それは、偽りの姿。冒険者達の物語

しなきしみ

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ドラゴンクエスト編

37話 ユキノス

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 玄関ホールから洗面所まで向かっている間に嘔吐してしまう事は予想がつく。
 城内は入組んでいるため吐き気を催している青年を一人で、お手洗いに向かわせても途中で迷子になるだろう。
 外へ出てもらおうかなと思い城の外へ視線を向ける。
 城の外には多くの魔族達が魔王封印の知らせを聞きつけ、周辺を囲んでしまっている。
 突然ゲートを通って現れた青年の種族は人間。
 城の外へ青年を連れて行けば瞬く間に魔族達が襲いかかるだろう。

「人の肝は美味びみと聞くからねぇ」
 頭の中で考えていた事を猫耳が印象的な女性が中途半端に口に出してしまう。

「へ?」
 唐突に人の肝は美味だと呟いた女性の独り言を国王は聞き逃さなかった。
 唖然とする国王が、間の抜けた声を出す。
 吐き気をこらえることに必死になっていたため、自分の目の前に佇んでいる人物の姿を一切見ていなかった。
 視線を上げて目の前の人物に視線を向ける。
 ピーンと立った手触りの良さそうな、ふさふさの猫耳。
 茶色の毛並みをした活発そうな女性の種族は猫又か?
 カーキ色のコートを身に纏っているため尻尾を確認することが出来ない。
 猫又が力を持ち魔物として成長し、さらに魔物から人形の魔族として成長した彼女は人間など一溜りもないくらい強いだろう。
 目の前に佇む魔族に恐怖心を抱いた国王の吐き気は、一瞬にしておさまった。

 初対面の魔族を目の前にして、表情を強ばらせた国王がボロボロの服のポケットの中をあさると、二本の白い角を取り出す。
 二本の白い角は12年ほど前に人間界に迷いこんだCランクの魔族が落としたものだった。
 確か、4歳だったヒビキが森の中に迷いこんだ時に遭遇をしたんだよね。
 二本の白い角を、猫耳が印象的な女性の目の前につきだした。

「朝起きたら角が二本とも取れててさぁ。いやぁ、参ったねぇ」
 国王が冷や汗を、だらだらと流しながら苦笑する。
 人間界で角をつけてから魔界に移動するべきだったと、今頃になって後悔をしていた。
 角をつけていない姿を猫耳が印象的な女性に見られてしまっているため、この場で角をつけることが出来ない。
 角を握りしめた国王の手が、がくがくブルブルと震えている。

「お兄ちゃん。それは、無理があると思うよ」
 猫耳が印象的な女性は知能がある。素直に騙されてはくれなかった。
 流石にそれで騙される者はいないだろうと言葉を続ける。
 国王も流石に今の言い訳は通じるわけがないと言った側から後悔をしていたため、大きなため息を吐き出すと二本の角をポケットの中にしまう。

「あぁ、僕の人生もこれで終わりかぁ。最後は魔族に食べられる運命だったんだなぁ」
 目蓋を閉じて覚悟を決めた国王が口を開く。
 ヒビキの無事な姿を一目でいいから見たかった。心配していたことを素直に伝えてみたかった。

「痛いのは嫌だな。出来れば、痛くしないでね」
 か細い声で言葉を続けた国王の態度に、猫耳が印象的な女性がグフッと吹き出した。

「随分と面白いお兄ちゃんだね。私は人を食べないよ。まぁ、魔族の中には見境のない下品な連中もいるけどね。私は、そんな連中とは違うからね」
 ニャハハハと大声を出して笑う女性が、はっきりと自分は人を食べる事はしないと言い切った。
 女性の言葉を鵜呑うのみにしても良いものか。
 猫耳が印象的な女性の言葉を、すぐには信用をする事が出来ず警戒を解くことが出来ない。
 魔族は平気で嘘をつくと言うけれど、女性からは殺気は感じられない。

「信用してもいいの?」
 警戒心を解く事が出来ずに恐る恐る問いかけた国王に、猫耳が印象的な女性が満面の笑みを浮かべて呟いた。

「信用してよ。自己紹介をするとね、私は暗黒騎士団No.3のユキノスだよ宜しくね」
 握手を求めてユキノスが国王の前に手を差し出した。

「暗黒騎士団って事はギフリードの部下ってこと?」
 国王が以前、人間界で出会った銀髪の青年を思いだして問いかける。
 ユキノスと握手をかわした国王は漆黒の鎧を身に纏った魔族の青年の姿を思い浮かべた。

「お兄ちゃん、ギフリード様の事を知っているの?」
 ユキノスの猫耳がピーンと天井に向かって真っ直ぐ立つ。
 青年の口から思わぬ人物の名前が出たため、目を大きく見開いている。

「以前、人間界で会ったからね」
 キョトンとするユキノスに視線を向けてクスクスと肩を震わせる。

「あ、自己紹介がまだだったね。僕はユタカって言います。宜しくね」
 ユキノスの名前だけを聞き、自分の名前を名乗る事を忘れていた。
 我に返った国王が慌てて自己紹介をする。
 深々と頭を下げるとユキノスがウニャと笑みを浮かべて頷いた。

