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ヒビキの奪還編
51話 国王の復活
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風魔法に包まれて、ふわふわと体を宙に浮かしていた国王の体が月の光によって照らし出される。
意識を取り戻した国王はピクリと人差し指を動かした。
うっすらと目蓋を開けた国王が背中に痛みを感じて、ゆっくりと上半身を起こす。
氷柱魔法は国王の予想を遥かに越えた威力を発揮した。
大地を砕き木々を飛ばした氷柱魔法に巻き込まれる形となった国王の体は、沢山の木々の下敷きになった。
木々に体を潰されて呼吸困難に陥りそうになっていた所を突如、現れたエルフの青年が呪文を唱えて体を風魔法で包みこむ事により助け出してくれた。
意識を失う前に見た緑色の髪の毛の青年は、腰まである長い髪の毛を三つ網でゆるく結んでいた。
その姿は魔王城で見た妖精王と瓜二つ。
視線が交わると、にこりと笑みを浮かべて頭を下げた青年は何を話すわけでもなく、すぐに身を翻して何処かへ行ってしまう。
「妖精王の影武者だったのかな。それとも、魔王城で封印を受けてる方が影武者なのかな」
呆然と夜空を見上げながら独り言を呟いた国王が大きなため息を吐き出した。
「どうして助けてくれたのだろう」
妖精王であるリンスールはドワーフの塔で一度ヒビキに命を助けられていた。
その事を知らない国王は何故、妖精王と瓜二つの青年が自分を助けるのか分からずに戸惑っている。
ゆっくりと視線を上にあげたところで気がついた。
「ちょっ!」
大きな剣を掲げるユキヒラの姿をとらえた国王が、ひきつった声をあげた。
「真っ二つになる!」
見るからに切れ味の良さそうな巨大な剣を振り下ろそうとするユキヒラに国王が、ピーンと伸ばした両手を左右に動かすことにより意思を伝えようとする。
どうか考え直してほしい。
掲げた剣を振り下ろさずに、ゆっくりと下ろして欲しい。
もしも風魔法に防御力の効果がなければ剣は球体を破壊するだけではなくて、国王の体も真っ二つにするだろう。
「せめて剣の軌道をずらしてよ!」
血しぶきで剣を汚したくないでしょうと心の中でユキヒラに問いかけてみるけど、国王の考えをユキヒラが読めるはずもなく何の躊躇いもなく一気に剣を振り下ろす。
シュッと風を切り裂く音が耳元を通りすぎる。
目蓋を閉じて恐怖から逃れようとした国王が顔を俯かせて体を縮めると、腕をギュッと捕まれる感覚。
共にぐいっと力任せに腕を引かれたと思った瞬間、体が宙に浮かぶような何とも気持ちの悪い感覚に晒される。
慌てて周囲を見渡すと
「うそぉおおおおお!」
天と地が見事に逆さまになっていた。
地面に向かって真っ逆さまに落ちる国王が大声を上げる。
大きく目を見開く国王が足元に視線を向けると、そこには二つに切り裂かれた球体があり風魔法によって作られた球体が、爆風を起こしたことにより風に押されて体は急降下する。
「この後どうするつもりなの? まさか、このまま地面に叩きつけられる何て事は無いよね?」
顔面蒼白になっている国王がユキヒラに問いかける。
国王と共に急降下するユキヒラの機嫌は頗る悪かった。
ユキヒラは無言のまま返事をする気は無い。
「ねぇ、このままだと僕は頭から地面に落下する事になるんだけど!」
飛行術を使えるにも拘わらず使おうとはしない国王は、魔界にてヒビキを強引に連れ去ったユキヒラに対して警戒心を抱いていた。
ヒビキの敵であるユキヒラに手の内を見せたくはない。
出来れば飛行術を使わずに、この状況から逃れたいと考えていた国王は何度もユキヒラに問いかける。
「ねぇ! 策はあるんだよね?」
問いかけるけど、やはり返事はない。
問いかけてはみるもののユキヒラは行動を起こす気配が無いのか大きな溜め息を付く。
「うるさいなぁ」
ユキヒラが正直に呟いた。
ユキヒラは耳元で騒がれたため気分を害していた。
眉間にシワを寄せている。
国王の首に左腕を巻き付けて、自分は足を地面に向けた状態で落下するユキヒラが、どのように着地をするつもりなのか予想もつかない。
風魔法により随分と高い位置まで体を持ちあげられていたため、高い位置からの落下。
垂直に落ちていく体は徐々にスピードを上げつつ、地面が急接近し始める。
