それでも、次に父と対面する事があれば勇気を出して声をかけてみようと思っていた。
「放出系の魔法は寿命を縮めるのですか? 妖精王に力の使い方を教わり、俺も放出系の高度な魔法を扱う事が出来るようになったのですが」
疑問に思った事を問いかける事に成功したヒビキの頬を冷や汗がつたう。
父から返事が無かったらどうしよう。
もしかしたら、視線を合わす事すらしてくれないかもしれない。
緊張から自然と表情が曇ってしまう。
それに、リンスールから学んだ術の発動条件が寿命を削る事だとは知らなかった。
放出系の魔法を発動した経験を持つヒビキの問いかけに答えるために国王は口を開く。
「妖精王に学んだのか。基本的にギルドカードに表示された術以外を発動すると少しずつ寿命を削る事になるのだが、妖精王は命を削る事を伝えなかったのか?」
声をかけても返事は無いかもしれないと思っていた。
視線すら合わせてくれないかもしれないと思っていた。
不安を抱いたまま声をかけたヒビキの問いかけに対して、内心とても喜んでいる国王は感情を表情に表すこと無く、声のトーンや口調も変えること無く返事をする。
「妖精王は放出系の魔法を使うと寿命を少しずつ削る事を知らなかったんじゃないか? 魔界には足しげく通っていたようだが人間界は距離があるから、そうそう足を運んではいなかっただろうし人間の事は余り把握していないのでは無いか?」
答えたのは魔王だった。
がちがちに緊張するヒビキの反応を見て苦笑する。
もしかしたら親子仲は悪いのかもしれないと、父親を目の前にして緊張感に苛まれるヒビキの姿を見て予想する。
「放出系の魔法は、いずれレベルが上がると使用可能なスキルとして扱うことが出来るようになる。レベルが上がるまでは、ほんとうに必要な場面でのみ使うように」
ヒビキの前では極力、威厳のある父親を演じたい。
我が子と話をする事が出来て内心では喜んでいる国王は、にやけそうになる表情を引き締めた。
「氷属性の魔法を操っているって事は、あの人が国王? 何故国王が魔界にいるわけ?」
妖精王に向けて放たれた氷結魔法は地上にいるユキヒラやサヤには全く効果をなさなかった。
地上から空を見上げるユキヒラが魔王と肩を並べる人物に釘付けになっている。
妖精王が第一部隊と第四部隊と共に魔王の足止めを行っているうちに、東側から洞窟を抜けて魔界へたどり着いた第三部隊と第六部隊が合流をした。
「あの人が人間界を牛耳っている国王様か。もっと恐ろしい形相の化け物じみた姿をしていると思っていた」
第三部隊の隊長を務めるのは少女である。頬を赤く染める少女が、国王を指差して素直な感想を口にする。
「全然化け物じゃないね。人の姿をしているね」
第六部隊の隊長を務める青年に、少女は国王が人の姿をしている事実を口にする。
「俺も国王は毛むくじゃらの大男が務めてるんだと思っていたけど、見たところ二十代前半かな」
見た目から国王の年齢を予想する妖精達の会話を耳にしていた魔王が笑いをこらえきれずに吹き出した。
妖精界から魔界へ移動するために大量の魔力を消費してしまったユキヒラにサヤの意識を操り続けるだけの力は残されていなかった。
サヤの瞳に光が戻る。
「体が軽いんだけど何で?」
唖然とするサヤが唇を半開きにしたまま考えを口にする。
「間抜け面だねぇ。何でって、僕が君の体に魔力を送り込んだからに決まってるじゃん」
締まりの無い表情を浮かべるサヤを指差して、アハハハハと笑い声を上げたユキヒラがサヤの体が軽い理由を説明する。
しかし、サヤはユキヒラからの返事を聞き流してしまった。
サヤの意識が別の方向に逸れる。
