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ドラゴンクエスト編
25話 ヒナミの使い魔、ミノタウロス
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ギフリードが人間界から魔界へ帰還しようとゲート内に足を踏み入れた頃、光の粒子が漂う魔王城の玄関ホールでは小柄な少女が光の柱に包まれる仲間を救い出そうとしてもがいていた。
近くで鬼灯が何度、失敗しても諦めずに魔法攻撃を繰り返す少女を眺めている。
リンスールの体を包み込んでいる光の柱に向けて最大限まで威力を高めた電気ショックを与える。
駄目もとではあったけど攻撃は予想以上に効果はなく、パチッと音を立てて弾かれた。
それでも諦めはしないと頬を膨らませて拗ねてはいるものの、攻撃の手を休める事のないヒナミは続けて落雷を唱える。
ヒビキの意識を瞬く間に奪った落雷なら少しは効果があるだろうと、少しの期待を持ちながら光の柱を眺めるけど。
光の柱は落雷を簡単にいなす。
「無傷」
流石にショックを隠す事の出来ないヒナミが、ぽつりと呟いた。
ことごとく攻撃を弾かれてプクッと頬を膨らませる。
ヒナミは不機嫌さを隠すこと無く杖を大きく上にかざすと複雑な呪文を唱え始める。
一体何をする気なのか大人しくヒナミの行動を見守っていた鬼灯や母親の目の前で突如、巨大な魔力が解放された。
ヒナミを中心にして周囲に強風が吹き荒れる。
ピンク色のケープがフワッと広がり金色の髪の毛が靡く。
風は少し離れた位置にいた鬼灯も巻き込み、鬼灯の被っていたフードが外れて真っ赤な髪の毛が姿を現した。
莫大な量の魔力がヒナミの体から放出し始めた事により警戒心を持った鬼灯が杖を強く握りしめる。
いつでも魔法を発動できる状態を取った。
警戒を強める鬼灯の隣でヒナミの母親も険しい表情を浮かべている。
ヒナミが何をするつもりでいるのか、母親はすぐに気づく。
「ミノタウロスを召喚する気なの?」
表情をより一層険しいものにした母親が首を傾け問いかけた。
しかし、長々と呪文を唱え始めたヒナミは答えることが出来ない。
「ミノタウロス?」
母親の質問を耳にした鬼灯が代わりに反応を示す。
魔王城の玄関でミノタウロスが暴れまわった時、どれ程の規模の被害が出るのか予想が付かない。
動揺と共に足を引き後退する鬼灯は、ヒナミの呪文に重ねるようにして強力な結界を張り巡らせるために複雑な呪文を唱えだす。
鬼灯が音を立て地面に杖を振り下ろすと、杖の先端に巨体な魔法陣が出現する。
魔法陣は瞬く間に広がりを見せて室内を囲うようにして虹色の防御癖が出来上がった。
それは次第に透明度を増していき、色の数が徐々に減少し始める。
赤が消えると、それに続くようにして黄色や橙色が消える。
少しずつ消えていく色は次第に増えていき残ったのは青と白色。
「綺麗」
鬼灯の魔法はヒナミの母親を魅了する。
ぽつりと言葉を漏らした母親が辺りを見渡した。
真っ赤な光を放つ巨大な魔法陣が消えて、魔王城の壁を囲むようにして描かれた魔法陣が青白く輝きながら浮かび上がる。
周囲を見渡せば青白い輝きに包まれた結界が、魔王城の玄関ホールを囲むようにして張り巡らされていた。
ミノタウロスの召喚術は電気ショックや雷撃とは違って、建物を傷つける恐れがある。
結界も張り巡らせること無くミノタウロスが暴れまわったら魔王城を壊しかねない。
先の未来を予想して、結界を張るべきだと判断をした鬼灯が杖を構えたまま魔力を解放する。
魔力が枯渇してしまわないように気を付けながら膨大な量の魔力を体に纏う。
いつでも魔法を発動できる環境を整えた。
鬼灯の目の前でヒナミが長い呪文を完成させると、杖を床に下ろす。
杖の先端から巨大な魔法陣が浮かび上がった。
少し離れた位置にいる鬼灯の足元まで広がった魔法陣は目を眩ますほどの光を放つ。
ヒナミによって召喚された巨体が姿を現した。
