それは、偽りの姿。冒険者達の物語

しなきしみ

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ドラゴンクエスト編

44話 ギフリードの回復

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 ランテが回復魔法を唱えたため、鬼灯の体が黒い幕に包まれる。
 ふわふわと浮かぶ鬼灯から視線を逸らしてランテに視線を向けると鬼灯の落とした杖を拾い上げて、ゆっくりと視線を上げたランテと見事に視線が交わった。
 深々とお辞儀をして苦笑するランテの表情は何だか不安そう。
 ランテの態度の変化に戸惑い困ったように眉尻を下げたヒビキが首を傾げて問いかける。

「アリアスから俺の身元を聞いた?」
 首を傾けたヒビキの問いかけに対して、ランテは気まずそうに小さく頷いた。

 急によそよそしい態度を取り始めたランテに対してヒビキが不安そうに顔を俯かせると、視線を地面に向けたまま問いかける。

「俺の事、嫌いになった?」
 ヒビキの問いかけに対して、ランテが慌てて首を左右に振る。

「とんでもない事でございます」
「だったら……」
 ランテの言葉を遮るようにして、言葉を続けたヒビキが下ろしていた視線をランテに向ける。
 
 だったら、何?
 一体何を言おうとしているのだろうと急に我に返ったヒビキが、背筋を伸ばしたままの状態で固まってしまう。
 今まで通り気軽に接してよと言うのは上から目線の様な気がするし。
 よそよそしい態度をとらないで欲しいと言うのは、相手に対して失礼なのでは無いのかと考えだしてしまったヒビキが、口を半開きにしたままの状態で瞬きを繰り返す。
 ランテとヒビキの会話を聞くために、こっそりと聞き耳を立てている人物がいた。
 それは、ランテの回復魔法を受け黒い幕に包み込まれている状態にある鬼灯で、ヒビキに気づかれないように会話を盗み聞きする。
 ヒビキの身元は考えた事も無かった。
 そう言えばボスモンスター討伐隊の隊長の身元は誰も知らなかったんだよなと考えている鬼灯がランテとヒビキの会話を耳にして、ヒビキの身元に対して興味を抱く。

 ボスモンスター討伐隊の隊長を務めていた時のヒビキは、年齢も容姿も身元も知る者はいなくて謎に包まれていた。
 今は容姿を知り性格を知り若い年齢である事が分かったけれど両親は健在なのか兄弟は何人いるのか、いくつか疑問は残っていた。
 ランテの様子から、きっと高貴な家柄なのだろうと予想はつく。
 しかし、魔族のランテが人間であるヒビキが高貴な家柄だからって、よそよそしい態度をとる必要があるとも思えない。
 種族が違うのだから。

「お母さんに、よそよそしい態度をとられてヒビキお兄ちゃん悲しんでるよ」
 黙り込んでしまったヒビキに助け舟を出す人物が現れた。
 それは、人の心の色を見る事により考えていることを把握することの出来るヒナミで、しかし悪気はなかったとは言え感情を周囲に知らされてしまったヒビキが大きく目を見開くと羞恥心から顔を真っ赤にする。

「え……ごめんなさいね。悲しませるつもりは全く無かったんだけど」
 頬に両手をあて、顔を真っ赤にするヒビキの元にランテが移動する。

「ごめんなさいね。アリアスが脅すから」
「そうだよ。お父さんがヒビキお兄ちゃんは感情が欠落しているとか、冷たい人なんだって何度も言うからお母さんが怯えちゃったんだよ!」
 頬を膨らませるヒナミが続けた言葉により、ヒビキがアリアスに視線を向ける。
 アリアスはヒナミに、こっそりとヒビキの性格を耳打ちしていたようでヒビキと見事に視線が交わると小刻みに体を振るわせる。