魔王城へ向かって先頭を突き進んでいたヒビキが、ユキヒラとサヤとの距離が随分と開いてしまったことに気がついて、二人を待つため足を止めて背後を振り向き佇んでいた。
「ヒビキ君が待ってくれているよ。早く追い付かなければならないわね」
サヤはヒビキに向かって右手を掲げると左右に振る。
既にサヤの意識はヒビキに移っているため、ユキヒラの表情の変化に気づいてはいないのだろう。
眉間にしわをよせて不機嫌になったユキヒラが小さなため息を吐き出した。
右手を胸元まで持ち上げて手を振りかえそうか、それともお辞儀をするべきか中途半端な姿勢のまま考え込むヒビキは固まってしまっている。
戸惑う少年の姿を、まじまじと見つめていたサヤが苦笑する。
ヒビキに視線を向けていれば自然と視界に入り込む魔王城。
「ねぇ、お城から誰か出て来たよ?」
サヤが城から飛行術を使い真っすぐ自分達の元に向かってくる人物がいる事に気が付いた。
ユキヒラに知らせるために声をかける。
紫色のベリーダンス衣装を身に纏った、長い黒髪が印象的な女性だ。
「ヒビキ君、気を付けて!」
女性に背を向けて佇んでいるヒビキは、女性の存在に気づいていない。
慌てて声をかけたサヤの目の前で、女性が真っ直ぐ腕を伸ばす。
伸ばした腕の先にはヒビキの姿があり、サヤの忠告により背後を振り向いたヒビキに向かって女性は拘束魔法を発動した。
目の前に迫った闇属性の拘束魔法に怯んだヒビキが一歩足を引く。
咄嗟に武器の出現を唱えたものの時すでに遅く、複数の影を自由自在に操る魔王はヒビキの両腕や両足に細く伸びた影を巻き付けて身体を拘束する。
先端の鋭く尖った影は本来は対象人物の体を四方八方から突き刺すためのもの。
しかし、敢えてヒビキの体に傷をつけること無く腹部に影を巻き付けた魔王は魔力をコントロールしながら手加減をする。
「わっ」
魔王が両手を広げた事により影がヒビキの体を浮かすと、たまらず声を上げたヒビキが身をよじる。
しかし、身をよじっただけでは魔王の拘束魔法を破ることは出来ず、手招きをする魔王の元へゆっくりと体が引き寄せられる。
「第一部隊。攻撃準備」
一体いつの間に頭上に移動していたのか。普段のおっとりとした口調を止めて兵士たちに指示を出したリンスールが魔王に向かって指先を向ける。
「おや、いつの間に」
全く気配が無かった。
兵士達が弓を構えると、魔王が感心したように声を漏らす。
その中央で光輝く矢を魔王に向けるリンスールの表情は無表情。
「放て」
淡々とした口調で攻撃の指示を出す。
その表情から手加減することなくリンスールが攻撃を仕掛けていることを察した魔王の表情に笑みが浮かぶ。
妖精王とは一度、手を抜くこと無く本気で戦ってみたかった。
全く容赦のない妖精達が魔王に向かって大量の矢を放つ。
無数に降り注ぐ矢を防壁を張る事により防いだ魔王が、右手を真っすぐ妖精王に向ける。
唐突に妖精達の頭上に黒い魔法陣が現れた。
魔王が指をパチンとならすと共に、黒い魔法陣から大量の黒い槍が放たれる。
咄嗟に矢筒から矢を取り出した妖精達は、指先で矢をくるんと回すと降り注ぐ槍に向かって立て続けに放つ。
妖精の放った矢と魔王の放った黒い槍が激突すると赤い火花が飛び散った。
どさくさに紛れてヒビキの狐耳に指先を添えた魔王が、ぐりぐりと狐耳を押さえつけるとヒビキが唖然とする。
魔王と妖精王の戦いに釘付けになっているうちに、気づけばヒビキの体は魔王により拘束を受けていた。
「神殿で見かけた時から一度でいいから思い切り触れてみたいと思っていたんだ。やはり、滑らかな手触りだな」
