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ヒビキの奪還編
49話 国王VSオーガ
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ふわりと体が宙に浮いた感覚に続いて、ぐるりと空中で一回転そして急降下する。
召喚魔法に巻き込まれたのは今回が始めての経験。自ら飛び込んだとはいえ、あまり気分の良いものでは無い。
国王は魔法陣に飛び込んだ事を早速後悔する。
吐き気を堪える国王の顔色は青白く、右手で口元を覆っていた。
暗闇に浮かんでいる青白い光を纏う我が子を見つめるけれど、光の元へ移動する気力が残されてはいない。
ヒビキを魔法陣から押し出す所か、自らも召喚魔法に巻き込まれる事になった国王は大きなため息を吐き出した。
ふわりと体が宙に浮く感覚がしたと思った瞬間、足と腕を強い衝撃が襲う。
腹部にはぐにゃっと何かを踏みつぶしたような感覚があり、そのおかげで全身を打ち付ける事は無く意識は保ったまま。膝と肘だけがヒリヒリと痛む。
絶対に踏みつぶした。
ドキドキと胸を高鳴らせながら、腕に触れるふわりとした感覚に指先を添える。
ぴくりとも動かないところからすると地面に叩きつけられた衝撃で意識を失ってしまったか。
きっと二倍のダメージを負っただろう。
ぐったりとする我が子の姿を思い浮かべる。
僅かに目蓋を開くと、柔らかそうなクリーム色の髪の毛が視界に入り込む。
腕を地面に付き、ゆっくりと体を起こし相手に負担をかけないように両手、両足を付き四つん這いになると大きなため息を吐き出した。
粗っぽい召喚魔法により頭から地面に打ち付けられた可能性がある。
打ち所が悪ければ死に至ることもあるだろう。
どうか生きていますように。
そう願いながら下敷きにした我が子に視線を移す。
「あれ?」
ぽかーんとした表情を浮かべる国王は瞬きを繰り返す。
思わず状況を理解する事が出来ずに首を傾けた。
下敷きにしていたクリーム色の毛を持つ生き物は足を、ぴくぴくと動かしている。
ブメェエエエエエエと何とも奇妙な鳴き声を上げる。
長い舌を国王の頬に何度も這わせている四足歩行の生き物が横たわっていた。
大きく目を見開く生き物は手触りの良いクリーム色の毛で全身を覆われている。
ピーンと伸びた4つの足を伸ばしたまま鳴き声をあげる生き物は短足。
ブメェエエエエエエと再び奇妙な鳴き声を上げる。
「紛らわしいなぁ、もう」
勝手に勘違いをしておきながら不貞腐れている国王は四足歩行の生き物の上から体を退かすと地べたに座り込んでしまう。
すると、国王が上から退く事を待っていたのだろう。四足歩行の生き物は瞬く間に倒れていた体を起こす。
ブメェエエエエエエと、奇妙な鳴き声を上げると砂塵を巻き上げながら国王の元を立ち去った。
生き物の向かう先には大きな泉がありキラキラと光輝く緑色の草が生い茂っている。
鮮やかな花が咲き誇り甘い、においに誘われた蝶が周囲を飛び回っている。
愕然とする国王が四足歩行の生き物を見送ると、改めて周囲を見渡した。
しかし、人の気配はなく辺りは静寂に包まれている。
「ヒビキ?」
我が子の名前を呼んでみるけど返事はない。
もしかしたら意識を失っているのかもしれないと考えた国王は、ゆっくりと腰を上げる。
「見知らぬ土地に、たった一人。嫌だなぁ。ヒビキ、いないの?」
本音を漏らしつつ周囲を見渡してみる。
木陰を覗きこみながら歩く。
草を手で掻き分けて我が子が倒れていないか探し回る。
しかし、ヒビキの姿は見つからず代わりに巨大なオーガを発見。
ガサッと音を立てて目線の高さまで伸びた草を掻き分けたため、音に反応をしたオーガと見事に目が合った。
巨体を持つオーガは、しゃがみこみ丸まりながら何かを貪っている。
血に染まった腹部とオーガが、しっかりと握りしめている骨を眺めた国王の頭の中に我が子の姿が浮かぶ。
まさか意識の無いヒビキを?
