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ヒビキの奪還編
59話 神殿
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緑色の瞳が揺らぐことなく、茫然自失の状態に陥っているヒビキの姿をとらえていた。
その表情は険しく、様子のおかしいヒビキを心配する。
先程から反応の鈍いヒビキに視線を向けているのは、魔界にあるドワーフの塔、その二階層でヒビキと出会い共にパーティを組み狩りを行った経験を持つ妖精王だった。
数百年前に冒険者達が楽しめる空間を作ろうと思い立ったため、妖精王は魔界にドワーフの塔を出現させた。
2階層では時折ドワーフによって召喚されたトロールが出現し、突如緊急クエストが発生する。
緊急クエストの発生中に妖精王は面白い人間の子供がいる事を見つけ、武器を形成する能力を持つヒビキに近づいた。
ヒビキは口数の多い子供ではなかったけれど、全く口を開かない無口な子ってわけでもなかった。
話しかけると返事をくれるし、自ら声をかけてきてくれる事もあった。
それが今はどうだろう。
顔を俯かせたまま周囲を見渡そうとはしない。
それに、燕尾服の男性が話しかけているのにも拘わらず顔を上げる事もせず、俯いたまま人形のように木にもたれかかっている。
明らかに様子の可笑しいヒビキに対して疑問を持つ。
魔界から妖精の森に来る間に一体、何があったのか。
ヒビキが不安に押しつぶされそうになったのはユキヒラが妖精王に国王の暗殺を考えている事を告げて、妖精王がユキヒラの誘いを受けたためである。
ヒビキの父親が国王である事を知るよしもない妖精王は、ヒビキの落ち込んでいる理由を予想する事が出来ずにいる。
狐耳つきのフードはヒビキの顔を深く覆い隠しているため、その表情を読み取ることは出来ない。
けれども、力なく木の根元に腰を下ろして腕を、だらんと下げる姿から安易に予想することが出来る。
きっと、青白い顔をしているだろう。
再会してから、ヒビキは一度も口を開いていない。
だらんと両腕を下げて両足を伸ばし、藍色に輝く木の根元に腰を預けている。
ピクリとも身動きを取ろうとしないヒビキは、仲間と思われる燕尾服を身に纏った男性が声をかけているにも拘わらず反応は薄く、俯かせている顔を上げようともしない。
喜怒哀楽が激しい子供ではなかったけれど、感情が全くないってわけではなかった。
魔界から妖精の森に来る間に、一体何が少年の気力を削ぎ取ったのか。
白や紫色の花が咲き誇るエリアは目と鼻の先にある。
二人とも木陰に隠れてるつもりでいるのだろうけど、角度的に妖精王から二人の姿は丸見えだ。
一点を見つめたまま険しい表情を浮かべている妖精王に気づき、その視線の先を目で追ったユタカが力なく座り込んでいるヒビキの姿をとらえる。
「大丈夫ですかね彼、元気がないように思えますが」
「様子がおかしいね、具合でも悪いのかな」
リンスールの言葉に同意するユタカは、ヒビキが落ち込んでいる理由を分かっていない。
ヒビキは国王の命が狙われている事を知り、大きな不安にかられている。
しかし、ヒビキに苦手意識を持たれている事を理解しているユタカは、急な環境の変化についていけずにヒビキは体調を崩してしまったのだと思い込む。
「魔界から妖精の森まで遠く離れているから、環境の変化に疲れちゃった?」
ヒビキの元に歩み寄り地面に腰を下ろしたユタカの姿を背後で眺めていたリンスールが、信じられないものを見るような視線を向けた。
地面には小石や砂が敷き詰められているため、決して座り心地のよい場所ではない。
ユタカが人間界を統べる王様であることをリンスールは分かっているからこそ、内心ではドキドキと胸を高鳴らせている。
自分の事などお構いなし。
国王にとってヒビキは、どのような存在なのか。