「ヒナミちゃん元々は、そうだったってお父さんは言ったんだぞ。ボスモンスター討伐隊が壊滅する前は無表情だし殆ど喋らないし声を荒げる事もなかったんだぞ。狐さんのお洋服を着るような人ではなかったんだぞ」
 ヒナミのマネをしているのかツンと唇を尖らせているアリアスが、言葉を続けたためヒビキが首を傾けて瞬きを繰り返している。
 確かに、銀騎士にとっては自分は話しかけづらい雰囲気を醸し出していたかもしれない。
 人と話す事が苦手だったし、人見知りをしていたから部屋に一人で閉じこもっている事が多かった。
 いつも表情に笑みを浮かべ、おっとりとした雰囲気を醸し出す兄と比較されていたから可愛げがないと思われていただろうし。

「おい、後ろ!」
 アリアスの言葉に少なからずショックを受けていたヒビキに向けて鬼灯が大声を張り上げる。
 すでに鬼灯の体を包み込んでいた黒い幕は解けていて、杖をランテから受け取った鬼灯はドラゴンに向かって武器を構えていた。
 背後を振り向いたヒビキの側までドラゴンは迫っていた。
 真っ赤な炎に包まれている剣を構えて、咄嗟に姿勢を低くしたヒビキが前かがみになり地面を蹴りつける。
 凄まじい勢いで走り出したヒビキの体はドラゴンの真下を通過し、その背後に回り込む。
 右足を軸にして体を横に回転させたヒビキがドラゴンへと向き直り行き先を変える。
 地を蹴り付けて飛び上がりドラゴンの尻尾に足をかけて走りだす。ヒビキが背中を通過。
 続けてドラゴンの首の上を通り過ぎて、頭の上に移動すると頭に剣を突き刺そうとした。

「落雷!」
 ヒビキの行動を見ていたユキヒラがサヤの体を操って落雷を放つ。

「落雷!」
 サヤの落雷に落雷をあて打ち消すために、すぐさまヒナミが魔法を唱えた。
 ヒビキの頭上で魔法がぶつかり合い激しい爆風を引き起こす。
 ドラゴンの頭上で足を踏みしめ、爆風により体を弾き飛ばされる事がないように何とか耐える事に成功をしたヒビキが今度こそ、剣をドラゴンの頭に突き立てた。
 すると真っ赤な炎に包まれた剣が粒子へと変わり消えてしまう。
 
 シーンと周囲は静寂に包まれた。
 何故剣が消えたのか。
 周囲にいる誰もが剣の消滅に驚き状況を理解する事が出来ずにいる。
 呆然とヒビキを見つめていた。
 そんな中、唐突に木属性であるはずのドラゴンが真っ赤な炎をゴォオオオオと吐き出した。
 粒子となって消えたように思えたけれど、小さな粒は鱗のはがれたドラゴンの肌から体内へと浸入をして、やがて粒子はドラゴンの体内で真っ赤な炎に包まれた剣へと変化をする。
 そして、体内からドラゴンを焼き尽くし始めた。
 
 ドラゴンの体内を焼き尽くす炎を見てユキヒラが大きく舌打ちをする。
 内側から焼かれてしまうと、どうする事も出来ない。
 既に血まみれではあったけれど、回復魔法を使えばドラゴンを元の状態に戻す事が出来ると考えていた。
 ユキヒラが大きなため息を吐き出すとアリアスの槍を剣で弾き、のけぞったアリアスの腹部に蹴りを入れる。
 自分で蹴りを入れておきながら驚き、ぽかーんとした表情を浮かべてしまうほどアリアスの体は勢いよく遠くに飛ぶ。

 ぐぇっと声を上げたアリアスの体が地面に打ち付けられた。
 体重が魔族の40分の1。
 人間の10分の1程度しかないアリアスの体はゴロゴロゴロゴロと地面を転がって、やっと止まったと思った頃にはグルグルと目を回している状況にあった。

