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ヒビキの奪還編
67話 進化したガーゴイル
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込められるだけの力を込めたにも拘わらず、剣はガーゴイルの硬い体を貫通することなく、ユキヒラの両腕をビリビリビリと痺れさせるだけに終わった。
「何これ、硬すぎるんだけどぉ」
プクッと頬を膨らましたユキヒラが、ため息を漏らす。
切り離され床に転がっていた腕と、ガーゴイルの肩を黄色に光る複数の糸が繋ぎあわせていく。
ゆっくりと持ち上がった大きな腕は引き寄せられるようにして肩にくっつくと元通りとなり、両腕を取り戻したガーゴイルは力任せに腕を振り下ろした。
ユキヒラがガーゴイルの物理攻撃から逃れるために大きく後退する。しかし、ガーゴイルの指先がユキヒラの体に直撃、黒いローブを身に纏っているユキヒラを床に激しく叩きつけた。
激しく床に全身を打ち付けたユキヒラが、血を吐き出しながらもユタカを睨み付ける。
何をしているの早くガーゴイルに攻撃を仕掛けなよと訴えるような表情を目の当たりにしたユタカが、あんぐりと口を開く。考えが伝わっていないのだろうかと考えたユキヒラが眉を寄せる。
ユタカに人差し指を向けるとユタカからガーゴイルに素早く指先を移す。行けと無言の圧をかけるユキヒラの指示に従って、ユタカは大きく肩を揺らすと剣を手に取り走り出した。
「助けてくれた事には感謝するけど人使いが荒いなぁ」
小声で愚痴を漏らしながらもガーゴイルが振り下ろした手を軽やかに避けて、その背後に回りこんだユタカが揺れ動く長い尻尾に飛び乗った。
ユタカの足の幅と同じ大きさである尻尾は決して足場が良いとは言えない。しかし、揺れ動く尻尾の上を全速力で駆け抜けるユタカは見事なバランス感覚を見せつける。
ガーゴイルが尻尾を強く振り上げるタイミングを見計らって高く飛び上がったユタカが一気に、ガーゴイルの頭上へ移動する。
真下へ向けた刃の先端をおろした。しかし、ガーゴイルの頭部へ突き刺すようにして下ろした剣は、ガーゴイルの頭を傷つけることなく弾かれてしまう。
「ねぇ、硬いよ!」
ユタカは大声を張り上げた。
「柔らかい部分があるはずなので、探し出してください!」
間髪を入れる事なく妖精王が大声を張り上げる。
弓を一度も下ろすことなく、構え続ける妖精王にユタカは真剣な眼差しを浮かべて頷いた。
「分かった! がむしゃらに剣を振るってみるよ」
次に狙うのはガーゴイルの腕。
体をひねりながら剣に勢いをつけて薙ぎ払うと、やはりガーゴイルの腕は強度が弱いようで、シュッと音をたてて先程くっついたばかりの腕を切り落とした。
透かさず、切断面に向かって無数の矢が飛ぶ。
黄金色に光輝く矢は、妖精王が指先を左へ向けることにより急激に軌道を変える。
ガーゴイルの脇に突き刺さった。パチンと指をならすと矢が爆発する。
共に出現した巨大な竜巻は、近くにいたヒビキも巻き込む形でガーゴイルに襲いかかる。
妖精王の発動したヒビキの身を守る術が、みしみしと音を立てて壊れる。
巨大な竜巻に巻き込まれる形となったヒビキの小さな体は、突風に巻き上げられて高く上がる。
「ちょっと、何してんの!」
顔面蒼白のまま表情を強ばらせたユタカが、あんぐりと口を開き文句を言う。
「力加減を間違えました」
同じく青白い顔をする妖精王は決して意図したわけでは無くて、ぽつりと言葉を漏らす。
「一体、何がどうなってるのだね?」
そして、やっとユキヒラに追い付いたと安堵していたナナヤが視界に入りこんだ光景に愕然とする。