ドキドキと胸を高鳴らせながらオーガの足元に視線を向ける。
オーガの足元の骨が我が子の物ではない事を確認すると吸い込んでいた息を一気に吐き出した。
「おやおや、君も迷子かい?」
顔を強ばらせながらオーガに声をかけた国王は、冷や汗をだらだらと流していた。
ゆっくりと足を引きながら後ずさる国王は、この場から逃げることを考える。
「ほらほら、そんな怖い顔をしないで僕は怪しい者ではないからね。眉間にシワを寄せないで、冷静に……!」
苦笑しながらオーガの元を立ち去ろうとした国王だけど、知性や賢さは殆ど無く国王を敵と見なしたオーガが大きな刃物を握りしめると振り上げる。
ガウッと声をあげたオーガに驚き国王が身震いする。
「冷静にって言ってるじゃん!」
話し合いで解決をしようとしていたため大声を張り上げる。
国王の大声はオーガの神経を逆撫でした。
「ちょっ! わっ」
振り下ろされた刃物を後方に大きく後退する事で避けると刃物を受けた地面に、ひびが入り砕け散る。
飛び散った破片が国王の顔めがけて飛んだため、右へ左へと体を動かして避けた国王が何度も後ろに後退することで、オーガとの距離を広めていく。
背負っている剣を手に取るとオーガに向けて構えを取った。
折れた剣は本来の長さの3分1程しかない。
巨体を持つオーガに向けて振り下ろした所でダメージを与えることが出来るのだろうか?
折れた剣とオーガを交互に眺めた国王の頬を冷や汗が伝う。
「いやぁ、無理だろうなぁ」
剣を、じっくりと眺めていた国王が本音を漏らすと折れた剣を鞘の中に戻し始める。
「誰か通りかからないかな。助けて欲しいな」
身の危険を感じたら鬼灯かギフリードの背後に隠れるつもりでいた。
それなのに周囲には人影は無く大きな、ため息を吐き出した国王が助けを求める事を諦める。
狩りをするのは何年ぶりになるだろう。
もう何年も武器の出現を唱えていない。
無事に武器が出現してくれると良いけど。
恐る恐る頭の中で武器の出現を唱えると右手の平と左手のひら。それぞれの手の平に添うようにして2本の氷の剣が出現をする。
剣が無事に出現したため、ほっと安堵した国王が現れた剣を手に取った。
剣を囲むようにして無数の氷の粒が渦巻いていた。
刃先から柄へ向かって、ぐるぐると回る氷の粒は水色の光を放ち暗闇を照らす。
氷と氷がぶつかりあい音を出すと、音に反応をしているのか音がなるたびにオーガがビクッと体を揺らす。
国王の足元に現れた水色の魔法陣は彼の体を身軽にする。
敏捷性を高める効果があった。
剣の出現と共に現れた赤を基調とした衣は国王の体を包みこむ。
足首まであるしなやかな赤いドレスには高級感を思わせる細かな刺繍が施されている。
膝下まである長い黒色の上着を羽織り佇んでいる。
長い前髪は右耳に掛けられており素顔が露わになっていた。
大きく息を吸い込んだ国王は乱れた呼吸を整える。
「年を取ってしまったからなぁ。ちゃんと体が動くかな」
オーガに勝てるかどうかの心配ではなくて、年をとり若い頃より体力が劣る事を考えて今の自分が、きちんと動けるのかどうかを心配している国王が大きく息を吐き出した。
「よし、行くよ!」
近くには誰も頼れる者がいないため、国王がオーガに向かって声をかける。
すると人の言葉を理解することが出来るのか、オーガは知性や賢さは殆ど無いはずなんだけどなガウッガウッガウッと声をあげて国王を威嚇する。
剣の先をオーガに向けて敏捷性を下げる効果を与えようと試みた国王が呪文を唱えると、キランと音を立ててオーガの足元に水色の魔法陣が出現をした。
「あれ?」
しかし、オーガの足元に現れた魔法陣の色は国王の想像していたものとは違い、きょとんとする国王は首を傾ける。
ガウッと声を上げて、じたばたと手足を動かし始めたオーガは国王に身軽さをアピールした。