国王は狐耳付きのフードを深く被っているヒビキの種族が人である事を知っているのだろうかと考える妖精王は、ヒビキの属性が火属性であるため、火属性のヒビキと氷属性の国王を親子だとは結び付けられずにいた。
ユタカの問いかけに対してもヒビキは返事をしようとはしなかった。
両ひざを立てて立てた両ひざに両腕を乗せて、その上に顔を伏せている。
「ねぇ、妖精の森の中に何処か狩りの出来る場所はないかな? 気晴らしに一度ヒビキを狩りに誘ってみようと思うのだけど」
ヒビキは自ら進んで銀騎士の特攻隊に頼んで剣を教わる程、体を動かす事が好きな子供だった。
狩をすると気晴らしになるかもしれないと考えた国王が問いかける。
ユタカの問いかけに対して一か所を指さした妖精王の指の先には大きな泉があり、キラキラと光輝く緑色の草が生い茂っている。
鮮やかな花が咲き誇り、甘いにおいに誘われた蝶が周辺を飛び回っていた。
「あの泉って、ここから西へ突き進んだ所にもあったよね?」
「えぇ。妖精界には大きな泉が4か所あるのですが、その中に飛び込むと水の中にある神殿にワープをする事が出来ますよ」
魔界にあるドワーフの塔のように、妖精の森にも狩りを行う事の出来る神殿が存在する。
4か所に設置された神殿は長寿の妖精達のレベルに合わせて作られた。
神殿によっては人間では足を踏み入れる事の出来ない、レベルの高いモンスターが出現する所もある。
「冒険者達が楽しみながら狩りをすることが出来るように、人間界にはゴブリンの生息する洞窟、魔界にはドワーフの塔や悪魔の住む泉を造りました。神殿は妖精達のレベルに合わせて作っているので高レベルのモンスターも現れるでしょう。人は短命ですから、レベル100になる頃には天寿を全うしているでしょう。たまに例外も現れますが何にせよ高レベルのモンスターも現れるので、くれぐれも無茶をしないでくださいね」
ユタカに視線を向けた妖精王に
「そうだね」
苦笑するユタカは妖精王の示す人物が自分の事である事を理解した。
たまに例外も現れますがと言葉を強調した妖精王の視線を受けてユタカの視線が自然と下を向く。
「すぐ、そこの泉の中にある神殿にはレベル1から挑戦をする事が出来ます。挑戦しますか?」
妖精王の問いかけに答えるため、ユタカは俯かせていた顔をあげた。
「うん、教えてくれてありがとう。挑戦をしてみるよ」
神殿に挑戦する事を決める。
妖精王と話し込んでいる間に、気付けばサヤとユキヒラが隣に佇んでいた。
「ねぇ、妖精王の側に小さな子供がいたよね? その子供は何処へ行ったのぉ?」
ユキヒラはアイリスがこの場にいない事に対して疑問を抱いたようで、妖精王に問いかけるために歩み寄ってきたようだ。
ユキヒラの問いかけに対して
「彼女には魔界へ攻め入るのに協力をしてくれる仲間を集めるように指示を出しました」
妖精王が表情を変える事なく答えるとユキヒラは納得したようで満足そう。
「そう、だったら仲間集めは君に任せるよぉ」
ニヤニヤと奇妙な笑みを浮かべ始めた。
どうやら、ユキヒラは思うように周りが動いていたため安心したらしい。
戦力を集める役割を妖精王に任せて身を翻す。
「妖精王が仲間になった事だし、僕は一度宿に戻るよ。ある人に妖精王が仲間になった事を伝えないといけないからねぇ」
隣に佇んでいるサヤに後を追ってくるようにと、指示を出したユキヒラに、ユタカは恐る恐る問いかける。
「僕はヒビキと共に神殿に挑戦をしてみてもいいかな? 魔界へ行く前に少しでもレベル上げをしたいんだ」
ユキヒラはヒビキの事を気に入っているようで、問いかけを拒絶するかもしれないと、ユタカは考えていた。
ユキヒラはヒビキが、そばから離れる事を嫌がるかなと思っていれば今のユキヒラは非常に機嫌がいい。
「いいよぉ。強くなって僕の役に立ってくれるのならねぇ」
ユキヒラはユタカの申し出を受け入れる。
「ただし、逃げても召喚魔法で呼び戻しちゃうからぁ。分かったぁ?」
妖精王やナナヤが見守る中でユキヒラがユタカに念を押すようにして、言葉を続けるとユタカは何度も首を上下に動かした。