両手でベリーダンス衣装を抱え込んだまま、呆然と立ち尽くしていた。
竜巻の中から投げ出されたヒビキの体を視界に入れる。
「わっ、わっ!」
ナナヤは足をせわしなく動かしながら落下地点へ移動する。無抵抗のまま迫り来るヒビキの体を受け止めようとした。
「私が」
しかし、足元の覚束ないナナヤの前へ素早く移動した妖精王が大きく右手を掲げ、ぐるぐると回転しながら向かってくるヒビキの服を鷲掴みにする。
しっかりと服を掴み取り、ヒビキの背に手を回すと片手で軽々とヒビキの体を受け止めた。
高く飛び上がったヒビキが床に打ち付けらる事を恐れていたユタカが、我が子を軽々と受け止めた妖精王の行動を視野に入れて安堵する。
怪物を模して作られたガーゴイルに視線を向けていたのはユキヒラの一人だけ。
ユキヒラは妖精王の放った矢が爆発。巨大な竜巻が起こりガーゴイルのヒットポイントを減らす所を目の当たりにしていた。
そして、ダメージを負ったガーゴイルが目映い光に包まれて進化するのを間近で見ていたため素早く身を翻す。
「逃げるよ!」
大声を張り上げた。
赤紫色に変化したガーゴイルの体は気がつくとユタカによって切り離された腕が再生し、今まで下半身を持たずに重たい胴体を引きずりながら身動きを取っていたガーゴイルが足を手に入れる。
今まで900レベルと表示されていたはずなのに、900レベルという表記は消えて1800とレベルは二倍に増えていた。
「結界魔法」
両腕を広げて結界を張り巡らせる事を決めた妖精王が、ガーゴイルの体を二重の結界を張り巡らせる事により囲もうとした。
右手を伸ばして呪文を唱えたガーゴイルの手に添うようにして銀色に光輝く剣が姿を現す。
剣を手にしたガーゴイルが左から右へ剣を薙ぎ払うと、妖精王の張った結界を切り裂いた。
巨体を持つガーゴイルの体に合わせて作られた巨大な剣を振り上げると、ガーゴイルの頭上に円を描くようにして無数の炎の塊が出現した。
「土属性から火属性に変化した?」
剣を手に取り構えているユタカが、ガーゴイルの生みの親である妖精王に声をかける。
「えぇ、そのようですね」
再び両手を広げて結界の出現を唱えた妖精王が、ガーゴイルを囲むようにして結界を張り巡らせようと試みる。しかし、ガーゴイルは剣を一振りして結界を破ると妖精王に向け無数の小さな炎の塊を放つ。
「君が設定したモンスターじゃないの?」
向かってくる炎から身を避けるために大きく後退した妖精王に向かってユタカが問いかける。
「違いますよ。この神殿内に現れるのはレベル500までと設定していますから。妖精界に現れるモンスターのレベルの上限を多少、上げはしましたが1800レベルまでは上げてはいません。1800レベルのモンスター何て未知の領域ですよ。今まで出会った事すらありませんよ」
剣の先端とガーゴイルの腹部を囲むようにして、無数の炎の塊が出来あがっていく。
手のひらサイズだった炎は大きさを増し威力を増すと、剣を構えているユタカに向けて放たれた。
「そっか。だったら、未知の領域であるガーゴイルをこのまま放置しておく事は出来ないよね。僕がここに残るから君は神殿の外へ」
既に身を翻して神殿の外へ向かって引き返しているのはユキヒラやサヤやナナヤの3人。3人を指差して後を追いかけるようにと指示を出したユタカに妖精王は問いかける。
「1800レベルですよ? 倒せるのですか?」
問いかけにたいして、ユタカは首を左右に動かした。向かってきた炎の塊から逃れるように右へ左へ移動をする。
「君にとって1800レベルは未知の領域のように、僕にとっても初めての経験だから分からないよ」
妖精王の問いかけに対してユタカは苦笑する。
封印を受けているためユタカのレベルは198レベル。