地面を蹴り全速力で向かってきたオーガから、国王が身を翻して逃げ始める。
「間違えちゃった、間違えちゃった」
何度も言葉を繰り返して走る国王が呼吸を乱す。
地面を蹴り飛行術を使って、この場から逃れようとした国王の体が宙に浮く。
しかしオーガは国王を逃さなかった。
国王の足を鷲掴みにすると、宙に浮かび上がった国王の体を引きずり下ろす。
大きく腕を掲げて刃物を振り上げたオーガの顔面に国王が蹴りをいれると、巨体が大きく傾いた。
「呪文を間違えた? なんで敏捷性がっ」
前のめりになったオーガが姿勢を正して、独り言を呟く国王に向けて刃物を振り下ろす。
くるんと右足を軸にして体を回転させる。
すると剣を纏っていた氷の粒がオーガに向かって放たれた。
粒は無数の刃に変化。
国王の操作によりオーガの両腕や両足に向かう刃は、その身動きを封じるために放たれた。
しかし敏捷性を高めたオーガは国王の攻撃を刃物で凪ぎ払うと勢いのままに跳ね返す。
顔を真っ青にして跳ね返された刃を右へ左へ小躍りをしながら避けていると、敏捷性を高めたオーガが目の前に迫っていた。
振り下ろされた刃物を右手を振り上げて剣の先で弾く。
くるんと右足を軸に体を回転させて左手を振り切って剣をオーガの腹部に突き刺そうとした国王の攻撃は、カンッと音を立ててオーガの手にする刃物に当たり弾き返される。
後退をしながら再び振り下ろされた剣を左手を振り上げる事により弾く。
全く後ろを見ていなかった国王が小石に足を取られてバランスを崩すと体が大きく後方に傾いた。
隙を見逃さなかったオーガが刃物を薙ぎ払い国王の体を真っ二つにしようとする。
シュッと音を立ててすぐ目の前を通過した刃物は、国王の胸元すれすれを通過して勢いを、そのままに大木を真っ二つにする。
スパンと音を立てて真っ二つになった木を見つめる国王は顔面蒼白のまま、背中から地面に倒れこむ。
「痛っ」
剣をおさめた鞘を下敷きにして倒れこんだ国王が痛みに表情を歪める。
痛みをこらえながらゴロンと寝返りをうった国王が地面に手をつきその場に立ち上がる。
剣を掲げて呪文を唱えると頭上に巨大な氷柱が出現をする。
その数5本。
オーガを中心にして頭上をぐるぐると回転する氷柱の大きさは1つが5メートル以上もある。国王が剣を振り下ろす合図と共に氷柱が急降下する。
凄まじい地響きと共に大地が揺れ、泉を隔てた向こう側の岸が爆風と共に吹き飛んだ。
巨大な木々が宙を舞う。
地面が盛り上がり、ひび割れた土が塊となって四方八方に飛び散った。
「え、何?」
衝撃は遠く離れた位置にいるサヤやヒビキの元まで届いていた。
激しく揺れる大地にサヤが立っていることが困難になり尻餅をつく。ヒビキが木の枝をつかみ体を支えている。
魔力を使い果たしたため意識を失ってしまったユキヒラの体をゴロゴロと転がした。
飛んできた巨大な岩がヒビキの体を直撃する。
しかし、青い炎を纏い剣を体内に取り込んでいる状態のヒビキには傷一つつけることが出来ない。
真っ二つになった巨大な岩を眺めてサヤが、あんぐりと口を開く。
ヒビキは地響きや爆風により悲惨な状態になっている遠くに見える岸を見つめて考えていた。
召喚魔法に巻き込まれた青年の姿を思い起こす。
ボロボロの布に身を包みボサボサの髪をした青年が壊滅した森にいなければよいけど。
狐面と武器を体内に取り込むと何をしているわけでもないのに魔力を、どんどん消費する。
魔力が尽きる前に向こう側の森を確認したいと思ったヒビキは大地の揺れがおさまると、すぐに悲惨な光景が広がる森に向けて足を進め始める。
「え、何処に行くの? 危険だよ!」
ヒビキの後を追うために腰を上げたサヤが走り出す。
「あ、ユキヒラ」
しかし、意識の無いユキヒラを思いだし身を翻して倒れているユキヒラの体を軽々と肩にかける。