「分かったよ。逃げる気は元々なかったからね」
強引にヒビキの腕を掴み、その体を引き上げたユタカが俯いたままの我が子に声をかける。
「僕と一緒に神殿に挑戦をしてみない?」
ユタカの問いかけに対して、ヒビキは神殿に興味を示したようで小さく頷いた。
小さな変化だったとは言えヒビキが返事をしたため、ユタカは素直に喜んでいる。
フードを深く被っているため、ヒビキからはユタカ表情を確認することは出来ない。ユタカは満面の笑みを浮かべていた。
「ついて行ってもいいかね?」
今にも泉に向かって足を進めようとしているユタカに、ナナヤが慌てて問いかけた。
真剣な眼差しを向けるナナヤは、神殿にユタカとヒビキだけを向かわせるのは危険だと判断をした。
ナナヤにとってはヒビキは武器を持たない子供。
ユタカは剣を持ち、戦う事は出来るけどヒビキをかばいながら戦うのは大変だろうと考えたため声をかけた。
「ついてきてくれるの?」
ナナヤの申し出をユタカは受ける。
「もちろん」
ユタカからお供する許可をもらったにもかかわらず、ナナヤは浮かない顔をする。
言葉と表情が見事に正反対だ。
ナナヤは神殿には強力なガーゴイルが出没する事を知っていた。
以前、好奇心から神殿に足を踏み入れたものの、いきなり出姿を現したガーゴイルに襲われて大怪我をした経験を持つ。
そのため、神殿に足を踏み入れる事を恐れていた。
それでも、ヒビキとユタカが過去の自分と同じように突如、現れるガーゴイルに襲われる事を恐れたナナヤは二人の後に続いて足を進めだす。
しっかりとベリーダンス衣装を両手で抱え込んでいるヒビキは、ユタカに衣装を返す事を忘れていた。
そして、ヒビキの両手に抱え込まれているベリーダンス衣装にユタカも気づく事なく足を進めている。
色鮮やかな花が咲き誇る泉の水は青く光輝いていた。上から覗きこんでは見たものの、神殿を確認することは出来ない。
底の見えない泉に恐怖心を覚えつつ、横一列に並ぶとお互いに無言のまま顔を見合わせる。
「行くよ」
掛け声と共に、泉の中に飛び込んだユタカを追うようにして、ナナヤとヒビキが飛び込んだ。
三人が一斉に泉の中に飛び込んだため、大きな水しぶきが上がる。
ギュッと目蓋を閉じていたユタカとヒビキ、対してナナヤは目を開けたまま。
一度神殿に挑戦していたナナヤは水中に飛び込む際、目を開けていてもダメージがない事を知っていた。
水に飛び込むとすぐに三人の体は透明な膜に包み込まれる事によって、ずぶ濡れになる事なく水の底へと沈んでいく。
目蓋を閉じて水に包み込まれる事を覚悟していたヒビキは、待てども待てども予想した感覚が無かったため疑問を抱いて閉じていた目蓋を開く。
深く沈むにつれて少しずつ水の色は濃い青に変化をしていく。周囲を泳ぎまわる小魚は幻想的な光景をつくりだしてた。
視界に入り込んだ巨大な神殿は、灰色を基調としたブロックを積み重ねる事により作られていた。
お城のような構造になっている神殿の出入り口には透明な結界が何重にも施されている。
結界を抜けると、そこは藍色に光輝く空間が広がっていた。
周囲には小さなオーガが動き回っている。
しかし、オーガのレベルは1や2ばかり。
低レベルのモンスターは自ら攻撃を仕掛けてくる事はないようで、ヒビキとユタカはオーガ達の横を通り抜けようとした。
「業火!」
意気揚々とレベル1や2のオーガに攻撃を与えだしたナナヤが杖を掲げる。
周囲をうろついていた全てのオーガが砂となって消えたにも拘わらず、オーガのレベルが低すぎるため、ナナヤの体が光だすことはない。
ヒビキとユタカが近くのオーガに手を出す事なく進む中、ナナヤは片っ端から攻撃を与えていく。
オーガのレベルが10~50へ、50~100へ少しずつ上がるにつれて、ナナヤの態度は急激に変化する。
周囲のオーガがレベル100を超える頃にはナナヤはヒビキとユタカの背後に隠れる様にして、姿勢を低く身をかがめながら歩いていた。
