66 / 148
ヒビキの奪還編
65話 ガーゴイルVSユタカ
しおりを挟む
浅く早い呼吸を繰り返しながらユタカが神殿内を駆け抜ける。
走るユタカに狙いを定めて何度も何度も泥を投げつけるガーゴイルの魔法属性は土。
足を狙って投げつけられた泥を、高く飛び上がることで避けたユタカが勢いのまま空中で一回転をする。
両腕を掲げて床に着地。
よしっと独り言を呟いたユタカが笑顔を見せる。
「ヒビキ君から手を放してしまっていますね」
ガーゴイルに追われるユタカとヒビキを、呑気に眺めていた人物が呟いた。
白い羽を羽ばたかせるたびに舞う緑色の小さな光の粒は妖精王の体を取り囲んでいる。
走るユタカの頭上を優雅に飛んでいる妖精王は、支えを失って地面に頭から打ち付けられようとしているヒビキの体を防御魔法を発動する事により助け出した。
透明な膜がヒビキの体を囲むようにして包み込む。
「あ、ありがとう」
ヒビキの体から手を離してしまった事に気づき顔面蒼白のまま辺りを見渡していたユタカが安堵する。
「貸し一つですよ」
冗談を交えてクスクスと笑いながら答えた妖精王に対して、ユタカは真面目な顔をして頷いた。
「うん、借りは必ず返すよ」
ユタカは真剣な目差しを向ける。
妖精王が冗談のつもりで言った言葉を真剣に受け止めた。
ヒビキの体を纏っている透明な膜は妖精王の指先の動きによって操作する事が出来るようで、ヒビキに向かって真っすぐ伸ばしていた腕を引く事により透明な膜が宙に浮かぶ。
地面に向けていた人差し指を天井に向けて振り上げれば、瞬く間にヒビキの体を包み込んでいる透明な膜が妖精王の元へ向かって移動する。
妖精王が何の合図も無しに膜を動かしたため、大きく揺れた膜の中でヒビキが尻餅を付き転がった。
「ガーゴイルは900レベル。神殿内に出現するガーゴイルのレベルは300~500に設定したのですが」
ヒビキを纏った透明な膜を指先を動かす事により操作。そのたびに、ごろんごろんとヒビキが転がっている事に気づいているのだろうか。
ガーゴイルに視線を向けたまま独り言を呟いた妖精王がヒビキに視線を移す。ぐるぐると目を回しているヒビキの姿があり、ここでやっとヒビキの姿を呆然と見つめた妖精王が苦笑する。
どうやら、妖精王はヒビキが術の中で転がっていた事に気づいてはいなかったようで、大きなため息を吐き出した。
妖精王の視線がヒビキに向いた事により、ユタカの後を追いかけていたはずのガーゴイルが妖精王に向かって攻撃を仕掛け初める。
突然の攻撃に驚き慌てる妖精王とは違って、防御魔法に体を包み込まれているヒビキは呑気にガーゴイルの観察を行っていた。
妖精王のイメージしたガーゴイルは言葉では表現しづらいほど奇妙な造形をしていた。
例えるなら様々な種族が合体、角や羽や尻尾や尖った耳を持つ怪物。ゴゴゴゴゴゴと地響きを立てながら高速回転。泥を投げつけたガーゴイルの突然の攻撃に驚き妖精王は身構える。
ヒビキを肩に担いで走っていたため、体力を激しく消耗しているユタカは乱れた呼吸を繰り返していた。ガーゴイルのターゲットが妖精王に移ったため、少しだけではあるものの余裕を取り戻したユタカが背後を振り向いた。
ガーゴイルに襲われている妖精王を確認する。
「あなたの相手は、あっちですよ」
泥のかたまりを右へ左へ体を動かすことによって避けた妖精王がユタカを指さした。
ガーゴイルをユタカにけしかける。
「ちょっと! ガーゴイルを、こっちに仕向けないでよ」
ユタカが両手を掲げて妖精王に向かって叫ぶ。
クスクスと肩を震わせて笑っている妖精王は状況を楽しんでいるようで、素早く身を翻すと向かってくる泥を軽やかに避ける。
ヒビキに目掛けて投げつけられた泥は透明な膜に直撃。防御魔法に弾かれる事によってガーゴイル目がけて跳ね返った。
「俺のことは助けてくれるけど、ユタカの事は助けてはくれないのか?」
妖精王はガーゴイルに追われているユタカを助けるどころか、ガーゴイルがユタカの元へ向かうように悪びれた様子も無くけしかけた。