魔法陣の中央に佇む牛頭人身の怪物ミノタウロスは巨大な斧を持つ。
「でかいな」
ミノタウロスの大きさは鬼灯の予想を上回る。
ドワーフの搭2階層で見た時よりも更に大きく見えるのは間近で見上げているからか鬼灯は、ぽつりと言葉を漏らす。
ヒナミの召喚するミノタウロスは体長3メートルを超える巨体を持つ。
防御力が高く攻撃力は防御力よりは劣るものの、木や大岩を真っ二つに切断する程の威力はある。
ミノタウロスを捕らえた場所により若干ではあるものの、その外見に差が出てくるけどヒナミが捕獲したミノタウロスは獣に近い見た目をしていた。
人の姿に近い者ほど優れており能力値が高く知能が発達している。
そのため、ヒナミの召喚するミノタウロスは知能は低く敏捷性の数値も高くはない。
しかし、巨大な斧を軽々と持ち上げることが出来るほどの怪力を持っていた。
巨大な斧を振り上げたミノタウロスが、早速リンスールの体を包む光の柱に攻撃を開始する。
力任せに薙ぎ払われた斧が柱に直撃する。
大きな音と共に柱を揺るがすほどの強い衝撃が引金となって、光の刃による反撃が開始された。
斧は薙ぎ払った勢いのまま弾かれる。
斧を弾かれた反動により大きく仰け反ったミノタウロスの目の前で、光の柱からパシュッと奇妙な音を立て光の刃が放たれた。
近くにいるヒナミに斧をかざす事により主を守ったミノタウロスが代わりに光の刃を受ける。
刃には抉ったような切れ込みや穴があり、ミノタウロスの横腹と肩の肉を削り取る。
反撃にあいダメージを受けてよろめきつつ、ヒナミの無事を確認するミノタウロスは主が大好き。
姿勢を整えてドスドスドスドスと大きな足音を立てて走り出す。
大きく体を捻ると、横に体を回転させた巨体が勢いをつけて斧を柱に激突させる。
勢いのままに斧を振り切ろうとした。
このまま振り切ることが出来れば光の柱どころか、柱の中に拘束されているリンスールの体まで真っ二つになるだろう。
ヒナミの母親が真っ二つになったリンスールを想像して、表情を引きつらせる。
しかし、斧は柱に弾かれた反動でミノタウロスの手を離れてしまう。
ぐるんぐるんと回転しながら弾き飛ばされた斧がヒナミの母親の顔すれすれを通過した。
突然の事に声を出すことも出来ず、恐怖で頭の中が真っ白になっている母親が腰を抜かす。
地面に座り込むヒナミの母親の元へ鬼灯が急いで歩みよる。
迫りくる光の刃から頭を抱え込み身動きを取ることの出来ずにいるヒナミの母親を守り始めた。
斧の向かう先には、やっとゲートから抜け出すことが出来て安堵するギフリードが佇んでいた。
凄まじい勢いで巨大な斧が目の前に迫る。
「黒いお兄ちゃん避けて!」
ギフリードが戻ってきた事に気づいたヒナミが大声を上げて危険を知らせる。
飛んできた斧を今からでは避けることも受け流すことも出来ないと判断をしたギフリードが姿勢を低くする。
凄まじい勢いで回転する斧の持ち手を見極めると、何の躊躇いも無く巨大な斧の持ち手を掴んだギフリードが力任せに勢いを止めて見せた。
斧の重量は一体どれ程のものなのか
重たい斧の先を地面に下ろすとガンッと鈍い音がする。
ギフリードが斧を受けて真っ二になる姿を想像してしまったヒナミが、顔面蒼白のままプルプルと小刻みに体を震わせていた。
巨大な斧をヒナミの前で下ろしたギフリードが真っ直ぐリンスールを包み込んでいる光の柱に向かう。
次から次に飛んでくる刃を右へ左へ、ゆっくりと体を動かしながら避けるギフリードが光の柱の前に到着。
柱に向けて右手をつき出すと使用可能レベル300の10秒間、魔法の無効化をする呪文を唱えると黒い幕が光の柱を包み込み魔力の無効化に成功する。
光の柱はギフリードの魔力を上回っているため消える事は無かったけど、光の刃は全て効力を失って地面にカランカランと音を立てて落ちていく。
部屋の隅では魔力切れを迎えようとしていたヒナミがミノタウロスに抱きついた。
「お疲れ様。怪我をさせちゃって、ごめんね」
肉が削れてしまった部分の回復に努めていた。