迫り来るオーガを倒すためにヒビキは、右手を前に突き出して脳内で武器の出現を唱えた。
しかし、ユキヒラの目的が国王暗殺である事を知ってしまったため、動揺しているのだろう。
武器の形成は見事に失敗に終わる。
ヒビキの頬を冷や汗が伝う。
武器の形成を失敗している間に、オーガが目の前に迫っていた。
武器を持たないヒビキに向かって刃物を振り下ろす。
遠くでユタカがヒビキの名前を呼んだ。
ナナヤは咄嗟に業火を唱えるけど、100レベルを越えるオーガには効果は無くオーガの魔法によって打ち消されてしまう。
目の前に迫ったオーガがヒビキに対して、にんまりと笑みを浮かべている。
既にオーガの頭の中では攻撃を受けて地面に倒れ込むヒビキの姿が思い浮かんでいた。
自然と刃物を持つ腕にも力が入る。
勢いに任せて振り下ろされた刃物が、音を立てて地面に激突した。
鈍い音が響き渡る。
武器を持たないヒビキが真っ二つに切り裂かれる姿を想像したナナヤは、恐怖心から目蓋を閉じていた。
勢いよく振り下ろされた刃物はヒビキの体を傷つけることなく、ヒビキの隣を通過して地面に打ち付けられた。
妄想が先走って自然と腕に力がこもってしまったため、オーガは攻撃を外してしまう。
あんぐりと口を開くオーガは、瞬きをする事も忘れてヒビキの顔を見つめている。
人間界のモンスターとは違って感情が見事に表情に表れているオーガを見て、ブフッとユタカが吹き出した。
その表情は険しく、様子のおかしいヒビキを心配する。
先程から反応の鈍いヒビキに視線を向けているのは、魔界にあるドワーフの塔、その二階層でヒビキと出会い共にパーティを組み狩りを行った経験を持つ妖精王だった。
数百年前に冒険者達が楽しめる空間を作ろうと思い立ったため、妖精王は魔界にドワーフの塔を出現させた。
2階層では時折ドワーフによって召喚されたトロールが出現し、突如緊急クエストが発生する。
緊急クエストの発生中に妖精王は面白い人間の子供がいる事を見つけ、武器を形成する能力を持つヒビキに近づいた。
ヒビキは口数の多い子供ではなかったけれど、全く口を開かない無口な子ってわけでもなかった。
話しかけると返事をくれるし、自ら声をかけてきてくれる事もあった。
それが今はどうだろう。
顔を俯かせたまま周囲を見渡そうとはしない。
それに、燕尾服の男性が話しかけているのにも拘わらず顔を上げる事もせず、俯いたまま人形のように木にもたれかかっている。
明らかに様子の可笑しいヒビキに対して疑問を持つ。
魔界から妖精の森に来る間に一体、何があったのか。
ヒビキが不安に押しつぶされそうになったのはユキヒラが妖精王に国王の暗殺を考えている事を告げて、妖精王がユキヒラの誘いを受けたためである。
ヒビキの父親が国王である事を知るよしもない妖精王は、ヒビキの落ち込んでいる理由を予想する事が出来ずにいる。
狐耳つきのフードはヒビキの顔を深く覆い隠しているため、その表情を読み取ることは出来ない。
けれども、力なく木の根元に腰を下ろして腕を、だらんと下げる姿から安易に予想することが出来る。
きっと、青白い顔をしているだろう。
再会してから、ヒビキは一度も口を開いていない。
だらんと両腕を下げて両足を伸ばし、藍色に輝く木の根元に腰を預けている。
ピクリとも身動きを取ろうとしないヒビキは、仲間と思われる燕尾服を身に纏った男性が声をかけているにも拘わらず反応は薄く、俯かせている顔を上げようともしない。
喜怒哀楽が激しい子供ではなかったけれど、感情が全くないってわけではなかった。
魔界から妖精の森に来る間に、一体何が少年の気力を削ぎ取ったのか。
白や紫色の花が咲き誇るエリアは目と鼻の先にある。
二人とも木陰に隠れてるつもりでいるのだろうけど、角度的に妖精王から二人の姿は丸見えだ。
一点を見つめたまま険しい表情を浮かべている妖精王に気づき、その視線の先を目で追ったユタカが力なく座り込んでいるヒビキの姿をとらえる。
