それは、偽りの姿。冒険者達の物語

しなきしみ

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ドラゴンクエスト編

33話 ユキヒラとサヤ

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 グールは屍肉しか食べない。
 冷静にしていれば生者にとって害のないアンデッド系モンスターである事が分かるはずだが、街はグールの突然の出現に騒然そうぜんとなる。
 中には我先にと逃げ出す者も現れた。
 そんな中で迷いの森からの帰り道、偶然グールに囲まれて身動きの取れなくなっている二人を発見した暗黒騎士団の調査員が、通行人を装ってユキヒラの会話をコッソリと盗み聞きしている。
 仲間に責められて青白い顔をする女性を不便ふびんに思っていた。
 白を基調とした服装を身に纏う女性は、頭に真っ赤な角を生やしている。
 背中には黒いコウモリのような羽がはえており時折、パタパタと羽ばたかせる。
 髪を一つに結んだ魔族は吸血鬼か?

 吸血鬼の数は少なくて、なかなか目にする事は出来ない。
 勝手に見た目から女性の種族を予想した調査員が首を傾ける。
 黒い羽は吸血鬼のものによくにていた。
 しかし、吸血鬼は真っ赤な角を生やしている種族ではない。
 他に当てはまる種族が思い浮かばないため、調査員は黒い紙に吸血鬼と思われる種族発見と書き記す。

 グールに囲まれている二人組の冒険者を発見。女性は魔術師。性別不明の中性的な顔立ちをした人物は剣士と白い文字で情報を書き込んでいく。

 彼女と同じように頭に赤い角を生やす、見た目からは性別が判断できない人物も、きっと吸血鬼と思われる。
 何故屍肉しか食らわないグールに2人が囲まれているのか、調査員は理解に苦しんでいた。
 念のためギフリードに知らせておくかと、不可解な状況を事細かに真っ黒い紙に白いペンで書き記す。

 迷いの森では巨大なドラゴンと鉢合わせするわ、街に戻ってきたら大量のグールが徘徊しているわ、魔王が封印を受けたこともあるし世の中では何が起こっているのか。
 多少の愚痴を紙に書き込むと調査員は指先に魔力を集中し、紙を転移させる。



 調査員の能力は離れた位置にいる対象の人物に情報を与えるもの。
 紙を転移させる能力を持っていた。
 街中で壊れた建物や穴が開き凸凹になった地面を直すギフリードの元に瞬時に情報が届けられる。
 指先に出現した紙を手に取り眺めるギフリードが、本来なら代金を支払って手に入れなけれはならない情報を、あっさりとヒビキに手渡した。
 子供を腹部に巻き付けたまま紙を受け取ると、走り書きされた文字を読み始める。
 鼻水をすすり泣きながら離れようとしない子供の背中をヒビキは優しく、ぽんぽんと叩いていた。

「探しているドラゴンか?」
 無言で手紙を読み続けていたヒビキにギフリードが問いかける。

「その可能性は高いと思う」
 ヒビキは読み終えた手紙をギフリードに返すと、大きく頷いた。

「近々、討伐に向かう事にしよう。魔王が封印を受けてる以上、1名は騎士を城に残したい。手を貸せるのは私と、もう一人攻撃に特化した者の2名だけだが」

「手伝ってくれるのか?」
 魔王が封印されてしまった以上、魔王に仕える騎士を遠出させる訳にも行かない。
 鬼灯と二人で倒す事になるだろうと考えていたヒビキがギフリードの言葉を聞き、あんぐりと口を開く。 

「私は元から、そのつもりだが?」
 初めてギフリードと会話した時の事を思い出す。
 宴会会場で初めて挨拶を交わした時と同じように、ギフリードは爽やかな笑顔を浮かべていた。

「ギフリードも手伝ってくれる事だし、今度こそドラゴンを倒そうな」
 隣で佇む鬼灯に声をかけられる。真剣な面持ちだった。

「絶対に倒すよ」
 ヒビキが大きく頷く。
 鬼灯と同じように真剣な面持ちを浮かべていた。
 しかし、二人ともフードを深く被っているため表情が読み取れない。

「調査員には、このまま街中でグールに囲まれる2人組を追ってもらう」
「あぁ、頼む」
 ギフリードが調査員の持ち物である真っ黒い紙に指示を書き記す。
 鬼灯が大きく頷いた。
 指定の紙に新たに文字が書き込まれると自動的に紙は持ち主の元へ戻る事になっている。
 ギフリードが新たに文字を書き加えた事により、手紙は調査員の元へ転移した。



 二人組の追跡と手紙には丁寧な文字が記されていた。
 調査員にサヤとユキヒラの追跡の指示が下される。
 調査員がグールに囲まれる2人組を見つめていると、女性が高く杖を掲げる。