その頃、無事に国民の前に姿を見せる事の出来たヒビキは城に戻り、調査隊から国民の混乱が収まったと知らせを受けていた。
調査隊の青年がヒビキを目の前にして言葉を噛みまくっている。
副隊長を務める女性はヒビキに近寄ることも出来ておらず、部屋の片隅でプルプルと体を震わせ縮こまっていた。
真っ赤に顔を染める副隊長はヒビキの顔を見ることが出来ない。
女性らしい一面を見せる彼女を髭面のおっさん騎士がニヤニヤと締まらない表情を浮かべて眺めている。
白いケープに着替えたヒビキが狐の耳つきのフードを深くかぶり顔を隠している状態でも、その正体がヒビキであることを知ってしまった副隊長が視線を向ける事も出来ずに震える中。
「ヒビキ様、本当に魔界に戻るつもりですか?」
特攻隊の隊長を務める金髪の女性がヒビキに問いかける。
「魔界で世話になった人達にお礼も言わずにゲートを抜けてきたから戻るよ」
ヒビキは悩む事なく頷いた。
「また、いつでも人間界に戻って来てくださいね」
金髪の女性がヒビキの体に触れたいのをグッと堪えて我慢する。
白いモコモコのケープは触り心地が良さそうで先程から何度も触れたい気持ちを押し殺す金髪の女性がゲートに向かうヒビキを見送った。
ゲートを目の前にして一度大きく息を吸ったヒビキが覚悟を決める。
封印を受ける父親の姿を確認したい気持ちはあったけど目にする勇気が、なかなか持てずにいた。
決して弱味を見せず本心を表に出さなかった父親の弱っている姿を見ることに抵抗を抱く。
それでも、一度見てから魔界に戻らないと後悔する気がして。
恐る恐る背後を振り向いたヒビキが光の柱に閉じ込められる国王の姿を見つめた。
やはり父も弾き飛ばされた衝撃で空中に浮かんでいた。
リンスールや魔王と同じように宙に浮いたままの状態で時を止める。
王冠が外れてしまったため髪は纏まっておらず広がりを見せる。
目蓋を閉じて微かに唇を開く国王の姿は何だか似せて作られた人形のように思える。
ゲートの前から無意識に国王を包む光の柱の元に歩み寄ったヒビキが輝く柱に、そっと手を添えた。
ゴクッと騎士達が息をのむ。
誰もが柱に弾かれるヒビキの姿を想像した。
しかし、柱はヒビキの手を弾く事は無かった。
近くで鬼灯が何度、失敗しても諦めずに魔法攻撃を繰り返す少女を眺めている。
リンスールの体を包み込んでいる光の柱に向けて最大限まで威力を高めた電気ショックを与える。
駄目もとではあったけど攻撃は予想以上に効果はなく、パチッと音を立てて弾かれた。
それでも諦めはしないと頬を膨らませて拗ねてはいるものの、攻撃の手を休める事のないヒナミは続けて落雷を唱える。
ヒビキの意識を瞬く間に奪った落雷なら少しは効果があるだろうと、少しの期待を持ちながら光の柱を眺めるけど。
光の柱は落雷を簡単にいなす。
「無傷」
流石にショックを隠す事の出来ないヒナミが、ぽつりと呟いた。
ことごとく攻撃を弾かれてプクッと頬を膨らませる。
ヒナミは不機嫌さを隠すこと無く杖を大きく上にかざすと複雑な呪文を唱え始める。
一体何をする気なのか大人しくヒナミの行動を見守っていた鬼灯や母親の目の前で突如、巨大な魔力が解放された。
ヒナミを中心にして周囲に強風が吹き荒れる。
ピンク色のケープがフワッと広がり金色の髪の毛が靡く。
風は少し離れた位置にいた鬼灯も巻き込み、鬼灯の被っていたフードが外れて真っ赤な髪の毛が姿を現した。
莫大な量の魔力がヒナミの体から放出し始めた事により警戒心を持った鬼灯が杖を強く握りしめる。
いつでも魔法を発動できる状態を取った。
警戒を強める鬼灯の隣でヒナミの母親も険しい表情を浮かべている。
ヒナミが何をするつもりでいるのか、母親はすぐに気づく。
「ミノタウロスを召喚する気なの?」
表情をより一層険しいものにした母親が首を傾け問いかけた。
しかし、長々と呪文を唱え始めたヒナミは答えることが出来ない。
「ミノタウロス?」
母親の質問を耳にした鬼灯が代わりに反応を示す。
魔王城の玄関でミノタウロスが暴れまわった時、どれ程の規模の被害が出るのか予想が付かない。