「大丈夫ですかね彼、元気がないように思えますが」
「様子がおかしいね、具合でも悪いのかな」
リンスールの言葉に同意するユタカは、ヒビキが落ち込んでいる理由を分かっていない。
ヒビキは国王の命が狙われている事を知り、大きな不安にかられている。
しかし、ヒビキに苦手意識を持たれている事を理解しているユタカは、急な環境の変化についていけずにヒビキは体調を崩してしまったのだと思い込む。
「魔界から妖精の森まで遠く離れているから、環境の変化に疲れちゃった?」
ヒビキの元に歩み寄り地面に腰を下ろしたユタカの姿を背後で眺めていたリンスールが、信じられないものを見るような視線を向けた。
地面には小石や砂が敷き詰められているため、決して座り心地のよい場所ではない。
ユタカが人間界を統べる王様であることをリンスールは分かっているからこそ、内心ではドキドキと胸を高鳴らせている。
自分の事などお構いなし。
国王にとってヒビキは、どのような存在なのか。
国王は狐耳付きのフードを深く被っているヒビキの種族が人である事を知っているのだろうかと考える妖精王は、ヒビキの属性が火属性であるため、火属性のヒビキと氷属性の国王を親子だとは結び付けられずにいた。
ユタカの問いかけに対してもヒビキは返事をしようとはしなかった。
両ひざを立てて立てた両ひざに両腕を乗せて、その上に顔を伏せている。
「ねぇ、妖精の森の中に何処か狩りの出来る場所はないかな? 気晴らしに一度ヒビキを狩りに誘ってみようと思うのだけど」
ヒビキは自ら進んで銀騎士の特攻隊に頼んで剣を教わる程、体を動かす事が好きな子供だった。
狩をすると気晴らしになるかもしれないと考えた国王が問いかける。
ユタカの問いかけに対して一か所を指さした妖精王の指の先には大きな泉があり、キラキラと光輝く緑色の草が生い茂っている。
鮮やかな花が咲き誇り、甘いにおいに誘われた蝶が周辺を飛び回っていた。
「あの泉って、ここから西へ突き進んだ所にもあったよね?」
「えぇ。妖精界には大きな泉が4か所あるのですが、その中に飛び込むと水の中にある神殿にワープをする事が出来ますよ」
魔界にあるドワーフの塔のように、妖精の森にも狩りを行う事の出来る神殿が存在する。
4か所に設置された神殿は長寿の妖精達のレベルに合わせて作られた。
神殿によっては人間では足を踏み入れる事の出来ない、レベルの高いモンスターが出現する所もある。
「冒険者達が楽しみながら狩りをすることが出来るように、人間界にはゴブリンの生息する洞窟、魔界にはドワーフの塔や悪魔の住む泉を造りました。神殿は妖精達のレベルに合わせて作っているので高レベルのモンスターも現れるでしょう。人は短命ですから、レベル100になる頃には天寿を全うしているでしょう。たまに例外も現れますが何にせよ高レベルのモンスターも現れるので、くれぐれも無茶をしないでくださいね」
ユタカに視線を向けた妖精王に
「そうだね」
苦笑するユタカは妖精王の示す人物が自分の事である事を理解した。
たまに例外も現れますがと言葉を強調した妖精王の視線を受けてユタカの視線が自然と下を向く。
「すぐ、そこの泉の中にある神殿にはレベル1から挑戦をする事が出来ます。挑戦しますか?」
妖精王の問いかけに答えるため、ユタカは俯かせていた顔をあげた。
「うん、教えてくれてありがとう。挑戦をしてみるよ」
神殿に挑戦する事を決める。
妖精王と話し込んでいる間に、気付けばサヤとユキヒラが隣に佇んでいた。
「ねぇ、妖精王の側に小さな子供がいたよね? その子供は何処へ行ったのぉ?」
ユキヒラはアイリスがこの場にいない事に対して疑問を抱いたようで、妖精王に問いかけるために歩み寄ってきたようだ。
ユキヒラの問いかけに対して
「彼女には魔界へ攻め入るのに協力をしてくれる仲間を集めるように指示を出しました」
妖精王が表情を変える事なく答えるとユキヒラは納得したようで満足そう。
「そう、だったら仲間集めは君に任せるよぉ」