煩いと一喝されてしまったため、ユキヒラの機嫌の悪さを察した国王が口を閉じる。
すると突然、何を思ったのかユキヒラが国王の背中に手を添えると、もう片方の腕を国王の膝下に滑り込ませる。
背中に添えた手を中心にして国王の体を、ぐるんと半回転させる。
瞬く間に天と地がひっくり返って、地面に足を向ける形となった国王は勢いのまま目の前に迫った地面に両手、両足をつき着地をする。
腕を曲げて膝を折り曲げた国王が胸をドキドキと高鳴らせながら不格好な姿勢で着地をするとストンと音を立てて、すぐ隣に着地をしたユキヒラに視線を向ける。
ユキヒラは地面に膝をついている国王を見下ろしていた。
「何これぇ」
そして、国王の目の前に右手を差し出して不機嫌さを隠す事無く呟いたユキヒラが、地面に両膝をつく青年を睨みつける。
ピーンと伸ばされた右腕は先程まで国王の背中に添えられていたはずだけど腕には、べっとりと真っ赤な血が付着している。
血はユキヒラの纏っている服を汚していた。
傷に直接、触れられて背中に激痛が走り冷や汗を流していた国王が困ったように眉尻を下げる。
しかし、その表情は長い前髪が覆い隠しているためユキヒラには見えてはいない。
「怪我をしてるの? 足手纏いになるのなら、このまま置き去りにするけどぉ」
しゃがみこんだまま立ち上がろうとはしないし返事をしようともしない国王に、しびれを切らしたユキヒラが再び口を開く。
明らかに血を流しすぎて貧血状態に陥っている国王が、息子を連れ去った人物を目の前にして考える。
置き去りにされてしまったら、ヒビキを守るどころか巨体を持つオーガのような生き物に襲われる可能性がある。
「待って回復魔法を使うから」
置き去りにすると言ったユキヒラの言葉を聞き、慌てて口を開いた国王が僅かに口を開いて本当に小さな声で呪文を唱えると、体全体を包みこむ黄金色に輝く回復魔法が発動する。
黄金色に輝く回復魔法は人間だけが使う事の出来る高度な回復魔法である。
その高度な回復魔法を扱える事の出来る人物は人間界の中でも限られた人数しかいないため、ユキヒラは初めて見る高度な回復魔法に関心を示す。
「へぇ、随分と強力な回復魔法が使えるのかぁ」
蹲る国王の背中を眺めていたユキヒラが本音を漏らしている間に、背中の傷は綺麗に消えて元通り。
「うん。回復魔法だけは自身があるよ」
攻撃魔法や移動手段を敵であるユキヒラに見せる事は出来ない。
しかし、何も術が使えなければ足手まといになると判断したユキヒラに、見知らぬ土地に置き去りにされてしまう可能性がある。
背中の傷も治す必要があったため高度な回復魔法を見せた国王は傷を完治させて、その場に立ち上がる。
「攻撃魔法は使えないのぉ?」
高度な回復魔法だけでは満足出来なかったのか、ユキヒラが国王に問いかけた。
しかし、種族が人間であるユキヒラの前で氷の剣を出現させてしまえば王様である事が分かってしまうため、首を左右にふる。
人間界で氷属性の魔力を扱う人物は自分しかいない事を把握しているから、背負っている折れた剣を手に取りユキヒラの目の前に突き出した。
「武器はあるよ。Bランクのモンスターと鉢合わせをした時に折れちゃったけど」
「別に見せなくてもいいよぉ。もう、分かったからぁ」
勢い良く国王から視線を逸らしたユキヒラが身を翻す。
折れた剣には興味がないようで、高度な回復魔法を使えるだけでは足手まといと判断をされてしまったのか。
歩き出したユキヒラに置き去りにされると思って立ち尽くしていた国王が、呆然とユキヒラの背中を見送る。
「何をしてるのぉ。早く来なよぉ」
なかなか歩き出そうとしない国王に対して、しびれを切らしたユキヒラが背後を振り向き声をかける。
「あ、うん!」
すると瞬く間に表情を明るくした国王が笑みを浮かべる。
その表情は長い前髪が顔を覆い隠しているためユキヒラからは見えないけど、ひび割れた大地を足早に歩き出した国王が先を歩くユキヒラの背中を追いかける。
見知らぬ土地に置き去りにされると思っていた国王は安堵する。
もしかしたら、この後に再会をするかもしれない息子の姿を思い浮かべて急に緊張感に苛まれる国王は深呼吸を繰り返した。
人間界で共に生活をしていた時は殆ど会話をすることのなかった息子と、せめて世間話をする事が出来るようになりたいと考える国王は、少しずつ高鳴り出した胸を落ち着かせるために胸元に手を添える。