四方を取り囲む妖精達から攻撃を受けて危機的な状況に陥っているはずなのに、ヒビキにちょっかいをかける魔王は状況を楽しんでいた。
神殿の中では魔王はガーゴイルの姿を取っていた。
レベル1800のガーゴイルと魔王を同一人物だとは理解していないヒビキがきょとんとする。ヒビキは魔王が何を言っているのか理解する事が出来ずにいた。
「神殿?」
首を傾けると疑問に思ったことを問いかける。
ヒビキの問いかけに対して肩を震わせて笑う魔王は返事をする気は全く無いようで、ヒビキの体を片手で軽々と支えると右手を屋根の上に佇むユキヒラに向ける。
ユキヒラに対して攻撃魔法を放とうとした魔王に向かって、咄嗟に呪文を唱えた人物がいた。
「落雷」
ヒビキを奪われると考えて怯えるサヤが、自らの意思で魔王に攻撃を仕掛ける。
魔王がヒビキの腹部に回し、絡めていた腕に力を込めたことによりヒビキの背中に胸を押し付ける形となった。
しかし、異性に胸を押し付ける行為に対して羞恥心は無いのだろう。
何の躊躇いもなくサヤに向かって腕を伸ばした魔王が攻撃魔法を仕掛ける。
「逃げなよ。串刺しになりたいの?」
サヤの頭上に黒い魔法陣が出現した。魔法陣に気付き、いち早く反応を示したユキヒラがサヤの背中を強く押すと同時に魔王が指をパチンとならす。合図と共に無数の槍が放たれた。
サヤに攻撃の対象が向くと、突然ヒビキがありったけの力を込めて魔王の拘束から逃れようと暴れだす。
武器の出現を頭の中で唱えようとしたヒビキが右手を真っ直ぐ伸ばす。
ヒビキの指先に青白い光が集まり始めると、魔王が武器の出現を阻止するためにヒビキの腹部に腕を回すと力任せに体を締め付け始めた。
魔族の力は人間の腕力とは比べものにならなくて、痛みから集中力を切らしたヒビキが武器の出現を失敗する。
指先に集まり始めていた光が消滅すると
「発動する前に封じられてしまえば成すすべもないのか」
あっさりとヒビキの弱点を見つけた魔王が肩を震わせる。
腹部を締め付けられる痛みに耐えるヒビキが口で呼吸をする。
ギシッと骨のきしむ音がする。
「我々人間の体は脆い。あまり締め付けると死んでしまう」
人質をとる魔王の元へ、ゆっくりと近づく人物が現れた。
苦しむ我が子を見ている事が出来なかった。我が子を助けようとして魔王に声をかける。
真っ赤なドレスに身を包み込み二本の氷の剣を手にする人物は無表情のまま、ぐったりとする我が子に視線を向けていた。
時は少し遡り、ヒビキやユキヒラが妖精と魔族の戦いが行われている街から抜け出して、魔王城に向かって足を進め始めた頃。
街の中から抜け出した敵と思われる3つの魔力の持ち主が、凄まじい勢いで魔王城に向かって移動している事に詮索魔法を発動していた暗黒騎士団調査員は気がついた。すぐに魔王に報告する。
建物が軒を連ねて並び立つ街中を一直線に突っ切る事が出来る飛行術を扱う事の出来る人物か、特殊な移動手段を持つ人物のみ。
窓の外を眺めていた魔王の視界に木の枝を強く蹴る事により空中に飛び上がったヒビキの姿が入り込むと、魔王は呑気に城の中で待機している場合ではないと判断をする。
調査員に国王を無理にでも起こすようにと指示を出した。
短時間で国王の魔力が回復していない事は分かってはいるものの、予想よりも早くユキヒラやヒビキ達が魔王城に向かっているのだから仕方がないと、後を調査員に任せた魔王は一足先に街へおりる。
城に残された調査員は魔王の指示に従って、国王の眠る寝室に向かったのが数分前の出来事である。
黒を基調とした室内を埋め尽くすのは錆びた刀や剣。
使い物にならないほど壊れた武具やアイテムだった。