意識の無いユキヒラと怯えるサヤ。
そして、召喚魔法に巻き込んでしまった青年を探すヒビキが大地が割れ、木々が倒れ積み重なり行く手を阻んでいる森に足を踏み入れた。
召喚魔法に巻き込まれたのは今回が始めての経験。自ら飛び込んだとはいえ、あまり気分の良いものでは無い。
国王は魔法陣に飛び込んだ事を早速後悔する。
吐き気を堪える国王の顔色は青白く、右手で口元を覆っていた。
暗闇に浮かんでいる青白い光を纏う我が子を見つめるけれど、光の元へ移動する気力が残されてはいない。
ヒビキを魔法陣から押し出す所か、自らも召喚魔法に巻き込まれる事になった国王は大きなため息を吐き出した。
ふわりと体が宙に浮く感覚がしたと思った瞬間、足と腕を強い衝撃が襲う。
腹部にはぐにゃっと何かを踏みつぶしたような感覚があり、そのおかげで全身を打ち付ける事は無く意識は保ったまま。膝と肘だけがヒリヒリと痛む。
絶対に踏みつぶした。
ドキドキと胸を高鳴らせながら、腕に触れるふわりとした感覚に指先を添える。
ぴくりとも動かないところからすると地面に叩きつけられた衝撃で意識を失ってしまったか。
きっと二倍のダメージを負っただろう。
ぐったりとする我が子の姿を思い浮かべる。
僅かに目蓋を開くと、柔らかそうなクリーム色の髪の毛が視界に入り込む。
腕を地面に付き、ゆっくりと体を起こし相手に負担をかけないように両手、両足を付き四つん這いになると大きなため息を吐き出した。
粗っぽい召喚魔法により頭から地面に打ち付けられた可能性がある。
打ち所が悪ければ死に至ることもあるだろう。
どうか生きていますように。
そう願いながら下敷きにした我が子に視線を移す。
「あれ?」
ぽかーんとした表情を浮かべる国王は瞬きを繰り返す。
思わず状況を理解する事が出来ずに首を傾けた。
下敷きにしていたクリーム色の毛を持つ生き物は足を、ぴくぴくと動かしている。
ブメェエエエエエエと何とも奇妙な鳴き声を上げる。
長い舌を国王の頬に何度も這わせている四足歩行の生き物が横たわっていた。
大きく目を見開く生き物は手触りの良いクリーム色の毛で全身を覆われている。
ピーンと伸びた4つの足を伸ばしたまま鳴き声をあげる生き物は短足。
ブメェエエエエエエと再び奇妙な鳴き声を上げる。
「紛らわしいなぁ、もう」
勝手に勘違いをしておきながら不貞腐れている国王は四足歩行の生き物の上から体を退かすと地べたに座り込んでしまう。
すると、国王が上から退く事を待っていたのだろう。四足歩行の生き物は瞬く間に倒れていた体を起こす。
ブメェエエエエエエと、奇妙な鳴き声を上げると砂塵を巻き上げながら国王の元を立ち去った。
生き物の向かう先には大きな泉がありキラキラと光輝く緑色の草が生い茂っている。
鮮やかな花が咲き誇り甘い、においに誘われた蝶が周囲を飛び回っている。
愕然とする国王が四足歩行の生き物を見送ると、改めて周囲を見渡した。
しかし、人の気配はなく辺りは静寂に包まれている。
「ヒビキ?」
我が子の名前を呼んでみるけど返事はない。
もしかしたら意識を失っているのかもしれないと考えた国王は、ゆっくりと腰を上げる。
「見知らぬ土地に、たった一人。嫌だなぁ。ヒビキ、いないの?」
本音を漏らしつつ周囲を見渡してみる。
木陰を覗きこみながら歩く。
草を手で掻き分けて我が子が倒れていないか探し回る。
しかし、ヒビキの姿は見つからず代わりに巨大なオーガを発見。
ガサッと音を立てて目線の高さまで伸びた草を掻き分けたため、音に反応をしたオーガと見事に目が合った。
巨体を持つオーガは、しゃがみこみ丸まりながら何かを貪っている。
血に染まった腹部とオーガが、しっかりと握りしめている骨を眺めた国王の頭の中に我が子の姿が浮かぶ。
まさか意識の無いヒビキを?