到底かなう相手ではない。
ほんの少しの間だけ、ガーゴイルの足止めをする程度に終わるだろうと予想する。
「倒せるわけがない。900レベルでも苦戦していたのに、1800レベル何て」
今まで妖精王とユタカの会話を、黙って聞いていたヒビキが口をはさんだ。
妖精王の肩に担がれていたヒビキが、じたばたと手足を動かして上半身を起こすと床に飛び降りる。
「一人で1800レベルのガーゴイルと対峙する何て無謀だよ」
両手を掲げて床に着地をしたヒビキの言葉を耳にしてユタカは苦笑する。
「そうだね。自分でも無謀な事をしているなと思う。覚悟の上だよ。今までガーゴイルの胴体に巻き付くようにして張り巡らされていた枷が外れているって事は、進化したガーゴイルは神殿を抜け出す事が出来ると思うんだよね。僕がガーゴイルの足止めを行っているうちに妖精王、君は神殿の外へ抜け出して神殿ごと結界に包み込んで欲しいんだ。出来るでしょう?」
「つまり、あなたは犠牲になるつもりでいると? 一度、結界を張り巡らせると中から外へ出る事は不可能になりますよ。神殿の中に1800レベルのガーゴイルと二人きりですよ?」
「そうだね。けれど何も考えもなしに、この場にとどまろうとしている訳ではないよ。だから、安心して」
大丈夫と言葉を続けたユタカに妖精王が眉を寄せる。
「何か策があるとでも?」
「うん、僕に任せてよ。そのかわり、君はヒビキの身を守って欲しい。ユキヒラにヒビキが第二王子である事が知られたら命を狙われるだろうからさ。もう一つお願いしたい事があるんだけど今回、国王の暗殺を行うためにユキヒラを使いボスモンスター討伐隊隊員の殺害と魔界の壊滅を指揮した者を捉えて欲しいんだ。ユキヒラと共にボスモンスター討伐隊隊員の家族に差し出して欲しい。首謀者達をどうするか僕が勝手に決めちゃうのは余りにも無情な仕打ちだと思うんだ」
「分かりました。もしも、首謀者が貴方の身うちだった場合どうします?」
「身内である可能性の方が高い気がする。今後、表だって公表していないような内情がユキヒラの口から出て来たら確信に変わるね」
「まぁ、そうですね」
「それにしても現国王は国民や身内にどのような人物だと思われているんだろうね。命を狙われるほど心の歪んだ醜い化け物だとでも思われているのかねぇ」
ガーゴイルに向かって剣を構えるユタカの後ろ姿はフードを深く被っているため、その表情を確認する事は出来ない。
小声で本音を漏らしたユタカは小さなため息をつく。
「もしかして叔父様? 容姿を確認する事が出来ないから、はっきりとは分からないけど見た目からは父と同等の年齢と言うよりはタツウミお兄様と同年代くらいかな。いとこか親戚って可能性もあるね」
大人しく二人の会話を耳にしていたヒビキが問いかけた。
父には沢山の兄弟がいる。
その中の一人だろうかと考えていたヒビキはユタカの見た目からは親戚や、いとこの可能性も視野に入れる。
問いかけに対してユタカは大きく目を見開いた。
「既に記憶を取り戻しているでしょう?」
記憶を失っているはずのヒビキの口から思わぬ言葉が飛び出したためユタカは疑問を抱いて問いかける。
知らない間にヒビキの記憶が戻っていた喜びと何故、記憶が戻っていたのに教えてはくれなかったのかと言う戸惑いと驚きによって、ヒビキの口にした疑問に対して返事をする事を忘れてしまっているユタカが胸を高鳴らせる。
「うん、ごめん」
肯定と共に頷いたヒビキに対してユタカは苦笑する。
「取り戻したなら取り戻してたって言ってよ。心配していたんだから。それに怪我を負って魔界に運ばれた時は意識が無かったから仕方がないとして、意識が戻ってからも家に連絡の一つも入れようとしなかったでしょう。人の事をもう少し考えなよって、僕が言える立場でもないけどさ。言いたい事を言っていられる状況ではない事が辛い。ガーゴイルは待ってはくれないし。さぁ、行って!」