疑問を抱くヒビキが問いかける。
「はい」
妖精王はユタカを助ける気は全く無いようで、笑顔で首を縦に振る。即答だった。
妖精王はユタカが氷属性の魔法を扱う事を知っていた。氷属性の魔法の中でも範囲攻撃魔法である氷柱はとても強力で、ガーゴイルを倒す事は容易いだろう。
レベルを封印されているとは言え、ユタカが扱う事の出来る氷柱魔法は森の一部を破壊してしまう程の威力を持っている事を知っているから妖精王はガーゴイルをユタカにけしかけた。
しかし、ユタカは氷属性の魔法を使う気は全く無い。
剣を手に取り構えをとるユタカは大きく息を吐き出した。ガーゴイルと向きあって鋭い視線を向ける。
「よし」
しっかりと両手で剣を握りしめて構えたユタカに妖精王が視線を向ける。
何故、ユタカは氷属性の氷柱魔法を使わないのか疑問を抱いた妖精王の表情から笑みが消えた。
大きく息を吸い込んだユタカの目の前で、ガーゴイルが口を開くとパシュッパシュッと奇妙な音を立てながら、手のひらサイズの泥の塊を幾つも吐き出した。
「気を付けてください」
単なる泥の塊では無い事を伝えるために、妖精王がユタカに声をかける。
「うん」
小さく頷いたユタカの目の前で、泥は三日月型の刃に変化する。
一つ目の刃は空中に飛び上がる事により避ける。
地面に打ち付けられた刃は、爆発と共に爆風を巻き起こし砕け散った。
二つ目の刃を空中で宙返りを行ったユタカが避けると二つ目は地面に突き刺さる。
「爆発しないのか」
一つ目は爆発をした。しかし二つ目は爆発しない。
「流石、900レベル」
ぽつりと独り言を漏らしたユタカが3つ目の刃に足をかけ飛び上がる。
4つ目は飛び越えて5つ目に足をかけて大きく飛び上がるとガーゴイルの頭の上に着地。
剣をガーゴイルの頭に突き刺そうとした。
しかし、900レベルのガーゴイルは易々とは倒されてはくれない。
青白い防御壁がガーゴイルを包み込むようにして出現すると、ユタカの差し出した剣を弾き飛ばす。
がむしゃらに剣を振り回した所で勝てるような相手ではない事を悟ったユタカが後方宙返りを行うとガーゴイルの上から飛びのいた。
「さぁ、どうします? 魔法を使わなければ勝てそうにありませんね」
呑気に見物を決め込んでいる妖精王の問いかけに対して、素早く身を翻す。ガーゴイルから逃げ始めたユタカが声を張り上げる。
「見てないで助けてよ!」
頬を膨らましてはいるものの、フードを被っているため妖精王がユタカの表情を確認する事は出来ない。
しかし、口調や態度から表情を予想した妖精王が、あはははははと声を上げて笑い出す。
「諦めるのが早くは無いですか?」
クスクスと肩を震わせている妖精王にヒビキは、疑念を抱いていた。
900レベルもあるガーゴイル相手に、ユタカが勝てるはずがない。術を発動したところで、人間の使う術など大したものでは無いだろうと考えていた。
「俺もユタカと共にガーゴイルと戦う」
ユタカに対して冷たい態度をとる妖精王に、ヒビキは透明な膜から解放してもらう事を望んだ。
ヒビキの言葉を耳にしたユタカが、目の前に迫った柱に向かって助走する。このまま逃げていてはヒビキがガーゴイルと戦うために防御魔法を抜け出してきてしまう。ヒビキを巻き込みたくない。その一心でユタカは地面を蹴りつけ、柱を蹴り後方宙返りを行った。
勢いのままガーゴイルの頭上を飛び越える。
ガーゴイルの背後に着地をすると、両手を真っすぐ伸ばして気合いを込める。
「結界!」
ガーゴイルを結界で囲んでしまおうと考えたようで、術を発動しようとした。
しかし、人間界から魔界へ移動するためのゲートを封じるために、既に強力な結界を張り巡らせているユタカは術の発動を失敗してしまう。
「あぁあああ、やっぱり失敗した!」
術の発動が失敗する事は予想していたとはいえ、やはり実際に失敗をするとショックである。ゴゴゴゴゴと音を立てながらガーゴイルがユタカのいる方向へ向き直り地響きを立てながら移動をし始めると、ユタカが走って来た道を逆走し始める。