ドキドキと胸を高鳴らせながらオーガの足元に視線を向ける。
オーガの足元の骨が我が子の物ではない事を確認すると吸い込んでいた息を一気に吐き出した。
「おやおや、君も迷子かい?」
顔を強ばらせながらオーガに声をかけた国王は、冷や汗をだらだらと流していた。
ゆっくりと足を引きながら後ずさる国王は、この場から逃げることを考える。
「ほらほら、そんな怖い顔をしないで僕は怪しい者ではないからね。眉間にシワを寄せないで、冷静に……!」
苦笑しながらオーガの元を立ち去ろうとした国王だけど、知性や賢さは殆ど無く国王を敵と見なしたオーガが大きな刃物を握りしめると振り上げる。
ガウッと声をあげたオーガに驚き国王が身震いする。
「冷静にって言ってるじゃん!」
話し合いで解決をしようとしていたため大声を張り上げる。
国王の大声はオーガの神経を逆撫でした。
「ちょっ! わっ」
振り下ろされた刃物を後方に大きく後退する事で避けると刃物を受けた地面に、ひびが入り砕け散る。
飛び散った破片が国王の顔めがけて飛んだため、右へ左へと体を動かして避けた国王が何度も後ろに後退することで、オーガとの距離を広めていく。
背負っている剣を手に取るとオーガに向けて構えを取った。
折れた剣は本来の長さの3分1程しかない。
巨体を持つオーガに向けて振り下ろした所でダメージを与えることが出来るのだろうか?
折れた剣とオーガを交互に眺めた国王の頬を冷や汗が伝う。
「いやぁ、無理だろうなぁ」
剣を、じっくりと眺めていた国王が本音を漏らすと折れた剣を鞘の中に戻し始める。
「誰か通りかからないかな。助けて欲しいな」
身の危険を感じたら鬼灯かギフリードの背後に隠れるつもりでいた。
それなのに周囲には人影は無く大きな、ため息を吐き出した国王が助けを求める事を諦める。
狩りをするのは何年ぶりになるだろう。
もう何年も武器の出現を唱えていない。
無事に武器が出現してくれると良いけど。
恐る恐る頭の中で武器の出現を唱えると右手の平と左手のひら。それぞれの手の平に添うようにして2本の氷の剣が出現をする。
剣が無事に出現したため、ほっと安堵した国王が現れた剣を手に取った。
剣を囲むようにして無数の氷の粒が渦巻いていた。
刃先から柄へ向かって、ぐるぐると回る氷の粒は水色の光を放ち暗闇を照らす。
氷と氷がぶつかりあい音を出すと、音に反応をしているのか音がなるたびにオーガがビクッと体を揺らす。
国王の足元に現れた水色の魔法陣は彼の体を身軽にする。
敏捷性を高める効果があった。
剣の出現と共に現れた赤を基調とした衣は国王の体を包みこむ。
足首まであるしなやかな赤いドレスには高級感を思わせる細かな刺繍が施されている。
膝下まである長い黒色の上着を羽織り佇んでいる。
長い前髪は右耳に掛けられており素顔が露わになっていた。
大きく息を吸い込んだ国王は乱れた呼吸を整える。
「年を取ってしまったからなぁ。ちゃんと体が動くかな」
オーガに勝てるかどうかの心配ではなくて、年をとり若い頃より体力が劣る事を考えて今の自分が、きちんと動けるのかどうかを心配している国王が大きく息を吐き出した。
「よし、行くよ!」
近くには誰も頼れる者がいないため、国王がオーガに向かって声をかける。
すると人の言葉を理解することが出来るのか、オーガは知性や賢さは殆ど無いはずなんだけどなガウッガウッガウッと声をあげて国王を威嚇する。
剣の先をオーガに向けて敏捷性を下げる効果を与えようと試みた国王が呪文を唱えると、キランと音を立ててオーガの足元に水色の魔法陣が出現をした。
「あれ?」
しかし、オーガの足元に現れた魔法陣の色は国王の想像していたものとは違い、きょとんとする国王は首を傾ける。
ガウッと声を上げて、じたばたと手足を動かし始めたオーガは国王に身軽さをアピールした。
地面を蹴り全速力で向かってきたオーガから、国王が身を翻して逃げ始める。
「間違えちゃった、間違えちゃった」
何度も言葉を繰り返して走る国王が呼吸を乱す。
地面を蹴り飛行術を使って、この場から逃れようとした国王の体が宙に浮く。