ガーゴイルが複数の炎の塊をユタカに向け放つと、透かさずユタカが大声を張り上げる。
妖精王がヒビキの腹部に腕を回すと、軽々とヒビキの体を左腕に抱えて走り出す。
「記憶が戻っていたのですね」
妖精王の表情は険しい。しかし、妖精王の腕に腹部を預けて、体をくの字に曲げるヒビキからは妖精王の表情を確認する事が出来ず、口調から怒っているのだろうなと予想をしたヒビキが項垂れる。
「黙っていて、ごめんなさい」
目蓋を伏せる。
記憶が戻っていたのに伝えなかった事を責めている訳ではないのだけどなと考えつつ、妖精王は口を開く。
「後は体が元に戻るだけですね」
落ち込むヒビキを落ち着かせるために妖精王は表情を和ませる。
「戻るかな」
閉じていた目蓋を開き、自信が無さそうに本音を漏らしたヒビキに対して妖精王は小さく頷いた。
「戻ってくれないと困りますね。ユタカに攻め立てられそうです」
妖精王は苦笑する。
ユタカの策がどのようなものかは分からないけれど、ユタカが無事に張り巡らせた結界の中から抜け出す事を妖精王は信じていた。
もしも、ヒビキが幼い姿のまま元に戻らなければ、怒ったユタカに何をされるか分からない。
銀騎士を引き連れて妖精界に乗り込まれたら、たまったものではない。
「スピードを上げますよ」
レベル100前後のオーガは人の気配を感じると嬉しそうに刃物を振り上げて向かってくるため、妖精王はヒビキからの返事を聞くことなく空中に飛び上がる。
羽を広げるとオーガの頭上を飛び越えた。
飛行する妖精王を羨ましそうに眺めるオーガに見送られるような形で、一気に神殿の出入口を目指す。
中には何度も飛び跳ねながら後を追いかけてくるオーガもいて、ヒビキはきょとんとする。
「何これ、硬すぎるんだけどぉ」
プクッと頬を膨らましたユキヒラが、ため息を漏らす。
切り離され床に転がっていた腕と、ガーゴイルの肩を黄色に光る複数の糸が繋ぎあわせていく。
ゆっくりと持ち上がった大きな腕は引き寄せられるようにして肩にくっつくと元通りとなり、両腕を取り戻したガーゴイルは力任せに腕を振り下ろした。
ユキヒラがガーゴイルの物理攻撃から逃れるために大きく後退する。しかし、ガーゴイルの指先がユキヒラの体に直撃、黒いローブを身に纏っているユキヒラを床に激しく叩きつけた。
激しく床に全身を打ち付けたユキヒラが、血を吐き出しながらもユタカを睨み付ける。
何をしているの早くガーゴイルに攻撃を仕掛けなよと訴えるような表情を目の当たりにしたユタカが、あんぐりと口を開く。考えが伝わっていないのだろうかと考えたユキヒラが眉を寄せる。
ユタカに人差し指を向けるとユタカからガーゴイルに素早く指先を移す。行けと無言の圧をかけるユキヒラの指示に従って、ユタカは大きく肩を揺らすと剣を手に取り走り出した。
「助けてくれた事には感謝するけど人使いが荒いなぁ」
小声で愚痴を漏らしながらもガーゴイルが振り下ろした手を軽やかに避けて、その背後に回りこんだユタカが揺れ動く長い尻尾に飛び乗った。
ユタカの足の幅と同じ大きさである尻尾は決して足場が良いとは言えない。しかし、揺れ動く尻尾の上を全速力で駆け抜けるユタカは見事なバランス感覚を見せつける。
ガーゴイルが尻尾を強く振り上げるタイミングを見計らって高く飛び上がったユタカが一気に、ガーゴイルの頭上へ移動する。
真下へ向けた刃の先端をおろした。しかし、ガーゴイルの頭部へ突き刺すようにして下ろした剣は、ガーゴイルの頭を傷つけることなく弾かれてしまう。
「ねぇ、硬いよ!」
ユタカは大声を張り上げた。
「柔らかい部分があるはずなので、探し出してください!」
間髪を入れる事なく妖精王が大声を張り上げる。
弓を一度も下ろすことなく、構え続ける妖精王にユタカは真剣な眼差しを浮かべて頷いた。
「分かった! がむしゃらに剣を振るってみるよ」
次に狙うのはガーゴイルの腕。
体をひねりながら剣に勢いをつけて薙ぎ払うと、やはりガーゴイルの腕は強度が弱いようで、シュッと音をたてて先程くっついたばかりの腕を切り落とした。
透かさず、切断面に向かって無数の矢が飛ぶ。
黄金色に光輝く矢は、妖精王が指先を左へ向けることにより急激に軌道を変える。
ガーゴイルの脇に突き刺さった。パチンと指をならすと矢が爆発する。
共に出現した巨大な竜巻は、近くにいたヒビキも巻き込む形でガーゴイルに襲いかかる。
妖精王の発動したヒビキの身を守る術が、みしみしと音を立てて壊れる。
巨大な竜巻に巻き込まれる形となったヒビキの小さな体は、突風に巻き上げられて高く上がる。
「ちょっと、何してんの!」
顔面蒼白のまま表情を強ばらせたユタカが、あんぐりと口を開き文句を言う。
「力加減を間違えました」
同じく青白い顔をする妖精王は決して意図したわけでは無くて、ぽつりと言葉を漏らす。
「一体、何がどうなってるのだね?」
そして、やっとユキヒラに追い付いたと安堵していたナナヤが視界に入りこんだ光景に愕然とする。
両手でベリーダンス衣装を抱え込んだまま、呆然と立ち尽くしていた。
竜巻の中から投げ出されたヒビキの体を視界に入れる。
「わっ、わっ!」
ナナヤは足をせわしなく動かしながら落下地点へ移動する。無抵抗のまま迫り来るヒビキの体を受け止めようとした。
「私が」
しかし、足元の覚束ないナナヤの前へ素早く移動した妖精王が大きく右手を掲げ、ぐるぐると回転しながら向かってくるヒビキの服を鷲掴みにする。
しっかりと服を掴み取り、ヒビキの背に手を回すと片手で軽々とヒビキの体を受け止めた。
高く飛び上がったヒビキが床に打ち付けらる事を恐れていたユタカが、我が子を軽々と受け止めた妖精王の行動を視野に入れて安堵する。
怪物を模して作られたガーゴイルに視線を向けていたのはユキヒラの一人だけ。
ユキヒラは妖精王の放った矢が爆発。巨大な竜巻が起こりガーゴイルのヒットポイントを減らす所を目の当たりにしていた。
そして、ダメージを負ったガーゴイルが目映い光に包まれて進化するのを間近で見ていたため素早く身を翻す。
「逃げるよ!」
大声を張り上げた。
赤紫色に変化したガーゴイルの体は気がつくとユタカによって切り離された腕が再生し、今まで下半身を持たずに重たい胴体を引きずりながら身動きを取っていたガーゴイルが足を手に入れる。
今まで900レベルと表示されていたはずなのに、900レベルという表記は消えて1800とレベルは二倍に増えていた。
「結界魔法」
両腕を広げて結界を張り巡らせる事を決めた妖精王が、ガーゴイルの体を二重の結界を張り巡らせる事により囲もうとした。
右手を伸ばして呪文を唱えたガーゴイルの手に添うようにして銀色に光輝く剣が姿を現す。
剣を手にしたガーゴイルが左から右へ剣を薙ぎ払うと、妖精王の張った結界を切り裂いた。
巨体を持つガーゴイルの体に合わせて作られた巨大な剣を振り上げると、ガーゴイルの頭上に円を描くようにして無数の炎の塊が出現した。
「土属性から火属性に変化した?」
剣を手に取り構えているユタカが、ガーゴイルの生みの親である妖精王に声をかける。
「えぇ、そのようですね」
再び両手を広げて結界の出現を唱えた妖精王が、ガーゴイルを囲むようにして結界を張り巡らせようと試みる。しかし、ガーゴイルは剣を一振りして結界を破ると妖精王に向け無数の小さな炎の塊を放つ。