ニヤニヤと奇妙な笑みを浮かべ始めた。
どうやら、ユキヒラは思うように周りが動いていたため安心したらしい。
戦力を集める役割を妖精王に任せて身を翻す。
「妖精王が仲間になった事だし、僕は一度宿に戻るよ。ある人に妖精王が仲間になった事を伝えないといけないからねぇ」
隣に佇んでいるサヤに後を追ってくるようにと、指示を出したユキヒラに、ユタカは恐る恐る問いかける。
「僕はヒビキと共に神殿に挑戦をしてみてもいいかな? 魔界へ行く前に少しでもレベル上げをしたいんだ」
ユキヒラはヒビキの事を気に入っているようで、問いかけを拒絶するかもしれないと、ユタカは考えていた。
ユキヒラはヒビキが、そばから離れる事を嫌がるかなと思っていれば今のユキヒラは非常に機嫌がいい。
「いいよぉ。強くなって僕の役に立ってくれるのならねぇ」
ユキヒラはユタカの申し出を受け入れる。
「ただし、逃げても召喚魔法で呼び戻しちゃうからぁ。分かったぁ?」
妖精王やナナヤが見守る中でユキヒラがユタカに念を押すようにして、言葉を続けるとユタカは何度も首を上下に動かした。
「分かったよ。逃げる気は元々なかったからね」
強引にヒビキの腕を掴み、その体を引き上げたユタカが俯いたままの我が子に声をかける。
「僕と一緒に神殿に挑戦をしてみない?」
ユタカの問いかけに対して、ヒビキは神殿に興味を示したようで小さく頷いた。
小さな変化だったとは言えヒビキが返事をしたため、ユタカは素直に喜んでいる。
フードを深く被っているため、ヒビキからはユタカ表情を確認することは出来ない。ユタカは満面の笑みを浮かべていた。
「ついて行ってもいいかね?」
今にも泉に向かって足を進めようとしているユタカに、ナナヤが慌てて問いかけた。
真剣な眼差しを向けるナナヤは、神殿にユタカとヒビキだけを向かわせるのは危険だと判断をした。
ナナヤにとってはヒビキは武器を持たない子供。
ユタカは剣を持ち、戦う事は出来るけどヒビキをかばいながら戦うのは大変だろうと考えたため声をかけた。
「ついてきてくれるの?」
ナナヤの申し出をユタカは受ける。
「もちろん」
ユタカからお供する許可をもらったにもかかわらず、ナナヤは浮かない顔をする。
言葉と表情が見事に正反対だ。
ナナヤは神殿には強力なガーゴイルが出没する事を知っていた。
以前、好奇心から神殿に足を踏み入れたものの、いきなり出姿を現したガーゴイルに襲われて大怪我をした経験を持つ。
そのため、神殿に足を踏み入れる事を恐れていた。
それでも、ヒビキとユタカが過去の自分と同じように突如、現れるガーゴイルに襲われる事を恐れたナナヤは二人の後に続いて足を進めだす。
しっかりとベリーダンス衣装を両手で抱え込んでいるヒビキは、ユタカに衣装を返す事を忘れていた。
そして、ヒビキの両手に抱え込まれているベリーダンス衣装にユタカも気づく事なく足を進めている。
色鮮やかな花が咲き誇る泉の水は青く光輝いていた。上から覗きこんでは見たものの、神殿を確認することは出来ない。
底の見えない泉に恐怖心を覚えつつ、横一列に並ぶとお互いに無言のまま顔を見合わせる。
「行くよ」
掛け声と共に、泉の中に飛び込んだユタカを追うようにして、ナナヤとヒビキが飛び込んだ。
三人が一斉に泉の中に飛び込んだため、大きな水しぶきが上がる。
ギュッと目蓋を閉じていたユタカとヒビキ、対してナナヤは目を開けたまま。
一度神殿に挑戦していたナナヤは水中に飛び込む際、目を開けていてもダメージがない事を知っていた。
水に飛び込むとすぐに三人の体は透明な膜に包み込まれる事によって、ずぶ濡れになる事なく水の底へと沈んでいく。
目蓋を閉じて水に包み込まれる事を覚悟していたヒビキは、待てども待てども予想した感覚が無かったため疑問を抱いて閉じていた目蓋を開く。
深く沈むにつれて少しずつ水の色は濃い青に変化をしていく。周囲を泳ぎまわる小魚は幻想的な光景をつくりだしてた。