「見ていて飽きませんね」
ユタカの後を追いかけるために向きを変えた妖精王が、クスクスと肩を震わせながら呟いた。
ガーゴイルに追い回されて逃げ回っているユタカを妖精王は助ける気がないようで、呑気に見物を決め込んでいる。
明らかにユタカは体力を消耗している。
しかし、ユタカが氷属性の術を発動すると森の一部を破壊する程の攻撃を与える事が出来ると、妖精王は知っているため手を出そうとは考えていなかった。
剣ではガーゴイルにダメージを与えることが出来ない。結界を使ってガーゴイルを封じようとしたけれど、術の発動は失敗した。
このまま逃げ続けていても、きっと体力が尽きてガーゴイルに踏み潰されるか攻撃魔法を受けることになるだろう。
ユタカが何やら呪文を唱えると、足元に水色の魔法陣が出現する。
魔法陣からあふれ出す小さな水色の粒子がユタカの体を包みこむと、ヒビキが観察を始める。
「初めて見る魔法陣だ」
宙に浮かぶユタカが両手を伸ばすと大きく深呼吸をする。
「分かったよ。術を使うよ。その前に、術を使ったら神殿を破壊する事になるから、神殿内の妖精達を外へ逃してあげてよ。術を使うのは本当に久しぶりだから加減が出来そうにないしさぁ」
水色の粒子が次から次へと出現することにより、少しずつ神殿内に広がっていく。
空中に浮かんだまま、目蓋を閉じて剣の出現を唱えようとしていたユタカに
「ちょっと待ってください。神殿を破壊されては困ります」
妖精王は焦ったように早い口調で声をかける。その表情は強ばっていた。
走るユタカに狙いを定めて何度も何度も泥を投げつけるガーゴイルの魔法属性は土。
足を狙って投げつけられた泥を、高く飛び上がることで避けたユタカが勢いのまま空中で一回転をする。
両腕を掲げて床に着地。
よしっと独り言を呟いたユタカが笑顔を見せる。
「ヒビキ君から手を放してしまっていますね」
ガーゴイルに追われるユタカとヒビキを、呑気に眺めていた人物が呟いた。
白い羽を羽ばたかせるたびに舞う緑色の小さな光の粒は妖精王の体を取り囲んでいる。
走るユタカの頭上を優雅に飛んでいる妖精王は、支えを失って地面に頭から打ち付けられようとしているヒビキの体を防御魔法を発動する事により助け出した。
透明な膜がヒビキの体を囲むようにして包み込む。
「あ、ありがとう」
ヒビキの体から手を離してしまった事に気づき顔面蒼白のまま辺りを見渡していたユタカが安堵する。
「貸し一つですよ」
冗談を交えてクスクスと笑いながら答えた妖精王に対して、ユタカは真面目な顔をして頷いた。
「うん、借りは必ず返すよ」
ユタカは真剣な目差しを向ける。
妖精王が冗談のつもりで言った言葉を真剣に受け止めた。
ヒビキの体を纏っている透明な膜は妖精王の指先の動きによって操作する事が出来るようで、ヒビキに向かって真っすぐ伸ばしていた腕を引く事により透明な膜が宙に浮かぶ。
地面に向けていた人差し指を天井に向けて振り上げれば、瞬く間にヒビキの体を包み込んでいる透明な膜が妖精王の元へ向かって移動する。
妖精王が何の合図も無しに膜を動かしたため、大きく揺れた膜の中でヒビキが尻餅を付き転がった。
「ガーゴイルは900レベル。神殿内に出現するガーゴイルのレベルは300~500に設定したのですが」
ヒビキを纏った透明な膜を指先を動かす事により操作。そのたびに、ごろんごろんとヒビキが転がっている事に気づいているのだろうか。
ガーゴイルに視線を向けたまま独り言を呟いた妖精王がヒビキに視線を移す。ぐるぐると目を回しているヒビキの姿があり、ここでやっとヒビキの姿を呆然と見つめた妖精王が苦笑する。
どうやら、妖精王はヒビキが術の中で転がっていた事に気づいてはいなかったようで、大きなため息を吐き出した。
妖精王の視線がヒビキに向いた事により、ユタカの後を追いかけていたはずのガーゴイルが妖精王に向かって攻撃を仕掛け初める。