「ギフリード様の知り合いなら安心だね。お兄ちゃんの事を信用するね」
 ユキノスも国王と同じく突然、姿を現した人間に対して警戒心を抱いていた。
 目の前で佇む人間がギフリードの知り合いだと知り警戒心を解く。
 今まで周囲を見渡している余裕が無かったけどユキノスの身元が分かり、周囲を見渡す余裕が出来た国王が室内を見渡した。
 室内にはキラキラと光輝く粒子が無数に漂っている。
 城を取り囲むようにして張り巡らされている結界は城内への侵入者を防ぐ役目を果たしていた。
 外は日が昇り始めているようで、うっすらと明るい。夜明けを迎えようとしていた。
 室内にはユキノスと自分以外にも二人の人物がいることに気がついた。
 視線を上げると光の柱に閉じ込められている女性と、中性的な顔立ちの青年の姿がある。
 封印を受けている人物を見上げているとユキノスがユタカの隣に移動する。

「魔王と妖精王だよ」
 宙に浮かんでいる人物の紹介をしてくれる。

「長い黒髪が顔を覆い隠しちゃっているから今は見えないけど私達、暗黒騎士団のあるじである、魔王は凄く美人さんなんだよ」

「美人さんか見てみたいなぁ。魔王って女性が務めていたんだね。てっきり、がたいの良い男性が務めているものだと思ってた」
 髪の毛で顔が隠れてしまっているのがしい。
 てっきり魔王を務めているのは男性だと思っていたけれど、女性が務めている事を知り驚いた。

「彼女が魔王って事は、隣の中性的な人が妖精王?」
 魔王から視線をはずして薄い緑色の髪の毛、白い服を身に纏った人物を眺めて問いかける。

「うん。魔王が助っ人として呼んだ妖精王。彼は見ての通り中性的な顔立ちの美人さんだよね」
 女性が大きく頷いた。

「妖精王って確か800年前に人間界を滅ぼしかけたという?」
 人間界にある絵本の中に登場する妖精王は、巨人だったり醜い姿で描かれている事が多い。
 8000年以上の年月を生き抜いてきた妖精王は、てっきり白髪の老人か又は見るも恐ろしい容姿をしているのだろうと思っていた。

「そうだよ」
 目の前で浮かんでいる人物が絵本に描かれているような恐ろしい人物には思えなくて、問いかけると女性が首を縦にふる。

「若いね、本当に彼が妖精王なの?」
 光の柱に閉じ込められて時を止めている人物の年齢は、見た目から言うと20代後半。
 何千年も生きぬいてきたようには思えない。

「妖精は長寿だけど見た目は若いと言うからねぇ」

「見た目と実年齢は比例しないってこと?」

「うん、そう言うこと」
 ユキノスがウニャと笑みを浮かべて頷いた。

「彼が封印を受ける前に一度だけドワーフの塔で見かけたことがあったんだけど、面倒見のいいお兄さんって印象を受けたよ」

「へぇ、魔王も妖精王も想像していた人物とは違うね。封印が解けてから、もう一度お目にかかりたいね」

「封印が解けたら、すぐに情報が街全体にいきわたるとおもうよ。そうしたら、またお城においでよ!」

「うん、そうする」
 宙に浮かんだまま時を止めている2人を眺めながらコクリと頷いた。



 国王が魔界へ到着し、ユキノスから魔界の情報を聞いている頃。
 ピンク色のソファーに体を深く預けて眠りについていたヒビキが、ゆっくりと体を起こしていた。
 目蓋を閉じたままの状態で両腕を上げて伸びをする。
 ヒビキの腹部に頭を乗せて眠りについていた天使の子供が、ごろんと床に転がり落ちた。
 床に頭を打ち付けて痛みで覚醒をした天使の子供が目を大きく見開いた。
 敵襲かと勘違いをして恐怖心を抱き、慌てて体を起こして周囲を見渡している。

「あ、ごめん」
 両腕を伸ばし腰を伸ばしたままの状態で天使の子供を眺めていたヒビキが、ぽつりと呟いた。
 がちゃりと音を立て扉を開き室内に足を踏み入れたランテが床に腰を下ろし、ぽかーんと気の抜けた表情を浮かべている天使の子供に気づく。

「あらあら」
 クスクスと肩を震わせて笑うランテが、子供の両脇に手を差し込んで持ち上げるとヒビキの元へ歩み寄る。

「はい」
 満面の笑みを浮かべながら天使の子供をヒビキのお腹の上に乗せると天使の子供が、ぴとっとヒビキに身を寄せた。
 少し離れた位置で状況を眺めていた鬼灯が肩を小刻みに震わせる。

「鬼灯お兄ちゃん笑いすぎだよ」
 鬼灯の隣に腰を下ろしていたヒナミが小さな声で呟いた。声を上げることなく、静かに笑っていた鬼灯が大きく息を吸い込むと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

「子供とはいえ腹の上に人一人をのせたまま、よく熟睡する事ができるなと関心していれば。唐突に覚醒して身動きを取り腹の上の子供を床に落とすから」
 ふぅと息を吐き出して気持ちを落ち着かせた鬼灯が苦笑する。
 声のする方へと視線を向けると鬼灯とヒナミとギフリードの3人がテーブルの上に資料をいくつか広げて、ドラゴンクエストについての作戦を練っていたようで、テーブルを囲みながら床に腰を下ろしている3人の視線が真っ直ぐヒビキに向いていた。
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