室内を囲むように置かれているのはどれも太古に使われていた魔術師の杖。闇魔法の結晶。なかなか手に入れることの出来ないアイテムなど。
よく見れば使い物にはならないけど、どれも過去に有名な人物が使っていた武器やアイテムばかりが揃っている。
貴重なアイテムや武具が室内を埋め尽くす中ほんの少し中央にあいているスペースがあり、あいたスペースに設置されているベッドを透明なケースが囲っている。
ベッドの中央に横たわる国王の顔色は少しは良くなっているものの、短時間で魔力が回復しきっているとは思えない。
しかし、状況的に国王を寝かせている場合では無くなってしまったため、調査員は透明なケースに両手をかざすと残りの魔力を全て使いきる事により、ギフリードの張り巡らせた防壁を解除した。
小さなため息と共に、ベッドの上に横たわる国王の体を揺する。
防壁を解除してから国王が目蓋を開くまで、たったの十秒。
「やけに早いな。思わぬ事態でも起きたか?」
懐からギルドカードを取り出して時間を確認した国王が小さなため息を吐き出した。
「そうなのよ。思ったよりも早くユキヒラやヒビキ君が攻めてきちゃってね。魔王様が一人で戦っているのだけど妖精王が容赦ないのよ。妖精王の指示によって動く妖精達の数も多いから、どれだけ足止め出来るか分からない状況よ。だから国王は今のうちに人間界へ避難して欲しいのよ」
上半身を起こした国王に調査員は、さっそく魔王の考えを伝える。
「そうか」
取り出したギルドカードを懐にしまった国王がベッドから抜け出した。
窓際に移動すると、窓から見える景色を呆然と眺めた国王が目を凝らせば見える位置に浮かぶ魔王を指差した。
「女性一人に対して、相手は何百人いるのだろうな」
魔王一人に対して武器を構える妖精達の人数は、数える気にならないほど多い。
国王の問いかけに対して調査員は頷いた。
「そうなのよ。相手の人数が多すぎるから、魔王様も長いこと足止めは出来ないだろうと言っていたわ。だから、国王は早く……って、何をしているのよ」
調査員は国王を人間界へ逃がすつもりでいた。
しかし、国王は何を思ったのか予期せぬ行動を取る。
窓を開くと窓枠に足をかけた国王が身を乗り出した。
「本当に何をする気なのよ?」
唖然とする調査員の言葉を聞き流した国王が窓枠を蹴る事により外へ飛び出だした。
「ちょっ!」
国王の身に着けている赤いドレスの裾を咄嗟に掴みとろうと手を伸ばした調査員の手が空を切る。
唖然とする調査員に向けて国王は頭を下げる。
「ちょっと行ってくる」
まるで近場へ出掛けるような、軽い口調で声をかける国王の表情は笑顔だった。
そして今に至るわけだが、聞き間違えるはずがない。
父親の声を思わぬ場所で耳にしたヒビキは大きく目を見開いた。
咄嗟に魔王がヒビキの口を手の平で覆うことにより封じたため良かったものの、危うく父上と大声で叫ぶところだったヒビキの顔から血の気が引く。
人間界で封印を受けている父の突然の登場に唖然とするヒビキが、魔界を統べる魔王に説明を求めるために視線を向ける。
「なぜ貴方がここにいるんだ」
眉間にしわを寄せる魔王の反応から、魔王も事情を知らないのだろうと判断をしたヒビキが、視線を父親の元へ移す。
鋭い視線を魔王に向ける父は何を考えているのか分からない。
無表情のため感情を読み取る事も出来ない。
もしかしたら、父の影武者なのだろうかと考えるヒビキは父の手にする武器を視界に入れて考えを覆す。
氷属性を操る事の出来る人物が人間界には父以外いない事を知っているから。
問いかけに対して答えを返そうと国王が口を開いた所で