魔王城では緊張すること無く話をすることが出来たから。
きっと次も大丈夫だと自分に言い聞かせる。
深く息を吸い込むと一気に、ため込んだ息を吐き出した。
意識を取り戻した国王はピクリと人差し指を動かした。
うっすらと目蓋を開けた国王が背中に痛みを感じて、ゆっくりと上半身を起こす。
氷柱魔法は国王の予想を遥かに越えた威力を発揮した。
大地を砕き木々を飛ばした氷柱魔法に巻き込まれる形となった国王の体は、沢山の木々の下敷きになった。
木々に体を潰されて呼吸困難に陥りそうになっていた所を突如、現れたエルフの青年が呪文を唱えて体を風魔法で包みこむ事により助け出してくれた。
意識を失う前に見た緑色の髪の毛の青年は、腰まである長い髪の毛を三つ網でゆるく結んでいた。
その姿は魔王城で見た妖精王と瓜二つ。
視線が交わると、にこりと笑みを浮かべて頭を下げた青年は何を話すわけでもなく、すぐに身を翻して何処かへ行ってしまう。
「妖精王の影武者だったのかな。それとも、魔王城で封印を受けてる方が影武者なのかな」
呆然と夜空を見上げながら独り言を呟いた国王が大きなため息を吐き出した。
「どうして助けてくれたのだろう」
妖精王であるリンスールはドワーフの塔で一度ヒビキに命を助けられていた。
その事を知らない国王は何故、妖精王と瓜二つの青年が自分を助けるのか分からずに戸惑っている。
ゆっくりと視線を上にあげたところで気がついた。
「ちょっ!」
大きな剣を掲げるユキヒラの姿をとらえた国王が、ひきつった声をあげた。
「真っ二つになる!」
見るからに切れ味の良さそうな巨大な剣を振り下ろそうとするユキヒラに国王が、ピーンと伸ばした両手を左右に動かすことにより意思を伝えようとする。
どうか考え直してほしい。
掲げた剣を振り下ろさずに、ゆっくりと下ろして欲しい。
もしも風魔法に防御力の効果がなければ剣は球体を破壊するだけではなくて、国王の体も真っ二つにするだろう。
「せめて剣の軌道をずらしてよ!」
血しぶきで剣を汚したくないでしょうと心の中でユキヒラに問いかけてみるけど、国王の考えをユキヒラが読めるはずもなく何の躊躇いもなく一気に剣を振り下ろす。
シュッと風を切り裂く音が耳元を通りすぎる。
目蓋を閉じて恐怖から逃れようとした国王が顔を俯かせて体を縮めると、腕をギュッと捕まれる感覚。
共にぐいっと力任せに腕を引かれたと思った瞬間、体が宙に浮かぶような何とも気持ちの悪い感覚に晒される。
慌てて周囲を見渡すと
「うそぉおおおおお!」
天と地が見事に逆さまになっていた。
地面に向かって真っ逆さまに落ちる国王が大声を上げる。
大きく目を見開く国王が足元に視線を向けると、そこには二つに切り裂かれた球体があり風魔法によって作られた球体が、爆風を起こしたことにより風に押されて体は急降下する。
「この後どうするつもりなの? まさか、このまま地面に叩きつけられる何て事は無いよね?」
顔面蒼白になっている国王がユキヒラに問いかける。
国王と共に急降下するユキヒラの機嫌は頗る悪かった。
ユキヒラは無言のまま返事をする気は無い。
「ねぇ、このままだと僕は頭から地面に落下する事になるんだけど!」
飛行術を使えるにも拘わらず使おうとはしない国王は、魔界にてヒビキを強引に連れ去ったユキヒラに対して警戒心を抱いていた。
ヒビキの敵であるユキヒラに手の内を見せたくはない。
出来れば飛行術を使わずに、この状況から逃れたいと考えていた国王は何度もユキヒラに問いかける。
「ねぇ! 策はあるんだよね?」
問いかけるけど、やはり返事はない。
問いかけてはみるもののユキヒラは行動を起こす気配が無いのか大きな溜め息を付く。
「うるさいなぁ」
ユキヒラが正直に呟いた。
ユキヒラは耳元で騒がれたため気分を害していた。
眉間にシワを寄せている。
国王の首に左腕を巻き付けて、自分は足を地面に向けた状態で落下するユキヒラが、どのように着地をするつもりなのか予想もつかない。
風魔法により随分と高い位置まで体を持ちあげられていたため、高い位置からの落下。
垂直に落ちていく体は徐々にスピードを上げつつ、地面が急接近し始める。
煩いと一喝されてしまったため、ユキヒラの機嫌の悪さを察した国王が口を閉じる。
すると突然、何を思ったのかユキヒラが国王の背中に手を添えると、もう片方の腕を国王の膝下に滑り込ませる。