突然の攻撃に驚き慌てる妖精王とは違って、防御魔法に体を包み込まれているヒビキは呑気にガーゴイルの観察を行っていた。
妖精王のイメージしたガーゴイルは言葉では表現しづらいほど奇妙な造形をしていた。
例えるなら様々な種族が合体、角や羽や尻尾や尖った耳を持つ怪物。ゴゴゴゴゴゴと地響きを立てながら高速回転。泥を投げつけたガーゴイルの突然の攻撃に驚き妖精王は身構える。
ヒビキを肩に担いで走っていたため、体力を激しく消耗しているユタカは乱れた呼吸を繰り返していた。ガーゴイルのターゲットが妖精王に移ったため、少しだけではあるものの余裕を取り戻したユタカが背後を振り向いた。
ガーゴイルに襲われている妖精王を確認する。
「あなたの相手は、あっちですよ」
泥のかたまりを右へ左へ体を動かすことによって避けた妖精王がユタカを指さした。
ガーゴイルをユタカにけしかける。
「ちょっと! ガーゴイルを、こっちに仕向けないでよ」
ユタカが両手を掲げて妖精王に向かって叫ぶ。
クスクスと肩を震わせて笑っている妖精王は状況を楽しんでいるようで、素早く身を翻すと向かってくる泥を軽やかに避ける。
ヒビキに目掛けて投げつけられた泥は透明な膜に直撃。防御魔法に弾かれる事によってガーゴイル目がけて跳ね返った。
「俺のことは助けてくれるけど、ユタカの事は助けてはくれないのか?」
妖精王はガーゴイルに追われているユタカを助けるどころか、ガーゴイルがユタカの元へ向かうように悪びれた様子も無くけしかけた。
疑問を抱くヒビキが問いかける。
「はい」
妖精王はユタカを助ける気は全く無いようで、笑顔で首を縦に振る。即答だった。
妖精王はユタカが氷属性の魔法を扱う事を知っていた。氷属性の魔法の中でも範囲攻撃魔法である氷柱はとても強力で、ガーゴイルを倒す事は容易いだろう。
レベルを封印されているとは言え、ユタカが扱う事の出来る氷柱魔法は森の一部を破壊してしまう程の威力を持っている事を知っているから妖精王はガーゴイルをユタカにけしかけた。
しかし、ユタカは氷属性の魔法を使う気は全く無い。
剣を手に取り構えをとるユタカは大きく息を吐き出した。ガーゴイルと向きあって鋭い視線を向ける。
「よし」
しっかりと両手で剣を握りしめて構えたユタカに妖精王が視線を向ける。
何故、ユタカは氷属性の氷柱魔法を使わないのか疑問を抱いた妖精王の表情から笑みが消えた。
大きく息を吸い込んだユタカの目の前で、ガーゴイルが口を開くとパシュッパシュッと奇妙な音を立てながら、手のひらサイズの泥の塊を幾つも吐き出した。
「気を付けてください」
単なる泥の塊では無い事を伝えるために、妖精王がユタカに声をかける。
「うん」
小さく頷いたユタカの目の前で、泥は三日月型の刃に変化する。
一つ目の刃は空中に飛び上がる事により避ける。
地面に打ち付けられた刃は、爆発と共に爆風を巻き起こし砕け散った。
二つ目の刃を空中で宙返りを行ったユタカが避けると二つ目は地面に突き刺さる。
「爆発しないのか」
一つ目は爆発をした。しかし二つ目は爆発しない。
「流石、900レベル」
ぽつりと独り言を漏らしたユタカが3つ目の刃に足をかけ飛び上がる。
4つ目は飛び越えて5つ目に足をかけて大きく飛び上がるとガーゴイルの頭の上に着地。
剣をガーゴイルの頭に突き刺そうとした。
しかし、900レベルのガーゴイルは易々とは倒されてはくれない。
青白い防御壁がガーゴイルを包み込むようにして出現すると、ユタカの差し出した剣を弾き飛ばす。
がむしゃらに剣を振り回した所で勝てるような相手ではない事を悟ったユタカが後方宙返りを行うとガーゴイルの上から飛びのいた。
「さぁ、どうします? 魔法を使わなければ勝てそうにありませんね」
呑気に見物を決め込んでいる妖精王の問いかけに対して、素早く身を翻す。ガーゴイルから逃げ始めたユタカが声を張り上げる。
「見てないで助けてよ!」