「君が設定したモンスターじゃないの?」
向かってくる炎から身を避けるために大きく後退した妖精王に向かってユタカが問いかける。
「違いますよ。この神殿内に現れるのはレベル500までと設定していますから。妖精界に現れるモンスターのレベルの上限を多少、上げはしましたが1800レベルまでは上げてはいません。1800レベルのモンスター何て未知の領域ですよ。今まで出会った事すらありませんよ」
剣の先端とガーゴイルの腹部を囲むようにして、無数の炎の塊が出来あがっていく。
手のひらサイズだった炎は大きさを増し威力を増すと、剣を構えているユタカに向けて放たれた。
「そっか。だったら、未知の領域であるガーゴイルをこのまま放置しておく事は出来ないよね。僕がここに残るから君は神殿の外へ」
既に身を翻して神殿の外へ向かって引き返しているのはユキヒラやサヤやナナヤの3人。3人を指差して後を追いかけるようにと指示を出したユタカに妖精王は問いかける。
「1800レベルですよ? 倒せるのですか?」
問いかけにたいして、ユタカは首を左右に動かした。向かってきた炎の塊から逃れるように右へ左へ移動をする。
「君にとって1800レベルは未知の領域のように、僕にとっても初めての経験だから分からないよ」
妖精王の問いかけに対してユタカは苦笑する。
封印を受けているためユタカのレベルは198レベル。
到底かなう相手ではない。
ほんの少しの間だけ、ガーゴイルの足止めをする程度に終わるだろうと予想する。
「倒せるわけがない。900レベルでも苦戦していたのに、1800レベル何て」
今まで妖精王とユタカの会話を、黙って聞いていたヒビキが口をはさんだ。
妖精王の肩に担がれていたヒビキが、じたばたと手足を動かして上半身を起こすと床に飛び降りる。
「一人で1800レベルのガーゴイルと対峙する何て無謀だよ」
両手を掲げて床に着地をしたヒビキの言葉を耳にしてユタカは苦笑する。
「そうだね。自分でも無謀な事をしているなと思う。覚悟の上だよ。今までガーゴイルの胴体に巻き付くようにして張り巡らされていた枷が外れているって事は、進化したガーゴイルは神殿を抜け出す事が出来ると思うんだよね。僕がガーゴイルの足止めを行っているうちに妖精王、君は神殿の外へ抜け出して神殿ごと結界に包み込んで欲しいんだ。出来るでしょう?」
「つまり、あなたは犠牲になるつもりでいると? 一度、結界を張り巡らせると中から外へ出る事は不可能になりますよ。神殿の中に1800レベルのガーゴイルと二人きりですよ?」
「そうだね。けれど何も考えもなしに、この場にとどまろうとしている訳ではないよ。だから、安心して」
大丈夫と言葉を続けたユタカに妖精王が眉を寄せる。
「何か策があるとでも?」
「うん、僕に任せてよ。そのかわり、君はヒビキの身を守って欲しい。ユキヒラにヒビキが第二王子である事が知られたら命を狙われるだろうからさ。もう一つお願いしたい事があるんだけど今回、国王の暗殺を行うためにユキヒラを使いボスモンスター討伐隊隊員の殺害と魔界の壊滅を指揮した者を捉えて欲しいんだ。ユキヒラと共にボスモンスター討伐隊隊員の家族に差し出して欲しい。首謀者達をどうするか僕が勝手に決めちゃうのは余りにも無情な仕打ちだと思うんだ」
「分かりました。もしも、首謀者が貴方の身うちだった場合どうします?」
「身内である可能性の方が高い気がする。今後、表だって公表していないような内情がユキヒラの口から出て来たら確信に変わるね」
「まぁ、そうですね」
「それにしても現国王は国民や身内にどのような人物だと思われているんだろうね。命を狙われるほど心の歪んだ醜い化け物だとでも思われているのかねぇ」
