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ヒビキの奪還編
72話 大柄の男
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「えぇ。攻撃力は私よりも高いと思いますよ」
「へぇ。もしも、操ることが出来たら大きな戦力になるんだねぇ」
笑みを浮かべるユキヒラの視線は妖精王の背後に佇む、大柄の男に真っ直ぐ向けられていた。
一体いつから背後に佇んでいたのだろうか。
全く気配がしなかったため気づかなかった。
妖精王の腰まである長い髪の毛が、強風に晒される事により激しく靡く。
髪をしっかりと束ねていたゴムが切れて、あらぬ方向に飛ぶと皆の視線が目を見開き佇んでいる妖精王の元に向かう。
大きな斧を両手で握りしめて、横一線に薙ぎ払った大男は妖精王を威嚇する。
大男は巨大な赤いマントを身に付けていた。
頭には二本の大きな角が印象的な立派な兜を身に付けている。胸部を覆う金属板を装甲する事により防御力を高めている大男の種族は人間か。
大男の目の前に佇んでいるのは妖精王であるはずなのにリンスールが、ちっぽけに見えてしまうほど大男の図体はでかく声も遠くまで良く通る。
「決闘を申し込む。俺が勝てば食料を全て置いてってもらおうか」
兜から僅かに見える髪の毛は茶色。瞳の色は黒く、種族は人間で間違いないだろう。
顎髭と濃い胸毛を持つ。
大男が少しずつ近づいてきている事に気づけなかったリンスールは苦笑する。
ユキヒラが国王の前に第二王子の首を差し出す何て言い出すから、すっかりユキヒラに気をとられていた。
「相手は俺が選ぶ」
巨大な斧を引きずりながら一歩二歩と足を進めた大男の視線は、ある人物を捉えていた。
実はリンスールに攻撃を仕掛ける前に、すでに大男は決闘を挑む相手を決めていた。
狐耳の白いフードを被り、サヤの肩に担がれている幼い子供。
魔族の子供が好んで着る服を身に纏っているため、少年の種族は魔族だろうと大柄の男は考えていた。
魔族であったとしても幼い子供に何が出来るのだろうかと考えた大男は、ヒビキを勝手に弱いだろうと判断する。
「お前」
大柄の男は、迷うことなくサヤの肩に腹を預けてぶら下がっているヒビキに指先を向ける。
「駄目に決まってるでしょう!」
大男の選んだ相手がヒビキであると分かり、いち早く声を上げたのはサヤだった。
肩にかけていた小さな体に手を添えて地面に下ろす。
背後に隠すようにして大男とヒビキの前に立ちふさがったサヤは鋭い視線を大男に向けたまま、ゆっくりと後ずさる。
「幼い姿であっても、ヒビキ君は彼よりも強いですよ。心配する事はありません」
警戒するサヤに、こっそりと耳打ちをするようにして小さな声で本音を口にしたのは、今の状況を楽しんでいるリンスールだった。
大男には聞こえないように、小声で言葉を続けたリンスールはサヤの背後で呆然と佇んでいるヒビキの横腹に両手を添えると小さな体を軽々と持ち上げる。
「ヒビキ君は私の教えた通りに術を使ってみてください。圧倒的な破壊力を持つ術です。仲間を巻き込まないように、扱いには十分に気を付けてくださいね」
過去に先代の国王が使っていた術の中で、一つだけ自分が扱うことの出来る術と類似しているものがあった。
その術ならヒビキに教えることが出来るかも知れないと考えた妖精王は妖精界から魔界へ移動している道中に、少しずつヒビキに術の扱い方を教えていた。
「危険と判断をしたら助けに入りますから」
大男の元に向かうようにと、ヒビキの小さな背中を押す。
ふらつきながらも一歩二歩と足を進めたヒビキが背後を振り向き、リンスールに視線を向ける。
「大丈夫ですよ。集中をしていれば、術の発動を失敗しても命を落とすような事にはなりません」
真剣な面持ちで呟いたリンスールの言葉を聞き、ヒビキは小さく頷いた。
学んだばかりの術は威力があり、広い範囲を対象にするもののため、逃げ遅れると自分の発動した術に巻き込まれることになる。
魔力を込めすぎると術の範囲内から逃げ出す前に術が発動するだろう。
逆に魔力が少なすぎると威力を失ってしまう。
「うまく出来るか分からないけれど、やってみる」
小声で呟いたヒビキは、妖精王からの返事を待つことなく大男に視線を向けると勢い良く走り出した。
幼い少年の姿を、じっくりと眺めていた大男はニヤニヤと締まらない笑みを浮かべていた。
足の歩幅は小さく足を絡ませて盛大に転んでしまうのでは無いのかと思ってしまう程、足取りはたどたどしい。
見た所、幼い子供は武器を持っている様子ではない。
「まさか手ぶらか?」
ぽつりと独り言を呟いた大男の口元には三日月のような笑みが浮かんでいる。
勝ったも同然だなと考えて油断している大男は、大きな斧を迫りくる少年に向けて振り下ろした。
視線を斧に向けた途端、ヒビキは地面を蹴りつけ空中に飛び上がる。
垂直に振り下ろされた斧の上を飛び越えると、真っ逆さまになったヒビキは大男の兜を両手で押すことにより更に高く飛び上がる。
空中で体は半回転する。
地面に両手、両足を付き着地をしたヒビキの姿を大男は目で追うことが出来なかった。
勢いが良すぎた。
大男の背後に着地をするつもりが、実際に着地を決めた場所は大男から随分と離れてしまっている。
ふらつきながらも、その場に立ち上がったヒビキは小さなため息を吐き出した。
手の平についてしまった砂を払うように手を擦り合わせると、両手に息を吹きかける。
