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ドラゴンクエスト編
43話 合流
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谷間が見えていますよと言うべきか。
それとも見なかったフリをして視線を、ゆっくりと逸らすべきか。
押し倒されて狐面を奪われそうになっている状況にも拘わらずヒビキは、この場から逃げ出すと言う考えには至っていなかった。
そして、ヒビキの腹部に腰を下ろしたユキヒラも目の前の狐面に見入っているため、ヒビキの視線が胸元に向けられている事に気づいていない。
仰向けに横たわっているため、フードは外れてクリーム色の髪の毛があらわになっている。
狐面を奪われてしまえば種族が人間であると気づかれてしまう。
「おい、狐面を奪われるぞ」
谷間を眺めて思考を巡らるヒビキの頭を覚醒させようと声をかける人物がいた。
「早く戻ってこい。接近戦は苦手なんだ」
声を掛けられて、谷間から視線を逸らして声のする方に視線を向ける。
そこには、遠距離攻撃を得意とする魔術師の青年が接近戦を強いられており、ドラゴンの巨体に体当たりを受けて弾き飛ばされる姿があった。
地面に叩きつけられて勢いのまま転がった鬼灯が、ふらつきながらその場に立ち上がる。
痛みに耐えながら杖を構えるけど、すぐ目の前にドラゴンが迫っていた。
攻撃魔法を唱えるものの次から次へとドラゴンが攻撃を仕掛けてくるため、魔術を発動するために必要な集中力が散漫になっている。
ドラゴンの攻撃魔法、木のツルが鬼灯の体を串刺しにしようと次から次へと地面から突き出した。
それを、飛び跳ねながら後ずさる魔術師の青年はドラゴンの攻撃を避ける。
時には杖の先端で木のつるを弾き軌道を変えてやりながら。
「あ」
ヒビキの視線の先で全ての攻撃を避けきる事の出来なかった鬼灯の右腕を、地面から勢い良く突き出した木のつるが貫通する。
ぽつりと声を漏らしたヒビキの視線の先でドラゴンの体当たりを受けた鬼灯の体が弾き飛ばされて宙に浮く。
杖が鬼灯の手から滑り落ちて地面に落下する。
武器を持たず手ぶらになった鬼灯の体にドラゴンは、容赦する事なく尻尾を打ち付ける。
体に衝撃を受けて地面に叩きつけられた鬼灯にドラゴンが次の攻撃を仕掛けようと一歩足を踏み出した所で、ギフリードが掲げた腕を真下に振り下ろした。
様々な大きさのブラックボールがドラゴンに向かって降り注ぐ。
地面が砕け木々が溶け、ドラゴンの鱗をはがす。
闇属性の攻撃魔法は地面に倒れている鬼灯にも容赦なく降り注いだ。
土煙が周囲を覆い視界を悪くしているため、鬼灯の姿を確認する事が出来ない。
姿が見えないから不安になる。
ブラックボールが直撃をして真っ赤な血だまりの中に倒れこんでいる鬼灯の姿が頭の中を過る。
冷や汗が頬を伝う。
心臓がドキドキと高鳴り呼吸が乱れる。
「何をしてるの、ドラゴンがやられちゃうじゃん。早く暗黒騎士の足止めをしてよ!」
表情を強張らせるヒビキの腹部に腰を下ろしギフリードと対峙する女性を、ピシッと指さしたユキヒラが大声を張り上げた。
「落雷!」
強制的に身体を操られて、落雷を唱えたサヤの魔法攻撃がギフリードに降り注ぐ。
迷いの森の上空を覆った薄暗い雲から放たれる雷は漆黒の鎧を身に纏ったギフリードの体を見事に直撃。
凄まじい衝撃はギフリードの纏っている鎧を砕き、強烈な痛みがギフリードの全身を駆け巡る。
漆黒の鎧が砕かれた事により、手触りのよさそうな白い布があらわになる。
足首まである長い布はギフリードの体を包み込んでおり、今まで鎧の下になって見えていなかった銀色の長い髪の毛が姿を現した。
雷を受けた衝撃でゴムが切れてほどけてしまった髪の毛が下りると、その長さは腰まである事が分かる。
「へぇ、ギフリード様は長髪だったのね。綺麗な銀髪だわぁ」
迷いの森の上空で様子を見ていた調査員が、ムフフと奇妙な笑い声を上げながら黒い紙にギフリードの情報を記す。
ゆっくりと後ずさりをしたギフリードが、目蓋を閉じて体を駆け巡る痛みに耐える。
隙を見てヒビキが覆いかぶさっているユキヒラの体を強引に押しのけた。
見事に狐面を守り抜く。
外された紐を結び直して狐面をしっかりと装着する。
ギフリードの放った闇属性の攻撃魔法を受けて鱗が剥がれ落ち、血だらけになっているドラゴンの元に向かって走り出す。
右手を前に突き出して、粒子となって消えてしまった剣を呼び戻した。
目の前に出現した剣を手に取って、しっかりと握りしめ走るスピードを速める。
前方で蹲っている鬼灯は防御壁を張り、ギフリードの攻撃から身を守っていた。
地面を蹴り宙に浮かんだヒビキの体が鬼灯の上を通り過ぎる。
空中で体をひねりドラゴンの体を真っ二つに切り裂こうと試みる。
大きく振り上げた剣をドラゴンに向け振り下ろす。
しかし、ドラゴンを覆うようにして張られた防御壁はヒビキの剣を弾き、攻撃がドラゴンに直撃する事を防ぐ。
一体誰がドラゴンに防御壁を張ったのか。
背後を振り向いたヒビキの視界に、右手を突き出し大きなため息を吐き出しているユキヒラの姿が入り込む。
「落雷!」
ユキヒラがサヤの体を操りヒビキに向け落雷魔法を放つ。
「落雷!」
しかし、サヤの魔法を打ち消すように落雷魔法を唱えた人物がいた。
落雷魔法に落雷魔法が激突し、ヒビキの上空で激しい爆発がおこる。
爆風でヒビキの体は飛ばされて木に打ち付けられる寸前に、ヒビキの体を光の幕が包み込んだ。
光の幕のおかげで木に打ち付けられてもダメージのなかったヒビキが上空を見上げると、そこには見知った顔ぶれがあり、その中の一人。
銀色の鎧を身に纏っている髭面のおっさん騎士がヒビキの元に降り立った。
「ご無事ですか?」
真剣な面持ちを浮かべる男性騎士に声を掛けられているにも拘わらず、目を見開き口をパクパクと動かしているヒビキは混乱しているようで右往左往する。
フードを被っているため銀騎士からヒビキの顔は見えていないけれど、きっと素っ頓狂な表情を浮かべているであろう事は予想がつく。
「次の攻撃が来ますよ」
国王に仕える騎士。
特攻隊員である髭面のおっさん騎士が何故、魔界にいるのか状況を理解する前にヒビキに向かって次の攻撃が仕掛けられる。
ひげ面のおっさん騎士の視線の先には巨大な剣を振りかざして、今にもヒビキに向かって振り下ろそうとしているユキヒラの姿があり。
「お父さん、ヒビキお兄ちゃんを絶対に守ってね!」
「分かってるよ。ヒナミちゃんの為ならお父さん、なんだってしちゃうんだぞ」
落雷を受け朦朧とするギフリードを守るようにしてサヤの前に立ちはだかるヒナミが、ひげ面のおっさん騎士をお父さんと呼んだ。
「お父さん!?」
ここで、やっと髭面のおっさん騎士が何故魔界にいるのか、状況を理解したヒビキがアリアスを指さしてあんぐりと口を開く。
「おっと、まさかヒビキ様からお父さんと呼ばれる日が来るとは」
肩を震わせてニヤニヤと締まりの無い表情をするアリアスがヒビキを守るようにして、ユキヒラの前に立ちはだかる。
その背中には純白の大きな翼が生えていた。
振り下ろされた剣を槍で受け、ギフリードに視線を向けたアリアスが小さなため息を吐き出した。
「ギフリードが戦闘不能とは」
本来ならギフリードとアリアスの二人で、調査員が要注意人物として上げた人物であるユキヒラの相手をする事になっていた。
しかし、サヤの落雷を受け意識が確かではないギフリードは立っているのがやっと。
アリアスが来たことにより安堵したのか、二つに折れた木に背中を預けていたギフリードがガクッと膝を折ると、地べたに腰を下ろしてしまう。
「ここは俺が相手をするので、ヒビキ様はドラゴン討伐に集中をしてください」
ぐったりとしているギフリードが戦闘の出来る状態ではないことは明らか。
渋々とギフリードを呼ぶ事をあきらめて、一人でユキヒラの相手をする事を決めたアリアスがヒビキにドラゴンの元へ向かうように指示をだす。
「仲間の敵を討ってください。気を付けて」
「うん」
本当に小さな声でアリアスが呟いた言葉に、ヒビキが真剣な面持ちを浮かべて首を縦に振る。
「アリアスも気を付けて。木属性のドラゴンがいるって事は魔族に擬態しているようだけど、彼女は討伐隊の仲間を裏切ったユキヒラだと思うから」
小さな声で話すアリアスとヒビキの会話は、ユキヒラまでは届いていなかったようで
「ちょっと。目の前で、ひそひそと話さないでくれるかな。鬱陶しいなぁ」
不機嫌な表情を浮かべるユキヒラが剣で、アリアスの槍を弾く。
「ちょっと待て。どうして、中性的なアレが女だと分かった?」
槍を弾かれたけれどアリアスの集中は別の所に向いているようで、ユキヒラを指さしてアレと言ったアリアスにヒビキが小さく頷いた。
「さっき、押し倒された時に胸の谷間が見えていたから」
アリアスの問いかけに対してヒビキが、ユキヒラにも聞こえる程の大きさで返事をしてしまったため、ガバッと頭を下げて自分の胸元に視線を向けたユキヒラが大きく目を見開いた。
「あ……」
しまったと思った時には時すでに遅かった。
ぽつりと声を漏らしたヒビキの目の前で、頭から湯気が出るんじゃないのかと思えるほど顔を真っ赤にしたユキヒラが、鬼のような形相を浮かべてヒビキを睨みつけている。
「切り裂いてやる」
ユキヒラが口を開けば、全く感情のこもっていない淡々とした口調で言葉が放たれる。
冷や汗をだらだらと流すヒビキは、素早く身を翻してユキヒラに背を向けるとこの場から逃げ出した。
「アリアス後は頼んだ」
言葉を残したヒビキにアリアスは肩を震わせて笑っている。
逃げるようにしてユキヒラの前から立ち去ったヒビキはドラゴンと鬼灯に集中を移す。
怪我をして蹲る鬼灯の元へは回復魔法が得意なランテが降り立っていた。
それとも見なかったフリをして視線を、ゆっくりと逸らすべきか。
押し倒されて狐面を奪われそうになっている状況にも拘わらずヒビキは、この場から逃げ出すと言う考えには至っていなかった。
そして、ヒビキの腹部に腰を下ろしたユキヒラも目の前の狐面に見入っているため、ヒビキの視線が胸元に向けられている事に気づいていない。
仰向けに横たわっているため、フードは外れてクリーム色の髪の毛があらわになっている。
狐面を奪われてしまえば種族が人間であると気づかれてしまう。
「おい、狐面を奪われるぞ」
谷間を眺めて思考を巡らるヒビキの頭を覚醒させようと声をかける人物がいた。
「早く戻ってこい。接近戦は苦手なんだ」
声を掛けられて、谷間から視線を逸らして声のする方に視線を向ける。
そこには、遠距離攻撃を得意とする魔術師の青年が接近戦を強いられており、ドラゴンの巨体に体当たりを受けて弾き飛ばされる姿があった。
地面に叩きつけられて勢いのまま転がった鬼灯が、ふらつきながらその場に立ち上がる。
痛みに耐えながら杖を構えるけど、すぐ目の前にドラゴンが迫っていた。
攻撃魔法を唱えるものの次から次へとドラゴンが攻撃を仕掛けてくるため、魔術を発動するために必要な集中力が散漫になっている。
ドラゴンの攻撃魔法、木のツルが鬼灯の体を串刺しにしようと次から次へと地面から突き出した。
それを、飛び跳ねながら後ずさる魔術師の青年はドラゴンの攻撃を避ける。
時には杖の先端で木のつるを弾き軌道を変えてやりながら。
「あ」
ヒビキの視線の先で全ての攻撃を避けきる事の出来なかった鬼灯の右腕を、地面から勢い良く突き出した木のつるが貫通する。
ぽつりと声を漏らしたヒビキの視線の先でドラゴンの体当たりを受けた鬼灯の体が弾き飛ばされて宙に浮く。
杖が鬼灯の手から滑り落ちて地面に落下する。
武器を持たず手ぶらになった鬼灯の体にドラゴンは、容赦する事なく尻尾を打ち付ける。
体に衝撃を受けて地面に叩きつけられた鬼灯にドラゴンが次の攻撃を仕掛けようと一歩足を踏み出した所で、ギフリードが掲げた腕を真下に振り下ろした。
様々な大きさのブラックボールがドラゴンに向かって降り注ぐ。
地面が砕け木々が溶け、ドラゴンの鱗をはがす。
闇属性の攻撃魔法は地面に倒れている鬼灯にも容赦なく降り注いだ。
土煙が周囲を覆い視界を悪くしているため、鬼灯の姿を確認する事が出来ない。
姿が見えないから不安になる。
ブラックボールが直撃をして真っ赤な血だまりの中に倒れこんでいる鬼灯の姿が頭の中を過る。
冷や汗が頬を伝う。
心臓がドキドキと高鳴り呼吸が乱れる。
「何をしてるの、ドラゴンがやられちゃうじゃん。早く暗黒騎士の足止めをしてよ!」
表情を強張らせるヒビキの腹部に腰を下ろしギフリードと対峙する女性を、ピシッと指さしたユキヒラが大声を張り上げた。
「落雷!」
強制的に身体を操られて、落雷を唱えたサヤの魔法攻撃がギフリードに降り注ぐ。
迷いの森の上空を覆った薄暗い雲から放たれる雷は漆黒の鎧を身に纏ったギフリードの体を見事に直撃。
凄まじい衝撃はギフリードの纏っている鎧を砕き、強烈な痛みがギフリードの全身を駆け巡る。
漆黒の鎧が砕かれた事により、手触りのよさそうな白い布があらわになる。
足首まである長い布はギフリードの体を包み込んでおり、今まで鎧の下になって見えていなかった銀色の長い髪の毛が姿を現した。
雷を受けた衝撃でゴムが切れてほどけてしまった髪の毛が下りると、その長さは腰まである事が分かる。
「へぇ、ギフリード様は長髪だったのね。綺麗な銀髪だわぁ」
迷いの森の上空で様子を見ていた調査員が、ムフフと奇妙な笑い声を上げながら黒い紙にギフリードの情報を記す。
ゆっくりと後ずさりをしたギフリードが、目蓋を閉じて体を駆け巡る痛みに耐える。
隙を見てヒビキが覆いかぶさっているユキヒラの体を強引に押しのけた。
見事に狐面を守り抜く。
外された紐を結び直して狐面をしっかりと装着する。
ギフリードの放った闇属性の攻撃魔法を受けて鱗が剥がれ落ち、血だらけになっているドラゴンの元に向かって走り出す。
右手を前に突き出して、粒子となって消えてしまった剣を呼び戻した。
目の前に出現した剣を手に取って、しっかりと握りしめ走るスピードを速める。
前方で蹲っている鬼灯は防御壁を張り、ギフリードの攻撃から身を守っていた。
地面を蹴り宙に浮かんだヒビキの体が鬼灯の上を通り過ぎる。
空中で体をひねりドラゴンの体を真っ二つに切り裂こうと試みる。
大きく振り上げた剣をドラゴンに向け振り下ろす。
しかし、ドラゴンを覆うようにして張られた防御壁はヒビキの剣を弾き、攻撃がドラゴンに直撃する事を防ぐ。
一体誰がドラゴンに防御壁を張ったのか。
背後を振り向いたヒビキの視界に、右手を突き出し大きなため息を吐き出しているユキヒラの姿が入り込む。
「落雷!」
ユキヒラがサヤの体を操りヒビキに向け落雷魔法を放つ。
「落雷!」
しかし、サヤの魔法を打ち消すように落雷魔法を唱えた人物がいた。
落雷魔法に落雷魔法が激突し、ヒビキの上空で激しい爆発がおこる。
爆風でヒビキの体は飛ばされて木に打ち付けられる寸前に、ヒビキの体を光の幕が包み込んだ。
光の幕のおかげで木に打ち付けられてもダメージのなかったヒビキが上空を見上げると、そこには見知った顔ぶれがあり、その中の一人。
銀色の鎧を身に纏っている髭面のおっさん騎士がヒビキの元に降り立った。
「ご無事ですか?」
真剣な面持ちを浮かべる男性騎士に声を掛けられているにも拘わらず、目を見開き口をパクパクと動かしているヒビキは混乱しているようで右往左往する。
フードを被っているため銀騎士からヒビキの顔は見えていないけれど、きっと素っ頓狂な表情を浮かべているであろう事は予想がつく。
「次の攻撃が来ますよ」
国王に仕える騎士。
特攻隊員である髭面のおっさん騎士が何故、魔界にいるのか状況を理解する前にヒビキに向かって次の攻撃が仕掛けられる。
ひげ面のおっさん騎士の視線の先には巨大な剣を振りかざして、今にもヒビキに向かって振り下ろそうとしているユキヒラの姿があり。
「お父さん、ヒビキお兄ちゃんを絶対に守ってね!」
「分かってるよ。ヒナミちゃんの為ならお父さん、なんだってしちゃうんだぞ」
落雷を受け朦朧とするギフリードを守るようにしてサヤの前に立ちはだかるヒナミが、ひげ面のおっさん騎士をお父さんと呼んだ。
「お父さん!?」
ここで、やっと髭面のおっさん騎士が何故魔界にいるのか、状況を理解したヒビキがアリアスを指さしてあんぐりと口を開く。
「おっと、まさかヒビキ様からお父さんと呼ばれる日が来るとは」
肩を震わせてニヤニヤと締まりの無い表情をするアリアスがヒビキを守るようにして、ユキヒラの前に立ちはだかる。
その背中には純白の大きな翼が生えていた。
振り下ろされた剣を槍で受け、ギフリードに視線を向けたアリアスが小さなため息を吐き出した。
「ギフリードが戦闘不能とは」
本来ならギフリードとアリアスの二人で、調査員が要注意人物として上げた人物であるユキヒラの相手をする事になっていた。
しかし、サヤの落雷を受け意識が確かではないギフリードは立っているのがやっと。
アリアスが来たことにより安堵したのか、二つに折れた木に背中を預けていたギフリードがガクッと膝を折ると、地べたに腰を下ろしてしまう。
「ここは俺が相手をするので、ヒビキ様はドラゴン討伐に集中をしてください」
ぐったりとしているギフリードが戦闘の出来る状態ではないことは明らか。
渋々とギフリードを呼ぶ事をあきらめて、一人でユキヒラの相手をする事を決めたアリアスがヒビキにドラゴンの元へ向かうように指示をだす。
「仲間の敵を討ってください。気を付けて」
「うん」
本当に小さな声でアリアスが呟いた言葉に、ヒビキが真剣な面持ちを浮かべて首を縦に振る。
「アリアスも気を付けて。木属性のドラゴンがいるって事は魔族に擬態しているようだけど、彼女は討伐隊の仲間を裏切ったユキヒラだと思うから」
小さな声で話すアリアスとヒビキの会話は、ユキヒラまでは届いていなかったようで
「ちょっと。目の前で、ひそひそと話さないでくれるかな。鬱陶しいなぁ」
不機嫌な表情を浮かべるユキヒラが剣で、アリアスの槍を弾く。
「ちょっと待て。どうして、中性的なアレが女だと分かった?」
槍を弾かれたけれどアリアスの集中は別の所に向いているようで、ユキヒラを指さしてアレと言ったアリアスにヒビキが小さく頷いた。
「さっき、押し倒された時に胸の谷間が見えていたから」
アリアスの問いかけに対してヒビキが、ユキヒラにも聞こえる程の大きさで返事をしてしまったため、ガバッと頭を下げて自分の胸元に視線を向けたユキヒラが大きく目を見開いた。
「あ……」
しまったと思った時には時すでに遅かった。
ぽつりと声を漏らしたヒビキの目の前で、頭から湯気が出るんじゃないのかと思えるほど顔を真っ赤にしたユキヒラが、鬼のような形相を浮かべてヒビキを睨みつけている。
「切り裂いてやる」
ユキヒラが口を開けば、全く感情のこもっていない淡々とした口調で言葉が放たれる。
冷や汗をだらだらと流すヒビキは、素早く身を翻してユキヒラに背を向けるとこの場から逃げ出した。
「アリアス後は頼んだ」
言葉を残したヒビキにアリアスは肩を震わせて笑っている。
逃げるようにしてユキヒラの前から立ち去ったヒビキはドラゴンと鬼灯に集中を移す。
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