それは、偽りの姿。冒険者達の物語

しなきしみ

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ドラゴンクエスト編

28話 人の肝は美味

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 魔族の視線を一斉に集める形となり想像していた以上の冒険者達の反応を受けて受付嬢は、にやける顔を両手で覆い隠す。

「やっぱり、人の子は目立つわね」
 人間界から魔界に来て狩りを行う者は少ない。
 時たまに人間界から魔界へ迷い込む人間もいるけれど、その殆どが魔族に目をつけられて食われてしまう。

「人?」
「人だよな」
 豪華な武具を身につけるヒビキは、ただそこに立っているだけで沢山の視線を集める。

「人の肝は美味びみと聞くが」
「肌も柔らかくてしょくすと口の中でお肉がとろけると聞いたわよ。本当かしら?」
 しかし、魔族達の話題はヒビキの身に付けている武具ではなく別の方向に向かう。

「皮はもちっとしているそうよ。臓器はどうかしら?」
 魔族達は人を食す事しか考えていない。

 彼らの前を通りすぎ、装備売り場に足を踏み入れた所で
「あのケースの中に入ってほしいのよ」
 受付嬢が透明なケースを指さした。
 中に入るように指示を受ける。

 ケースの中には椅子に座った妖精の少女と、少女の背後に佇む魔族の少年の姿がある。
 二人とも目蓋を閉じたままピクリとも動く気配は無い。

「あの子の隣で同じように佇んでほしいのよ。そうすれば売り子達が走り回ってお客さんを連れてくるから、君の着けている装備を見てもらう事が出来るわよ」
 受付嬢に背中を押されて透明なケースの中に足を踏み入れる。少女の背後に移動をすると、隣で佇む魔族の少年と左右対称になるように体の向きを決める。
 向きを決めた後に一度、振り替えって受付嬢の顔を見ると笑顔で手をふっていた。

「目蓋を閉じないと目が乾燥するわよ!」
 受付嬢の言葉を聞き慌てて目蓋を閉じた。
 突然フニャッとした何とも奇妙な感覚に身を包み込まれて身動きをとる事が出来ないように体を固定されてしまう。
 フニャッとした感覚はやがて水の中にいるような感覚へと変化する。

 呼吸をする事は出来るけど身動きをとる事が出来なくて、徐々に意識が遠退いていく。
 疑うことなく素直に指示にしたがいケースの中に入ったヒビキを受付嬢は、にやにやと締まりの無い笑みを浮かべて眺めている。
 ヒビキを透明なケースの中に閉じ込める事に成功した受付嬢は小さくガッツポーズをした。
 嬉しそうにケースの中を眺める受付嬢に小柄な少女が身を寄せる。

「新しいモデルさん?」
 きょとんとした表情を浮かべて透明なケースを覗きこむ。

「えぇ、そうよ。ヒビキ君って言うのよ」
 頷く受付嬢に続けて中性的な顔立ちの青年が身を寄せる。
 ストレートの黒髪に知的そうな見た目の青年はヒビキの着ている装備を売って回る役割をする売り子の一人である。

「今日は彼の着ている装備を売り込めば良いのですね」
 ニコニコと笑みを浮かべる青年がヒビキを指差して受付嬢に問いかける。

「えぇ、宜しくね」
 女性が頷くと青年は頷いて客を集めるためにフロアに向かって歩きだした。

「人間は高額で売買されるって聞いたよ。彼を売れば、まとまったお金が手に入るんじゃないの?」
 小柄な少女が受付嬢に問いかけた。

「えぇ、確かに高額で売買する事が出来るわよ。けれど、この子を売買すると敵にまわしてはならない方達の怒りを買うことになるから」
 受付嬢が少年と繋がりのある魔王や、暗黒騎士団隊長を務めるギフリードや、ヒナミの母親を思い浮かべて身震いをする。

「そう。だったら仕方ないわね」
 小柄な少女は残念そうに呟いた。

「もしかして、買うつもりだった?」
 受付嬢がほんの少し声のトーンを下げた少女に問いかける。
「えぇ。人間のきもは美味しいと聞くからね」
 少女は躊躇いもなく即答した。

 魔界に人間がいることが珍しかった。
 数分後にはヒビキを入れた透明なケースを取り囲むようにして冒険者が佇んでいた。

「彼は、いくらなの?」
 小綺麗な身なりの女性が売り子の青年に問いかける。

「彼は売り物ではありませんよ」
 淡々とした口調で答える青年は先程から何度も同じやり取りを行っていた。
 高額であっても良いからヒビキを購入したいと言う魔族が後をたたない。

「だったら、せめて内臓だけでも」
 小綺麗な身なりをしている女性が呟いた。
 中性的な顔立ちの青年が無言で首を左右にふる。

「右腕だけでもいいのよ?」
 それでも諦めきれない小綺麗な身なりの女性が唇をツンッと尖らせた。

「売り物ではありませんよ」
 青年は冷静に首を左右にふる。

「人間の少年が背負っている大きな剣を売ってくださらないかしら?」
 渋々とヒビキの購入を諦めた女性が大きな剣を指差した。

「有り難うございます」
 巨大な剣を買い取り支払いをする。

「あの少年はいつ頃、帰宅をするのかしら?」
 小綺麗な身なりの女性が購入をした剣を背中に背負って、中性的な顔立ちの青年に問いかけた。

「さぁ、僕には分かりません」
 青年は首を左右にふる。
 小綺麗な身なりの女性は購入した剣で帰宅するヒビキを襲うつもりでいるようだ。

「そう、夕方8時頃かしらね」
 勝手にヒビキの帰宅する時間を予想して独り言を呟いた。
 ブツブツと独り言を呟き売り場を後にする女性に青年が深々と頭を下げる。



 ヒビキの身に付けている装備は順調に売れていった。

「お疲れ様」
 受付嬢が透明なケースの中からヒビキを出して装備が完売をしたことを告げる。
 白いケープに着替えたヒビキは眠っている間に大量のお金が手に入ったためカードを眺めて固まっていた。

「飛行術の未払金を払ってもらうわね」
 受付嬢がヒビキのカードを手に取り機械に押し当てる。
 一人分の飛行術が支払われた。

「いいの? 俺は寝ていただけだけど」
 眉尻を下げて問い掛けたヒビキに受付嬢が首を上下にふる。

「ヒビキ君が着ていたから売れたんだから。あ、帰り道は気を付けてね。多分、何人か待ち伏せをしているから。人だと気付かれないようにね」
 頷いた女性が思い出したようにパンッと音を立て、両手の平を合わせる。

「人だとバレたらどうなるの?」
 女性の忠告に眉尻を下げて問いかける。

「間違いなく食べられるわよ」
 即答だった。

「人だとバレないように気を付けるね。有り難う」
 ある程度、受付嬢からの返事を予想していたとは言え、思い違いであって欲しがった。

「鬼灯の分の飛行術の支払いは、また後日でもいいかな?」
 ヒビキの問いかけに対して受付嬢が首を左右にふる。

「鬼灯君は2時間ほど前に払いに来たわよ」
 受付嬢からの返事は予想外。ヒビキは驚きと共に目を見開き瞬きを繰り返す。

 コンコンと扉をノックする音が聞こえて
「はい」
 受付嬢が返事をする。

「着替え終えたか?」
 ヒビキがモデルのアルバイトをしている間にギルド内へ足を踏み入れてクエストの受注や報告を行っていた鬼灯が、そろそろヒビキの着替えも終わった頃だろうと考えて顔を覗かせた。
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