「放て」
構えていた矢を魔王から国王へ。
攻撃対象を変更したリンスールが攻撃の合図を出した。
魔王からリンスールへ視線を移した国王が開きかけていた口を閉じる。
右足を軸にして体を回転させると、国王が握りしめている二つの剣から氷の粒が放たれる。
剣と剣を敢えてぶつける事により国王は氷属性の攻撃魔法を発動する。
氷の粒は氷の刃となって妖精王に襲いかかった。
「痛……」
国王の放った攻撃魔法は妖精王の頬を切り裂いた。
真っ赤な血が頬を伝い流れ出すと妖精王が眉間にしわを寄せて、ぽつりと声を漏らす。
「ほぉ。妖精の血は赤いのか」
険しい表情を浮かべたリンスールを見て国王からの攻撃を受けて、もしかして気分を害してしまったのだろうかと考えるヒビキの顔から血の気が引く。
ヒビキがリンスールに対して怯えている一方で、国王がリンスールの頬から流れ出した血を見て感心する。
もしも、父がリンスールを怒らせて妖精達から集中的に攻撃を受けることになったら、あまりの強さになすすべもなく破れるだろうと考えていたヒビキは、国王の独り言を耳にして唖然とする。
「一体、私たち妖精の血は何色だと思っていたのですか?」
頬を伝う血を腕で擦ることにより拭った妖精王の問いかけに対して、国王は素直な考えを口にした。
「妖精の血は緑色だと過去に読んだ文献に書き記されていた」
真剣な眼差しを向ける国王が答える。
「考えが外れて残念でしたね。私も貴方と同じ、体には赤い血が流れていますよ」
リンスールが声を上げて笑う。
口調は穏やかなものであるにもかかわらず、国王に向かって黄金に光る矢を放つと、それを合図にしたように妖精達と国王の戦いが始まった。
黄金に輝く矢は、当たれば人間の体などたちまち消滅させてしまうだろう。
咄嗟に体を回転させて右手にしっかりと握りしめていた氷の剣を、黄金に輝く矢に向けて投げつけた国王の行動により、互いの魔力が激突する。
黄金に輝く矢が衝突した衝撃により剣はたちまち氷の粒子にかわると四方八方に飛び散った。
同じように黄金に輝く矢が爆発すると、爆発によって起こった風が妖精や魔王を吹き飛ばす。
防御壁を張ることにより飛ばされることを逃れた国王が間髪を入れることなくリンスールに向かって右手を伸ばすと、右から左へ手をスライドさせる。
国王の目の前に無数の氷の刃が出現した。
人差し指をリンスールに向けたことにより、無数の刃が姿勢を崩しているリンスールに襲いかかる。
国王の放った刃は、見事にリンスールの体に突き刺さったかのように思えた。
しかし、咄嗟に氷の刃を短刀を手に取る事により弾いた妖精王の視線が国王に向くと、姿勢を崩したままの状態で妖精達に攻撃の指示を出す。
第一部隊は爆風を受けて吹き飛ばされていたため、第四部隊がリンスールの護衛に回っていた。
無数の矢が放たれると、国王の頬を冷や汗が伝う。
右へ左へ体を動かすことにより矢を避けるものの、全てを避けきることは出来なかった。
国王の肩を矢が掠めると痛みから表情を歪めた国王が、力任せに剣をリンスールに向かって投げつける。
リンスールが反撃をする間もなく、国王はパチンと指をならすと氷の剣が爆発。
大量の水が空中に出来上がる。
リンスールが初めて目にする攻撃魔法に戸惑っている間に水に向かって左腕を伸ばした国王は容赦が無い。
「氷結」
氷属性の魔法を唱えると突然、白い靄が発生し始めた。
国王の放った魔法は妖精王や魔王の視界を奪う。
「国王あまり無茶をするなよ。無理やり高度な魔術を使い続けていれば命を削る事になるぞ」
妖精達の視界を奪っている間に国王は爆風により飛ばされた魔王の元に移動する。