続けて服についた砂を両手で払うことにより地面に落とすと、大きく両手を掲げて伸びをした。
「へぇ。もしも、操ることが出来たら大きな戦力になるんだねぇ」
笑みを浮かべるユキヒラの視線は妖精王の背後に佇む、大柄の男に真っ直ぐ向けられていた。
一体いつから背後に佇んでいたのだろうか。
全く気配がしなかったため気づかなかった。
妖精王の腰まである長い髪の毛が、強風に晒される事により激しく靡く。
髪をしっかりと束ねていたゴムが切れて、あらぬ方向に飛ぶと皆の視線が目を見開き佇んでいる妖精王の元に向かう。
大きな斧を両手で握りしめて、横一線に薙ぎ払った大男は妖精王を威嚇する。
大男は巨大な赤いマントを身に付けていた。
頭には二本の大きな角が印象的な立派な兜を身に付けている。胸部を覆う金属板を装甲する事により防御力を高めている大男の種族は人間か。
大男の目の前に佇んでいるのは妖精王であるはずなのにリンスールが、ちっぽけに見えてしまうほど大男の図体はでかく声も遠くまで良く通る。
「決闘を申し込む。俺が勝てば食料を全て置いてってもらおうか」
兜から僅かに見える髪の毛は茶色。瞳の色は黒く、種族は人間で間違いないだろう。
顎髭と濃い胸毛を持つ。
大男が少しずつ近づいてきている事に気づけなかったリンスールは苦笑する。
ユキヒラが国王の前に第二王子の首を差し出す何て言い出すから、すっかりユキヒラに気をとられていた。
「相手は俺が選ぶ」
巨大な斧を引きずりながら一歩二歩と足を進めた大男の視線は、ある人物を捉えていた。
実はリンスールに攻撃を仕掛ける前に、すでに大男は決闘を挑む相手を決めていた。
狐耳の白いフードを被り、サヤの肩に担がれている幼い子供。
魔族の子供が好んで着る服を身に纏っているため、少年の種族は魔族だろうと大柄の男は考えていた。
魔族であったとしても幼い子供に何が出来るのだろうかと考えた大男は、ヒビキを勝手に弱いだろうと判断する。
「お前」
大柄の男は、迷うことなくサヤの肩に腹を預けてぶら下がっているヒビキに指先を向ける。
「駄目に決まってるでしょう!」
大男の選んだ相手がヒビキであると分かり、いち早く声を上げたのはサヤだった。
肩にかけていた小さな体に手を添えて地面に下ろす。
背後に隠すようにして大男とヒビキの前に立ちふさがったサヤは鋭い視線を大男に向けたまま、ゆっくりと後ずさる。
「幼い姿であっても、ヒビキ君は彼よりも強いですよ。心配する事はありません」
警戒するサヤに、こっそりと耳打ちをするようにして小さな声で本音を口にしたのは、今の状況を楽しんでいるリンスールだった。
大男には聞こえないように、小声で言葉を続けたリンスールはサヤの背後で呆然と佇んでいるヒビキの横腹に両手を添えると小さな体を軽々と持ち上げる。
「ヒビキ君は私の教えた通りに術を使ってみてください。圧倒的な破壊力を持つ術です。仲間を巻き込まないように、扱いには十分に気を付けてくださいね」
過去に先代の国王が使っていた術の中で、一つだけ自分が扱うことの出来る術と類似しているものがあった。
その術ならヒビキに教えることが出来るかも知れないと考えた妖精王は妖精界から魔界へ移動している道中に、少しずつヒビキに術の扱い方を教えていた。
「危険と判断をしたら助けに入りますから」
大男の元に向かうようにと、ヒビキの小さな背中を押す。
ふらつきながらも一歩二歩と足を進めたヒビキが背後を振り向き、リンスールに視線を向ける。
「大丈夫ですよ。集中をしていれば、術の発動を失敗しても命を落とすような事にはなりません」
真剣な面持ちで呟いたリンスールの言葉を聞き、ヒビキは小さく頷いた。
学んだばかりの術は威力があり、広い範囲を対象にするもののため、逃げ遅れると自分の発動した術に巻き込まれることになる。
魔力を込めすぎると術の範囲内から逃げ出す前に術が発動するだろう。
逆に魔力が少なすぎると威力を失ってしまう。
「うまく出来るか分からないけれど、やってみる」
小声で呟いたヒビキは、妖精王からの返事を待つことなく大男に視線を向けると勢い良く走り出した。
幼い少年の姿を、じっくりと眺めていた大男はニヤニヤと締まらない笑みを浮かべていた。
足の歩幅は小さく足を絡ませて盛大に転んでしまうのでは無いのかと思ってしまう程、足取りはたどたどしい。
見た所、幼い子供は武器を持っている様子ではない。
「まさか手ぶらか?」
ぽつりと独り言を呟いた大男の口元には三日月のような笑みが浮かんでいる。
勝ったも同然だなと考えて油断している大男は、大きな斧を迫りくる少年に向けて振り下ろした。
視線を斧に向けた途端、ヒビキは地面を蹴りつけ空中に飛び上がる。
垂直に振り下ろされた斧の上を飛び越えると、真っ逆さまになったヒビキは大男の兜を両手で押すことにより更に高く飛び上がる。
空中で体は半回転する。
地面に両手、両足を付き着地をしたヒビキの姿を大男は目で追うことが出来なかった。
勢いが良すぎた。
大男の背後に着地をするつもりが、実際に着地を決めた場所は大男から随分と離れてしまっている。
ふらつきながらも、その場に立ち上がったヒビキは小さなため息を吐き出した。
手の平についてしまった砂を払うように手を擦り合わせると、両手に息を吹きかける。
続けて服についた砂を両手で払うことにより地面に落とすと、大きく両手を掲げて伸びをした。
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