動揺と共に足を引き後退する鬼灯は、ヒナミの呪文に重ねるようにして強力な結界を張り巡らせるために複雑な呪文を唱えだす。
鬼灯が音を立て地面に杖を振り下ろすと、杖の先端に巨体な魔法陣が出現する。
魔法陣は瞬く間に広がりを見せて室内を囲うようにして虹色の防御癖が出来上がった。
それは次第に透明度を増していき、色の数が徐々に減少し始める。
赤が消えると、それに続くようにして黄色や橙色が消える。
少しずつ消えていく色は次第に増えていき残ったのは青と白色。
「綺麗」
鬼灯の魔法はヒナミの母親を魅了する。
ぽつりと言葉を漏らした母親が辺りを見渡した。
真っ赤な光を放つ巨大な魔法陣が消えて、魔王城の壁を囲むようにして描かれた魔法陣が青白く輝きながら浮かび上がる。
周囲を見渡せば青白い輝きに包まれた結界が、魔王城の玄関ホールを囲むようにして張り巡らされていた。
ミノタウロスの召喚術は電気ショックや雷撃とは違って、建物を傷つける恐れがある。
結界も張り巡らせること無くミノタウロスが暴れまわったら魔王城を壊しかねない。
先の未来を予想して、結界を張るべきだと判断をした鬼灯が杖を構えたまま魔力を解放する。
魔力が枯渇してしまわないように気を付けながら膨大な量の魔力を体に纏う。
いつでも魔法を発動できる環境を整えた。
鬼灯の目の前でヒナミが長い呪文を完成させると、杖を床に下ろす。
杖の先端から巨大な魔法陣が浮かび上がった。
少し離れた位置にいる鬼灯の足元まで広がった魔法陣は目を眩ますほどの光を放つ。
ヒナミによって召喚された巨体が姿を現した。
魔法陣の中央に佇む牛頭人身の怪物ミノタウロスは巨大な斧を持つ。
「でかいな」
ミノタウロスの大きさは鬼灯の予想を上回る。
ドワーフの搭2階層で見た時よりも更に大きく見えるのは間近で見上げているからか鬼灯は、ぽつりと言葉を漏らす。
ヒナミの召喚するミノタウロスは体長3メートルを超える巨体を持つ。
防御力が高く攻撃力は防御力よりは劣るものの、木や大岩を真っ二つに切断する程の威力はある。
ミノタウロスを捕らえた場所により若干ではあるものの、その外見に差が出てくるけどヒナミが捕獲したミノタウロスは獣に近い見た目をしていた。
人の姿に近い者ほど優れており能力値が高く知能が発達している。
そのため、ヒナミの召喚するミノタウロスは知能は低く敏捷性の数値も高くはない。
しかし、巨大な斧を軽々と持ち上げることが出来るほどの怪力を持っていた。
巨大な斧を振り上げたミノタウロスが、早速リンスールの体を包む光の柱に攻撃を開始する。
力任せに薙ぎ払われた斧が柱に直撃する。
大きな音と共に柱を揺るがすほどの強い衝撃が引金となって、光の刃による反撃が開始された。
斧は薙ぎ払った勢いのまま弾かれる。
斧を弾かれた反動により大きく仰け反ったミノタウロスの目の前で、光の柱からパシュッと奇妙な音を立て光の刃が放たれた。
近くにいるヒナミに斧をかざす事により主を守ったミノタウロスが代わりに光の刃を受ける。
刃には抉ったような切れ込みや穴があり、ミノタウロスの横腹と肩の肉を削り取る。
反撃にあいダメージを受けてよろめきつつ、ヒナミの無事を確認するミノタウロスは主が大好き。
姿勢を整えてドスドスドスドスと大きな足音を立てて走り出す。
大きく体を捻ると、横に体を回転させた巨体が勢いをつけて斧を柱に激突させる。
勢いのままに斧を振り切ろうとした。
このまま振り切ることが出来れば光の柱どころか、柱の中に拘束されているリンスールの体まで真っ二つになるだろう。
ヒナミの母親が真っ二つになったリンスールを想像して、表情を引きつらせる。
しかし、斧は柱に弾かれた反動でミノタウロスの手を離れてしまう。
ぐるんぐるんと回転しながら弾き飛ばされた斧がヒナミの母親の顔すれすれを通過した。
突然の事に声を出すことも出来ず、恐怖で頭の中が真っ白になっている母親が腰を抜かす。
地面に座り込むヒナミの母親の元へ鬼灯が急いで歩みよる。