「分かっている」
魔王の腕の中で無抵抗のまま瞬きを繰り返すヒビキが父に視線を向ける。
魔王に口を手で封じられているため疑問に思っていることを問いかける事が出来ない。
しかし、体を締め付けられているため息苦しそうなヒビキの姿を視界に入れると魔王が口を押さえていた手を離す。
魔王の拘束から解放された事によりヒビキは深呼吸をする。
父に声をかけても返事は無いかもしれない。
それでも、次に父と対面する事があれば勇気を出して声をかけてみようと思っていた。
「放出系の魔法は寿命を縮めるのですか? 妖精王に力の使い方を教わり、俺も放出系の高度な魔法を扱う事が出来るようになったのですが」
疑問に思った事を問いかける事に成功したヒビキの頬を冷や汗がつたう。
父から返事が無かったらどうしよう。
もしかしたら、視線を合わす事すらしてくれないかもしれない。
緊張から自然と表情が曇ってしまう。
それに、リンスールから学んだ術の発動条件が寿命を削る事だとは知らなかった。
放出系の魔法を発動した経験を持つヒビキの問いかけに答えるために国王は口を開く。
「妖精王に学んだのか。基本的にギルドカードに表示された術以外を発動すると少しずつ寿命を削る事になるのだが、妖精王は命を削る事を伝えなかったのか?」
声をかけても返事は無いかもしれないと思っていた。
視線すら合わせてくれないかもしれないと思っていた。
不安を抱いたまま声をかけたヒビキの問いかけに対して、内心とても喜んでいる国王は感情を表情に表すこと無く、声のトーンや口調も変えること無く返事をする。
「妖精王は放出系の魔法を使うと寿命を少しずつ削る事を知らなかったんじゃないか? 魔界には足しげく通っていたようだが人間界は距離があるから、そうそう足を運んではいなかっただろうし人間の事は余り把握していないのでは無いか?」
答えたのは魔王だった。
がちがちに緊張するヒビキの反応を見て苦笑する。
もしかしたら親子仲は悪いのかもしれないと、父親を目の前にして緊張感に苛まれるヒビキの姿を見て予想する。
「放出系の魔法は、いずれレベルが上がると使用可能なスキルとして扱うことが出来るようになる。レベルが上がるまでは、ほんとうに必要な場面でのみ使うように」
ヒビキの前では極力、威厳のある父親を演じたい。
我が子と話をする事が出来て内心では喜んでいる国王は、にやけそうになる表情を引き締めた。
「氷属性の魔法を操っているって事は、あの人が国王? 何故国王が魔界にいるわけ?」
妖精王に向けて放たれた氷結魔法は地上にいるユキヒラやサヤには全く効果をなさなかった。
地上から空を見上げるユキヒラが魔王と肩を並べる人物に釘付けになっている。
妖精王が第一部隊と第四部隊と共に魔王の足止めを行っているうちに、東側から洞窟を抜けて魔界へたどり着いた第三部隊と第六部隊が合流をした。
「あの人が人間界を牛耳っている国王様か。もっと恐ろしい形相の化け物じみた姿をしていると思っていた」
第三部隊の隊長を務めるのは少女である。頬を赤く染める少女が、国王を指差して素直な感想を口にする。
「全然化け物じゃないね。人の姿をしているね」
第六部隊の隊長を務める青年に、少女は国王が人の姿をしている事実を口にする。
「俺も国王は毛むくじゃらの大男が務めてるんだと思っていたけど、見たところ二十代前半かな」
見た目から国王の年齢を予想する妖精達の会話を耳にしていた魔王が笑いをこらえきれずに吹き出した。
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