背中に添えた手を中心にして国王の体を、ぐるんと半回転させる。
瞬く間に天と地がひっくり返って、地面に足を向ける形となった国王は勢いのまま目の前に迫った地面に両手、両足をつき着地をする。
腕を曲げて膝を折り曲げた国王が胸をドキドキと高鳴らせながら不格好な姿勢で着地をするとストンと音を立てて、すぐ隣に着地をしたユキヒラに視線を向ける。
ユキヒラは地面に膝をついている国王を見下ろしていた。
「何これぇ」
そして、国王の目の前に右手を差し出して不機嫌さを隠す事無く呟いたユキヒラが、地面に両膝をつく青年を睨みつける。
ピーンと伸ばされた右腕は先程まで国王の背中に添えられていたはずだけど腕には、べっとりと真っ赤な血が付着している。
血はユキヒラの纏っている服を汚していた。
傷に直接、触れられて背中に激痛が走り冷や汗を流していた国王が困ったように眉尻を下げる。
しかし、その表情は長い前髪が覆い隠しているためユキヒラには見えてはいない。
「怪我をしてるの? 足手纏いになるのなら、このまま置き去りにするけどぉ」
しゃがみこんだまま立ち上がろうとはしないし返事をしようともしない国王に、しびれを切らしたユキヒラが再び口を開く。
明らかに血を流しすぎて貧血状態に陥っている国王が、息子を連れ去った人物を目の前にして考える。
置き去りにされてしまったら、ヒビキを守るどころか巨体を持つオーガのような生き物に襲われる可能性がある。
「待って回復魔法を使うから」
置き去りにすると言ったユキヒラの言葉を聞き、慌てて口を開いた国王が僅かに口を開いて本当に小さな声で呪文を唱えると、体全体を包みこむ黄金色に輝く回復魔法が発動する。
黄金色に輝く回復魔法は人間だけが使う事の出来る高度な回復魔法である。
その高度な回復魔法を扱える事の出来る人物は人間界の中でも限られた人数しかいないため、ユキヒラは初めて見る高度な回復魔法に関心を示す。
「へぇ、随分と強力な回復魔法が使えるのかぁ」
蹲る国王の背中を眺めていたユキヒラが本音を漏らしている間に、背中の傷は綺麗に消えて元通り。
「うん。回復魔法だけは自身があるよ」
攻撃魔法や移動手段を敵であるユキヒラに見せる事は出来ない。
しかし、何も術が使えなければ足手まといになると判断したユキヒラに、見知らぬ土地に置き去りにされてしまう可能性がある。
背中の傷も治す必要があったため高度な回復魔法を見せた国王は傷を完治させて、その場に立ち上がる。
「攻撃魔法は使えないのぉ?」
高度な回復魔法だけでは満足出来なかったのか、ユキヒラが国王に問いかけた。
しかし、種族が人間であるユキヒラの前で氷の剣を出現させてしまえば王様である事が分かってしまうため、首を左右にふる。
人間界で氷属性の魔力を扱う人物は自分しかいない事を把握しているから、背負っている折れた剣を手に取りユキヒラの目の前に突き出した。
「武器はあるよ。Bランクのモンスターと鉢合わせをした時に折れちゃったけど」
「別に見せなくてもいいよぉ。もう、分かったからぁ」
勢い良く国王から視線を逸らしたユキヒラが身を翻す。
折れた剣には興味がないようで、高度な回復魔法を使えるだけでは足手まといと判断をされてしまったのか。
歩き出したユキヒラに置き去りにされると思って立ち尽くしていた国王が、呆然とユキヒラの背中を見送る。
「何をしてるのぉ。早く来なよぉ」
なかなか歩き出そうとしない国王に対して、しびれを切らしたユキヒラが背後を振り向き声をかける。
「あ、うん!」
すると瞬く間に表情を明るくした国王が笑みを浮かべる。
その表情は長い前髪が顔を覆い隠しているためユキヒラからは見えないけど、ひび割れた大地を足早に歩き出した国王が先を歩くユキヒラの背中を追いかける。
見知らぬ土地に置き去りにされると思っていた国王は安堵する。
もしかしたら、この後に再会をするかもしれない息子の姿を思い浮かべて急に緊張感に苛まれる国王は深呼吸を繰り返した。
人間界で共に生活をしていた時は殆ど会話をすることのなかった息子と、せめて世間話をする事が出来るようになりたいと考える国王は、少しずつ高鳴り出した胸を落ち着かせるために胸元に手を添える。
魔王城では緊張すること無く話をすることが出来たから。
きっと次も大丈夫だと自分に言い聞かせる。
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