しかしオーガは国王を逃さなかった。
国王の足を鷲掴みにすると、宙に浮かび上がった国王の体を引きずり下ろす。
大きく腕を掲げて刃物を振り上げたオーガの顔面に国王が蹴りをいれると、巨体が大きく傾いた。
「呪文を間違えた? なんで敏捷性がっ」
前のめりになったオーガが姿勢を正して、独り言を呟く国王に向けて刃物を振り下ろす。
くるんと右足を軸にして体を回転させる。
すると剣を纏っていた氷の粒がオーガに向かって放たれた。
粒は無数の刃に変化。
国王の操作によりオーガの両腕や両足に向かう刃は、その身動きを封じるために放たれた。
しかし敏捷性を高めたオーガは国王の攻撃を刃物で凪ぎ払うと勢いのままに跳ね返す。
顔を真っ青にして跳ね返された刃を右へ左へ小躍りをしながら避けていると、敏捷性を高めたオーガが目の前に迫っていた。
振り下ろされた刃物を右手を振り上げて剣の先で弾く。
くるんと右足を軸に体を回転させて左手を振り切って剣をオーガの腹部に突き刺そうとした国王の攻撃は、カンッと音を立ててオーガの手にする刃物に当たり弾き返される。
後退をしながら再び振り下ろされた剣を左手を振り上げる事により弾く。
全く後ろを見ていなかった国王が小石に足を取られてバランスを崩すと体が大きく後方に傾いた。
隙を見逃さなかったオーガが刃物を薙ぎ払い国王の体を真っ二つにしようとする。
シュッと音を立ててすぐ目の前を通過した刃物は、国王の胸元すれすれを通過して勢いを、そのままに大木を真っ二つにする。
スパンと音を立てて真っ二つになった木を見つめる国王は顔面蒼白のまま、背中から地面に倒れこむ。
「痛っ」
剣をおさめた鞘を下敷きにして倒れこんだ国王が痛みに表情を歪める。
痛みをこらえながらゴロンと寝返りをうった国王が地面に手をつきその場に立ち上がる。
剣を掲げて呪文を唱えると頭上に巨大な氷柱が出現をする。
その数5本。
オーガを中心にして頭上をぐるぐると回転する氷柱の大きさは1つが5メートル以上もある。国王が剣を振り下ろす合図と共に氷柱が急降下する。
凄まじい地響きと共に大地が揺れ、泉を隔てた向こう側の岸が爆風と共に吹き飛んだ。
巨大な木々が宙を舞う。
地面が盛り上がり、ひび割れた土が塊となって四方八方に飛び散った。
「え、何?」
衝撃は遠く離れた位置にいるサヤやヒビキの元まで届いていた。
激しく揺れる大地にサヤが立っていることが困難になり尻餅をつく。ヒビキが木の枝をつかみ体を支えている。
魔力を使い果たしたため意識を失ってしまったユキヒラの体をゴロゴロと転がした。
飛んできた巨大な岩がヒビキの体を直撃する。
しかし、青い炎を纏い剣を体内に取り込んでいる状態のヒビキには傷一つつけることが出来ない。
真っ二つになった巨大な岩を眺めてサヤが、あんぐりと口を開く。
ヒビキは地響きや爆風により悲惨な状態になっている遠くに見える岸を見つめて考えていた。
召喚魔法に巻き込まれた青年の姿を思い起こす。
ボロボロの布に身を包みボサボサの髪をした青年が壊滅した森にいなければよいけど。
狐面と武器を体内に取り込むと何をしているわけでもないのに魔力を、どんどん消費する。
魔力が尽きる前に向こう側の森を確認したいと思ったヒビキは大地の揺れがおさまると、すぐに悲惨な光景が広がる森に向けて足を進め始める。
「え、何処に行くの? 危険だよ!」
ヒビキの後を追うために腰を上げたサヤが走り出す。
「あ、ユキヒラ」
しかし、意識の無いユキヒラを思いだし身を翻して倒れているユキヒラの体を軽々と肩にかける。
意識の無いユキヒラと怯えるサヤ。
そして、召喚魔法に巻き込んでしまった青年を探すヒビキが大地が割れ、木々が倒れ積み重なり行く手を阻んでいる森に足を踏み入れた。
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そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
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