迫りくる光の刃から頭を抱え込み身動きを取ることの出来ずにいるヒナミの母親を守り始めた。
斧の向かう先には、やっとゲートから抜け出すことが出来て安堵するギフリードが佇んでいた。
凄まじい勢いで巨大な斧が目の前に迫る。
「黒いお兄ちゃん避けて!」
ギフリードが戻ってきた事に気づいたヒナミが大声を上げて危険を知らせる。
飛んできた斧を今からでは避けることも受け流すことも出来ないと判断をしたギフリードが姿勢を低くする。
凄まじい勢いで回転する斧の持ち手を見極めると、何の躊躇いも無く巨大な斧の持ち手を掴んだギフリードが力任せに勢いを止めて見せた。
斧の重量は一体どれ程のものなのか
重たい斧の先を地面に下ろすとガンッと鈍い音がする。
ギフリードが斧を受けて真っ二になる姿を想像してしまったヒナミが、顔面蒼白のままプルプルと小刻みに体を震わせていた。
巨大な斧をヒナミの前で下ろしたギフリードが真っ直ぐリンスールを包み込んでいる光の柱に向かう。
次から次に飛んでくる刃を右へ左へ、ゆっくりと体を動かしながら避けるギフリードが光の柱の前に到着。
柱に向けて右手をつき出すと使用可能レベル300の10秒間、魔法の無効化をする呪文を唱えると黒い幕が光の柱を包み込み魔力の無効化に成功する。
光の柱はギフリードの魔力を上回っているため消える事は無かったけど、光の刃は全て効力を失って地面にカランカランと音を立てて落ちていく。
部屋の隅では魔力切れを迎えようとしていたヒナミがミノタウロスに抱きついた。
「お疲れ様。怪我をさせちゃって、ごめんね」
肉が削れてしまった部分の回復に努めていた。
その頃、無事に国民の前に姿を見せる事の出来たヒビキは城に戻り、調査隊から国民の混乱が収まったと知らせを受けていた。
調査隊の青年がヒビキを目の前にして言葉を噛みまくっている。
副隊長を務める女性はヒビキに近寄ることも出来ておらず、部屋の片隅でプルプルと体を震わせ縮こまっていた。
真っ赤に顔を染める副隊長はヒビキの顔を見ることが出来ない。
女性らしい一面を見せる彼女を髭面のおっさん騎士がニヤニヤと締まらない表情を浮かべて眺めている。
白いケープに着替えたヒビキが狐の耳つきのフードを深くかぶり顔を隠している状態でも、その正体がヒビキであることを知ってしまった副隊長が視線を向ける事も出来ずに震える中。
「ヒビキ様、本当に魔界に戻るつもりですか?」
特攻隊の隊長を務める金髪の女性がヒビキに問いかける。
「魔界で世話になった人達にお礼も言わずにゲートを抜けてきたから戻るよ」
ヒビキは悩む事なく頷いた。
「また、いつでも人間界に戻って来てくださいね」
金髪の女性がヒビキの体に触れたいのをグッと堪えて我慢する。
白いモコモコのケープは触り心地が良さそうで先程から何度も触れたい気持ちを押し殺す金髪の女性がゲートに向かうヒビキを見送った。
ゲートを目の前にして一度大きく息を吸ったヒビキが覚悟を決める。
封印を受ける父親の姿を確認したい気持ちはあったけど目にする勇気が、なかなか持てずにいた。
決して弱味を見せず本心を表に出さなかった父親の弱っている姿を見ることに抵抗を抱く。
それでも、一度見てから魔界に戻らないと後悔する気がして。
恐る恐る背後を振り向いたヒビキが光の柱に閉じ込められる国王の姿を見つめた。
やはり父も弾き飛ばされた衝撃で空中に浮かんでいた。
リンスールや魔王と同じように宙に浮いたままの状態で時を止める。
王冠が外れてしまったため髪は纏まっておらず広がりを見せる。
目蓋を閉じて微かに唇を開く国王の姿は何だか似せて作られた人形のように思える。
ゲートの前から無意識に国王を包む光の柱の元に歩み寄ったヒビキが輝く柱に、そっと手を添えた。
ゴクッと騎士達が息をのむ。
誰もが柱に弾かれるヒビキの姿を想像した。
しかし、柱はヒビキの手を弾く事は無かった。
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