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お城のような構造になっている神殿の出入り口には透明な結界が何重にも施されている。
結界を抜けると、そこは藍色に光輝く空間が広がっていた。
周囲には小さなオーガが動き回っている。
しかし、オーガのレベルは1や2ばかり。
低レベルのモンスターは自ら攻撃を仕掛けてくる事はないようで、ヒビキとユタカはオーガ達の横を通り抜けようとした。
「業火!」
意気揚々とレベル1や2のオーガに攻撃を与えだしたナナヤが杖を掲げる。
周囲をうろついていた全てのオーガが砂となって消えたにも拘わらず、オーガのレベルが低すぎるため、ナナヤの体が光だすことはない。
ヒビキとユタカが近くのオーガに手を出す事なく進む中、ナナヤは片っ端から攻撃を与えていく。
オーガのレベルが10~50へ、50~100へ少しずつ上がるにつれて、ナナヤの態度は急激に変化する。
周囲のオーガがレベル100を超える頃にはナナヤはヒビキとユタカの背後に隠れる様にして、姿勢を低く身をかがめながら歩いていた。
迫り来るオーガを倒すためにヒビキは、右手を前に突き出して脳内で武器の出現を唱えた。
しかし、ユキヒラの目的が国王暗殺である事を知ってしまったため、動揺しているのだろう。
武器の形成は見事に失敗に終わる。
ヒビキの頬を冷や汗が伝う。
武器の形成を失敗している間に、オーガが目の前に迫っていた。
武器を持たないヒビキに向かって刃物を振り下ろす。
遠くでユタカがヒビキの名前を呼んだ。
ナナヤは咄嗟に業火を唱えるけど、100レベルを越えるオーガには効果は無くオーガの魔法によって打ち消されてしまう。
目の前に迫ったオーガがヒビキに対して、にんまりと笑みを浮かべている。
既にオーガの頭の中では攻撃を受けて地面に倒れ込むヒビキの姿が思い浮かんでいた。
自然と刃物を持つ腕にも力が入る。
勢いに任せて振り下ろされた刃物が、音を立てて地面に激突した。
鈍い音が響き渡る。
武器を持たないヒビキが真っ二つに切り裂かれる姿を想像したナナヤは、恐怖心から目蓋を閉じていた。
勢いよく振り下ろされた刃物はヒビキの体を傷つけることなく、ヒビキの隣を通過して地面に打ち付けられた。
妄想が先走って自然と腕に力がこもってしまったため、オーガは攻撃を外してしまう。
あんぐりと口を開くオーガは、瞬きをする事も忘れてヒビキの顔を見つめている。
人間界のモンスターとは違って感情が見事に表情に表れているオーガを見て、ブフッとユタカが吹き出した。
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2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
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俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
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この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
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しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
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旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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