ガーゴイルに向かって剣を構えるユタカの後ろ姿はフードを深く被っているため、その表情を確認する事は出来ない。
小声で本音を漏らしたユタカは小さなため息をつく。
「もしかして叔父様? 容姿を確認する事が出来ないから、はっきりとは分からないけど見た目からは父と同等の年齢と言うよりはタツウミお兄様と同年代くらいかな。いとこか親戚って可能性もあるね」
大人しく二人の会話を耳にしていたヒビキが問いかけた。
父には沢山の兄弟がいる。
その中の一人だろうかと考えていたヒビキはユタカの見た目からは親戚や、いとこの可能性も視野に入れる。
問いかけに対してユタカは大きく目を見開いた。
「既に記憶を取り戻しているでしょう?」
記憶を失っているはずのヒビキの口から思わぬ言葉が飛び出したためユタカは疑問を抱いて問いかける。
知らない間にヒビキの記憶が戻っていた喜びと何故、記憶が戻っていたのに教えてはくれなかったのかと言う戸惑いと驚きによって、ヒビキの口にした疑問に対して返事をする事を忘れてしまっているユタカが胸を高鳴らせる。
「うん、ごめん」
肯定と共に頷いたヒビキに対してユタカは苦笑する。
「取り戻したなら取り戻してたって言ってよ。心配していたんだから。それに怪我を負って魔界に運ばれた時は意識が無かったから仕方がないとして、意識が戻ってからも家に連絡の一つも入れようとしなかったでしょう。人の事をもう少し考えなよって、僕が言える立場でもないけどさ。言いたい事を言っていられる状況ではない事が辛い。ガーゴイルは待ってはくれないし。さぁ、行って!」
ガーゴイルが複数の炎の塊をユタカに向け放つと、透かさずユタカが大声を張り上げる。
妖精王がヒビキの腹部に腕を回すと、軽々とヒビキの体を左腕に抱えて走り出す。
「記憶が戻っていたのですね」
妖精王の表情は険しい。しかし、妖精王の腕に腹部を預けて、体をくの字に曲げるヒビキからは妖精王の表情を確認する事が出来ず、口調から怒っているのだろうなと予想をしたヒビキが項垂れる。
「黙っていて、ごめんなさい」
目蓋を伏せる。
記憶が戻っていたのに伝えなかった事を責めている訳ではないのだけどなと考えつつ、妖精王は口を開く。
「後は体が元に戻るだけですね」
落ち込むヒビキを落ち着かせるために妖精王は表情を和ませる。
「戻るかな」
閉じていた目蓋を開き、自信が無さそうに本音を漏らしたヒビキに対して妖精王は小さく頷いた。
「戻ってくれないと困りますね。ユタカに攻め立てられそうです」
妖精王は苦笑する。
ユタカの策がどのようなものかは分からないけれど、ユタカが無事に張り巡らせた結界の中から抜け出す事を妖精王は信じていた。
もしも、ヒビキが幼い姿のまま元に戻らなければ、怒ったユタカに何をされるか分からない。
銀騎士を引き連れて妖精界に乗り込まれたら、たまったものではない。
「スピードを上げますよ」
レベル100前後のオーガは人の気配を感じると嬉しそうに刃物を振り上げて向かってくるため、妖精王はヒビキからの返事を聞くことなく空中に飛び上がる。
羽を広げるとオーガの頭上を飛び越えた。
飛行する妖精王を羨ましそうに眺めるオーガに見送られるような形で、一気に神殿の出入口を目指す。
中には何度も飛び跳ねながら後を追いかけてくるオーガもいて、ヒビキはきょとんとする。
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アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
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