「一撃で全てを倒してよねぇ」
 見た目からは性別を判断する事の出来ない中性的な顔立ちをした人物が、大きなため息を吐き出した。
 仲間と思わしい女性に魔力を与え始める。

「落雷!」
 女性が大声で雷属性の呪文を唱え出し、魔力を杖に纏わせる。グールに向け、杖の先端を向けると落雷の魔法を放つ。
 暗闇に包まれていた空に突然、稲妻が走り雷が落ちグールの体を打ち砕く。
 雷属性の魔法を使う女性を眺めながら、調査員は黒い紙に文字を書き連ねる。
 雷属性の魔法を使う種族は人間や天使のみ。
 一度に周囲のグールを打ち砕いた。
 莫大な魔力の量に調査員は恐れを抱く。
 魔力の持ち主は中性的な顔立ちの人物のもので見たところ女性は、ただ操られているだけのように思える。
 莫大な量の魔力を女性に注いでも、けろっとした表情を浮かべる人物を調査員が要注意人物として大きく紙に書き記す。
 指先に魔力を集中させて手紙をギフリードの元に飛ばした調査員は、移動を開始した2人組の後を追いかける。

 指先に出現した紙を手に取り眺めているギフリードは、ヒビキや鬼灯につれられてヒナミの家に足を踏み入れた。
 部屋の片隅で壁に背中を預けて佇んでおり、要注意人物として描かれている人物像を記憶する。
 本来なら高額な情報料を支払って手にすることの出来る情報を側にいる鬼灯に伝える。 
 手紙を受け取り描かれている人物像を見た鬼灯の表情が曇った。

「どうかしたか?」
 神妙な顔をする鬼灯を心配したギフリードが声をかける。

「知ってる奴に似ていたから驚いて、でも俺の知ってる奴は人間だから」
 一瞬頭の中にユキヒラの姿が思い浮かぶ。
 中性的な顔立ちの見た目からは性別の判断が難しい、ユキヒラそっくりの人物像には一本の角が生えていた。

「この人物像は魔族だから、人違いだよな」
 描かれている人物は魔族。
 知っている奴とは種族が違っているため同一人物ではないだろう。
 独り言を呟くように言葉を続けた鬼灯が意見を求めるためにヒビキに視線を向ける。
 しかし、ヒビキはフードを深く被ったままの状態でソファーに背中を預けたまま眠りについていた。
 ヒビキの腹の上に伏して眠る天使の子供は、母親の遺体が消えてからは泣き声を上げるどころか口を開こうともしない。

 眠りにつく前のヒビキは子供に名前を尋ねようと試みた。
 しかし、結局のところ子供は自分の名前を名乗る事が出来なかった。
 地面を見下ろしたままヒビキの方を一切、見ようとはせず俯く子供はただ小刻みに体を震わせているだけ。
 無理して名前を聞き出すことはせずソファーの背もたれに、もたれ掛かったヒビキは眠気に負けて眠りについてしまう。

 ヒビキが全く身動きを取らなくなってしまったため、腹部に巻き付いていた子供がヒビキの体を両手で、ぐいぐいと揺する。
 動かなくなってしまったヒビキを見つめて、目に涙を溜めていた子供を落ち着かせるようにしてヒナミが口を開いた。
「ヒビキお兄ちゃんは眠っているだけだよ」
 穏やかな口調で声をかける。

「ヒビキは一度、眠りにつくと朝まで起きないから」
 鬼灯が言葉を続けて子供に声をかけると、ヒビキの腹部に両手を乗せ、揺すっていた子供が瞬きを繰り返す。
 ヒビキの心音を確かめるため、ヒビキの腹部に耳をあてるようにして体を伏せた子供が目蓋を閉じる。
 そして、数分が経過した頃にヒビキと共に眠る子供の図が出来上がった。
 子供が眠りについたためヒナミが、ずっと疑問に思っていた事を問いかける。

「この子の母親は何処にいっちゃったの?」
 突然、消えた母親の遺体が何処にあるのか。
 暗黒騎士の隊長を務めるギフリードなら分かるのではないかと判断をしたヒナミが問いかけた。
 そして、ヒナミの考えは見事に当たっていた。

「天使が天界以外の場所で命を落としたら亡骸は天へと昇る。つまり、母親の体は元いた世界に戻った事になる」
 何百年も生きているギフリードは物知りだった。
 消えた天使の体の行き先を答えてくれる。

「今頃、天界で母親の体は埋葬されてるだろうな」
 言葉を続けたギフリードが子供を見つめる。

「あの子は男の子か、女の子かどっちかな?」
 子供の母親の行方と共にヒナミは子供の性別に対しても疑問を抱いていた。

「天使は年齢が20を越えるまで性別は無かったと思うが」
 ギフリードが少し自信がなさそうに返事をする。

「えぇ、その通りよ」
 ヒナミの母親であるアリアス・ランテがギフリードの言葉に同意した。
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