 ドラゴンの体内に武器があるため手ぶらになっているヒビキの姿を視界に入れて、攻撃をするチャンスだと判断をしたユキヒラが襲い掛かる。
 ドラゴンの尻尾に飛び乗ると全速力で駆け出した。
 背中を瞬く間に通過してドラゴンの首の上を通り、すぐ目の前に迫ったヒビキの体を真っ二つにするために剣を真横に振りきった。
 速攻を仕掛けたにも関わらず剣による攻撃は寸前のところで後方に大きく飛びのいたヒビキの行動により空振りに終わってしまう。

 接近戦を強いられているヒビキと、武器を持たない少年に襲いかかるユキヒラに視線が集まる中、朦朧としているギフリードに回復魔法をかける人物が現れた。

「ヒール」
 本当に小さな声で、ぽつりと呟いた青年はボロボロの布切れを纏い壊れた靴を身に着けている。
 折れた剣を背中に背負っていた。
 光属性の回復魔法がギフリードの体を包みこむ。
 闇属性を扱う魔族相手に光属性の回復魔法を使うと、逆にダメージを与えてしまうのではないのかなと不安を抱いていた青年の心配をよそに光属性の回復魔法は、しっかりとギフリードの傷を治し意識も回復させる。

「最近、暗黒騎士団に入った子ってどの子?」
 木陰からひょこりと顔だけを覗かせてギフリードに声をかけた人物は人間界を治める人物、国王だった。

「国王?」
 本来ならこのような場所にいるはずのない人物が唐突に目の前に現れたものだから、流石に驚きを隠す事が出来ずにいるギフリードが声を上げる。

「うん、そうだけど。で、最近暗黒騎士団に入った子ってどの子?」
 しかし、ギフリードは国王の質問を右から左へ聞き流してしまっている。

「国王は封印を受けているのでは?」
 確かに光の柱に閉じ込められて封印を受ける国王を見た。
 そのため、目の前にいる人物に疑いを抱くギフリードが問いかける。

「何故か分からないけど意識が戻ってね。柱の中で、じたばたと踠いていたら光の柱にひびが入ってね。割れて、そして脱出する事が出来たんだよ。で、最近暗黒騎士団に入った子ってどの子?」
 肩を震わせて笑う国王が封印が解けた事をギフリードに伝えて3度目となる質問をする。

「封印が解けたって、では魔王や妖精王の封印も?」
「魔王や妖精王の封印は解けていなかったよ。人間界から魔界へ通じるゲートを通って来たんだけどね。二人とも柱の中に閉じ込められていたよ。で、暗黒騎士団に入った子ってどの子?」
 4度目の国王の質問にやっと、ギフリードがユキヒラと戦っているヒビキを指さした。
 ギフリードの示した先にいる狐耳つきのフードを被り、ひざ下まである白いケープを纏っている少年を見つめて、あんぐりと口を開いた国王が肩を落とす。

「嘘でしょ」
 瞬きを繰り返して大きなため息を吐き出した国王が、ぽつりと呟いた。

「ここまで来て人違いでしたって笑えない。どうしよう、泣きそうなんだけど」
 力無く膝を折り、その場に頽れた国王が目元を右手で覆い隠してホロホロと泣きまねをする。

「あ、分かった。僕に嘘をついているんだね。ギフリードってば意地悪。本当の事を言ってよ。最近暗黒騎士団に入った子はどの子かな?」
 しかし、素早く顔を上げてギフリードの言葉を嘘と決めつけた国王が再び問いかける。

「いや、私は嘘は言っていないのだが」
 ヒビキに指先を向けたまま事実を告げるギフリードの言葉を国王は、やはり信じることが出来ない。

「本当に?」
 首を傾けて問いかける。

「あぁ」
 しっかりと首を縦に振って答えると、国王の表情から笑みが消える。

「本当に?」
 最後に一度だけ、ぽつりと言葉を漏らした国王にギフリードが大きく頷いた。
「あぁ」
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