頬を膨らましてはいるものの、フードを被っているため妖精王がユタカの表情を確認する事は出来ない。
しかし、口調や態度から表情を予想した妖精王が、あはははははと声を上げて笑い出す。
「諦めるのが早くは無いですか?」
クスクスと肩を震わせている妖精王にヒビキは、疑念を抱いていた。
900レベルもあるガーゴイル相手に、ユタカが勝てるはずがない。術を発動したところで、人間の使う術など大したものでは無いだろうと考えていた。
「俺もユタカと共にガーゴイルと戦う」
ユタカに対して冷たい態度をとる妖精王に、ヒビキは透明な膜から解放してもらう事を望んだ。
ヒビキの言葉を耳にしたユタカが、目の前に迫った柱に向かって助走する。このまま逃げていてはヒビキがガーゴイルと戦うために防御魔法を抜け出してきてしまう。ヒビキを巻き込みたくない。その一心でユタカは地面を蹴りつけ、柱を蹴り後方宙返りを行った。
勢いのままガーゴイルの頭上を飛び越える。
ガーゴイルの背後に着地をすると、両手を真っすぐ伸ばして気合いを込める。
「結界!」
ガーゴイルを結界で囲んでしまおうと考えたようで、術を発動しようとした。
しかし、人間界から魔界へ移動するためのゲートを封じるために、既に強力な結界を張り巡らせているユタカは術の発動を失敗してしまう。
「あぁあああ、やっぱり失敗した!」
術の発動が失敗する事は予想していたとはいえ、やはり実際に失敗をするとショックである。ゴゴゴゴゴと音を立てながらガーゴイルがユタカのいる方向へ向き直り地響きを立てながら移動をし始めると、ユタカが走って来た道を逆走し始める。
「見ていて飽きませんね」
ユタカの後を追いかけるために向きを変えた妖精王が、クスクスと肩を震わせながら呟いた。
ガーゴイルに追い回されて逃げ回っているユタカを妖精王は助ける気がないようで、呑気に見物を決め込んでいる。
明らかにユタカは体力を消耗している。
しかし、ユタカが氷属性の術を発動すると森の一部を破壊する程の攻撃を与える事が出来ると、妖精王は知っているため手を出そうとは考えていなかった。
剣ではガーゴイルにダメージを与えることが出来ない。結界を使ってガーゴイルを封じようとしたけれど、術の発動は失敗した。
このまま逃げ続けていても、きっと体力が尽きてガーゴイルに踏み潰されるか攻撃魔法を受けることになるだろう。
ユタカが何やら呪文を唱えると、足元に水色の魔法陣が出現する。
魔法陣からあふれ出す小さな水色の粒子がユタカの体を包みこむと、ヒビキが観察を始める。
「初めて見る魔法陣だ」
宙に浮かぶユタカが両手を伸ばすと大きく深呼吸をする。
「分かったよ。術を使うよ。その前に、術を使ったら神殿を破壊する事になるから、神殿内の妖精達を外へ逃してあげてよ。術を使うのは本当に久しぶりだから加減が出来そうにないしさぁ」
水色の粒子が次から次へと出現することにより、少しずつ神殿内に広がっていく。
空中に浮かんだまま、目蓋を閉じて剣の出現を唱えようとしていたユタカに
「ちょっと待ってください。神殿を破壊されては困ります」
妖精王は焦ったように早い口調で声をかける。その表情は強ばっていた。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜
西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。
4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。
そんな彼はある日、追放される。
「よっし。やっと追放だ。」
自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。
- この話はフィクションです。
- カクヨム様でも連載しています。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる