それは、偽りの姿。冒険者達の物語

しなきしみ

文字の大きさ
上 下
40 / 148
ドラゴンクエスト編

39話 調査員の元へ

しおりを挟む
 20歳になったら性別は男にするとノエルは将来の性別を既に決めていた。
 強くなって母ちゃんを守るんだと言ったノエルに母親は、お母さんの事はいいからノエルよりも小さな子をモンスターや悪い人から守ってあげなさいと言い聞かせていた。
 ランテの元に移動をしたギフリードを追って、ヒビキの元を離れたノエルの行動には室内に居た誰もが驚愕きょうがくした。
 テーブルを隔て向かい合うように腰を下ろしている鬼灯とヒビキの視線がノエルに向けられる。

 クエストの詳細を読み上げていたギフリードの表情が見事に固まった。
 視線を用紙に向けたまま身動きを止める青年の姿を物珍しいと、眺めていたランテが小刻みに肩を震わせている。
 クスクスと笑い始めたランテに見向く所かノエルの方へ視線を向ける事なく、用紙を眺め続けるギフリードに室内に居る全員の視線が向けられる。
 薄い緑色の瞳は揺らぐ事なく一点を見つめていた。
 視線がノエルに向けられる事はない。
 時間だけが経過する。
 胸の高さで真っすぐギフリードに向けた腕を伸ばし、維持いじをしているためノエルの腕がプルプルと小刻みに震えだす。
 伸ばした右腕だけ疲労感に襲われていた。

 少しずつギフリードに向けられていた指先が、下へ下へと向けられる。
 完全にノエルの指先が床に向いた所で、やっとギフリードが考えを述べるため口を開く。

「闇属性と光属性は相性が悪いからな。教わるのなら私よりも、君と同じ種族であるアリアスに学んだ方が良いと思うが?」
 淡々とした口調で考えを述べたギフリードにノエルが瞬きを繰り返す。

「アリアスは強いのか?」
「あぁ、攻撃力は私よりも強いぞ。ただ、避けるって言葉を知らないのか馬鹿正直に敵に突っ込んでいくがな」
 クエストの詳細を眺め続けるギフリードが用紙から視線を外す事なく言葉を続ける。

「そうね。アリアスは馬鹿正直だけど強いのよ。ノエル君の種族は天使だからアリアスに魔法の使い方を学んだ方がいいわね。攻撃を回避する方法は私が教えてあげるからね」 
 ギフリードとランテ、二人が勧めるアリアスと言う人物に興味を持ったノエルが大きく頷いた。
「分かった。アリアスとランテから魔法や戦い方を習う事にする!」

 ギフリードがノエルに指を差された状態で身動きを止めてしまった時にはどうなる事やらと思っていた。
 ヒビキや鬼灯の目の前で話が纏まったようで室内に少しずつ会話が戻る。

「どうやら、ノエルの面倒はランテとアリアスが見る事に決まったようだな」
「うん」
 事の成り行きを見守っていた鬼灯が安堵する。
 テーブルを隔て向かい側に座るヒビキに声をかけて見るものの、首を上下に動かしただけのヒビキの反応に会話は終了をしてしまう。

「ドラゴン討伐のクエストが終わり次第アリアスを家に帰す事にしよう」
 ギフリードの部下であるアリアスは魔王の指示により数年前から魔界を離れていた。
 一時帰宅をするのは一年に一度だけ。
 旦那を魔界へ戻し家に帰すと言ったギフリードの言葉に一番驚いているのはランテではなく、ヒビキの隣に腰を下ろしているヒナミだった。
 目を見開き、あんぐりと口を開いていたヒナミがギフリードに笑みを向ける。 

「お父さんと久しぶりに会える。ありがとう、黒いお兄ちゃん」
 漆黒の鎧を身に纏うギフリードを黒いお兄ちゃんと呼んだヒナミにヒビキが視線を向ける。

「黒いお兄ちゃん?」
 ヒナミの言葉を復唱したヒビキに鬼灯が頷いた。 

「ギフリードの事を黒いお兄ちゃんと呼ぶのは、きっとヒナミだけだよな」
「確かに暗黒騎士団の隊長を黒いお兄ちゃんと呼ぶのは、ヒナミくらいだな」
 ヒビキが鬼灯の言葉に同意する。

 お礼を口にしたヒナミに視線を向けて小さく頷いたギフリードの元へ、ユキヒラとサヤの動向を探っていた暗黒騎士団の調査員から一枚の手紙が届く。
 手のひらサイズの黒い紙に白い文字が大きく記されていた。



 ばれた



 たった3文字だけ。
 用紙に記された文字の形は随分と崩れていた。
 動向を探っていた事が要注意人物であるユキヒラに気づかれてしまった事を記した手紙だった。
 いつもは長文で埋め尽くされた手紙を送ってくる調査員が今回、単語だけを書き手紙を飛ばした。
 それほど、緊迫した状況にいる事が分かる。

「急用が出来た、この手紙をアリアスの元へ届けてくれないか? 調査員から届いた情報を少しずつ、まとめて書き記しておいたから。私は調査員の元へ向かう事にする」
 ランテに向け指示を出したギフリードが玄関に向け足を進めている。
 急ぐギフリードに
「えぇ、分かったわ」
 真剣な顔をするランテが手紙を受け取り頷いた。
 玄関に向け足を進めるギフリードの背中を見送っていたヒビキが鬼灯と顔を見合わせる。

「ついていくか?」
 鬼灯の問いかけに対して状況を理解していないにも関わらず、ヒビキが首を上下に動かすと下ろしていた腰を上げる。

「ギフリードには、お世話になっているからな。何か手伝える事があるか聞こう」
 走ってギフリードの後を追う鬼灯とヒビキをノエルが追いかけようとする。
 しかし、ノエルは魔法の使い方を知らない子供のためランテとヒナミが慌ててノエルの行く手を阻む。

 玄関を抜けた先でヒビキがギフリードに追いついた。

「何か手伝える事は?」
 急いでいるギフリードの歩く速さは、いつもの3倍。
 今にも空へと飛びあがりそうなギフリードにヒビキが問いかける。

「手を貸して欲しい」
 手を貸して欲しいと言葉を続けたギフリードにヒビキは頷いた。

「分かった」

「鬼灯も一緒に来てくれるか?」
 遅れて家から出てきた鬼灯にギフリードが問いかける。

「あぁ、もちろん。そのつもりだ」
 先に飛行術を使って空へと飛び上がったヒビキとギフリードの後を鬼灯が追いかける。

「ほら、これがあった方が良いだろ?」
 家を抜け出すさい、ヒナミの部屋に寄って狐面を手にした鬼灯が特殊な効果を持つ狐面をヒビキに差し出した。
 咄嗟にギフリードの後を追ったため狐面の事を忘れていたヒビキが苦笑する。

「ごめん、すっかり忘れてた」
 ボスモンスター討伐隊として行動をしている時は常に身に着けていた狐面は、魔界に来てからはほとんどヒナミの寝室にある棚の上に置きっぱなしの状態だった。
 使ったのは980レベルのトロールが現れた時の一度だけ。
 気を利かせて狐面を持ってきた鬼灯に感謝をしながら狐面を受け取ったヒビキは、ちょっとの衝撃では外れる事がないように面を身に着けると後頭部に紐を回し、しっかりと結ぶ。

「スピードを上げてもいいか?」
 ギフリードの問いかけに対して
「いいよ。もっと早く飛べる」
「俺も」
 ヒビキと鬼灯が、ほぼ同時に頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかば🌱
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...